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Volume 01, No.1 Pages 57 - 61

9. 談話室/OPEN HOUSE

放射光利用研究の促進支援について

科学技術庁 大型放射光施設整備推進室

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はじめに

 皆様ご承知のとおり、SPring-8は、先端的かつ幅広い分野の研究に活用が可能である世界最高性能の放射光施設であるため、国内の産学官の研究者はもとより、海外の研究者などにも広く開かれた施設となるように各方面から期待が寄せられているところです。

 現在、科学技術庁でも、このSPring-8に寄せられている期待に応えるべくSPring-8の建設主体である日本原子力研究所・理化学研究所大型放射光施設計画推進共同チーム及びこの施設の管理運営を担当している(財)高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」)と協力しながら、平成9年度中の供用開始を目指してSPring-8の整備に努めています。そして、SPring-8の利用が開始された後の利用研究の促進を如何に図っていくべきかということについても、鋭意、検討を進めているところです。

 このように、SPring-8の整備を推進して利用の促進を図ろうとしているのは、国において放射光を利用した研究によって得られる成果の有効性や科学技術振興への貢献度などを高く評価しており、この施設をはじめとする放射光施設を活用することによって、幅広い科学技術の発展に結びつく最先端の成果が得られることを期待しているからです。

 ところが、このように期待の高い放射光利用研究には、SPring-8のように国が経費を負担して整備を進め、幅広く基礎研究レベルの向上を図る必要があるものがある一方で、民間の自主的な研究に期待すべきものも多数あります。従って、今後、SPring-8の利用の促進を図るとともに、民間による放射光利用研究を促進することが、わが国はもとより世界的にも科学技術の水準を向上させるために必要かつ有効な手段の一つであると思われます。

 こうした状況の中で、国としても、このような期待の高い放射光利用研究を促進するために、税制および金融上の措置を含む支援措置を講じることが重要であると判断して、民間の放射光利用研究を促進するための支援制度などを設けています。その概要について次に説明します。

 

 

1.放射光利用研究の支援など

 既に述べたとおり、放射光利用研究には、大型で先端的、基礎的研究基盤施設たるSPring-8を利用した研究によってしか得ることができないものもあれば、特定分野などの基礎的研究などを、比較的小型の放射光施設を利用して行うべきものもあるため、研究内容や研究の段階などに応じた適切な施設の活用を図ることが必要であると思われます。

 こうしたことから、科学技術庁では、規模及び内容に応じた放射光利用研究が全体的に促進されるように支援制度を設けています。それでは、次に、この放射光施設を利用した研究の促進などに係る既存の制度等について、概観してきたいと思います。

 

(1)SPring-8利用研究の促進について

 SPring-8は、周知のとおり国からの出資金によって、日本原子力研究所(以下「原研」)及び理化学研究所(以下「理研」)が建設している大型放射光施設です。同施設は、原研・理研が自らの研究用として使用する施設であった訳ですが、平成6年度に「特定放射光施設の共用の促進に関する法律」が制定され、この施設を広く一般の研究者にも有効に利用させる枠組みなどが定められました(別図参照)。この法律の趣旨は、SPring-8を利用者本位の考え方に基づき開かれた施設として利用できるようにし、あわせて円滑な利用の促進のための体制を整備することとしたもので、平成6年6月に成立し、同年10月施行されています。

 

別図

 

(法律概略)

① SPring-8の共同利用の促進について、政府としての基本方針を定めること

② SPring-8を国内外の研究者に広く利用させること

③ 指定法人による一体的・一元的な施設の運営体制の構築を行うこと

 この法律に基づき、既に政府が基本方針を定めており、指定法人として JASRI が平成6年10 月3日に指定されています。JASRI においては、SPring-8 が利用しやすい施設として平成9年度に供用開始できるように鋭意準備作業を行っているところです。一般利用者が建設して利用する専用利用ビームラインは、現在、その提案構想の募集の受付中であり、また、原研及び理研が整備して一般の研究者に提供する共同利用ビームラインのテーマ募集も平成9年度の利用開始を目指して今後実施される予定です。他にも細かいことなどはあるかと思いますが、大まかに言いますと、SPring-8 における利用研究の仕組みなどにつきましては以上のとおりです。

 

(2)民間の放射光施設による放射光利用研究の支援策(後述資料参照)

 続きまして、科学技術庁が設けた民間の自主的な放射光利用研究の促進策について説明します。科学技術庁では、民間企業などによる放射光施設の設置が促進されて放射光を利用した自主的な研究が一層活発化し、当該分野の基礎的研究レベルが向上するように、支援制度を設けています。具体的には、放射光施設整備に関する日本開発銀行(以下「開銀」)による融資、出資制度と税制上の優遇措置です。以下に、それぞれの概要を簡単に説明します。

 

①開銀による融資制度

 開銀による融資制度は、科学技術庁と開銀が協力して平成3年度から制度化したものです。

 概要は、民間企業などがシンクロトロン放射光装置を設置するにあたり、開銀及び科学技術庁に融資依頼のあったものについて、審査を行った結果、基準をクリアーした者に対して、その事業費の50%程度を開銀が低利で融資するというものです。

(A) 対象施設
放射光発生装置及びその部分品(ビームライン)
(ビームラインのみに対する融資も可)
(B) 金利
開銀融資のうち、対公共事業を除く最も低い金利
(C) 期間
事業の収益性、設備の耐用年数、技術開発テンポなどを開銀が総合的に判断して決定 据置期間の設定可
(D) 返済
据置後、分割返済可
利息は固定金利で後払い

 

【手続概要】

(a)民間事業者による事業計画(案)などの作成

(b)民間事業者が開銀に(出来る限り早い段階で)事前相談、調整

(c)開銀と調整完了後、民間事業者から科学技術庁に対して融資推薦依頼申請

(d)科学技術庁から申請者及び開銀に推薦審査結果通知

(e)科学技術庁の推薦を受けた者に対して開銀が融資の可否判断

 

②開銀による出資制度

 開銀による出資制度も、融資制度同様、科学技術庁と開銀が協力して平成6年度から制度化したものです。

 概要は、複数の利用者が共同利用するための放射光施設を建設・運営する者に対し、その事業の公共性、実現可能性及び経営安定性などを総合的に判断して開銀が出資を行うものです。開銀の出資金額は、事業主体の出資金総額の10%程度の見込みです。

 

【手続概要】

 概ね、融資制度と同様

 

 以上が、科学技術庁が開銀と共同で制度化した民間の放射光利用研究の促進のための支援措置(出融資制度)の概要です。

 

③放射光装置を設置する場合の税制上の優遇措置

 法人又は個人が放射光利用装置を設置する場合、国税では所得税、法人税の一部を控除する措置が、地方税では都道府県民税、市町村民税の一部を控除する措置が設けられています。

(A) 国税関係
 法人又は個人が、当該税制の適用年度にシンクロトロン発生装置を取得、製作、建設して事業の用に供した場合 (貸し付け用に供した場合を除く) には、その取得価額の一部を所得税又は法人税から控除するものです。
(ただし、限度額あり。)
・根拠:
  租税特別措置法第10条第2項(個人)
  租税特別措置法第42条の4第2項(法人)
(B) 地方税関係
 都道府県民税の法人税割及び市町村民税の法人税割において、国税の控除措置を受けた場合には、(この控除を受けた後の法人税割を課税標準として用いるため)減免措置が講じられます。
・根拠:
  地方税法附則第8条
  地方税法施行令附則第5条の2

 以上が、税制上の優遇措置の概要ですが、実際の適用についての詳細は、最寄りの税務署などにお問い合わせ下さい。

 

(3)民間の放射光利用研究の支援策の活用例など

 次に、上記(2)で説明しました放射光施設設置に関する開銀による出融資制度及び税制上の優遇措置の活用例などを簡単に紹介します。

 融資制度については、個別の企業の方が単独又は共同して放射光装置を製作する場合は勿論のこと、 SPring-8の専用ビームラインを設置する場合などの放射光装置の一部であるビームラインを建設する場合にも活用できます。

 出資制度については、1つの企業などが単独で放射光施設を建設して運営することが経費的な面などから困難な場合で、複数の企業の方々が共同して放射光施設を建設して運営する主体を設立し、放射光利用研究を実施しようとする際に、その新設される主体に対して開銀が出資するというものです。現在、こうした枠組みをつくろうとする構想がいくつかの地域で検討されていると承知していますが、是非ともこれらの実現に向けて努力していただくとともに、この制度が活用できる新規の構想の検討が開始されることを期待しています。

 税制上の優遇措置については、専ら個人又は企業などが自己の研究用、自己の事業用に放射光装置を設置する場合の支援策です。この税制上の優遇措置は上記の融資制度と併せて活用できます。

 

 このような、民間の放射光利用研究の支援策(放射光施設設置促進支援)のねらいとしているものは、個別には次のとおりです。

融資制度のねらいは、本制度が最も適用要件の制約が少ない制度であることから、放射光施設の整備を幅広く、より効率的に図ること。
出資制度のねらいは、企業などが共同して放射光施設を建設し、運営することを促進することで、より多くの者に対して放射光利用研究の機会を提供すること。
税制措置のねらいは、法人又は個人が自己の事業に活用するために放射光施設を設置して利用研究をすることに対する支援であって、個別の主体の放射光利用研究の環境整備をより効率的に図ること。

 このように多角的に民間の放射光施設の整備の促進を図るための公的資金を活用などした支援制度を設けておりますので、放射光装置を設置して研究を行う計画を検討される際には、是非ともここで紹介した支援制度の活用をご検討いただき、可能な限り効率的に放射光利用研究を実施していただきたいと思います。

 

 

おわりに

 現在、世界最高性能の放射光施設であるSPring-8は、平成9年度の供用開始を目指して着々と準備が進んでいます。SPring-8が完成した暁には、この施設を利用して世界最先端の研究が実施され、これによって得られた優れた研究成果が世界に向けて発信されるように、国においてもその環境づくりに鋭意努力していきたいと思っています。

 また、民間においても上記で紹介した放射光施設設置支援制度が積極的に活用されて、放射光を利用した研究が活発に実施されて、最先端の研究成果が出てくることを期待しています。

 そして、将来的にはSPring-8を放射光利用研究の中核的研究拠点として、国公私立大学、試験研究機関や企業などによる密接な連携協力の体制が構築され、放射光を利用した研究がより一層活発に実施されることによって、科学技術研究のレベルが向上していくことを願ってやみません。

 今後とも、我々の立場からも放射光利用研究が促進されるように支援をしてまいりたいと思っております。皆様方もフロンティア精神を発揮していただきまして、放射光利用研究に積極的に取り組んでいただき、科学技術の発展にご尽力いただきますようよろしくお願いいたします。

 

 

 

放射光施設設置促進のための支援制度

 

1.シンクロトロン放射光装置設置促進(融資)制度

【概要】

 民間企業などがシンクロトロン放射光装置を設置するにあたり、日本開発銀行がその事業の実現可能性及び経営安定性などを総合的に判断して、当該事業者に対して低利で融資を行うもの。

○対 象:放射光装置及びその部分品(ビームライン)の設置。

     (ビームラインのみに対する融資も可)

○照会先:日本開発銀行本支店 産業企画審議役室

      本店住所 東京都千代田区大手町1丁目9番1号

      TEL 03-3244-1976(代表)

 

2.放射光共同利用施設整備(出資)制度

【概要】

 放射光共同利用施設(放射光実験施設を複数の利用者が共同で利用するための施設)を建設・運営する者に対し、日本開発銀行がその事業の公共性、実現可能性及び経営安定性などを総合的に判断して、当該事業者に対して出資を行うもの。

○紹介先:日本開発銀行本支店 産業企画審議役室

      本店住所 東京都千代田区大手町1丁目9番1号

      TEL 03-3244-1976(代表)

 

3.基盤技術研究開発促進税制(シンクロトロン発生装置)

(1)国税関係(所得税、法人税)

【概要】

 法人又は個人が当該税制の適用年度にシンクロトロン発生装置を取得し、又は製作し若しくは建設して事業の用に供した場合(貸し付けの用に供した場合を除く)に、その取得価格の一部を所得税又は法人税から控除するもの。

 

(2)地方税関係(都道府県民税、市町村民税)

【概要】

 上記(1)の基盤技術研究開発促進税制(シンクロトロン発生装置)の適用を受けた場合、都道府県民税及び市町村民税(法人税割)に係る課税標準を税額控除後の法人税額とするもの。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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