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Volume 11, No.4 Pages 257 -272

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第9回放射光装置技術国際会議(SRI 2006)報告
The 9th International Conference on Synchrotron Radiation Instrumentation (SRI 2006)

鈴木 昌世 SUZUKI Masayo[1]、青柳 秀樹 AOYAGI Hideki[2]、矢橋 牧名 YABASHI Makina[2]、備前 輝彦 BIZEN Teruhiko[2]、大橋 治彦 OHASHI Haruhiko[2]、後藤 俊治 GOTO Toshiharu[2]、豊川 秀訓 TOYOKAWA Hidenori[2]、鈴木 芳生 SUZUKI Yoshio[3]、小林 啓介 KOBAYASHI Keisuke[3]、木村 滋 KIMURA Shigeru[3]、鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro[3]、大坂 恵一 OSAKA Keiichi[3]、原 雅弘 HARA Masahiro[4]、田中 義人 TANAKA Yoshihito[5]

[1](財)高輝度光科学研究センター 研究調整部 Research Coordination Division, JASRI、[2](財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門 Beamline Division, JASRI、[3](財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI、[4](財)高輝度光科学研究センター 広報室 Public Relations office, JASRI、[5](独)理化学研究所 播磨研究所 Harima Institute, RIKEN

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1.はじめに
SRI2006コーディネータ
 (財)高輝度光科学研究センター 
研究調整部 鈴木 昌世

 日韓共同開催となったSRI2006は、5月25日~6月2日の期間、韓国の大邱市にあるEXCOセンターに於いて開催された。登録者は、26ヵ国から、814名を数えた。登録者数上位3カ国は、日本(237名)、韓国(204名)、米国(82名)であった。放射光科学・技術に連なる国際的コミュニティーから最大規模の参加者を得て開催された国際会議と考える。ここに、SRI2006を成功裏に閉会できたことを関係者・参加者各位に深く御礼申し上げたい。また、既に報告したが[1]、SRI2006を成功に導いた韓国側関係者の並々ならぬ努力に敬意を表したい。

  
     

Sunggi Baik教授(POSTECH,SRI2006議長(右))と吉良 爽理事長(JASRI,SRI2006副議長(左))
(放射光学会の御厚意により放射光学会誌第19巻4号より転載)   

 
 
 第9回を迎えた今回、SRI2006は、放射光源、自由電子レーザー、ビームライン装置、実験技術等の進展、並びにナノ領域やフェムト秒に関連する計測技術の最新動向を主たるテーマとして開催され、放射光の発生や利用に関する新たなコンセプトの創出を志向し、装置や技術の開発に携わる世界中の研究者や技術者に、情報交換及び国際協力促進の場を提供することを目指した。 
 

  
 

SRI 2006の会場となったEXCOセンター
(放射光学会の御厚意により放射光学会誌第19巻4号より転載) 
 

 こうした広範な領域を網羅する為に、Technical Program Committee(TPC)とLocal Organizing Committee(LOC)は、以下のように多彩なセッションを準備した。各セッションには独自性が認められ、領域毎の特色が反映されたプログラムとなった。本稿には、13セッションの詳報を掲載した。詳報を掲載したセッションには、“*”を施した。是非、ご参照戴きたい。

(1)Plenary Session*
(2)SR-Sources and Advanced Sources (I) *
(3)SR-Sources and Advanced Sources (II) *
(4)Insertion Devices*
(5)Beamline and Optics (I) *
(6)Beamline and Optics (II) *
(7)Detectors *
(8)Time-Resolved Techniques*
(9)Micro/Nanoscopy*
(10)SR for Nano Science and Technology*
(11)Lithography and Micromachining
(12)Industrial Applications*
(13)Surface and Interface Analysis
(14)Magnetism and Spintronics*
(15)Chemistry and Materials Science*
(16)Life and Medical Science
(17)Facility Report

 さらに、SRI2006は、放射光科学・技術に関するプログラム以外に、以下の企画を盛り込んだ。

(18)Light Sources in Developing Countries*
(19)Manufacture’s Forum
(20)Vendor Exhibition
(21)最優秀ポスター賞

 「Manufacture’s Forum」は、放射光科学・技術の進展に関して、その一翼を担う関連企業各位に、製品紹介を含めて、研究開発の成果をご紹介いただく場として設定された。研究者、技術者のみならず、御参加いただいた企業各位の間で、情報交換が少しでも促されば幸いである。
 また、「最優秀ポスター賞」は、若手研究者がポスターセッションで発表したポスターから、各セッションのcorresponding chair、session chair各位にご投票願い、上位5名を選抜した。将来の放射光科学技術を担う若い研究者を少しでも激励できればと考える。Dr. Sakhorn RIMJAEM(Fast Neutron Research Facility,Thailand)、Dr.Hirokatsu YUMOTO(Osaka University)、Mr.Nobuaki TAKAHASHI(Nara Institute of Science and Technology)、Dr.Yoshinori HISAOKA(LASTI,University of Hyogo)、Mr.Sascha P.HEUSSLER(Singapore Synchrotron Light Source)が受賞した。           
 

2.Plenary Session
 (独)理化学研究所 播磨研究所 田中 義人
 (財)高輝度光科学研究センター ビームライン・技術部門 矢橋 牧名 
 
 Opening sessionの後の最初のPlenaryは「Operation of the VUV-FEL at DESY and First Scientific Experiments」と題したJ. Feldhaus(DESY)による講演[V1-001]であり、DESYのVUV-FELの動作状況と、芽が出始めた実験についての報告があった。この施設は最近、“FLASH”(Free-Electron Laser in Hamburg)と名付けられたようだ。現時点で短波長記録(1次光)としては、2006年4月26日に電子ビームエネルギー700MeVで、波長13.1nmが達成されている。既に2005年の夏からユーザー実験がはじまっており、2005年冬の統計として、64%がユーザー運転に当てられている。現在のユーザー運転でのパラメータは、波長32nm、パルス長20~40fs、パルス当たりのエネルギーは最大150μJ(平均5~10μJ)、飽和には達せず、非線形領域にかかったところで運転されている。実験ステーションは5本のブランチに分かれており、ポンププローブ用の可視レーザーが導入可能である。 
 

 
 

J.Feldhausの講演の様子  
 

 後半は、ユーザー実験の報告がなされた。2002年に30のプロポーザルがあり、その内29が採用された。関係する研究者の数は200人を超えている。ビームタイム不足が深刻なため、ビームのスイッチングやステーションの相乗り等でしのぐ必要があるとのこと。個々の実験として、希ガスの電離に基づくビーム強度モニター、多光子過程によるArの多価イオン生成、高いエネルギー密度によるアブレーション、シングルショット照射によるコヒーレント回折等が紹介された。固体の光電子分光は現時点ではまだ結果が出ていない。また、Ti:sapphire(波長800nm、パルス幅100fs)、Nd:YLF(523nm、12ps)パルスレーザーとの相互相関(cross-correlation)実験について、希ガスのイオン化、100fs精度のEOサンプリングが紹介された。タイミングジッターは380fs(rms)程度のようだ。
 特に印象的だったのはコヒーレント回折実験の紹介である。シングルショットの回折像から、位相回復アルゴリズムを用いて元の像に戻すことに成功している。また、セカンドショットの回折像は最初と比べ大きく変化しており、「破壊的」実験ということである。この結果は後のいくつかの講演でも引用された。
 次に、K.Hodgson(SLAC)による「Structural Biology and Synchrotron Radiation-from the 3rd to the 4th Generation」と題した講演があった[V1-002]。Macromolecular Crystallography のレビューでは、Protein Data Bank(PDB)の資料を提示し、近年の構造解析データ数の急増には放射光の貢献が大きいことを示した。特に最近、ロボットを用いた自動化と遠隔操作によって構造解析の効率が著しくあがっていることに触れ、Stanford auto-mounting システム(SAM)稼働の様子を動画で紹介した。その他、イオンチャンネルやメンブレン等についてのトピックス紹介、分子像全体を得るための、電顕やSAXSと結晶構造解析の組み合わせが紹介された。 
 

 
 

K.Hodgsonの講演の様子 
 

 後半は、第4世代光源であるX線自由電子レーザー(XFEL)に絡んだ話題で、2009年稼働を目指すLCLS計画($380M 予算化)が簡単に紹介された。期待されるサイエンスとして、フェムト秒化学・生物とシングルショットイメージングについて触れられた。後者については、前述のFLASHにおける波長32nmでのコヒーレント回折実験が再び紹介された。XFELを用いたフェムト秒の非周期現象の構造解析法開発による、タンパク質分子の構造解析への期待が伺えた。 
 

3.SR-Source and Advanced Sources(I)
 (財)高輝度光科学研究センター  
ビームライン・技術部門 青柳 秀樹 
 
 本セクションは、蓄積リングをベースとした放射光光源と他の発光原理に基づく光源を対象としたものである。具体的には、新しく建設された第三世代光源の現状、既存の光源の現状、レーザー・スライシングを利用するなどしたピコ秒からフェムト秒のパルス光源、コンプトン散乱や制動輻射等を利用した光源などについての発表が行われた。本セクションの発表件数は、口頭発表で10件(そのうち2件は招待講演)、ポスター発表で30件強であった。口頭発表は5月30日の午前中に行われ、ポスター発表はその日の午後3時からの3時間が割り振られた。なお、FEL及びERL等についてはSR-Source and Advanced Sources(II)に分類されており、挿入光源(Insertion Device)についても単独でセッションが組まれた。
 2件の招待講演として、SOLEILとDiamondにおけるコミッショニングの現状報告が午前の最初に30分ずつ割り振られ、本セクションの口火を切る形となった。SOLEIL(ソレイユ、太陽の意)は、パリ郊外に建設された中型放射光施設(電子ビームエネルギー2.75GeV、周長354m)で、“Status of the commissioning of SOLEIL”(登壇者:ME Couprie、Synchrotron SOLEIL)が報告された。Diamondはイギリスの中型放射光施設(3.0GeV、562m)で、“Status of the commissioning of Diamond”(登壇者:R.P.Walker、Diamond Light Source)が報告された。両施設とも、既に建物及び加速器の建設は完了しており、線型加速器のコミッショニングは昨年(2005年)の夏から始まっている。現在、蓄積リングのコミッショニングの真っ最中で、双方が鎬を削るコミッショニング競争をしているかのようであった。ユーザーへの供用についても2007年初頭の同時期を両施設が予定しているとのことであった。蓄積リングのコミッショニングの段取りとして、SPring-8のように挿入光源を最初から設置しているSOLEILに関しては順調な印象を受けた。一方、Diamondでは挿入光源の設置はこれからで、かつ冷却水系の問題のため現時点で電子ビームのエネルギーが700MeVに抑えられているので、スケジュール管理が非常に難しいのではないかと感じた。ちなみに、SPring-8のコミッショニングは、線型加速器でのファーストビームが10年前の1996年(平成8年)8月8日に観測され、それから14ヵ月後の1997年10月にはユーザーへの供用が予定通り開始された。
 一般口頭発表(15分/件)は8件であった。そのうち3件はレーザー光を利用するもので、コンプトン散乱を利用する“Sources of the X-ray based on compton scattering”(登壇者:V.Androsov、NSC KIPT)、レーザー電場の包絡線のピークでのトムソン散乱を利用する“Generation of single attosecond UV/XUV pulses via the interaction of femtosecond high-power laser with electron bunch”(登壇者:SY Chung、POSTECH)、レーザー・スライシングを利用する“Operating the first undulator-based fs X-ray source on a storage ring”(登壇者:K.Holldack、BESSY)の報告があった。また、3ピコ秒以下の電子ビームを蓄積することに成功している“Circulation of short and intense electron bunch in New SUBARU storage ring”(登壇者:Y.Shoji、LASTI Univ. of Hyogo)は、すべての放射光ビームラインに短パルスを供給可能という点でレーザー光を利用する技術とは一線を画す。その他の口頭発表としては、台湾の放射光施設(TLS、NSRRC)におけるトップアップ入射の概要、スイスの施設(Paul Scherrer Institut)における実験ハッチ内で利用できるCVDダイヤモンドを利用したプロファイルモニターに関する報告がなされた。そして本セッションの最後に、立命館大学などから制動輻射等を利用する小型光源MIRRORCLEに関する報告が2件なされた。
 午後のポスター発表については、紙面の都合上すべてについて触れることはできないため、日本からの報告についてのみ簡単に紹介する。KEKからは、2005年に実施されたPFの2.5GeVリング直線部の増強に関連する報告が4件あった。PFリングの3分の2以上の四極電磁石やビームダクトの刷新に伴う制御系の増強、四極電磁石電源の増強、電磁石のアライメント、及びコミッショニングについての報告であった。四半世紀の運転実績のあるPFが、近年建設された諸外国の最新の施設に匹敵する機能を獲得したことをアピールするものであった。また、PF-AR(6.5GeV)についての最新情報も報告された。UVSOR-IIからは、テラHz領域の干渉性シンクロトロン放射に関する報告がなされた。限られた既存の設備を最大限に利用し、かつ最小限の投資で難しい実験に成功したということは、実験屋のお手本であろう。名古屋大学のNSSRからは、産学連携で計画されている新しい運営体制をもつ小型放射施設の計画が報告された。兵庫県のNew SUBARUからは干渉性シンクロトロン放射の観測について報告された。佐賀県のSAGA-LSでは原子核実験のためのコンプトン散乱を利用した光源についての検討が報告された。日本大学のLEBRAではパラメトリックX線放射に基づく波長可変単色X線源を用いた研究が進んでいることが報告された。立命館大学からはMIRRORCLE-6Xの性能についての報告があったが、今後の明確な方法による光量の測定に興味がもたれる。 
 

4.SR-Sources & Advanced Source(II)
 (財)高輝度光科学研究センター 
ビームライン・技術部門 矢橋 牧名 
 
 本セッションは、XFEL、ERLといった新しい放射光源に関するレビューと報告が行われた(オーラル8件、ポスター11件)。オーラル会場には多くの聴衆が詰めかけ、新光源に対する高い関心を伺わせた。以下に報告を記す。
 T.Shintake(理研/SPring-8)が「Review of High Gain FELs」と題してFELのレビュー講演を行った。FELに必要なマシンパラメータが示され、最近の話題として、FLASH(旧TTF-VUV)におけるレーザー発振が波長13.1nm(2006年4月27日)で確認されたことが紹介された。SCSS計画のスケジュール・マシンパラメータが示され、250MeVのテスト機のコミッショニングの様子が動画で紹介された。特に、バンチングをさせた状態でもビームが非常に安定であることが指摘された。次にFELの原理について、結晶回折と比較しながら解説が行われた。すなわち、SASEとSeeded FELはそれぞれモザイク結晶と完全結晶からの回折に対応している。エネルギー保存則の議論が行われ、最後に、FELには地盤の安定性が非常に重要であることが強調された。
 K.-J.Kim(ANL)が「Ring and ERL-Based sources」と題してリング光源のレビュー講演を行った。蓄積リングの短パルス化の目的で、クラブキャビティ及びダイポールキックを用いたパルス圧縮手法が紹介された。APS蓄積リングに導入した場合、 前者は1ps、後者は8psの短パルス化が可能であると試算されている。続いて、蓄積リングの高輝度化の議論を行った。基本要素は、低エミッタンス、長尺アンジュレータ、高カレントである。例えば、 NSLS-IIの計画では、3GeV、500mAで、低エミッタンス化のために1.8T、50m長のダンピングウィグラーが用いられる。2×APS(APSのアップグレード計画)では、傾斜場をもつスプリット型のダイポールマグネットを導入し収束力を強くすることでエミッタンスを現在の数十分の一に低下させ、輝度を3桁高める。後半は蓄積リング以外のリング光源に関する話で、まず、レーザーコンプトン散乱を用いたテーブルトップ光源の概念が紹介された。続いてERL光源の紹介がなされた。ERLにおいては様々な運転モードの切り替えが可能である。またERLはビーム形状が円形であるため、クロスアンジュレータによる偏光切り替えが可能である。技術的な課題として、電子銃のエミッタンスを0.1πmm・mradまで抑える必要がある。
 J.Arthur(SLAC)がLCLS計画の現状を報告した。マシンパラメータ、基本デザインに続いて、詳細なスケジュールが示された。入射器は、現時点において50%以上完成しており、2006年秋にコミッショニングを開始する予定である。BC-1、BC-2はそれぞれ2006年秋、2007年秋にインストールされる。アンジュレータはプロトタイプが既につくられており、2007年夏からインストールされる。フロントエンドを含むX線ビームラインは基本デザインが完成しており、2007年夏からインストールされる。加速器のコミッショニングは2008年のはじめから開始され、春以降にアンジュレータに電子ビームが通り、冬には最初のXFEL実験が行われる予定である。
 S.Gruner(Cornell Univ.)がコーネル大学のERL計画の現状について報告を行った。ジェファーソンラボとの共同研究が2001年に開始され、現在PhaseIのプロジェクトが実行されている ($30M/2005~2006年)。これは、ERLの基本性能をチェックし、PhaseIIに向けたスタディを行うもので,このR&Dは2011年まで行われる予定である。PhaseIIは実機に相当し、2011~2015年に建設が予定され、ユーザー運転は2015年以降である。まず、PhaseIの個々のコンポーネントのデザインが紹介された。電子銃としてはDCフォトカソードタイプが採用されている。GaAsカソードの寿命を上げるため超高真空が必要となり、高レートで排気が行われる(20m3/s)。加速空洞は、高次モードを外部に排出することで不安定性を抑制するように設計されている。続いてPhaseIの現時点でのデザインが紹介された。5GeV運転で18本のID-BLが予定され、ハイフラックス、ハイコヒーレンス、短パルスのモード切り替えが可能である。超伝導キャビティの加速勾配は冷凍機の能力(コスト)とトレードオフの関係にあり、現在は16MV/mとなっている。バンチコンプレッションにより50fsを切るパルス長が期待され、コヒーレントフラクションは70%を超える。光学素子については引き続き検討が必要である。最後に、いくつかのサイエンティフィックケースが紹介された。
 この他の講演は、以下の通りである。E.Sedden (Daresbury Lab)が4GLS計画について、G.Klipanov(Budker Institute)がMARSについて、H.Zen(Kyoto Univ.)がトモグラフィック手法を用いたエミッタンス計測について、N.Toyosugi(Photon Production Lab.Ltd.)がMIRRORCLEの軟X線発生についてそれぞれ報告を行った。 
 

5.Insertion Devices
 (財)高輝度光科学研究センター 
ビームライン・技術部門 備前 輝彦 
 
 水曜に行われたInsertion Device のオーラルセッションは、Kitamura氏(理研/SPring-8)による“The prospect and development of cryogenic permanent undulators”の発表で始まった。永久磁石を低温にすると磁束密度、保磁力(耐放射線性に関係する)とも大きく向上する。CPMU(Cryogenic Permanent Magnet Undulator)は、永久磁石を低温(~140K)で用いるアンジュレータであり、現在の真空封止型アンジュレータ技術の多くがそのまま応用できる。ここでは、CPMU型アンジュレータについての概念とSPring-8における実験結果、課題等について説明がなされた。引き続きTanabe氏(NSLS)による“X-25 Cryo-ready In-vacuum Un-dulator at the NSLS”では、NSLS(USA)におけるCPMUの製作、ギャップ計測方法、磁場計測方法についての発表があった。SPring-8のCPMUは磁石冷却をクライオクーラーによる直接冷却で行っているが、NSLSではガス循環法により行う計画である。上下磁石列のギャップ計測については、従来のエンコーダ等による間接的計測方法では、磁石列サポート部等の熱収縮による寸法誤差を避けることができないため直接的な計測方法が求められている。Tanabe氏は、ビューポートを介してレーザー光を真空中に導入し、磁石列ギャップを通過した光量によりギャップ値を計測するアイデアを提案したが、この方法は直前のKitamura氏が紹介した案とキーエンス社製計測器を使用する点まで同じであり、偶然の一致に皆驚いたものである(このことは、世の中によく知られている既存の技術の組合せでCPMUの実現化が可能であるということを示している)。
 Manini氏(SAES getters)は、“Non Evapolable Getter(NEG)Coating for Vacuum in Synchrotron radiation Facilities”の発表で、真空槽内面にNEGコーティングを行うことが、アパーチャーの狭い挿入光源用の真空槽に有効であると述べた。NEGコーティングチャンバについては、ずいぶん以前から報告がなされているが、価格的な問題(?)でなかなか普及していないように思える。Hobl氏(ACCEL)は、“Development of Superconducting Undulators at ACCEL”で、巻き線技術、冷凍技術等の紹介を行った。4Kを維持するための熱負荷対策は前回のSRIからあまり進んでいないような印象を受けた。ESRFでのSuperconducting Undulator(SCU)の計画はなくなったとのことであった。
 翌日木曜のセッションでTanaka氏(理研/SPring-8)は、“Status of R&Ds for undulators with high-Tc bulk super-conductors”でCPMUの次のアンジュレータである高温超伝導バルク磁石を用いたアンジュレータの紹介を行い、高温超伝導バルク磁石の性能評価結果について、バルク材の強度を上げることが課題であると発表した。現在はバルクに樹脂含浸することにより強度を上げている。Rossmanith氏(ANKA)は、“First year operation of a superconductive undulator at ANKA and future plans”で、2005年3月にSCUによるfirst beamを出したと報告した。ギャップは8、12、16mmである。先のACCELの発表によると最小ギャップにおける磁場は0.5Tとのことであった。アンジュレータのクライオスタットは二重の真空構造になっており、ビーム用真空と断熱用真空に分かれている。ANKAでは4台のSCUを運用する予定であるとのことであった。Mezentsev氏(Budker INP)は、“Superconducting Insertion Devices for Light Sources at Budker INP”で、これまでBudker INP が製作したsuperconducting wave length shifter、superconducting bending magnet、superconducting wigglerの紹介を行った。SPring-8で実験を行ったsuperconducting wigglerもBudker INP製である。Marcouille氏(SOLEIL)は“Design, Construction and Magnetic Measurements of the HU64(OPHELIE2)Undulator at SOLEIL”で電磁石アンジュレータの報告を行った。Bahrdt氏(BESSY)は、“Preparing the BESSY APPLE-Undulators for Top-Up Operation”で設置されている7台のAPPLE devicesをシムによりTop-Up Operationに合うように調整する話を報告した。
 水曜日のポスターセッションでは、約30件の発表があった。うち超伝導関係が5件、他は挿入光源のデザイン、建設報告、計算、放射線損傷であった。超伝導については、NSRRC(台湾)が3件、他はANKA(ドイツ)とCLS(カナダ)である。地域別でみるとアジアが14件(SPring-8、KEK、LASTI、PAL、NSRC、NSRRC、SINR)ヨーロッパ9件(DESY、ANKA、SOLEIL、SLS)、ロシア2件、カナダ2件、企業6件(Advanced Design Consulting、USA社5件、SAES getters社1件)であった。台湾は超伝導挿入光源に力を入れており数台を運用する予定とのことであった。
 最後に、セッションは異なるがBeamlines and Optics(II)において、理研がPALに提供している真空封止型リボルバアンジュレータとビームラインの現状についてKoo氏から報告があったが、未だ本格的には運用されていないようであった。 
 
6.Beamline and Optics(I)
 (財)高輝度光科学研究センター 
ビームライン・技術部門 大橋 治彦 
 
 BEAMLINES AND OPTICS(I)には主として軟X線、真空紫外、赤外領域のビームラインや実験装置に関する講演が分類され、口頭発表が21件(招待講演3件)、ポスター発表が70件であった。
 2日目の午後から始まったこのセッションは、分子研のT.Hatsui氏による迫力ある招待講演で幕を開けた。液体試料などの電子物性の詳細に迫りうる軟X線発光法の分解能の向上に際して、明るい分光系が必須であることを示し、透過型回折格子、ウォルターミラー、アバランシェ素子を内蔵したCCD検出器を用いた新機軸の軟X線発光分光器の開発状況が報告された。3日目の朝8時半からは、K.Amemiya氏により不等刻線回折格子を用いた偏角可変分光器と後置集光光学系の設計コンセプトが丁寧に紹介された。入手可能な光学パラメータを意識しつつ、十分な性能が確保できる光学系として設計されており、すでにPFでの試験運転が進められている。また、このセッションの締めくくりの招待講演として、R.Follath氏は3keV以下の領域のFELビームライン光学系の設計指針を示した。ビームライン光学系をいくつか提案し、超高分解能を狙うビームラインではE/ΔE=250,000、短パルスビームラインではΔt=10~20fsを設計目標値として示した。
 回折格子をこれまでより高いエネルギー領域(2~数keV)で扱う講演が10件近くあり目をひいた。Carl Zeiss社のK.F.Heidemann氏、BESSYのF.Senf氏、ELETTRAのD.Cocco氏らはブレーズド回折格子を用い、SOLEILのF.Polack氏らのグループ、JAEAのM.Koike氏らのグループはそれぞれ回折格子上に多層膜を形成する方法で、それぞれ数keV領域での高い回折効率が得られることを示した。また、赤外・テラヘルツ領域のビームラインについて、パイオニア的存在であるUVSORの他、CLS、BESSY、SSLS、SOLEILなどの施設からも報告があり、このエネルギー領域のビームラインの充実が感じられた。
 日本や韓国はもとより、NSRC(タイ)、BSRF(中国)、NSRRC(台湾)などアジア各国の放射光施設からの講演が目立った。また、新たに建設が進む上海の放射光施設関係者が熱心に情報収集する様が印象的であった。 
 
7.Beamline and Optics(II)
 (財)高輝度光科学研究センター 
ビームライン・技術部門 後藤 俊治 
 
 本セッションではX線ビームラインおよびX線光学系の話題全般について広く取り扱われた。今回の会議は15のテクニカルセッションに細分化されたが、本セッションは、全発表件数800件近くのうち130件をカバーする大きなセッションとなった。Synchrotron Radiation Instrumentationの一つの柱といっても良いだろう。初日と二日目に行われた5つのユニットからなるオーラルセッションは、おおざっぱに分けると(1)ビームライン全般の話題、(2)X線光学系の話題、(3)K-Bミラーを中心としたナノメータ集光技術、(4)多層膜およびその他光学素子、および(5)光学素子計測技術およびその他計測技術というようにまとめられ、プログラムが組まれた。ナノビーム集光へ向けた技術開発が一つの大きな流れとなっている。以下では、ごく一部であるが講演の概要について紹介したい。
 APSのShvyd’ ko氏による講演では、コリメータ+エネルギー分散素子+エネルギー選択素子の3つの結晶を組み合わせた高エネルギー分解能を有するモノクロメータ・アナライザが紹介された。これにより、10keV程度のエネルギー領域でも高エネルギー分解能を持つスペクトロメータが実現でき、最近多く建設されている3~4GeVの中規模リングにおける非弾性X線散乱実験が可能となることが示された。今回、ナノビーム集光光学系に関する話題が多く取り上げられた。大阪大学の三村氏による招待講演では、大阪大学とSPring-8の共同で開発が進められているK-Bミラーに関し、ミラー表面の精密研磨技術、高精度の表面検査技術、およびSPring-8の1kmビームラインを用いることにより着実に集光ビームサイズが小さくなってきたことが示された。2001年に180nmからスタートし、現在では25nmの集光を達成している。ESRFのMorawe氏により多層膜の製作と広範なバンドパス幅制御およびナノビーム集光への応用に関する招待講演があった。これとHignette氏の講演は対をなすものであり、ESRFのID19においてGraded Multilayer K-Bミラーにより40nmの集光が実現していることが示された。しかしながら、ミラーを機械的に湾曲させ楕円面を形成する方法はもう限界にきており、今後は大阪大学のように研磨により精密に楕円面に加工していく必要がある。研磨加工技術が進み良い基板が得られるようになることと多層膜の形成技術のさらなる発展があれば理論上5nmまでの集光が可能であると述べられた。一方、APSのKang氏により多層膜ラウエレンズを用いて、現状19nmの集光が実現されたことが示された。いずれの集光光学系に関しても回折限界とのたたかいが続けられることになるだろうが、3年後の次回のSRIにおいては、10nm以下の集光が実現できていることを予感させた。
 今回、光学素子の形状測定技術に関しても焦点があてられた。APSのAssoufid氏はその招待講演の中で、この10年におけるミラーの表面粗さとスロープエラーがどのように推移してきたかをまとめた。表面粗さとしては当初0.5nm程度であったが現在0.1nmレベルまで改善し、スロープエラーとしては当初5マイクロラジアンだったものが1マイクロラジアンをきりはじめていることが示された。各放射光施設においてLong Trace Profilerや干渉計などの光学素子の表面形状計測装置が用いられているが、同じミラーを持ち回り計測することにより、互いの装置の性能を確認するとともに、数値を共通に使えるものにしようという動きがある。いわゆるRound-Robin Projectと呼ばれるもので、その一つはESRF~APS~SPring-8+大阪大学において進められている。現在、これを含め世界中で三つのRound-Robin Projectが進められているとのことである。計測技術の進展にともない光学素子の性能が向上していくことを期待したい。ESRFのZiegler氏はIn Situでのシェアリング干渉計を用いた光学素子の評価手法について報告した。また、大阪大学によりK-Bミラーの表面形状を焦点位置のビームプロファイルから逆に解く方法が提案されており(三村氏、湯本氏の講演による)、このAt wavelengthの評価方法は十分実用にたるものであるということであった。in situ評価、At wavelength評価も含め、今後の光学素子の性能向上に重要な役割を果たしていくものと考えられる。
 初日の午後に行われたポスターセッションは、一部キャンセルがみられたもののなかなかの盛況であった。学生を対象としたベストポスター賞には5人が選ばれたが、本セッションから大阪大学の湯本氏のK-Bミラーによるナノメータ集光に関する発表が選ばれた。現在X線集光技術の最先端にいるチームの一員として当然の受賞と言えるであろう。 
 
8.Detectors
 (財)高輝度光科学研究センター 
ビームライン・技術部門 豊川 秀訓 
 
 Detectorsのセッションは5月29日に開催され、午前の口頭発表5件、午後の口頭発表5件及びポスター発表35件がプログラムに掲載された。招待講演は2演題で、Graafsma(DESY)によるレビュートーク「X-ray Detectors and detector developments for synchrotron radiation」と、谷岡(NHK放送技術研究所)による「HARP: A highly sensitive pickup tube using avalanche multiplication in an amorphous selenium photoconductive target」の講演が行われた。
 Graafsmaは、先ず、放射光の創世記から第三世代放射光源が稼動に至る過程で、光源の強度が3年で約1桁増と飛躍的な進展を遂げたのに対し、検出器の許容強度を1桁増すには倍以上の年月を要して困難を伴ったが、近年着実に性能が向上し追いついてきていると指摘した。有望な検出器としては、①Parallel readout CCD,s、②Hybrid counting pixel detectors、③Si drift detectors、④Avalanche Photodiode arrays、⑤Diamond based detectorsを取り上げ、最後にX線自由電子レーザーが更に検出器開発を後押しするであろうとコメントで締めくくった。一方、HARP tubuは、NHKがテレビカメラ用として開発した高感度撮像管をKEK-PFと共同でX線カメラとしての応用を試みている検出器である。現状では有感面積が限られているものの、PFでは評価実験が行われていると聞いていたので実験結果を期待していたが、講演では原理及びテレビカメラとしての性能の紹介に終始し、X線の結果が殆ど無かったのが残念だった。
 他の口頭発表は、「Performance and applications of the PILATUS detector systems(Broennimann、PSI)」、「The hybrid pixel single photon counting detector XPAD(Hustache-Ottini、Synchtotron Soleil)」、「Detectors for Diamond Light Source(Wright、DLS)」、「Characterization and Use of a Two-demensional Multiwire Gas Proportional Chamber for X-ray Photon Correlation Spectroscopy(Dierker、BNL)」、「Development of high efficient and high speed X-ray detectors using modern nanomaterials(Cholewa、Singapore Synchrotron Light Source)」、「High-Resolution Superconducting Tunnel Junction X-ray Spectrometers(Friedrich、Lawrence Livermore National Laboratory)」、「Polarization Effect of Synchrotron Radiation X-ray Source on Position Resolution of a Two-dimensional Multiwire Gas Proportional Chamber(Tae Joo Shin、PAL)」の7件(他1件キャンセル)。
 PILATUSとXPADは、Graafsmaによるレビュートークでも有望視される検出器として紹介されたhybrid pixel detectorで、ここ1、2年で読み出し集積回路及びセンサーと回路の接合技術が飛躍的に進歩し、成熟した技術になりつつある。PILATUS計画では、有感面積42.4cm×43.5cmの大型検出器が完成目前で、他の計画をリードしている。同計画による小型ピクセル検出器は、PSI-JASRI国際協力によりSPring-8にも導入済みで、ポスター発表「Methodological Study of a Single Photon Counting Pixel Detector at SPring-8(豊川、JASRI)」があった。XPAD計画では、単一モジュール型のXPAD3検出器が来年の1月に完成の予定である。今回はピクセル検出器に関する発表は少なかったが、ESRFはCERNのMEDIPIX計画下で同様のピクセル検出器開発を進めている他、X線自由電子レーザーでは積分読み出し型のピクセル検出器の開発が検討されており、次回のSRIでは多くの成果・計画が発表されるであろう。 
 
9.Time-Resolved Techniques
 (独)理化学研究所 播磨研究所 田中 義人 
 
 当セッションは、5月30日、31日の2日にわたり開催された。オーラル16件、ポスター23件の発表があった。オーラルセッションは、大まかに、1.フェムト秒光源による超高速時間分解測定法、2.ピコ秒時間分解測定法(ポンプ・プローブ法)、3.その他の時間分解測定法および様々な分野での活用、に分類されていた。以下、ポスター発表もこの分類に含めて報告する。 
 
9-1.フェムト秒光源による超高速時間分解測定法
 まず、SPPSにおけるフェムト秒時間分解X線回折実験について、A.M.Lindenberg[G1-001](招待講演)、D.A.Reis[G1-002]らにより報告された。SPPSとはSLACの線形加速器で発生させた28.5GeV、80fsの電子バンチに挿入光源を設置した超短パルスX線光源である。X線パルスのタイミングにはジッターがあるが、電気光学効果を利用して電子バンチの到達時間をショットごとに精度よく記録しておいて、回折強度をその到達時間を考慮してプロットしていく方法がとられている。ビスマスをフェムト秒レーザーで励起した際に生じる光学フォノンの振動による回折強度変化を、80fsの精度で得ている様子を示し、この手法の有効性を示した。その他、レーザーで誘起された液相のダイナミクスについて最近得られた結果も紹介された。ただ、SPPSはこれからXFEL建設のため利用できなくなる。
 蓄積リング中の電子にフェムト秒レーザーを導入して短パルス光を得るバンチスライスについては、ALS([G1-004]P.Heimann)、BESSY([G1-003]K.Holldack)、およびSLS([G1-005]P.Beaud)からの報告があった。ALSでは、バンチスライスを20kHzの高繰り返しレーザーで行い、軟X線領域の超高速吸収分光実験や、さらにはウィグラーを用いて硬X線のビームラインを整備する計画が示された。BESSY、SLSでは、繰り返し1kHzのフェムト秒レーザーをバンチに同期させてスライスを行っており、その様子はTHz光の強度でモニターされているようだ。バンチスライスもついに普及し始めたかという印象だ。 
 
9-2.ピコ秒時間分解測定法(ポンプ・プローブ)
 M.Wulff[G3-014](招待講演)が、ESRFにおけるCCl4中のI2など、液相の化学物質についてのレーザーポンプ・X線プローブ回折実験を紹介した。試料まわりについては、溶液をジェットにして流すことにより、容器からのバックグラウンドを除去する工夫がなされていた[GP-039]。また、アンジュレータ光にシャッターと冷却多層膜集光ミラーのみを導入したビームラインが紹介された。パルスあたりの光子数は109個になるそうだ。 
 
 
 
 
M. Wulff (ESRF) による招待講演 
 
 フェムト秒レーザーによって半導体結晶に導入されたひずみのダイナミクスに関しては、APSでの、GaAsとAlGaAs薄膜層の境界面での音響パルス伝搬のピコ秒X線回折実験の紹介があった([G3-012]S.H.Lee)。また、ひずみをコヒーレントX線回折法で見た場合の計算と、その、レーザーとX線の空間オーバーラップ調整技術への応用の可能性が示された([G3-013]E.M.Dufresne)。音響パルスエコーについてはSPring-8での結果が報告された[GP-036]。
 X線回折以外では、SLSにおける金属錯体のピコ秒時間分解XAFSが紹介された([G3-015]R.Abela)。また、SLSのパルスを用いた時間分解PEEMによる磁気ダイナミクスの観測例が紹介された([G3-016]J.Raabe)。これは、放射光に同期させたピコ秒レーザーでパルス磁場のスイッチを行い、ある遅延時間後に放射光パルスを照射、単バンチからの放射光を切り出せるゲート付きMCPを用いてPEEMを行うというものである。また、E.C.Landahl [G2-007]により、APSでKrガスをレーザーで強励起した際のクーロン爆発の様子や、強光電場による軌道配向を、蛍光X線検出により調べた例が紹介された。
 実験技術として印象に残ったのは、現方式の、繰り返し1kHzのレーザー励起、インコヒーレントX線プローブから、繰り返し数十MHzでのコヒーレントX線(またはマイクロビーム)プローブ方式が検討されるようになったことである(APS[G3-013]、SPring-8[GP-028])。 
 
9-3.その他の時間分解測定法および様々な分野での活用
 APSで行われている燃料噴射用ノズルにおけるガスジェットの時間分解イメージングがK. Fezzaaにより紹介された[G2-006]。70keVのX線で、ノズル内のガスの状態を観測したものである。今は、330ns程度の時間分解能であるが、将来は150psを目指すようだ。また、H.Kim[G2-011]により、ミセルに対してphoton correlation spectroscopyを行った実験の紹介があった。時間分解能はCCDで決まっており、約10msである。
 ALSでのXMCD研究において、時間分解能1psをもつレーザースイッチを用いたX線ストリークカメラが活用されている例が紹介された([G2-009]A.T.Young)。一方で、蓄積リングのRF信号に同期させたRF磁場変化による磁性の時間応答を周波数解析する手法も紹介された([G2-010]B.V.Waeyenberge)。
 時間分解XEOL(X-ray excited optical luminescence)がF. Heigl[G2-008]により紹介された。放射光パルスによって励起された際に生じる可視の蛍光をTACを用いて数nsの時間分解能で寿命を求めるものである。ZnOナノワイヤーの欠陥準位における寿命測定などが紹介された。
 ポスターではエネルギー分散型XAFS(ESRF[GP-029]、SPring-8[GP-019]、[GP-027]、PF[GP-025])や高速EXAFSの発表が数多くみられ、ダイナミクス研究への興味を感じ取ることができた。
 最後に全体を通して、利用実験内容は現時点ではまだ限定的であるものの、多くの放射光施設、実験ステーションで高速時間分解測定装置整備が随分進んだという印象を強く受けた。 
 
 
 
ポスターセッションの様子 
 
10.Micro/Nanoscopy
 (財)高輝度光科学研究センター 
利用研究促進部門 鈴木 芳生 
 
 最初から変わったセクション名であるが、誤植ではない。最近はやりのナノテクとの関連もありますが、X線顕微鏡の分解能が100nmを切り、10nmに近づいて来たことから、最近microscopyだけでなくnanoscopyという表現が使われるようになってきたもので、一種のjargonと言って良いと考えられる(可視光のnear filed顕微鏡で使われたほうが古いかもしれない)。もちろん辞書にnanoscopyという単語は載っていない。
 このセッションにおけるホットな話題は次の4点に集約出来る。nm分解能、位相計測、3次元(CT)、コヒーレント回折顕微鏡、である。SRIでX線顕微鏡であれば、まず分解能がどこまで行ったかが最重要課題であるが、セッションの最初の講演でChao(ALS)が15nm分解能(軟X線結像顕微鏡)を示した。光学素子は電子線描画と金のウエットプロセスによるFZPであるが、LSIの多層配線と同じようなプロセスにより電子線露光での近接効果の問題を回避させたことがポイントである。硬X線領域の結像顕微鏡に関しては、Tang(SSRC、台湾)と、Goo(Yonsei大学‐PAL)などから30nm程度の分解能が報告された。どちらも光学素子はFZPである。実はこの二つの装置はどちらもZenrnike型の位相コントラストが可能になっている。これはChaoの発表でも触れられていたが、分解能向上は必然的に微細な試料の観察に行きつき、軟X線硬X線にかかわらず吸収コントラストで観察できる限界を超えつつあるということに対応していると言えるだろう。マイクロプローブに関しては硬X線領域で集光ビームサイズ25nmを全反射Kirkpatrick-Baez光学系で達成したことが石川(理研/SPring-8)から報告された。これは原子レベルでの精密表面研磨による全反射鏡がキーテクノロジーである。硬X線領域のマイクロビームに関しては同様のKB光学系で ESRF(Hignette)やAPS(Ice)からも70nm程度の集光ビームサイズが報告された。APSではミラー加工を研磨でなく反射面のdeposition制御で行っており、白色X線マイクロビームであることも興味深い。また、屈折レンズ(Schroer、Dresden大学-ESRF)でも50nm程度の分解能が可能になっている。もちろんFZPでも100nm以下のプローブサイズは容易に達成されている(Takano、兵庫県立大/SPring-8)。しかしながら、硬X線領域で100nm以下のマイクロプローブが出来ているとはいえ、ほとんどの応用研究は1μm前後の分解能で行われているのが現状である。X線ナノビームを本当のユーザー実験に結びつけるのはこれからの課題である。
 位相計測に関して、これまでよく知られた方法としてはBonse-Hart干渉計や伝搬による微分位相コントラスト(屈折コントラスト法)等があったが、最近Talbot効果を利用した微分位相コントラストが百生(東京大学)とDavid(PSI)により独立に報告されていた。今回このTalbot干渉計(回折格子干渉計とも呼ばれている)に関して上記二つのグループから多数の発表があり、屈折レンズの波面誤差計測に応用された結果なども示された(Weitkamp、ISS/ANKA)。空間コヒーレンスや単色性に対する制限が非常に緩いので、色々な応用が期待できる。硬X線干渉顕微鏡に関してはZernike法だけでなく、Twin FZPによる2ビーム干渉顕微鏡(小山、兵庫県立大)、二つのFZPの正負回折光を利用したコモンパス干渉計(渡辺、筑波大/SPring-8)、FZP対物レンズにプリズムや全反射鏡を組み合わせたホログラフィー顕微鏡(鈴木、SPring-8)、プリズムを用いたshearing干渉顕微鏡による位相計測(櫻井、兵庫県立大)など新しい光学系の発表もあり、ここ数年で位相計測の分野は着実に進展しているようである。
 CTによる三次元計測はもはや普遍的な手法になっている。数えてみたらこのセッションの発表中約1/4に何らかの形でCT(あるいは類似の手法)が含まれていた。その中で興味深いものとして、Baumbach(カールスルーエ)のcomputed laminographyと名付けられた方法があった。その内容は古典的な手法であるトモシンセシスをデジタル化したものと考えて良いようであるが、純粋なCTアルゴリズムでは不可能な平面的に広がった試料に対して不完全投影集合から断層像を求める試みである。いずれにしても分解能を向上させる以上検出器サイズによる視野制限は不可避であり、CTにおける不完全投影からの像再生(ローカルトモグラフィー)はこれから重要な方法になって行くと考えられる。
 コヒーレント回折顕微鏡に関しては二つの招待講演(Jacobsen、Stony Brook と石川、理研)があり、ポスター発表もあった。蛋白単分子のイメージングのような究極の目標もあり今注目されている手法である。そのための課題は、放射線損傷(空間分解能とのトレードオフ)と解の信頼性である。放射線損傷に関してはfsシングルパルス露光の可能性が議論されiterationの収束性に関しては色々なケーススタディが行われている段階であるが、5年後にXFELが動き出すときに私たちはその結果を見ることが出来るのかもしれない。
 今回のSRIは規模として過去最大であったように思われるが、反面SRIにマッチしていない発表も多かったように感じられた。装置技術や手法でない明ら かな応用研究がかなりの割合を占めていた。連続するひとつの国際会議であっても次第に姿を変えていく場合もあるが、本来の主旨に立ち返るのも大事である。SRIにずっと参加し続けている立場として今回のSRIでは特にその印象が強かった。 
 
11. SR for Nano Science and Technology
 (財)高輝度光科学研究センター 
利用研究促進部門 小林 啓介 
 
 2つの口頭と1つのポスター、計3つのセッションがあり、各々に10件および13件の発表があった。その内の2件は招待講演であった。招待講演の一つはArgonne National Laboratory(ANL)のG.B.Stephensonが“Synchrotron Nanoscience Research at the Center for Nanoscale Materials”というタイトルで行った。Center for Nanoscale MaterialsはDOEがナノサイエンスを強力に推進する目的で設立した5つのセンターの内の1つで、APSに隣接して建物が建設されX線領域のナノ収束ビームラインを利用した研究が2008年からユーザー利用が始まろうとしている。BioNanocomposites、Electronic & Magnetic Materials & Devices、Nanopatterning、Nanophotonics、X-ray imaging/ Nanoprobe、Theoryなどのグループが組織され準備が進められている。これらの中からDNAにTiO2を組み込んでDNAの切断や細胞内プローブに使う試み、InGaN量子井戸型LEDにおける相分離によるInのクラスタリングの検出、磁気ナノドットの磁区構造とそのダイナミクスの観察、チョッパーを用いた時間分解手法の開発、強誘電メモリーデバイスにおける格子構造ダイナミクスの測定などの予備実験結果が紹介された。また、FZPを超えるナノビーム発生手段としてスポットサイズの目標を5nmにMultilayer Laue lensの開発が進められている。もう一件の招待講演はEli Rotenberg(ALS、NSLS)によるものでタイトルは“NanoARPES: Towards Angle-Resolved Photoemission on the 50nm Scale”であった。スループットが非常に高い高分解能軟X線光電子分光法によって、高速データ処理によってバンド分散をほぼreal timeで表示することが出来る。FZPを使ったナノ収束軟X線励起によって価電子帯スペクトルの2次元マッピングを行い、材料評価にも利用している。将来的には50nm空間分解能のマッピングが実用レベルで可能であるという報告であった。この他に一般講演でも収束ビームを利用した分光(JP-014)や回折(J2-008)の発表があり、ナノサイエンス・テクノロジー研究手段として、広く使われてゆく傾向が明確になってきている。また、APSからGISAXビームラインについての発表(J1-005)があり、また、GISAX‐反射率を全ての散乱波の干渉を取り入れた計算機シミュレーションによって解析し、ポリマーや金属酸化物ナノ薄膜構造を決める手法について(J1-003)の報告があった。GISAXがナノ薄膜解析の手段として発展してゆくことが予想された。その他、解析手法的にはSAX/WAX/DSCの時間分解測定によってソフトマターの遅い構造変化のダイナミクスを調べる(JP-015)、STMなどの局所プローブとX線分光法を組み合わせる(J2-007)、高分解能硬X線光電子分光(JP-013)等の発表があった。ナノサイエンステクノロジー利用研究は大別するとプロセスの手段として放射光を利用するもの、放射光を測定手段とするものに分かれる。前者についてはあまり面白いものはなかったが、後者の中で奈良先端大学院大学-HiSORのグループからの発表で、Siのp型反転層内の2次元正孔ガスのサブバンドの分散構造を放射光高分解能光電子分光法で調べた結果(J1-004)は非常に印象が強かった。 
 
12.Industrial Applications
(財)高輝度光科学研究センター 
利用研究促進部門 木村 滋  
        

 Industrial Applicationsのセッションは、5月30日の午前中にオーラルが4件(含む招待講演2件)と、5月31日のポスターセッション(15:00~18:00)で20件(日本からの発表12件)の発表があっただけで、他のセッションと比較すると発表件数が非常に少ないとの印象をもった。SRI全体が装置開発に重きがある国際会議であるためどちらかというと応用研究は少ない傾向にあるが、それにしてももう少しオーラルの発表が多くても良かったのではないかという印象であった。ここでは、オーラルで発表された4件について内容および感想を述べる。 
 
[L1-001] State-of-the-art Facilities for Industrial Applications at ESRF,by G.Guilera et al.(ESRF)
 ESRFのDr.Guileraらは、ESRFのXAFSビームライン2本(BM29、ID24)での産業利用について発表を行った。これらのビームラインは特に産業利用専用のビームラインということではなく、マシンタイムのうち産業界からの利用がかなり多いので(10~20%程度)、このセッションで発表したようであった。産業界ユーザーの中には、トヨタ、ダイハツなどの日本の企業も含まれているとのことであった。講演内容としては、標準的なXAFSビームラインであるBM29と分散XAFSビームラインであるID24の説明であった。BM29はエネルギー範囲4~74keVが利用可能な標準的なXAFS用ビームラインであるが、試料周りの環境を、高圧、高温低温、ガス雰囲気、など色々と変えられるため、様々な産業応用に利用されていると発表していた。一方、ID24の方は、分散XAFSのビームラインで、湾曲モノクロによる集光によりビーム径約5μm角を達成している。CCDを検出器として用い、2msecの時間分解能での測定が可能とのことであった。さらに、赤外吸収(FTIR)、質量分析、紫外可視分光装置との複合化が進んでおり、構造情報だけでなく、電子構造や運動エネルギーに関する情報も同時に測定が可能になっているところに特長があった。 
 
[L1-002] Ultrafast X-ray Imaging of Fuel Sprays,by J.Wang(APS)
 APSのDr.Wangからはマイクロ秒の時間分解能を持つ各種イメージング技術を使ったディーゼルやガソリンエンジンの燃料スプレーの研究が紹介された。トピックスとしては、1)高圧高速ディーゼル燃料噴霧により発生する衝撃波をX線ラジオグラフィーで可視化した研究、2)ノズルから噴霧されたガソリン燃料スプレーの断面を超高速X線CTで可視化した研究、3)高エネルギーX線を利用した位相コントラストイメージング法により、3mm厚の鉄を通して高圧燃料入射チャンバー内での燃料入射プロセスを可視化した研究、の3件が紹介された。第3世代放射光光源ならではの最先端のイメージング技術を産業応用に結びつけている点で興味深い発表であった。 
 
[L1-003] Application of SR-TXRF to Trace Impurity Analysis of Si wafer,by P.Pianetta (SSRL/SLAC)
 SSRLのDr.Pianettaは招待講演として全反射蛍光X線分析によるSi基板上の重金属汚染の検出に関する発表を行った。現状、SSRLでは108atoms/cm2程度までの汚染レベルの検出が可能になっており、実験室系の装置と比較して2桁弱の優位性があることを示していた。ただし、Si基板表面をフッ酸で溶かし、広い面積の微量金属元素をX線の照射範囲に集める濃縮法と呼ばれる測定法を使った場合、実験室系の装置と比較して2~3割しか優位性がないことも発表しており、SR-TXRFによって産業利用を推し進めるのは困難ではないかとの印象を持った。事実、ESRFでは建設当初、産業利用の目玉としていたTXRFを撤去し、別のビームラインに変更したと聞いている。今後は、基板エッジでのCu汚染の測定など、実験室と比較して微小なビームが利用できる点を活かした測定の方向に放射光利用の優位性があるのではないかという印象であった。 
 
[L1-004] Nanotechnology and Industrial Applications of Hard X-ray Photoemission Spectroscopy,by K.Kobayashi et al.(JASRI/SPring-8)
 JASRIの小林啓介氏は、SPring-8での硬X線光電子分光法の応用研究について招待講演した。現状では、6~10keVの励起X線に対応できるよう光電子分光器が改造され、定常的に100meVの分解能で薄膜界面が評価できるようになっている。この硬X線光電子分光法を使った典型的な研究例として、1)High-kゲート絶縁膜研究、2)ハードディスク保護膜、3)HD-DVD記録層、4)透明電極膜、などに関する研究例を紹介し、薄膜のバンドギャップ測定や界面の電子状態を調べる研究が産業利用に非常に有効に使われていることを紹介した。 
 
13.Magnetism and Spintronics
 (財)高輝度光科学研究センター 
利用研究促進部門 鈴木 基寛 
 
 Magnetism and Spintronicsのセッションでは、13件の口頭発表と17件のポスター発表が行われた。口頭発表はバラエティに富んでおり興味深い内容が目白押しであった。測定手法から主なキーワードを挙げると、「パルス強磁場」、「軟X線発光」、「フェムト秒磁気ダイナミクス」、「XMCDによる磁気共鳴現象の観測」、「共鳴軟X線散乱」、「コンビナトリアルin situ光電子分光」、「多重遷移過程でのXMCD」、「硬X線直線二色性」、「磁気スペックル」のようになる。
 今回のハイライトは何といっても「フェムト秒分解能での磁気ダイナミクスの観測」であろう。このテーマに関して、LBNLのScholl氏とBESSYのDurr氏から2件の口頭発表があった。これまでの放射光による時分割測定は、放射光パルスの時間幅(数10ps)で時間分解能が制限されていた。彼らはALSとBESSYでそれぞれ独自に開発した手法によってこの時間分解能の壁を打ち破り、一気にサブピコ秒の分解能を達成した。ともにフェムト秒レーザーの照射直後に起こる磁化の消失と緩和過程を数psの時間スケールで観測することに成功している。従来の磁気ダイナミクス測定ではパルス磁場等を試料に印加した直後の磁化過程を観測していたが、今回の測定では逆に、元々磁化していた試料にレーザーを照射することによって磁化が消えた後の過程を観測している点にも特色がある。
 ALSのアプローチはきわめて高速な検出器を用いる方法である。すなわち、試料に当てる放射光パルスの時間幅は従来のままだが、パルス幅よりも十分時間分解能の高いストリークカメラを検出器として用いることで、放射光が当たっている間の現象を逐次記録していく。パルスの中を検出器によって分割して測定するイメージである。一方、BESSYのアプローチは放射光のパルス幅自体をピコ秒以下に狭めるバンチスライシングという方法である。この方法では、蓄積リングの電子バンチにフェムト秒レーザーを打ち込むことで、バンチ内の限られた時間幅に存在する電子のエネルギーを変化させる。こうして作り出したエネルギー分散を利用して、偏向電磁石でその部分の電子だけからの放射光を取り出す。こうすることにより300fs程度のきわめて時間幅の短いX線パルスを生成することができる。フェムト秒レーザーを使って電子バンチの時間方向を輪切りにするイメージである。なお、BESSYでは偏向電磁石でより分けられたバンチをアンジュレータに導入し、フェムト秒のアンジュレータ光パルスを得ている。
 アプローチは異なるがALSとBESSYで同程度の性能が出ているようであり、実験データの質もよく似ていた。磁気ダイナミクスの観測にはともに軟X線磁気円二色性(MCD)の信号を用いている。薄膜試料に対する透過配置での測定というのも同じであった。試料はALSではFe/Gd多層膜、BESSYではNi薄膜を用いていた。BESSYの結果では、Niに対してXASデータからポンプレーザーによって生成されたホールの緩和過程を、MCDデータから磁化の消失と緩和過程を求め、さらにsum ruleを使うことでスピンと軌道モーメントの緩和時間の差が示された。これらの結果から3d価電子、3dスピン、格子の間での相互作用の大きさ(緩和時間)を評価することに成功していた。それぞれの緩和時間は、100fsから500fsのオーダーである。
 このセッションでの日本人の口頭発表が、東京大学 尾嶋氏の一件だけだったのが少し寂しく感じられた。一方、ポスター発表では半数が日本からの発表であった。内容も、X線磁気反射率による元素選択磁化測定(奈良先端大学 児玉氏)、マイクロXMCDによる磁性ドットの評価(JASRI 高垣氏、東京大学 谷内氏)、ユニバーサル硬X線偏光子システム(東京大学 上ヱ地氏)など若手の健闘が目立った。 
 
14.Chemistry and Materials Science
 (財)高輝度光科学研究センター 
利用研究促進部門 大坂 恵一 
 
 Chemistry and Materials Scienceのセッションでは、オーラル16件、ポスター70件の発表および活発な討論が行われた。特にポスター発表では、放射光の専門家だけではなく、一般ユーザーによる発表が数多く見られた。このことは、放射光利用が一般的な分析・解析ツールとしてmaterials scientistに充分認知されていることを強く印象づけるものである。
 オーラル発表ではまず、XPCS(X-ray Photon Correction Spectroscopy)による分析に関する講演が相次いで行われた。UCSDのSinhaは、シリコン基板上のポリスチレン系有機液体薄膜の表面および界面のラフネス評価について報告した。これは、試料表面に対する入射線の視斜角を変えることによって、液体表面および液体/基板界面のラフネス動的な変動を捉えることができたという点で、興味深かった。また、ESRFのRobertらは、γ-Fe2O3水コロイドにおける磁場中での液体?ガラス相転移を、XPCSを用いてダイナミカルに捉えることに成功した。加えて、さらに強力な光源であるXFELおよび高性能の検出器の必要性を主張していた。
 これらの他にも、磁場だけではなく、電場や荷重など、外場に対する応答に関する実験・解析の紹介が多く見られたのも特徴的であった。たとえば、POSTECHのParkらの実験では、6~18keVの白色マイクロビーム(ビームサイズ3.5μm×2.5μm)を用いたラウエ像の解析から、電場中のBaTiO3単結晶内に90°向きが異なるドメインの存在が見出された。彼らはその生成原因を局所的な歪みと関連付けて解析している。
 Univ.Manchesterからの2講演は、DaresburyにおけるEXAFS・XANES測定の自動化・ハイスループット化に関するものであった。対象物質はPt、Au系などの触媒試料である。まず、Beesleyは、ロボットによる試料交換装置を開発し、96サンプルのEXAFS測定を16時間で行うことが可能であることを報告していた。また、試料周りの雰囲気(ガス)と温度を自在に変えることによって、触媒試料の特性評価をin situで行うことが可能であることが強調されていた。しかしながら、ガスおよび温度を個々のサンプルに応じて換えられるようにするなど、さらなる改良が必要とも感じられた。引き続きTsapatsarisの講演では、測定のさらなる迅速化のためには、高速度・高精度で駆動するモノクロメータの開発が必要であることが示された。加えて、大変ユーザフレンドリーな装置制御ソフトが紹介され、参考にすべき点があると感じた。
 広島大学のHosokawaは、ESRF BM02における異常散乱測定による非晶質物質の局所構造解析について、As2Se3カルコゲナイドガラスの例を挙げて紹介した。講演の中で、SSD検出器はdead timeが長く、エネルギー分解能が充分ではないため、第3世代放射光における異常散乱測定には不向きであるということが示された。これに替わるものとして、湾曲Ge(あるいはInSb)アナライザ結晶とシンチレーションカウンタを組み合わせた検出システムを開発し、充分なエネルギー分解能(50~70eV)を得たことを報告した。また、高分解能データを得られることによって、1サンプルあたりの解析に要する時間が大幅に短縮された(2週間→1日)ことも強調しており、ハイスループット化を意識した内容であると感じられた。
 その他、新しく開発・設置されたビームライン・装置の現状についての報告もいくつか見られた。シンガポールのSSLSからは、反射率測定、回折測定、軽元素分析を可能とした多目的ビームラインXDD(X-ray Development & Demonstration)が紹介されていた。また、DORIS IIIに新しく設置された高分解能Johan型スペクトロメータで測定された3d遷移金属-希土類化合物の非弾性散乱実験の結果も報告された。
 発表全体を通して感じたことは、materials scientistの視点から考え設計された計測装置が今後の放射光利用の発展に不可欠であるということである。また、セッションの特性上、幅広い領域から多岐にわたる発表があり、知見を広げる絶好の機会になった。 
 
15.Light Sources in Developing Countries
(財)高輝度光科学研究センター 
広報室 原 雅弘 
 
 今回、放射光装置技術国際会議で初の試みとして発展途上国の光源(Light Sources in Developing Countries)と題するセッションが月曜の午後一杯開かれ、大勢の参加があった。SSRLのWinickの熱心な呼びかけで実現した。ブラジル・韓国・台湾・アルメニア・中東ヨルダンのSESAME計画・タイなどから、計画・建設経過、現状・社会に与えた影響などの報告を受けた。インドの現状もあり、南アフリカでも建設を考えているとしてiThemba LABSから特別に参加者があった。
 ブラジルからはCampinas(人口100万人)にあるLNLSからTavaresが報告した。1985年に設計開始、88年建設開始、線型加速器から蓄積リングの完成まで時間と費用がかかったが、稼働し成果を上げている。国としてはコストが高すぎ、専門家もいなかったし、利用者もいない状況で出発した。運営・技術・科学の間をうまく調整しながら稼働までこぎ着けた。現在では国の研究者の数が増え、科学技術の成果(出版)も増え、全体としては国のMulti-User施設として成功したといえる。
 韓国からは浦項製鉄所が放射光施設を建設することを決め、実際に建設に至るまでの歴史を話した。施設建設に伴って、海外で活躍していた研究者が自国に帰り、毎年博士を自国で生み出すようになった。またPAL建設後他のBig Scienceがやりやすくなった。
 台湾(NSRRC)は準備と建設が1986年から1993年。改造で1.3GeVから1.5GeVにし、超伝導空洞を導入し、Top-up入射を実現した。軟X線までの放射光は台湾で、硬X線放射光はSPring-8で、中性子はオーストラリアで利用する体制ができた。サイエンスの成果(出版)は確実に増えてきた。
 アルメニアの放射光プロジェクトCANDLE SLSは予定していた発表者ツァカノフ氏が参加できず、スタンフォードのWinick氏が代わりに発表した。計画のレビューパネルが2002年開かれ、施設の概要を議論した。US$48Mかけて建設をすることが決まった。2006年7月でプロトタイプを作り、2007年11月で建設、2011年から運転を行う予定。アルメニアのCANDLEに対する投資は欧州の科学団体にも大きな励みとなる。
 SESAMEは中東における第3世代放射光施設で、元々ドイツのBESSY Iを移設してアラブとイスラエルの平和と協力の象徴にしようと始まったが、UNESCOの強力な支援もあって、ヨルダンに建物がほぼ完成し、建設が着々と進められている。BESSYのシンクロトロンが移設されてSESAMEの2.5GeVシンクロトロンとして利用される。残りは新たに製作されることになり、バーレイン、ヨルダン、パレスチナなどの諸国で分担することになっている。
 タイの放射光施設は日本の筑波にあったSORTECを移設して建設された。40MeV線型加速器、1GeVシンクロトロン、1GeV蓄積リングで1本のビームラインが稼働している。気候による機器の不具合を修理しながら運転までこぎ着けた。エネルギーは1.3GeVまで増強し、ビームラインも増やした。今までUS$15Mかかった。運転コストは年100Mバーツかかっている。
 最後にパネルディスカッションが行われ、放射光施設の建設や運転・利用を通して、先進国から途上国への技術移転、知識の移転が行われることが重要であるとの意見が出た。研究者の海外流出が止まり、博士を自国で取得する人数が増加したという例をインドの放射光施設INDUS-I、INDUS-IIが話した。放射光施設は建設フェーズでは金がかかるが、運転・維持・修理・教育にはそれほどかからない。今までは建設に費用をかけすぎて、運転する時になって資金不足に陥る例があった。 
 
参考文献
[1]鈴木 他:放射光Vol.19,No.4(2006).(掲載予定) 
 

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矢橋 牧名 YABASHI Makina
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備前 輝彦 BIZEN Teruhiko
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小林 啓介 KOBAYASHI Keisuke
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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