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Volume 24, No.1 Pages 71 - 76

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

「専用ビームライン 中間評価」について
Interim Review Results of Contract Beamlines

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 SPring-8に設置されている専用ビームラインは、登録施設利用促進機関であるJASRIの専用施設審査委員会において、「放射光専用施設の設置計画の選定に関する基本的考え方」に基づき中間評価、次期計画審査等を実施し、その結果はSPring-8選定委員会で審議されます。以下の3機関5専用ビームラインについて、専用施設審査委員会(平成30年11月開催)で中間評価を実施し、その評価結果についてSPring-8選定委員会(平成31年2月開催)で審議しました。

 

 


中間評価
・JAEA重元素科学Iビームライン(BL22XU)
・JAEA重元素科学IIビームライン(BL23SU)
 (設置者:国立研究開発法人日本原子力研究開発機構)
・QST極限量子ダイナミクスIビームライン(BL11XU)
・QST極限量子ダイナミクスIIビームライン(BL14B1)
 (設置者:国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構)
・先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)
 (設置者:国立大学法人電気通信大学)

 

 

 審議の結果、5本のビームラインともに、引き続きビームラインの運用を「継続」する旨の結果を得ました。財団より、各設置者へ通知いたしました。
 以下、各施設の中間評価報告書の詳細を掲載します。

 

 

JAEA重元素科学I・IIビームライン(BL22XU、BL23SU)中間評価報告書

 

 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)、物質科学研究センター、放射光エネルギー材料研究ディビジョンは、原子力研究への貢献とその成果の学術界並びに産業界への還元を目指し、「アクチノイド基礎科学」、「環境・エネルギー材料科学」、「福島事故回復に資する研究(廃炉研究を含む)」の3項目を研究目的として、BL22XUおよびBL23SUの2ビームラインを設置している。
 提出された「JAEA専用ビームライン中間報告書」と口頭による報告発表に基づき、「装置の構成と性能」、「施設運用及び利用体制」、「研究課題、内容、成果」、「今後の計画」の4項目について専用施設審査委員会で評価を行った。その結果、それぞれの項目について一定の水準にあると認められたため、同専用ビームラインの設置を継続することを勧告する。ただし、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)所管の装置が一部残っていること、これに伴う人員体制において相乗り状態が続いていることなど、同ビームラインは組織変更後の移行過程にあることから、3年後を目処に再度中間評価を設けることを勧告する。
 以下に各項目について評価結果をまとめる。

 

1. 装置の構成と性能
 JAEA重元素科学Iビームライン(BL22XU)はアンジュレータを光源とし、アクチノイドM吸収端からランタノイドK吸収端をカバーする広エネルギー帯(3~70 keV)のX線を利用した実験が可能である。本ビームラインの特長として、非密封RI試料の測定を可能にする装置がRI実験棟に整備されている。その他、実験ホール棟の実験ステーションに高温高圧その場観察用回折計(QST)とDAC用X線回折装置(QST)、RI実験棟にHAXPES(JAEA)、高輝度XAFS測定装置(JAEA)、残留応力測定装置(JAEA)、汎用X線多軸回折計(QST)が導入されている。
 JAEA重元素科学IIビームライン(BL23SU)はツインヘリカルアンジュレータを光源とする軟X線(0.35~1.8 keV)ビームラインであり、BL22XUと同様、RI実験棟に実験ステーションを有している。実験ホール棟に光電子分光ステーション(JAEA)と生物物理分光ステーション(QST)、RI実験棟にARPES(JAEA)、XMCD(JAEA)が導入され、さらにRI実験棟にSTXMの整備が進んでいる。
 これらのビームライン装置群はJAEAミッションに沿ったものになっており、順調に整備が進んでいると判断できる。QSTビームラインBL11XUからBL22XUにXAFS装置群を移設するなど、組織変更後のリソースの集中化を進めていることは評価できる。一方で、多くの外部利用者がいる表面ステーションは、施設供用がJAEAのミッションでもある事から維持するとしているが、そのミッションに合っている事を外部に対して明確に示す取り組みが必要であろう。一方、BL23SUにおいて海外機関と共同で世界最高レベルのSTXM装置をRI実験棟に整備しており、福島事故回復に資する研究における利用が期待される。

 

2. 施設運用及び利用体制
 施設運用にあたってはJAEA、QSTともに安全管理に積極的な機関であり評価できる。両機関の場合は、それぞれが管理するビームラインに、他方の機関の実験装置が設置されているという特殊事情があることから、両機関の安全面における連携が非常に重要である。この連携については、両機関合同で安全の連絡会議を毎月開催するなど工夫も伺える。一方で、装置配置や組織体制において、QSTと入れ子構造になっており、なお一層の整理が必要である。例えば、BL22XUでのQST管理下の課題中の事故に際して相互情報連絡が適切に行えていなかった事例や、JAEAでは課題等の安全審査が内部外部ともに行われるのにQSTでは内部に対して行っていないなど、同一ビームラインでの安全管理の一貫性が今一歩である。ビームライン管理者が一貫して責任を持てる安全管理が行えるように、両機関の安全管理の連携をさらに充実させていただくよう強く求めたい。特に、非密封RIを取り扱えるRI実験棟に関しては十分な対策と透明性のある安全確保体制を機能させて頂きたい。
 利用支援に対しては、事前技術相談や利用者への技術支援など、十分な選定・利用体制のもとで進められている。外部課題および内部課題の利用は進んでいるが、透明な成果公開が望まれる。特に、具体的な成果に関して、外部課題と内部課題を分けた形で公開することが必要である。一方で、外部課題の選定において、JAEAのミッションに沿った課題を積極的に採択するなど、JAEAならではの重点化も必要である。
 外部利用はBL22XU、BL23SUとも30%程度を維持している。この外部課題はナノテクプラットフォームのもとで行われているが、長期的に安定した外部利用を進めていくためには現在のナノテクプラットフォーム終了後のことを検討する必要がある。
 成果非公開利用の件数はここ数年間、BL22XU、BL23SUを合わせて3~5件/年で推移している。JAEAとして、今後とも利用収入の増加に向けて企業ユーザーの誘致活動を行うとしており期待される。

 

3. 研究課題、内容、成果
 口頭発表で取り上げた研究成果6件のうち5件は福島事故回復、原子力材料科学、アクチノイド基礎科学に関連する物であり、JAEAミッションに沿った課題を実施している。残りの1件である表面酸化反応の研究成果は、外部ユーザーによる「施設供用」というミッションに基づいて実施された課題である。これらの成果は共に、JAEAのミッションに合致しているものの、JAEA本来のミッションと施設供用とを明確にした上で成果を示す必要がある。
 各研究課題に関して、実際どのような業界やJAEA内の各部署との連携が為されているのかが、現状では明確に見えない。BL22XUとBL23SUの成果がどのように社会に貢献しているかを明らかにするためにも、明確にする必要がある。
 ミッションに沿って「アクチノイド基礎科学」を推進することは必要であるが、物性物理の視点からは、何が基礎科学として重要なのか見えてこないため、学会等で情報発信を積極的に行うことも必要である。また、成果のうち、受賞、プレス発表、特許に関して、JAEAミッションと直接関連するものがない。JAEAミッションの成果をより積極的に発表する必要がある。

 

4. 今後の計画
 今後の計画の柱として、RI実験棟の高度化と装置の集中を掲げており、JAEAミッションを達成するために、適切なものと評価する。BL22XUにおける、クイックXAFSやKBミラー導入によるマクロビームの利活用、EsのXAFS測定に向けた高度化が計画され、BL23SUではSTXMの整備を進めており、実燃料デブリの分析体制を整えている。これらの計画を実施する予算の手当ても行われている。今後の計画は実施可能かつ妥当なものであり、原子力研究のCOE化を目指して、計画に沿って着実に実施していただきたい。

以 上

 

 

QST極限量子ダイナミクスI・IIビームライン(BL11XU、BL14B1)中間評価報告書

 

 QST極限量子ダイナミクスI・IIビームライン(以下、本施設)は、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下、量研(QST))の専用ビームラインという特性に対応して、荷電粒子、放射性同位元素(RI)、中性子、放射光など様々な量子ビームの発生・制御やこれらを用いた高精度な加工や観察などに係る最先端の技術開発を行うことを目的として設置された。本施設を構成するBL11XUにおける世界最先端の放射光メスバウアー分光装置と国内唯一の共鳴非弾性散乱装置を活かした研究実績、BL14B1における水素利用先進材料を始めとした物質研究・材料開発の成果を評価し、専用施設審査委員会(以下、本委員会)は本施設の設置と運用の「継続」を勧告することが妥当であると判断した。
 ただし、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(JAEA)所管の装置が一部残っていることと、これに伴う人員体制において相乗り状態が続いていることなど、同ビームラインは組織変更後の移行過程にあることから、3年後に再度中間評価を実施することを勧告する。
 以下、量研から本委員会に提出された「量研専用ビームライン中間報告」、平成30年11月16日に開催された本委員会での報告および討議に基づき、以下の点についてその評価と提言を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 本施設は先端的放射光利用技術の開発拠点BL11XU(QST極限量子ダイナミクスIビームライン)と物質研究・材料開発ビームラインBL14B1(QST極限量子ダイナミクスIIビームライン)から構成されている。
 BL11XUは標準型アンジュレータを光源とし、6~70 keVの単色高輝度硬X線が利用できる。実験ステーションとしては、放射光メスバウアー分光装置、共鳴非弾性X線散乱分光装置、及び表面X線回折計が整備されている。放射光メスバウアー分光装置は10 neV~1 meVのエネルギーバンド幅の超単色X線ビームを、集光や偏光を制御して利用する応用研究が実施できる世界で唯一の装置であり、今年度にはビームサイズ(縦)を約15 mmまで集光し計測効率を従来の4.5倍向上させた。共鳴非弾性X線散乱分光装置は世界に3台しか無く、国内では唯一の装置であり、エネルギー分解能は設置時の100 meV程度から銅K吸収端で30 meV、イリジウムL3吸収端で50 meVに向上した。表面X線回折計はMBE装置と一体化された半導体結晶の成長過程を1原子層ごとに実時間で観測できる世界的にも稀な装置であり、量研発足以降に実験技術が確立された。
 BL14B1は偏向電磁石を光源とし、白色光と高エネルギー単色光の両方を利用できる。量研の実験ステーションとしては、白色光実験用の高温高圧プレス装置と単色光実験用のκ(カッパ)型多軸回折計が整備されている。高温高圧プレス装置では、外部ユーザーが試料を持ち込むだけで安定した高温高圧水素化実験が可能となる水素化セルの開発を含め実験技術を確立した。κ(カッパ)型多軸回折計では、低温、高温、電場などの試料環境制御が可能であり、原子2体分布関数測定の精密化を実現した。
 以上のように、国内あるいは世界でも唯一となる装置を含め、量研専用ビームラインとしてのミッションを達成し得る高い性能目標を達成していることは高く評価できる。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 本施設の運用と利用体制を評価する上では、組織及び装置管理の複雑さを考慮する必要がある。組織については本施設の設置組織は量研機構であるが、運用は同機構量子ビーム科学研究部門関西光科学研究所の放射光科学研究センターが担っているため、同機構量子ビーム科学研究部門の高崎量子応用研究所(以下、高崎研)は組織としては内部だが運用としては外部扱いとなっており、課題審査や安全管理において一貫性に欠けている。装置管理については本施設ビームラインに原子力機構(JAEA)の実験装置が配置され、その逆にJAEA専用ビームラインにQSTの実験装置が設置されているという複雑さがある。装置管理については、装置管理組織からビームライン担当者代理を配置しビームライン管理組織のビームライン担当者との情報共有並びに連携が図られている。
 安全管理については、安全管理状況調査の結果から示されるように積極的に行われている。特に、ビームライン設置機関とは異なる機関が管理する装置利用の安全確保については、両機関合同の連絡会議を毎月開催するなどの連携が図られている。ビームライン管理者が一貫して責任を持てる安全管理が行えるように、両機関の安全管理の連携をさらに充実させていただくよう強く求めたい。高崎研を除く内部課題の審査で安全審査が行われていないが、内部課題についても安全確認を実験者任せにせず、機関として審査と確認を行うよう改善を求める。
 外部利用課題が各期ともほぼ30%確保されていることは高く評価できる。本施設の実験課題数は2016A期の26から2018B期の43と増加している。この増加は主に磁性・スピントロニクスや水素利用先進材料を対象とした高崎研や企業の利用研究によるものと思われ、次期計画審査結果報告書での提言に対応した量研機構内部利用および産業利用の拡大が進められた結果として評価できる。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 BL11XUの放射光メスバウアー分光装置では、Niナノ粒子の放射光メスバウアー吸収分光や結晶サイト選択的メスバウアー分光などメスバウアー分光法の先進的展開による研究成果が得られている。高性能磁性材料や水素貯蔵材料の開発研究に繋がる成果が得られている。共鳴非弾性X線散乱分光装置では、燃料電池白金ナノ粒子触媒における酸素と水の吸着状態のその場測定や鉄系高温超伝導体のスピン状態観測などの成果が得られている。表面X線回折計では、窒化ガリウム(GaN)薄膜の特異な格子変形現象の発見やIII-V族半導体ナノワイヤの構造多形形成モデルの構築などの成果が得られている。
 BL14B1の高温高圧プレス装置では、アルミニウムと鉄から構成される新規水素吸蔵材料の実現やモリブデン、タングステン、ニオブ、タンタルの4元素のそれぞれを含む新たな錯体水素化物の合成に成功している。単色光実験用のκ(カッパ)型多軸回折計では、ニオブ酸カリウム(KNbO3)の相転移機構解明やLi3PO4コーティングによるリチウムイオン電池の安定性向上などの成果が得られている。
 以上の研究成果は、極めて高い水準のものであり、いずれも本施設のミッションに沿ったものであることは高く評価できる。
 成果の公開については、今回の中間評価までの学術雑誌への発表数はBL11XU関連が52、BL14B1関連が65であり、両ビームラインとも毎年20報前後の論文が発表されている。国際的に著名な学術雑誌での発表数を含め、今後の発表論文数の増加が期待される。自己評価を含めた評価の観点からは、装置毎に発表論文数を年毎にまとめて把握することが望ましい。その他の研究成果公開として、国際学会を含め招待講演が39件、学術雑誌の論文賞を含め受賞件数が9件、プレス発表件数が5件、特許取得が3件あることは評価できる。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 研究に関する計画は、本施設の利用研究で発見された新しい磁気光学効果「X線磁気円偏光発光」を用いた磁気顕微分光法の開発研究などの先進的かつ挑戦的な分野を含め、本施設のミッションに即した磁性スピントロニクス研究や水素利用研究の展開が期待できるものとなっている。また、本施設とJAEA専用ビームラインの間で装置管理機関とビームライン設置機関が交錯している問題についても、移設などによる改善が計画されている。
 個々の計画はいずれも妥当なものであるが、本施設のミッションの更なる明確化、研究計画の先鋭化、専用ビームラインとして他のビームラインとの差別化をより一層進めることを期待する。また、量子材料や物質科学からさらに広い分野への利用拡大や本施設の特徴の一つである白色光の活用など新たな測定技術の開発にも期待する。
 計画は全体として方針が明確なものとなっており、本委員会での指摘を反映し、計画通り実現してもらいたい。

以 上

 

 

先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン(BL36XU)中間評価報告書

 

 提出された先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームラインBL36XU中間評価報告書と口頭による報告発表に基づき、専用施設審査委員会で「装置の構成と性能」、「施設運用および利用体制」、「研究課題、内容と成果」、および「今後の計画」の4項目について評価を行った結果、それぞれの項目について優れた水準にあると認められたため、引き続きビームライン設置を継続することを勧告する。以下、評価項目別に詳細を記す。

 

1. 「装置の構成と性能」に対する評価
 BL36XUは、光源としてSPring-8標準真空封止型テーパードアンジュレータを採用しており、ビームライン構成も高時間分解クイックXAFS計測と100 nm集光ビーム形成を可能にするSPring-8標準デザインを用いて、高時間分解能・高空間分解能をもつXAFS計測装置を中心に整備が進められてきている。時間分解XAFS計測装置としては、広範囲なエネルギー領域(5~35 keV)に対応すべく結晶面の異なる2台の分光器を基本にして、10 ms時間分解クイックXAFS計測装置、新規開発のガルバノモーター駆動分光器による800 µs時間分解クイックXAFS計測装置、さらには超高速計測用100 µs時間分解エネルギー分散XAFS計測装置が整備され、目的としている固体高分子形燃料電池電極触媒の化学反応過程および劣化過程のメカニズムの解明において、異なる時間スケールにそれぞれ対応したリアルタイム計測を実現している。一方、空間分解XAFS計測装置では、2次元走査型顕微XAFS計測装置、深さ分解XAFS計測装置、3次元ラミノグラフィXAFS計測装置、3次元XAFS-CT計測装置さらには、XAFSと相補的な情報を与える雰囲気制御型HAXPES装置が整備されており、電池電極内に不均一に分布する電極触媒の計測など実燃料電池に対応した計測手法を提供している。以上のように「世界オンリーワン・世界最高性能」を誇れる燃料電池研究専用ビームラインとして整備され、2016年には結像XAFSイメージング用検出器を設置する目的でビームライン最下流に検出器用ブースを設置するなどして、世界最高水準の装置が維持されていることは高く評価できる。XAFS-CT再構成のための高速計算機の整備など、解析面・ソフトウェア面での技術開発が行われていることも評価できる。

 

2. 「施設運用及び利用体制」に対する評価
 BL36XUは、NEDO燃料電池プロジェクトの専用ビームラインであり、ビームラインの維持管理、高度化およびユーザー支援は、電気通信大学SPring-8分室の常駐のビームライン担当者とテクニカルスタッフが行っており、当初計画に沿った性能目標を達成している。利用研究は主として運営グループである電気通信大学、分子科学研究所、名古屋大学がビームタイムの2/3を使用して実施しているが、最近はNEDO燃料電池プロジェクト参画他機関による測定も行われており、常駐の担当者や分析会社がサポートしている。運営グループからの申請課題は運営グループで審査し、他機関からの申請は、これにNEDOとFC-Cubicを加えた選定会議で審査している。現在までのところ、成果専有利用は行われていない。このような運用体制は、燃料電池開発の基盤技術開発というプロジェクトの目的に沿ったものであり、ビームラインが安定に利用実験に供され、有効にビームタイムが活用されていることは評価できる。安全面においても、ガス供給排気装置を整備し、日々の巡視・点検が行われている点は評価できるが、他機関からの利用が増える中で、実験や持ち込み機器についてはさらに質を伴った安全管理の向上に期待したい。

 

3. 「研究課題、内容、成果」に対する評価
 「世界オンリーワン・世界最高性能」を誇れる時間分解・空間分解性能を有する先端XAFS/XRD/X線CT計測法、および雰囲気制御型HAXPES計測法を構築しており、これによりNEDO燃料電池プロジェクトが目的としているin-situ実燃料電池実験に特化した計測システムを利用した研究課題が実施されている。反応機構だけでなく、実燃料電池の開発に重要な劣化機構に関して多くの研究が行われていることは高く評価できる。オペランドXAFSイメージングでは加速劣化試験によりPt-Co合金の溶出や劣化を可視化し、またEXAFS-CTによってPt/C配位数の3Dマップを得るなど、従来まったく得られていなかった燃料電池内部における構造・化学状態情報の取得に成功している。また、反応素過程を高精度に追跡できるように独自開発した計測システムにより、様々な試料・計測条件に対する系統的な時間分解XAFSの成果が得られており、in-situ時間分解XAFSでは燃料電池膜電極接合体(MEA)内カソード触媒の反応過程や劣化について多くの知見が得られている。雰囲気制御硬X線光電子分光法についても、分光器入り口のアパーチャーを縮小することにより完全大気圧下での計測に成功しただけでなく、固液界面の電気二重層の電位計測や、硫黄の化学種の同定など、応用面での成果が上がっている。全体として、特にここ2年ほどはNature CommunicationsやAngewandte Chemie International Editionを始めとして海外のジャーナルに年10報程度の利用研究論文が掲載されており、燃料電池プロジェクトという単一テーマを追求するビームラインとしての成果はめざましい。国際的にレベルが高く、しかも独自性の高い成果が着実に得られていることは高く評価したい。その一方で、マイクロ秒時間分解能、サブミクロン空間分解能の測定手法については、開発は完了しているがまだ十分に活用されているとは言い難い。これらはSPring-8の他ビームラインで開発された高度な計測技術をベースにしたものであり、実燃料電池開発という重要な利用研究におけるその活用はSPring-8の利用全体に与えるインパクトが大きいため、これらの手法を活用した成果が望まれる。

 

4. 「今後の計画」に対する評価
 将来の燃料電池の実用化には、(出力密度×耐久時間)/(単位出力あたりの貴金属使用量)を10倍に高めることが目標となっている。これら3つの要素のすべてに関して本ビームラインは貢献できる可能性を持っている。現行NEDOプログラムは2020年2月に終了する。残り1年半に満たない期間であるが、開発した装置の特性を十分に活かした研究が進められ、より高水準な成果が得られることを期待する。また、本研究で開発された燃料電池MEA開発に必要な解析手法を標準化し、産業界の利用が可能な形に整備してゆくことも、本研究の成果を生かし、燃料電池研究を継続する上で重要である。その上で本ビームラインの産業界による利用も検討されたい。

以 上

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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