Volume 01, No.1 Pages 30 - 34
7. 専用ビームライン/CONTRACT BEAMLINE
専用施設検討委員会の一年
専用施設検討委員会の発足
SPring-8には共同利用のためのビームライン(共用施設という)が設けられることとなっているが、これに併行して、特定の研究機関が費用を負担して建設・維持管理・運転して利用するビームラインが設置できることになっている。こうした専用ビームライン(専用施設という)設置に際し、その妥当性について審議するために設けられたのが標記委員会である。
平成6年6月22日、特定放射光施設(SPring-8のこと)の共用の促進に関する法律が制定されたのを受けて、同年9月26日には、特定放射光施設の共用の促進に関する基本的な方針が総理府告示第29号として示された。
専用施設の整備に当たっては、研究目的の科学技術への貢献度・発展性、専用とする必要性、施設の維持管理能力などを有することを放射光利用促進機構(具体的には、高輝度光科学研究センター)において確認し、選定することと定められている。選定はセンターに設けられた諮問委員会(委員長高良和武氏、委員長代理佐々木泰三氏)においてなされるが、その選定作業を進めるために諮問委員会の下部組織として設けられたのが標記委員会である。委員の任期は2年とされている。現在、委員会は主査を含め 18名で構成され、大学、国立試験研究機関より11名、企業より2名、原研・理研の共同チームより5名となっている(本誌44頁を参照)。
平成7年3月2日付で諮問委員会より、「専用施設建設の募集・選定に関する基本的考え方」について審議をし、その結果を報告することが求められたのを受けて、委員会が動き始めることとなった。補正予算などにより建設が加速されることとなり、平成9年度に一部供用開始することを目標に、SPring-8の建設が進められ、これに対応して、専用施設の利用開始時期は平成10年となった。
第1回委員会
平成7年5月31日に第1回の委員会が開催されたが、それを追うように、 SPring-8の利用開始が更に1年早まって平成9年となるなど全体計画が大きく進展している状況を受けて、諮問委員会(6月14日開催)より、専用施設の設置及び利用に関する基本方針と共に、機構が公募を行う専用施設設置計画趣意書について審議し、その結果を年内に諮問委員会で報告することまで求められることになった。
基本方針についての審議は、大型放射光施設計画検討委員会における中間とりまとめとして「専用施設受け入れ条件の基本的枠組みについて」と出されたものを出発案とし、ビームライン検討委員会により成された、専用施設計画に関する予備的なアンケート調査の結果も参考として進められた。この調査に応じたのは10件、内訳は大学3件、国立試験研究機関4件、高輝度光科学研究センターがとりまとめた産業界からのもの3件となっていた。
また、大阪大学核物理研究センターよりSPring-8電子線による「レーザー電子光によるクオーク核物理」研究計画のあることが示された。放射光を利用するというより放射光リングの電子ビームを活用して素粒子・原子核物理研究を行う計画である。
第2回委員会
第2回委員会(6月20日開催)では、基本的考え方についての審議と併行して、専用施設設置計画趣意書の公募についての審議、特に公募のための記事及び趣意書作成要領についての審議が行われた。
この結果に基づき、7月初旬に公募がなされ、9月末の締め切り時において5件の応募が得られることとなる。
「基本的考え方」については、専用施設のビームタイムの一部を共同利用に供することについて、専用施設の管理・運営への財団の関与の適否あるいはそのあり方についての討論が行われた。
また、今度の公募では準備の関係で国内を対象とするが、海外の機関による専用施設の建設についても出来るだけ早く行えるようにすべきとの意見が出された。海外の機関が専用施設を建設する場合には、成果の取り扱いなどについての対処の仕方が、本邦内における場合と異なる可能性が高いので、専門家グループなどを作って検討することが必要となる。
更に、共同チームより、ビームラインの構成要素、中でも挿入光源、フロントエンド光学系などについて規格化がなされつつあるので、特に支障のない限り規格化されたものを使って建設するようにと、心がけるべきことが指摘された。
第3、4回委員会
第3回委員会(9月18日開催)では、9月末までに応募される専用施設建設趣意書の選定を前に、提案の審査基準など選定作業をも視野に入れて、基本的考え方についての詰めた審議がなされた。これをもとに、事務局において、科学技術庁の関連部局とも連絡を取りつつ文章化の作業が進められ、その結果が第4回委員会(10月20日開催)において審議されることとなった。
この委員会では、応募された5件の専門施設設置計画趣意書(32〜33頁参照)の審査方法が討議された。評価フォームについて打ち合わせ、審査は4人の委員が担当して内容などを検討すると共に、特に挿入光源、光学系、安全性の観点に立った技術的審査には共同チームの関連分野の担当者が当たることとなった。
第5回委員会
第5回委員会(11月20日開催)では「専用施設の設置及び利用に関する基本的考え方について」(34頁参照)とする諮問委員会に提出すべき最終案と、専用施設計画趣意書5件について審査結果をとりまとめた。応募されたものはいずれも基準に照らして基本的には妥当な計画であると判断されたが、採択を前提に、今後明確にすべき点についてコメントを付することとし、実行計画書の作成に向けて、提案者が機構の技術担当者と充分な協議を進めるよう促すこととした。
また、阪大核物理研究センターの計画については、別個に核物理学の観点に立っての意義の評価や、SPring-8運転への影響についての検討の中間報告がなされた結果に基づき、SPring-8の特徴を活かした意義ある研究であり、SPring-8の運転に支障が生じないよう推進することが出来るとの見通しの下に、SPring-8として研究計画に協力することが了承された。
第6回専用施設検討委員会
なお、平成8年1月には、産業界をとりまとめる形で高輝度光科学研究センターから2件の専用施設の設置計画趣意書が提出された(33頁参照)が、これらは第6回委員会(平成8年2月9日開催)において審査され、採択されることとなった。
以上、当委員会の5月より翌2月までの小一年にわたる経緯を記した。補正予算による実質2年の計の早期実現を背景に、委員会の活動は慌ただしいものとなった。特に、委員会発足直後に更に1年実現が早まったので、年内に公募し、その審査結果を出すことが求められたときには、戸惑いさえ覚えないではなかった。しかし、既に大型放射光施設計画検討委員会で練り上げられていた「基本的考え方」、ビームライン検討委員会により成されていた「専用施設応募についてのアンケート」が用意されていたことが重要な足がかりとなり、実質的な対応が可能となった。
そして何よりも各委員の積極的な取り組み、事務局並びに共同チームの方々の並々ならぬご尽力・ご協力、さらには、委員会には欠かさず出席され豊富なご経験などを基に有意義なご意見を出していただいた諮問委員会の高良委員長、佐々木委員長代理のご指導により、相前後しかつ併行する案件を何とか処理出来るに至った。科学技術庁科学技術振興局の各位のご理解、積極的なご協力にも感謝の念を抱かずにはいられない。こうした関連各位のご熱意ご尽力によって、通常ペースなら2年ぐらいかける案件処理をほとんど半年でやり遂げたことになる。委員の方々には頻繁に開催される委員会、世話人会、グループ会合に出席していただき、次々と提出される案件を処理する密度高い作業を進めていただくこととなった。委員会での討議は広範な視野より活発な意見交換の下に進められたが、会合ごとに実質進展が著しいことから、欠席委員からもあらかじめ文書による意見を求めたことにより、淀みが少なくなるよう進めることができた。事務局も馴れぬ仕事とは言われながらも、会合のアレンジメント、資料の作成、議事録の整備と実に莫大な作業処理に当たられた。前代の白川企画調査部長、それを引き継がれ軌道に乗せられた現、尾野部長、その下で実に誠実にかつ精力的に困難な調整・資料整備の作業に当たられた福塚氏のご尽力なくしては、この進展はみられなかった。さらに、共同チームの上坪リーダー、大野研究開発グループリーダー、そして委員として参加されたメンバーの的を得た建設サイド、運営面、技術面よりの有効なアドバイスは、じつに頼もしく貴重であった。
専用ビームライン提案の概要
京都大学先端光ビームライン
超精密材料解析ビームラインI
超精密材料解析ビームラインII
生体超分子構造解析ビームライン
兵庫県ビームライン
サンビームBM(産業用ビームライン)
サンビームID(産業用ビームライン)
幸い委員会は当面の緊急課題に対処することは出来たが、今後に幾つかの問題を抱えている。その一つは、SPring-8は国際的にも開かれた施設として活用されようとしているので、海外よりの提案を受け入れていくことに関するものである。この中には、政府間の科学技術協力協定などの枠組みを踏まえた計画も含まれることになろう。これらに対応するには、建設コストと共に放射光使用料、知的所有権の処理の問題が挙げられる。こうした案件は専用施設検討委員会が直接所掌するところではないが、委員会の作業を進める上で強く関心の持たれるところである。SPring-8は先端科学技術開発のための貴重な資源ともいうべきもので、その有効な活用が望まれる。専用ビームラインの設置にもまだ十分な余地があり、今は積極的な応募を待つべき位置にある。しかし、高エネルギー物理学研究所のフォトンファクトリーがそうであったように、時と共にビームラインが満杯となり不足をかこつ時期が来るのもそう遠くはないと思われる。いずれにしても、設置されるビームラインの科学技術・産業技術への貢献度・発展性・重要性、ビームラインの必要性、維持管理能力は常に問われ、そのビームラインの妥当性が評価され、続行の是非が問われ、あるいは改善・更新・撤去が求められることとなろう。施設の設置には、設置可能なビームライン数・設置の形態、利用分野・利用技術などが考慮されることとなる。SPring-8が科学技術の研究開発の世界的拠点として高い地位を得るためにも、専用施設のあり方には適切な姿が求められている。
石黒 武彦 ISHIGURO Takehiko
昭和13年5月7日生
京都大学 大学院理学研究科 物理学第一教室 教授
〒606-01 京都市左京区北白川追分町
TEL 075-753-3744
FAX 075-753-3783
昭和36年京都大学工学部卒業、41年京都大学大学院工学研究科博士課程修了、同年電気試験所(現・電子技術総合研究所)物理部入所、同所固体物性研究室長、低温物理研究室長、基礎部長を経て、63年京都大学理学部へ転任、現在に至る。専門は物性物理学(実験)、工学博士。日本物理学会、応用物理学会、米国物理学会、米国物理学会、日本放射光学会会員。趣味は美術鑑賞。