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Volume 24, No.1 Pages 43 - 44

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

2016A期 採択長期利用課題の事後評価について – 3 –
Post-Project Review of Long-term Proposals Starting in 2016A -3-

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

 2016A期に採択された長期利用課題について、2017B期に2年間の実施期間が終了したことを受け、第62回SPring-8利用研究課題審査委員会長期利用分科会(2017年12月12日および15日開催)による事後評価が行われました。
 事後評価は、長期利用分科会が実験責任者に対しヒアリングを行った後、評価を行うという形式で実施し、SPring-8利用研究課題審査委員会で評価結果を取りまとめました。以下に評価を受けた課題の評価結果を示します。研究内容については本誌の「最近の研究から」に実験責任者による紹介記事を掲載しています。
 なお、2016A期に採択された長期利用課題4課題のうち3課題の評価結果は、「SPring-8/SACLA利用者情報」Vol.23 No.3(2018年8月号)およびVol.23 No.4(2018年11月号)に掲載済です。

 

課題名 量子ビーム実験・理論計算とデータ科学の融合による非晶質物質の体系的な理解
実験責任者(所属) 小原 真司(物質・材料研究機構)
採択時課題番号 2016A0130
ビームライン BL01B1、BL04B2
利用期間/配分総シフト 2016A~2017B/114シフト(BL01B1:36シフト、BL04B2:78シフト)

 

[評価結果]
 本課題の申請時には、液体を含む不規則系物質およびナノ粒子の構造の体系的な解析手法の提案と、その結果をデータベース化することによる体系的な理解が目標に掲げられ、さらにはデータ科学を援用することにより、新しい材料設計手法につなげることを目指すとされていた。これに対し、採択時の審査において、目標達成に向けた具体的な研究計画が明確でないことから、研究テーマを不規則系物質の構造的特徴の解明に絞ることが実施の条件として付された経緯がある。
 本長期利用課題中には、(1)熱膨張係数異常を示すZnO-P2O5ガラスの三次元構造の解明、(2)永久高密度化シリカガラスのトポロジー解析などの研究が実施された。(1)では、X線回折、EXAFS、中性子回折など複数の量子ビーム手法の組み合わせと、大規模なリバースモンテカルロ解析によって、熱膨張係数の異常の原因とみられるネットワーク構造の相違を可視化することに成功した。(2)では、高温高圧合成によって、これまでに例のない高密度シリカガラスの合成に成功するとともに、パーシステントホモロジー解析という新手法を用いた構造解析手法を適用することによって、高密度化を可能にするガラス構造のトポロジーを決定することができた。
 これらは、個々の不規則系の構造的特徴を解明し、物性の理解につながる知見を得たという点で、基礎的研究分野への貢献として優れた成果である。一部未発表の内容もあるが、それらが出版されれば、採択時に想定された研究課題を達成したものと評価できる。しかしながら、あくまで成果は個別的であり、申請時の目標とされた体系的な理解の構築やマテリアルインフォマティクスの展開には至っていない。金属ガラス、アモルファスシリコン、シリカガラス、液体の各構造因子を、散乱ベクトルQの代わりに、最近接距離dと乗じたQdの関数として表示することにより、非晶質物質の構造を系統的に整理する手がかりを示してはいるものの、これを端緒にした今後の展開が見通せる段階とはいえない。採択時のコメントとして、利用期ごとのビームタイム申請では実験目的と実験内容の詳細が具体的に説明された申請書の提出が求められていたが、実際に提出された申請書においても、具体的な実験計画の記載が明確ではなかった。当初の目標達成に向かうためには、明確な研究戦略の構築が必要であろう。

 

[成果リスト]
(査読付き論文)

[1] SPring-8 publication ID = 33822
Y. Onodera et al.: "Formation of Metallic Cation-Oxygen Network for Anomalous Thermal Expansion Coefficients in Binary Phosphate Glass" Nature Communications 8 (2017) 15449.

[2] SPring-8 publication ID = 34786
R. Kumara et al.: "Hydrogen Storage and Stability Properties of Pd–Pt Solid-Solution Nanoparticles Revealed via Atomic and Electronic Structure" Scientific Reports 7 (2017) 14606.

[3] SPring-8 publication ID = 34886
A. Torimoto et al.: "Emission Properties of Ce-Doped Alkaline Earth Borate Glasses for Scintillator Applications" Optical Materials 73 (2017) 517-522.

[4] SPring-8 publication ID = 35223
H. Masai et al.: "X-ray-induced Scintillation Governed by Energy Transfer Process in Glasses" Scientific Reports 8 (2018) 623.

[5] SPring-8 publication ID = 35225
H. Masai et al.: "Validity of Valence Estimation of Dopants in Glasses using XANES Analysis" Scientific Reports 8 (2018) 415.

[6] SPring-8 publication ID = 35226
H. Masai et al.: "Luminescence of Ce3+ in Aluminophosphate Glasses Prepared in Air" Journal of Luminescence 195 (2018) 413-419.

[7] SPring-8 publication ID = 36641
A. Tayal et al.: "Local Geometry and Electronic Properties of Nickel Nanoparticles Prepared via Thermal Decomposition of Ni-MOF-74" Inorganic Chemistry 57 (2018) 10072-10080.

[8] SPring-8 publication ID = 37188
A. Torimoto et al.: "Emission Properties of Cerium-Doped Barium Borate Glasses for Scintillator Applications" Radiation Measurements 106 (2017) 46-51.

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794