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Volume 10, No.5 Page 252

理事長の目線

吉良 爽 KIRA Akira

(財)高輝度光科学研究センター 理事長 Director General of JASRI

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 先端大型研究施設戦略活用プログラムと言うのが2005年度後期から動き出す。突然現れて性急な課題募集をして無理やり割り込んできた、と言うのが利用者はじめ現場関係者の正直な感想であろう。予算を立ち上げる初年度には多くの場合、特に制度を新設する場合や大きく変えるような場合にはこのような無理が起きる。そのような急激な変化に対しては、準備が間に合わないと拒否せよというのは、黙っていても明日はある、という親方日の丸的安泰を前提とした議論である。改革をすべて拒否しながら、世の中良くならない、と文句を言い続けているわけにはいかない。

 先端大型研究施設戦略活用プログラムは、独立行政法人が所有する大型施設の今後の共同利用の運営形態の試みである。最初の試行の対象として、SPring-8と海洋研究開発機構が持っている地球シミュレーターが取り上げられた。大型振動台(Eディフェンス)が次に加わる事が想定されている。将来、大きな運転経費を必要とするであろうJ-PARC(中性子)に適用することも視野に入っている事と思われる。すなわち、このプログラムは、将来のこの種の共同利用施設運営のための制度設計の萌芽である可能性が大きいのである。前に課金問題の議論の中で、直接利用者に課金しないような制度を設立せよという議論があったが、そのようなことも、新しい制度の中に盛り込むことが出来ればと願っている。

 現実に、止むを得ない過去の経緯で、運転費の一部をタンパク3000プロジェクトに依存しているが、このプロジェクトが2年後に終了したときにどうなるかと言う不確定な危険な要素を持っている。タンパク3000プロジェクトの資金によってまかなわれるビーム代は全体の3割弱に達しているので、これが無くなった時の影響は明白であろう。全般的に言えば、運転資金を委託と言う形で受け取っているため、運転時間が減れば、それに伴う人員や諸経費は当然減らされることになる。事実、昨年の台風被害でしばらくビームが止まったときに、このような清算をしている。JASRIは、仕事をしなくても組織だけは存在するというような結構な身分ではないのである。

 この新制度が産業利用に偏っていることに不満や批判があることは承知しているが、これはスタートの勢いをつけるための役所レベルの作戦の一部と思う。このような理屈の背景には、当初の期待ほど産業利用が行われていない、と言う社会ないしは役所の認識がある。今度の制度における条件の厳しさの一部は、その不信に端を発しているように私には感じられる。社会のそのような不信を除くことが依然として急務であると思う。

 産業利用に偏りすぎと言う点以外にも、このプログラムには現場の感覚で見ると相当の無理がある。施設側は、実行上の問題点について役所と相当の議論を行ない、その結果これでも当初よりはかなり現実的になった。問題は残っているとは言え、予算をとにかく立ち上げて一回目を実施して、その結果をこの制度の検討会(文科省の委員会)で検討して、良い制度に発展させると言う道筋は出来ている。したがって、問題は2回目以降改善されると期待しているし、そうするべく努力するつもりである。それがないと、利用者や現場スタッフに一時的に強いた大きな負担や犠牲が無意味になってしまう。もう一度繰り返すが、この制度に最終的に期待することは、将来にわたるSPring-8の安定した運転の確保である。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794