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Volume 01, No.2 Pages 21 - 23

4. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

核共鳴散乱ビームラインの概要

依田 芳卓

東京大学工学部

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 核共鳴散乱ビームラインは核共鳴散乱サブグループ(SG)と表面界面構造SGより成る。

 核共鳴散乱は原子核の準位による共鳴散乱であり、これまで行われてきたメスバウアー実験に輝度、偏光、時間の点で大きな発展と新たな自由度が期待できるばかりでなく、核共鳴散乱により得られるX線はエネルギー幅が10-6〜10-8 eVと超単色であり、それに伴い可干渉距離は数10 mにも及ぶため、超高分解能分光やX線位相光学に新たな領域を開くと期待される。以下に計画されている実験を挙げる1)[1]泉 弘一 SR科学技術情報/Vol.5 No.7(1995)14

 

(1)非メスバウアー実験

 ・X線強度相関法の研究

 ・超高エネルギー分解X線分光法の研究

 ・干渉による核共鳴散乱のコヒーレンスの解析

 

(2)メスバウアー実験

 ・時間領域メスバウアー分光法の確立

 ・非弾性核共鳴散乱を利用した分光

 ・高速磁場変調による核共鳴散乱過程の研究

 ・各種の共鳴核を含む核モノクロメーターの開発研究

 

 表面界面においては、関わる原子数が極めて少ないため信号も微弱なものとなる。しかし第三世代の光源を用いれば表面界面のより詳細な情報のみならず、時間、温度、磁場、組成等の変化に伴う構造の動的変化の研究が可能になると期待される。またシングルバンチを利用すればより高速な動的変化の過程の研究もまた可能である。表面X線回折、X線定在波法、反射率測定、散漫散乱、異常分散による散乱等を用いて、以下に挙げる対象の研究を計画している2)[2]T.Takahashi SPring-8 PROJECT SCIENTIFIC PROGRAM No.2(1995)71

 ・表面・界面構造

 ・薄膜の構造・相転移、融解・転位、欠陥

 ・結晶成長・表面界面の原子の運動

 ・表面界面での化学反応・表面界面磁性

 ・表面界面での非弾性散乱

 

 

光源の概要

 ビームラインはBL09INの位置に設置され、挿入光源には周期長32 mmの真空封止型水平偏光アンジュレータを用いる。このアンジュレータにより1次から5次光で5.2 keVから70 keV程度までが利用可能で更に高次の光を用いれば80 keV程度までをカバーすることができる3)[3]北村英男 SPring-8スペクトル集 平成5年12月21日。このエネルギー範囲のメスバウアー核は30種以上に及ぶが、表1にはその例と自然幅あたりに含まれるフォトン数を挙げる。ただし、実際に得られるフォトン数は光学系でのロス、共鳴核の断面積、電子散乱によるノイズとの分離の程度等に依存して核種により大きく異なる。最も代表的なメスバウアー核57Feの共鳴エネルギーである 14.4 keVに対してはK値が0.8と、比較的熱負荷が低いところで使用される。表2に示すように実験ステーションが置かれる光源から50 mの地点では2σにして水平方向1.9 mm、垂直方向0.6 mmのビームが得られる。

 核共鳴散乱の時分割測定においては実験の種類に応じてシングルバンチモードもしくは少数バンチモードが選択できることが理想的である。等間隔の21バンチ(228 nsec間隔)運転で9割程度、42バンチ(114 nsec間隔)運転で6割程度の実験が消化できると考えられるので、マルチバンチモードユーザーの要求と合致するには、その際に強度も含めた光源のクオリティがマルチバンチモードと比較して保たれるかどうか検討する必要がある。一方、表面界面の実験の大部分はバンチモードの制約はなく、強度が強い方が望ましい。

 またバンチ純度は時分割測定では極めて重要であり、隣のバンチも含めた空のバンチへの電子の混入はメインバンチに比較して10-8以下であることが望ましい。

 

表1 SPring-8で励起可能なメスバウアー核の例と自然幅あたりに含まれる強度。光源サイズ、発散角の積分は2σの矩形で行った。

メスバウアー核 エネルギー
(keV)
自然幅
(×10-8 eV)
次数 K値 ブリリアンス
(×1019
自然幅あたりに含まれる
フォトン数(/sec)
181Ta 6.23 0.0067 1 2.02 2.22 7 × 103
169Tm 8.40 11.4 1 1.61 2.28 9 × 106
57Fe 14.41 0.47 1 0.804 1.48 1 × 105
119Sn 23.87 2.57 3 1.68 1.32 3 × 105
121Sb 37.15 13.0 5 1.74 0.79 5 × 105
127I  57.60 23.4 5 1.15 0.169 1 × 105
73Ge 67.03 24.7 5 0.878 0.036 3 × 104
197Au 77.34 24.3 5 0.643 0.0035 3 × 103

 

表2 光源サイズ、14.4 keVのX線に対する発散角、50 m地点でのビームサイズ

 

 

 

光学系の概要

 フロントエンドおよび光学系は共同チームで開発された標準的な単色X線ビームラインに従う。図1に光学系の概念図を示す。定位置出射型のSi 二結晶モノクロメータによりΔE/E〜10-4に単色化されたX線を実験ステーションに導く。実験の種類によりミラーを集光のために用いる。

 

図1 光学系の概略図

 

 

実験ステーションの概要

 図2に示すように実験ステーションは8×4 m2の大きさで、主に2つの光学定盤が置かれる。上流の定盤では両側のゴニオメータから入れ子型に組み合わせた2つのチャンネルカットモノクロメータによりΔE/Eにして10-6から10-7の高分解能の分光を行う。例えば14.4 keVのX線に対して、Si422とSi1222の反射を利用した場合、エネルギー分解能は約6.3 meVとなる。各々のSiは1パルスが200分の1秒に対応する精密ゴニオメータで制御される。各ゴニオメータは平行移動によりモノクロメータを使用しない場合はビームを通すことができるように設計されている。Siを室温で使用した場合14.4 keVのX線に対し、0.1度の温度変化によりモノクロメータを出射したX線のエネルギーが3.7 meV変化してしまう。そのためステーション内は温度変動を0.1度以内に制御し、さらに定盤は対流の影響を除去し温度の安定性をさらに高めるためにプラスティックのハッチで覆う。基本的に各核種の共鳴エネルギーに対して1組の高分解能モノクロメータが必要となり、モノクロメータを核共鳴エネルギーに合わせる時間は実験時間を少なからず割くことになる。そのため一度得られた共鳴エネルギーを効率よく再現するためにゴニオメータとモノクロメータの取付をはめ合わせにして、設置するだけでエンコーダの読みにより共鳴エネルギーの近傍になるようにする予定である。さらに上流の定盤にはエネルギーを精密に計測するためのボンド法やサブmeVの分光を行うためのゴニオメータが置かれる。

 

図2 実験ステーションの概略図

 

 下流の定盤には図3に示すように1パルスが200分の1秒に対応する精密ゴニオメータと10000パルスが1度に対応する2軸の全周回転ゴニオメータが置かれる。これらにはα-Fe2O3などの核共鳴散乱素子や干渉計、ダイヤモンド・アンビルセルなどが実験の種類に応じて取り付けられる。分離型の干渉計などのような精密な回折実験も行われるため上流と同様に下流の定盤もプラスティックのハッチで覆われる。

図3 精密ゴニオメータと光学定盤

 

 表面界面の実験には図4(a)(b)に示すような多軸回折計が下流の定盤に置かれて使用される。この回折計は併設案の主旨に基づき、核共鳴散乱に使用される偏光解析用のゴニオメータとZ軸、ω-2θ軸、軸を共用しており、表面界面の実験用に多軸ゴニオメータヘッドと検出器の自由度を加えたものである。真空槽内に試料を置く形になっていないために界面の研究等に可能な実験は限られるが、真空槽等が必要な実験の場合は各自の装置を持ち込めるように定盤の後方に十分な空間がとられている。

図4 表面界面構造解析に使用される多軸ゴニオメータ。X軸までは核共鳴散乱の偏向解析装置と共用である。

 

 

おわりに

 以上核共鳴散乱ビームラインの概要をざっと紹介させていただいたが、私自身の専門が核共鳴散乱であるために表面界面構造SGの説明に不十分な点が多々あったと思うが御了解願いたい。またどのビームラインも事情は同じだと思うが、特に表面界面SGはユーザーも多く実験も多岐にわたるので早期の独立を希望して止まない。

 

 

 

文献

[1]泉 弘一 SR科学技術情報/Vol.5 No.7(1995)14

[2]T.Takahashi SPring-8 PROJECT SCIENTIFIC PROGRAM No.2(1995)71

[3]北村英男 SPring-8スペクトル集 平成5年12月21日

 

 

 

 

依田芳卓 YODA Yoshitaka

東京大学工学部物理工学科

〒113 東京都文京区本郷7-3-1

TEL. 03-3812-2111 ex.6828

FAX. 03-5689-8257

略歴 昭和62年東京大学工学部物理工学科卒業。平成3年東京大学大学院工学系研究科中退。同年より東京大学工学部技官。平成5年東京大学工学部助手。日本物理学会会員,日本放射光学会会員。最近の研究放射光による核共鳴散乱。体を動かすこと(ジョッギング,サッカー,スキー,卓球)名古屋グランパスが勝った日のスポーツニュースのはしごが趣味。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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