ページトップへ戻る

Volume 01, No.3 Pages 16 - 18

2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8

SPring-8ビームコミッショニングのスケジュールについて

熊谷 教孝

日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 加速器系

Download PDF (77.21 KB)

 

1.施設の建設状況

 SPring-8施設の建設は1990年(平成2年)に開始され、平成8年6月時点で、線型加速器およびシンクロトロンの加速器および建屋の建設はほぼ終了した。

 一方蓄積リング本体の建設は、収納部内への電磁石(偏向88台、四極480台、六極336台)と真空チェンバーの据え付けが終了し、現在真空チェンバーのベーキング作業が進められている。このベーキング作業も平成8年7月までに終了する。又蓄積リング内に当初3ヶ所に据え付ける高周波ステーションもD-station(空胴8台)の建設がほぼ終了し、残り2ステーションの空胴(16台)と高周波発生装置(2台)の製作と建設も順調に進んでいる。本年12月には、収納部への機器の据え付けが終了し、総合調整、電磁石の最終精密アライメントを行った後、平成9年2月から蓄積リングにシンクロトロンから電子ビームを入射し約半年かけて蓄積リングの調整を行い、平成9年10月から利用を開始する。

 

 

2.ビームコミッショニングに向けて

 これら3つの加速器のビームコミッショニングの計画を表1に示す。線型加速器は今年8月にビームコミッショニングを開始する予定で、現在高周波発生装置(80 MWクライストロンと190 MWモジュレータ)と加速管の組み合わせ試験および加速管の高周波によるエージングおよび加速管の最終アライメントの作業がほぼ順調に進められている。現在の所、特に問題はないので、予定通り8月から調整を開始し10月にはシンクロトロンにビームを出す事ができるであろう。

 

表1 SPring-8のビームコミッショニング計画

 

 一方、シンクロトロンでは現在、主電磁石系、真空系、高周波系、その他主要機器の単体調整および性能試験が進められている。これら単体試験が終了した後、システム全体の総合調整を行い、今年10月からシンクロトロンのビーム調整を行う。

 線型加速器からシンクロトロンにビームを入射し8 GeVまで加速するに要する調整期間は、うまく行けば入射後数日内と予想している。ただし、その後、電子軌道の補正(CODの補正)、クロマティシティーの調整、および放射光によるチェンバーの焼き出し等の作業を行うため、シンクロトロンの安定運転が実現するまでの期間としては、コミッショニングの開始から1~2ヶ月程度と考えている。この間入射効率と出射効率の改善を進めつつビーム強度の増強を計り設計値10 mAを達成する。線型加速器およびシンクロトロンの調整段階でもし不都合が生じた場合には、平成9年2月の蓄積リング(SR)へのビーム入射までにその対策をとることとしている。

 SRにおけるビームコミッショニングは、SRが四極電磁石の据え付け誤差に対して大きなCOD依存性等を持っている事から、まずビームを周回させる事が最大の課題となる。そのため据えつけ段階で高精度位置測定用レーザー・アライメントシステムを開発し、かつ据え付けアライメント作業に際して細心の注意をはらいつつ、四極、六極電磁石を共通架台上で±50 μm、共通架台間で±0.1 mmの据え付け精度を実現した。従って、予想外の事(たとえば真空チェンバー内に異物が混入等)が起こらなければ、かなりの短期間で電子ビームを周回させる事ができると考えている。蓄積リングにおけるビーム調整は、この周回後2~3ヶ月程かけCOD補正、チューンの動作点の最適化、ビーム不安定性の除去等ビーム性能の改善を行い、平成9年の6月頃先行ビームラインに光を導き、光を使用して電子軌道の安定性等をさらに詳しく調べると同時に、挿入光源からの高輝度光の光軸の変動に関する測定およびその変動補正を行う光軸制御プログラムの開発を行う。これら測定データをもとに平成9年7~8月の2ヶ月でSRの不具合を改善し、平成9年9月中旬から加速器の立ち上げ、およびその調整を行い10月から一部共用ビームラインで放射光実験を開始する。供用開始後は、電子ビーム性能の更なる高度化に取り組むこととし、特にスキュー型四極電磁石を設置しカップリングを当初計算値の10%から1%まで補正し更にビームの高輝度化を計るとともに、小数バンチ運転における10-7~10-8のバンチ純度の測定方法の開発とその実現等を目指す。

 

 

3.光軸の安定化

 SPring-8では放射光の高輝度特性を有効に活用するためには、光軸をいかに安定化するかが非常に重要な問題となる。光軸変動の要因には床および架台の振動、冷却水温度変化、収納部および実験ホール内の室温変化、蓄積リング建屋近辺の環境温度の変化等があるが、現在、収納部内において無負荷状態での電磁石の位置と傾きおよび振動について定点観測を実施している。その結果電磁石上の振動については電磁石冷却水を流していない状態で1 nm、冷却水を流した状態で、その10倍程度と値そのものは非常に小さく、その振動数は10~30 Hzの低周波帯に分布している。これら振動によるビーム軸への影響は測定された振幅等から殆ど無視できると考えている。この速い振動に対して、室温、冷却水温度変化による影響は時間的にもゆっくりとした位置変化になって現れる。これらについても変動観測が収納部内で実施されているが、当初設計段階で推定した範囲内にあり、特に問題となるような大きさのものは報告されていない。

 蓄積リングでは、SPring-8サイトが固い岩の上にあること、そして加速器の設計製作および建物の設計段階で、トリスタン等の大型加速器での機器の製作の経験およびマシンスタディーの結果を反映してあるため、軌道安定化に関して大きな問題は生じないと考えている。

 

 

4.初期段階およびビーム調整段階でのビーム強度とビームライン調整

 コミッショニング開始時は、シンクロトロンからmA以下の低いビーム電流でSRの入射調整を行う。ビームが周回した後CODの補正とクロッチ、アブソーバー等の耐熱性に関するデータと真空度に関するデータの収集と建物周辺の放射線レベルの測定を主に行う。この段階ではビーム電流は数mA程度で、偏向電磁石からの放射光のみがビームラインに取り出す事ができる。この時期、挿入光源は補正電磁石の初期故障およびCOD補正のミスステアー等により軌道安定性が確保されない可能性がある事、およびビームライン上に設置されるX線位置検出器の動作試験が終了していない事等、高輝度光から機器を保護するという観点から運転状態にしないこととしている。

 この初期コミッショニングの時期は平成9年2月から2~3ヶ月程度と予想しており平成9年5月~6月頃には一応COD補正と軌道の安定性およびビーム寿命もそれなりに確保できる事およびX線位相検出器の動作試験も一応終了すると予想されることから、これ以降はビーム強度の増強(目標100 mA)と挿入光源用ビームラインの光を用いた調整も一応可能となる。ただしこの時期、放射光ビームの光軸の安定度は各種マシンスタディーが主となるため成り行きまかせになる。しかしマシンスタディーを行わない夜間、ビームパラメータを固定した上で電子を回し続け、光を発生させる事が可能となるので、このビームを用いてビームラインの調整をする事は可能であろう。

 

 

5.運転モードについて

 入射器系とSR系で施設の完成時期が異なるためH8/8~H9/1までの間は入射器系建物内の機器制御室で、その後H9/2以降はSR棟内の中央制御室から一括して3つの加速器制御を行う。H9/2以降の蓄積リングの運転を初期段階、調整段階、供用開始以降の3つに分けて次に説明する。

初期段階: 平成9年2月から5月頃まで、火曜日午前9時から金曜日午後5時(一週間モード)までビームコミッショニングの作業を行う。蓄積リングの初期立ち上げおよび収納部建屋の遮蔽性能の確認等の作業が主となるため、蓄積リングのビーム運転は最も作業効率の上がる午前9時から午後9時頃までの時間帯に行う。作業終了後の夜間はビームを回さないでマシンスタンバイの状態で装置を維持する。
ビーム調整段階: 平成9年5月~6月までの約2ヶ月間一週間モードを基準とし24時間連続ビーム運転を行う。
この時期はマシンスタディーが中心となり、日中および準夜(午前9時~午後9時まで)をマシンスタディー時間とし、真夜(午後9時~午前9時まで)は必要に応じて放射光による真空焼き等のルーチン作業を中心に考える。この時期ビームの寿命は数時間程度と予想される。マシンへのビーム入射は比較的容易にかつ安定に行えるので、あるビーム強度以下になったとき自動的に電子を入射し、そして設定の値に到達すると自動的に入射を止めるような自動運転が可能となる。従って、この時期の真夜帯はビームラインへの光の取り出し、および光を用いたビームラインあるいは測定器の調整、一部予備実験等を行う事が可能であろう。ただしビーム位置の安定度については成り行きまかせとなる。しかし、SRではビーム軌道を変動させる要因が前に記述したように少ないためビーム軸の安定度はかなり良いと期待できる。
供用開始: 平成9年10月以降水曜日立ち上げ―翌週金曜日午後5時終了の二週間モードで運転する。最初の1~2シフトでマシンの立ち上げ調整(8~16時間で線型、シンクロ、SRまでの3つの加速器の調整)、その後3~6シフト(24~48h)をマシンスタディー[Linac、Sy、SR]に、残り20~24シフト(160~192 h)程度を放射光利用に使用する事になる。この時期SRのビーム寿命は10時間程度、ビーム強度は100 mAとなっていると思われるので、1日2回程度の入射(午前9時と午後9時)をすれば十分であろう。仮にビーム寿命が短くても、蓄積リングで蓄積電流100 mAにするまでの時間は入射効率等を考えても1分弱と非常に短いので利用において問題となる事はないであろう。将来的には、周回ビームを捨てないで減った分をつぎ足すトップアップ入射を考えれば、入射時間は更に短時間となる。
又、将来的には2週モードから3週間モードに切り換え、更に運転の効率化を計る事を考えている。

 

 

6.おわりに

 本稿でSPring-8の加速器のビームコミッショニング計画について簡単に紹介した。これから更に詳細にコミッショニング計画をつめて行く事になるが、できる限り早い時期に放射光ビームラインに光を通しビームラインの調整と予備的な実験が出来るようにしたいと考えている。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794