Volume 10, No.2 Pages 85 - 87
1. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
−生命科学分科会−
– Life Science Subcommittee –
2003B期から2005A期までの4期2年間の利用研究課題選定委員会を終えるにあたり、生命科学分科会での課題審査の状況を報告するとともに、今後課題を申請する際に留意すべき点について述べる。2003B期以降の課題審査方式における大きな変更は、分科会毎に複数のレフリーによる申請課題の評価を導入したことである。また、各実験責任者がSPring-8を利用して出した成果の登録状況を2005A期から課題選定に反映させることにした。タンパク質結晶学共用ビームラインでは、ビームタイムの30%程度をタンパク3000個別的解析プログラム(いわゆるタンパク500)に供しており、一般課題へのビームタイム配分は厳しい状況が続いている。
審査全般について
タンパク3000プロジェクトをはじめタンパク質の立体構造に立脚した科学研究に注目が集まるに伴い、タンパク質結晶構造解析ビームラインではユーザー層の拡大が進んでいる。生命科学分科I(タンパク質結晶構造解析)の課題審査も様々な議論を経て、2003A期までに分科専用の課題申請書の導入や分科会留保ビームタイムの確保など分科固有の制度を幾つか導入したが、これらの制度はユーザーに浸透したものと思われる。さらに課題審査の方式について、2003B期から全ての分科でレフリー制を導入するという変更があった。すなわち、それまでは各分科会の委員がその分科の申請課題を審査していたが、2003B期からは分科会毎に専門を考慮した複数のレフリーが申請課題を評価し、これに基づいて分科会委員が選定するという方式にした。このことは、それまでの様に各分科会委員が100件近くの申請書を短期間のうちに審査するという過大な負担を軽減するとともに、各申請課題が複数のレフリーによる審査を経ることにより、課題審査の円滑化と公平性が高められたものと考えている。また、2005A期から課題選定時に実験責任者のビームタイム利用に対する成果を考慮することにした。これは、SPring-8において一定以上のビームタイムを利用した実験責任者が申請した課題について、SPring-8への成果登録状況を反映させて採否を決めるもので、SPring-8の成果の促進を意図したものである。各実験責任者は今一度SPring-8を利用して得た成果の登録状況を確認し、登録忘れの無いようにご注意願いたい。
生命科学分科Ⅰでは、他分野のビームライン利用とは異なり定型実験が大部分を占めるため、分科専用の課題申請書を導入し、タンパク質結晶の回折実験に関する基本項目を所定の欄に記入することにしている。これは課題申請と審査の両方を簡便にしているといえるが、当然課題の科学的意義や放射光の必要性を述べなければならない。しかしながら、幾つかの課題申請書では、測定試料の説明しか書かれていなかったり、ビームラインの選定理由について記載が不充分なものなど、不備が見受けられる。記載項目の各々について、内容を十分吟味し、理解されやすく記述するよう努めて頂きたい。
タンパク質結晶は不安定であるため結晶ができたらできるだけ早く測定したいというユーザーのニーズがあり、これに応えるため2000A期から課題採択時に留保ビームタイムを確保することにした。留保ビームタイムの課題は実施時期の2週間前が募集締切りとなっているが、この申請課題に対しては、現在のところレフリー制ではなく、課題選定委員2名が審査している。留保ビームタイムの実施時期により課題申請数の変動が大きく、タンパク3000プロジェクト開始以降の申請数は低調であり、一部の留保ビームタイムでは課題申請が無かったこともあった。この様な状況ではあるが、今後も留保ビームタイムをそれなりに確保して、緊急なビームライン使用希望に柔軟に対応していくべきだと考えている。ユーザーの皆様も通常の課題申請によるビームタイム利用だけではなく、臨機応変に留保ビームタイムの活用を検討いただきたい。
タンパク3000プロジェクトのビームタイムについて
SPring-8では2002年度より文部科学省「タンパク3000プロジェクト」のビームタイムが開始されているが、2004年度よりタンパク質の個別的解析プログラムに対応した重点タンパク500領域が、利用課題の重点化に基づく重点研究課題・領域指定型として指定された。
重点タンパク500領域の課題選定は以前と同様、個別的解析プログラム拠点からの申請課題はプロジェクト参画時に課題審査済みであるとの考えに基づき、技術審査のみでビームタイムの配分を行った。また、タンパク3000課題選定ワーキンググループは、課題選定委員会生命科学分科I委員が2名になったため、2003B期より分科会とは別にワーキンググループを組織して、分科I委員はそのワーキンググループに参加する形としている。タンパク3000プロジェクト開始時の混乱もおさまり、2004A期までは順調にビームタイムが利用されてきた。しかし、2004年9月の台風被害に伴う運転スケジュールの変更は、年次計画に基づいて実行されているタンパク3000プロジェクトに大きな混乱を生じさせたと想像される。このような状況にも柔軟に対応し、ユーザーの希望をできるだけ叶えるようなビームタイム配分ができるよう、検討を続ける必要があると考えている。
なお、BL40B2ではタンパク質結晶回折実験と小角散乱実験で装置の切替えが必要である。この切替えに多くの調整時間を必要とするため、タンパク3000プロジェクトのビームタイムと小角散乱を主体とした生命科学分科Ⅱのビームタイムの両方を確保することが難しくなった。そこで、2004B期以降は、BL40B2のタンパク3000ビームタイム枠まで含めた生命科学分科I枠をBL38B1に移し、BL40B2では小角散乱のユーザー課題を優先的に実施することにした。
ビームラインの選択について
SPring-8では、タンパク質結晶構造解析ビームライン制御系の標準化を進めており、現在までにBL38B1とBL41XUでは制御ソフトの共通化を完了している。当然、光源の違いに伴うX線強度など違いは存在するものの、ユーザーにとっては全く同じ操作で、多くの場合露出時間を加減するだけで遜色ない回折データの収集が可能になっている。この様な状況にも関わらず、課題申請ではアンジュレータ光源でX線強度の強いBL41XUの人気が圧倒的に高い。このためBL41XU利用の競争率が上昇し、レフリーから高い評価を受けた課題でも、BL41XUしか希望していない場合はビームタイム不足より不採択となることが多々あった。一方、BL38B1は第2希望としても指定されていないケースが多く、タンパク3000プロジェクトに伴い一般課題に配分されるユーザタイムが少ないにも拘らず競争率が低く、課題採択に著しい不均衡が生じている。
この様な状況を打開するために、アンジュレータ光源のビームラインをもう一本整備することは重要であるが、ユーザーは課題申請時に今一度BL41XUを必要とする理由を見つめなおすとともに、本当にBL38B1では実験不可能かどうか検討し、ビームラインを選択するようお願いしたい。
小角散乱
生命科学分科Ⅱでは、小角散乱を中心に、非結晶回折・散乱実験の課題を扱っている。生命科学を扱うL2aと高分子等を扱うL2bに分けて課題を募集しているが、応募数・採択数の比率は、およそ2対3でL2bが多い。
ビームラインはBL40XU、BL40B2、BL45XUが主な対象であるが、BL40XUはマイクロビームを用いた実験や時分割実験など、特徴のある課題が多い。BL40B2は汎用的な小角散乱測定が多く、種々の高分子や脂質、生体試料、タンパク質からカーボンナノチューブに至る多様な試料の測定が行われている。BL45XUも汎用性が高いが、時分割実験の割合が多い。これらに加えて、最近はBL20XUを用いた極小角散乱実験も行われており、新たな分野が開かれつつある。
医学応用
生命科学分科Ⅲでは医学応用の課題を扱っており、イメージングに関しては、多くの優れた利用成果が得られている。それには、ハード面での進歩による利便性の向上が大きく貢献していると思われ、in vivo、in vitroともに良いデータが得られている。
今後、SPring-8をより優れたものにするために、コンフォーカル顕微鏡など他の手法に対して、より強い優位性を出していただきたい。また、JASRIに未登録の論文が多く潜在していると思われるので、SPring-8をアピールするためにも、それらの登録を勧める必要がある。
また、海外からの課題申請の中には、内容が良いものもあり、国際的な協力も進めるのもいい。
おわりに
レフリー制の導入に伴い、多くの先生にレフリーをお願いしました。貴重な時間を割いて評価していただき、大変な御苦労をお掛けしたと思います。ご協力に感謝いたします。また、年2回の定期的な課題選定以外に、留保ビームタイムの課題選定、2002年度から始まったタンパク3000プロジェクトのビームタイムや2003B期に初めて採択された長期利用課題の対応など、JASRIの方々の協力なしには生命科学分科のビームタイムの効率的運用はできない。あらためて関係の方々に御礼申し上げます。
福山 恵一 FUKUYAMA Keiichi
大阪大学 大学院理学研究科 生物科学専攻
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