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Volume 26, No.4 Pages 379 - 382

2. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第18回SPring-8産業利用報告会
The 18th Joint Conference on Industrial Applications of SPring-8

堂前 和彦 DOHMAE Kazuhiko

(公財)高輝度光科学研究センター 放射光利用研究基盤センター 産業利用基盤開発推進室 Industrial Platform Development Division, Center for Synchrotron Radiation Research, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 産業用専用ビームライン建設利用共同体(サンビーム共同体)、兵庫県、(株)豊田中央研究所、高輝度光科学研究センター(JASRI)、SPring-8利用推進協議会の5団体の主催、及び理化学研究所 放射光科学研究センター、SPring-8ユーザー協同体(SPRUC)、フロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体(FSBL)、総合科学研究機構中性子科学センター(CROSS東海)、高度情報科学技術研究機構(RIST)、中性子産業利用推進協議会、あいちシンクロトロン光センター、佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター、茨城県の後援で第18回SPring-8産業利用報告会が9月1日、2日に神戸国際会議場において開催された。今回も前年に引き続き、新型コロナ感染症の状況からオンラインとのハイブリッド開催としたが、8月中旬から兵庫県が緊急事態宣言に入ったため、実質的にはオンラインでの実施となった。これまでに意見交換の場として開催されてきた交流会は今回も実施されなかった。
 本報告会は主催団体の4団体(サンビーム、兵庫県、(株)豊田中央研究所、JASRI)がそれぞれ運用する専用および共用ビームラインにおける成果の報告会のジョイントとして構成され、その目的は、(1)産業界における放射光の有用性を広報するとともに、(2)SPring-8の産業利用者の相互交流と情報交換を促進することにある。また、SPring-8立地自治体の兵庫県がSPring-8の社会全体における認識と知名度を高める目的で2003年度より設置した「ひょうごSPring-8賞」の第19回受賞記念講演が今年も併催され、さらに今回は理化学研究所および産業利用に関連する利用団体として、創薬コンソーシアムとフロンティアソフトマター開発専用ビームライン産学連合体からの発表も行われた。2004年の開催から18回を数える今回の総参加者は295名(現地参加36名、オンライン参加259名)であった。

 

 

2. 口頭発表(1日目)
 報告会1日目の口頭発表は9月1日の12時より会場3階の国際会議室において行われた。最初のセッション1の開会挨拶は、主催団体を代表してJASRIの雨宮理事長から挨拶があり、SPring-8/SACLAの産業利用に対する期待が大きいこと、その期待に応えるため産業利用推進室を2つに分けてサポート体制を強化したことを挙げられ、一層の産業利用推進の希望を述べられた。

 

写真1 オンラインで挨拶する雨宮理事長

 

 

 次のセッション2の「豊田ビームライン研究発表会」では、豊田ビームラインBL33XUにおいて(株)豊田中央研究所が実施した研究成果2件が発表された。1件目の加藤氏の発表では、「放射光X線ラジオグラフィーによる燃料電池内部の液水可視化」というタイトルで、新型MIRAIの燃料電池セルに採用された絞り流路によるクロスフロー構造の効果を視覚的に確認するため、発電しながらX線ラジオグラフィー観察を行い、リブ下部の液水の排水性を調べることで開発に貢献した結果について報告された。2件目の馬原氏の発表では、「In-situ XRD/XAFSを用いた無秩序岩塩型LiMnO2正極の構造解析」として、無秩序型岩塩構造LMOは充放電サイクル試験により格子サイズが減少し、ミクロなスピネル構造への転移が生じることをMnのEXAFS解析により明らかにしたことを報告された。
 セッション3では、理化学研究所から矢橋氏の「理研ビームラインの産業・イノベーションへの貢献」というタイトルでの発表があった。主な発表内容は、SPring-8/SACLAのグリーンファシリティ宣言に続き、ビームライン再編・改修に加えて、DXによる自動化・リモート化の推進、SPring-8データセンター設置構想を述べられた。また、大口利用の新たな形態として専用施設の保有でなくビームタイムに投資する仕組みに関しての説明があった。
 セッション4の「サンビーム研究発表会」では、サンビーム共同体幹事であるパナソニック(株)の黒岡氏より、共同体の活動趣旨説明と共同体が運用するSPring-8の産業用専用ビームラインサンビーム(BL16B2、BL16XU)の現状報告が行われた後、サンビームを利用した共同体参加企業の成果について5件の研究発表が行われた。最初は(株)東芝の吉木氏より、「タンデム型太陽電池向けpn接合界面のバンドオフセット解析」で、低コストなタンデム型太陽電池を目指して開発中であるCu2O/Si系材料の界面のバンドオフセットを全反射HAXPESで測定した結果について報告された。次に大阪大学/関西電力(株)の大本氏より、「金属カチオン含有水溶液中でカソード分極した発錆炭素鋼のさびの構造」として、炭素鋼を大気暴露させた際の各種硫酸塩溶液の効果を調べた結果、溶液濃度が高いほどさび層の還元が抑制されFe3O4の増加速度も低下することが報告された。3件目はソニーグループ(株)の新井氏より、「硬X線光電子分光法によるGaInN/GaN量子井戸のピエゾ電界評価」として、GaN系発光デバイスのIn組成とピエゾ電界の関係をHAXPESとシミュレーションで検討し、発光波長とピエゾ電界の相関を調べた結果の報告が行われた。4件目は(株)神戸製鋼所の小澤氏より、「イメージングXAFS・XRDによるさびの構造解析」として、μm分解能でのXRD/XAFS測定結果にニューラルネットワークを用いたクラス分類を適用し、Fe酸化物の分布を明らかにしたとの報告が行われた。最後にサンビーム−イメージングSGの活動報告「アルミ合金の引張その場放射光単色X線CT」として、(株)コベルコ科研の福田氏より、12分で1CTイメージ測定が可能となり、この技術を用いてAl合金の引張り過程を観察した結果が報告された。
 休憩の後、15時半よりセッション5の「JASRI共用ビームライン実施課題報告会」では、6件の共用ビームラインの利用成果が報告された。最初にENEOS(株)の木村氏より、「HAXPESによる潤滑油反応膜の解析」として、角度分解HAXPESを用いて潤滑油における潤滑膜の構造とベースオイルの極性および添加剤の鎖長との関係について調べた結果が報告された。次に(株)メニコンの伊藤氏より、「量子ビーム複数プローブ法による両親媒性ゲル表面構造の解析」として、コンタクトレンズ材料表面のプラズマ処理による親水化の効果をHAXPESにより解析した報告が行われた。続いて京都大学の朝倉氏より、「実機耐久処理を経たPd触媒の排気ガス浄化反応と反応機構解析」として、実機耐久したPd系触媒のオペランドXAFS解析について報告があった。4件目は九州大学の小椎尾氏より、「超小角散乱測定による高分子材料の内部構造評価」として、フォルダブルディスプレイに用いられるPETフィルムの屈曲部に対する超小角散乱解析結果が報告された。その後出光興産(株)の山口氏より、「放射光XRDを用いた時分割構造解析の硫化物固体電解質への応用」として、全固体電池の電解質材料であるLi2S-P2S5系材料の昇温過程におけるガラス化に関する構造変化をPDF解析した結果が報告された。最後に高輝度光科学研究センターの大坂氏より、「高効率化・省力化のための測定自動化技術の開発-粉末回折、小角散乱、XAFS-」として、BL19B2およびBL14B2の試料交換用に開発したロボット(JukeBoxとHummingBird)および、今後の自動化に関する計画が紹介された。

 

 

3. ポスター発表
 報告会2日目の9時30分から11時30分まで会場3階のレセプションホールとWeb発表によるポスター発表が行われた。発表件数は、サンビーム共同体25件、兵庫県19件、豊田中央研究所7件、JASRI共用ビームライン20件の計71件であった。今年度は会場の密を避けることを目的にポスター件数を制約したため、協賛団体や他施設の紹介ポスター発表は行われなかった。また、本報告会では当初、ポスター発表者は会場での説明を予定していたが、急遽オンライン主体に変更となったため、会場とWebのいずれでも発表者による説明および質疑応答はなく、ポスターは掲示だけで質疑はメールによるものだけとなってしまい、十分な議論が行われたとは言えない結果となった。

 

 

4. 口頭発表(2日目)
 ポスター発表終了後の11時30分より、セッション6「ひょうごSPring-8賞表彰式・受賞記念講演」が行われた。今年度は阪本薬品工業(株)の山田武氏が、「保湿剤の肌ナノ構造への作用メカニズム解明と製品化」で受賞された。雨宮理事長の授賞理由説明、齋藤兵庫県知事からの祝辞に続いて、山田氏による講演が行われた。講演内容は、グリセリンの皮膚角層への作用メカニズムをX線回折法により解明・評価したもので、グリセリンは角質細胞内に入って水分を蓄え、細胞間脂質の水分量を制御していることを明らかにした。また、ジグリセリンも細胞間脂質に作用しており、両者の混合系が皮膚の保湿能を高めることを示した。

 

写真2 ひょうごSPring-8賞授賞式

 

 

 昼食後の13時30分からのセッション7「兵庫県成果報告会」では、横山ひょうご科学技術協会放射光研究センター長の「兵庫県における産業利用の取り組みについて」の発表の後、4件の研究発表が行われた。
 (株)住化分析センターの末広氏より、「X線タイコグラフィによるエンジン内堆積物の解析」として、各種の分析手法を組み合わせて、堆積物の発生源、生成環境、生成経路等を包括的に推定した結果が報告された。次に京都大学の金子氏より、「X線マイクロビームを用いた準安定相酸化物の成長機構解明」として、パワーデバイス材料としてのGa2O3の結晶相の違いに注目して、基板、温度、成膜法による成長相や転移に関する分析結果が報告された。3件目は(株)コベルコ科研の福田氏より、「オペランド放射光X線CTによる過充電過程におけるリチウムイオン二次電池負極構造変化の観測」として、放射光CTの測定とシミュレーションを組み合わせることで、二次電池内のLiの挙動の観察をできたことが報告された。最後に兵庫県立大学の渡邊氏より、「ニュースバルに於けるEUVリソグラフィー技術の研究開発の現状と今後の展開」として、今年の4月から稼働したニュースバル用の新入射器、EUVリソグラフィー技術開発、分解能30 nmのEUV顕微鏡等の新たな技術が紹介された。
 セッション8の「創薬コンソーシアム」では、創薬産業構造解析コンソーシアム幹事長である旭化成ファーマ(株)の田中氏より、「創薬産業におけるSPring-8の利用」として、蛋白コンソの後継組織として2012月4月より18の製薬・創薬会社で活動を開始したこと、コンソーシアムの使命である「医薬品研究開発に貢献する立体構造解析技術の獲得とその利用の推進」を実現するために、医薬品研究開発への適用可能性を早期に判断できるようにすること、構造解析に関する最先端技術を利用できる体制を構築することを目指していることを報告された。
 セッション9の「フロンティアソフトマター開発専用ビーライン産学連合体(FSBL)」では、FSBL代表である旭化成(株)の松野氏より、「FSBLの概要と事例紹介」として、2019年9月に第2期が15社で発足したことが報告され、その後4件の研究事例が紹介された。
 セッション10の「講評」では、理化学研究所放射光科学研究センターの石川センター長から報告会全体の講評が行われた。昨年の要望として挙げられた「施設の方向性と産業利用の方向性の検討」に対しては、方向性を揃えていく試みが始まっており、SACLAの産業利用も始まっているとの評価があった。さらに、昨年の講評で述べられた3つの項目に対して以下のように述べられた。1番目の産業利用ユーザーの広がりへの対応に対して、今回、改善はあったが内容が多いため少し薄くなった印象がある。また、本当に必要なユーザーにまで情報が十分に届いているかが不明である。2番目のSPring-8-IIへの対応と3番目の産業利用プログラムの連携による世界が抱える大問題への対応に関しては、引き続きの検討が必要である。最後にSPring-8/SACLAが、リサーチコンプレックスからリサーチリンケージへの発展の期待を述べられた。
 JASRIの山口常務理事から閉会の挨拶により、第18回SPring-8産業利用報告会が終了した。

 

 

5. おわりに
 昨年に引き続きハイブリッド形式での開催であり、今年はオンライン主体での実施となったため、参加者間での議論の盛り上がりに欠ける報告会と感じられた。当初はポスター説明を含めて現地での発表を予定していたが、直前にオンライン主体に変更となり、事務局および関係者は大変なご苦労をされたことと思われるが、大きな問題もなく無事に開催できたことに対して、主催5団体のご尽力と後援団体のご協力にこの場を借りて感謝の意を表したい。また、来年は交流会を含めて参加者が一堂に会して議論できることを期待したい。

 

 

 

堂前 和彦 DOHMAE Kazuhiko
(公財)高輝度光科学研究センター
放射光利用研究基盤センター 産業利用基盤開発推進室
〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1
TEL : 0791-58-0978
e-mail : kdohmae@spring8.or.jp

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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