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Volume 24, No.1 Pages 36 - 38

3. SPring-8/SACLA通信/SPring-8/SACLA COMMUNICATIONS

登録機関による施設利用研究活動評価の実施について
Review of Research Activities as Registered Institution for Facilities Use Promotion

(公財)高輝度光科学研究センター 利用推進部 User Administration Division, JASRI

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SPring-8

 

1. はじめに
 公益財団法人高輝度光科学研究センター(以下「JASRI」という)は、「特定先端大型研究施設の共用の促進に関する法律(共用促進法)」に基づく登録施設利用促進機関として大型放射光施設SPring-8及びX線自由電子レーザー施設SACLAの利用促進業務を行い、これらの施設の共用を促進するための様々な業務を行っています。

 

 

 

 放射光を利用するユーザーは増加し、その研究分野は多様化しています。ユーザーが短期間のうちに世界トップレベルの研究成果を創出するためには、高性能な実験装置とともに、専門的な視点や豊富な経験に裏付けされた「支援」が求められ、そのためには、JASRIスタッフが最先端の放射光技術を開拓しつつ、知識・経験を常に向上させることが必要となります。その必要性は文部科学省が定めた「特定放射光施設の共用の促進に関する基本的な方針(告示第9号 平成23年2月7日)」の中で「第2施設利用研究等に関する事項/登録機関の研究機能の強化」として述べられています。
 そのため、JASRIによるSPring-8及びSACLAにおける研究活動については、登録機関自らが施設を利用した研究手法の改善など施設利用研究を促進するための方策に関する調査研究等を行うものとして、共用促進法の第12条「登録施設利用促進機関による利用」に基づき、文部科学大臣の承認を受け実施しています。
 この条項に基づき、JASRIでは登録機関が利用するビームタイム枠は「12条枠」、またその枠内で実施される研究・開発課題は「12条課題」と呼称し、同枠の利用、同課題の実施にあたっては、ユーザーの要望を反映させるとともに、JASRIの研究機能の維持・向上を図りつつ、適正な一般枠を確保するため、ビームタイムはSPring-8においては全体の20%、SACLAにおいては全体の15%を上限と定めています。

 

 

2. SPring-8、SACLAにおける12条利用研究活動の評価
 12条利用については、外部有識者から構成される登録機関利用研究活動評価委員会を設置し、次項に記載した観点から評価することとしています。この度、2012B期から2017B期の12条利用の実施結果を対象として2018年9月19日に評価委員会が開催され、2018年10月25日付けで評価報告書が理事長に提出されました。今般、評価委員会から提示された評価結果の概要は以下の通りです。報告書の全文については、以下URLにアクセスの上、ご覧ください。(JASRIホームページ:登録機関利用研究活動評価報告書http://www.jasri.jp/content/files/koukai-jyouhou/181025.pdf
 なお、12条利用に対する評価は平成20年9月に第1回(同http://www.jasri.jp/content/files/080710.pdf)、平成25年2月及び6月に第2回(同http://www.jasri.jp/content/files/130620.pdf)が実施されており、今回が3回目となります。

 

第3回登録機関利用研究活動評価委員会 委員一覧
委員長 野村 昌治

(高エネルギー加速器研究機構 ダイヤモンドフェロー)

委 員 佐々木 聡

(東京工業大学 名誉教授)
佐藤 衛
(横浜市立大学 教授)
下村 理
(高エネルギー加速器研究機構 名誉教授)
中瀬古 広三郎
(住友ゴム工業株式会社 技監)
米田 仁紀
(電気通信大学 教授)

 

第3回登録機関利用研究活動評価委員会 開催概要
開催日:2018年9月19日(水)
議 事:概要説明、利用研究活動成果報告等の発表、評価・審議など

 

(1)運営方法について
 制度的には前回(平成25年)の評価における提言、指摘事項に適切に対応されており、適正であると判断される。前回委員会の提言に沿った形で、ユーザーからの意見をビームライン(以下「BL」という。)の整備・開発計画に反映し、X線検出器の整備やBL整備計画が作成されていることは評価できる。更に、ユーザーと共同開発ないし相談・依頼を受けての開発を進めることも検討してほしい。一方で、インハウス課題(国内外の放射光利用の動向とユーザー等のニーズに基づき、共通基盤機器の開発、新規手法開発、装置高性能化等を効率的かつ機動的に実施する課題として、ユーザー利用枠とは別に確保されている高性能化・調整枠の中で実施する課題)と一般利用課題(利用手法の開発や先導的利用研究を実施する課題として、JASRIスタッフが一般ユーザーと同様に課題申請を行い、採択された上で実施する課題)の区別がやや便宜的になっている様に見える事例もあり、高性能化・調整枠の中で実施すべき装置の調整等が12条利用となっている例も散見された。12条利用による成果の情報が適切に伝えられ、12条利用により利用環境が改善されていることをユーザーが理解できるよう、更なる努力を期待する。

(2)利用状況について
 SPring-8、SACLAの12条利用のビームタイムについて、平均値から判断すると適切な利用であると判断できる(SPring-8が12.5%、SACLAが11.5%)。また、前回の指摘に基づき、実験装置の入れ替えや実験条件の切り替えに要する時間は12条利用の外数として適切に整理されており、いくつかのBLにおいて、装置入れ替え・調整時間を短縮する等の努力が進められている。12条利用に充てられる高性能化・調整枠について、ユーザーの機器入れ替え・調整や成果専有時期指定課題、測定代行課題等の利用により、12条利用に充てる時間の不足が懸念されるBLもある。成果専有時期指定課題等を一般利用枠として計数し、相当する時間については次期の高性能化・調整枠を増やすなどの検討が必要である。

 

 

 

(3)実施体制について
 諸外国の放射光施設と比較してBL担当者などの人員が不足しており、人員体制の充実に向けて、設置機関と共に継続して努力する必要がある。既に理事長ファンドなどで機会を設けているが、職員が世界的な視野を持って職務に当たることは重要で、積極的に視野を広める機会を拡大することが望まれる。理事長ファンドなどの若手スタッフへの支援の取り組みや外部の競争的資金の獲得状況は高く評価できる。また、成熟した利用手法においては、試料調整や放射光以外の手法を用いた評価を合わせて初めて論文となることが多いため、世界の状況も調査し、施設、ユーザーが果たすべきことについて設置者を含めてオープンに議論し、研究環境や研究体制などの改善を図ることも望まれる。今後、有力ユーザーや設置機関と共同して大型の外部資金の申請を積極的に行えるよう工夫することを期待する。

(4)研究成果について
 SPring-8の特長を活かした開発が行われ、優れた成果が報告されており、新しい研究に繋がるとともに、実験の高性能化・効率化にも資することが期待される。また、産業利用では、新たな分野の開拓が進められ、ユーザーの要望に応えた装置改良が行われている。SACLAにおいてはXFELの利用自体が開発途上にあり、開発、高度化など、12条利用の成果は不可欠なものとなっている。成果を公共のものとするためにも、より多く文書化して発表することが望まれる。また、BLで開発された技術や装置利用を他のBLにも展開することを更に心がけて欲しい。

(5)今後の運営について
 放射光施設における利用者支援は、施設職員が信頼される研究パートナーとして、豊富な経験、専門的な視点から、適切な研究支援を行うことによって、高い研究成果を効率的に創出するために行うものである。そのためには施設職員が担当BLなどを利用した研究に精通し、高い意識を持って職務に当たる必要がある。高い研究成果を施設から出し続けるためには、施設の性能を最大限に引き出す努力や変化するニーズへの対応を継続して行う必要があり、そのためにも12条利用を活用することが極めて重要である。12条利用の活用に際しては、インハウス課題と一般課題の性格の違いをより明確にした運用が望まれ、インハウス課題については、SPRUCなどユーザーの意見を踏まえて議論し、それに基づいて実施することが望まれる。新しいユーザー開拓のための試行実験やBL性能の限界に挑むユーザー実験の予備的検討を職員がユーザーと共に実施することなども検討に値する。高性能化・調整枠での成果専有時期指定利用や代行測定により、12条利用が極度に圧迫される場合は、それらを事後的に一般利用として整理し、必要なビームタイムを次期に確保するなど工夫をすべきである。

(6)総評
 新たな利用研究分野を開拓し、新しいユーザーを積極的に開拓し、将来計画の実施に向けての様々な開発を行う手段として12条課題を活用することを期待する。BL担当者が外部資金を獲得するなどの努力を続け、研究実績を積むことで登録機関としての位置付けを明確にし、人事の流動化などの組織の活性化を図り、ひいてはSPring-8の持続的な活力向上に繋がるよう、12条利用を含めたSPring-8全体としての仕組み作りが必要である。
 なお、12条課題の実施にあたっては、ユーザー、設置者、登録機関における円滑かつ継続的な情報交換・議論を適正に進めた上で、その成果を公開すると共にユーザーに還元することが必要である。

 

 

3. おわりに
 JASRIでは本評価報告書における指摘事項、提言等を踏まえ、以下の項目に取り組んでいきたいと考えています。

(1)12条利用の基本的事項の共有

12条利用の成果をユーザーに還元することなどの基本的事項に対する認識をスタッフで共有していきます。

(2)12条利用枠を活用した共同研究等の推進

12条利用枠を活用し、外部のユーザーとも協力しつつ更なる開発研究を進めていきます。

(3)一般課題とインハウス課題との区分の明確化

本来インハウス課題として実施すべきテーマに関しては一般課題で申請することを避け、インハウス課題として実施します。ビームタイム配分に関し、インハウス課題枠を纏まって確保する場合も考えられますので、ユーザーの皆様のご理解をお願いします。

(4)成果発信の推進

論文発表、学会、シンポジウム等での発表の他、SPring-8/SACLA成果集での発表を行ってきましたが、今後も積極的に行っていくとともに、利用者情報誌においても、利用系研究グループの活動とともに毎号紹介して参ります。

(5)職員の研究環境及び実施体制の整備

ユーザーの方々の協力も賜りながら、若手スタッフの研究に対する支援を行うと共に、外部機関との交流等、スタッフの見識を深め、視野を広める機会の拡大に努めて参ります。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794