Volume 09, No.4 Pages 290 - 291
5. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTERS FROM SPring-8 USERS
利用者懇談会からIV
From the President of the SPring-8 Users Society IV
SPring-8利用者懇談会 会長 名古屋大学大学院 工学研究科 Graduate School of Engineering, Nagoya University
また、SPring-8利用者懇談会についての記事を書く時期が来ました。前回の記事[1]の冒頭に「再度SPring-8利用者懇談会の会長の重職を引き継ぐ事になり、今後、2年間に予想されるSPring-8の変化を考えると、今期も無事努めることが出来るのか、不安に思う気持ちが大きい」と書きましたが正にその通りの状況になっております。しかし、その時に予見できていたのは、理化学研究所の法人化、日本原子力研究所と核燃料サイクル機構との統合化、また、それに伴う現在の理化学研究所、日本原子力研究所、JASRIの3者体制から新体制への移行が主な内容でした。現時点での最大の課題は、その時には全く考えても居なかった、いわゆる「課金問題」です。この「問題」は関係各方面でも大変広く関心が持たれ、種々の議論が展開され、その結果として「要望書」などの形で公表されていることは、ユーザーコミュニティを代表するものとして大変深く感謝をしております。本来なら、SPring-8利用者懇談会会長として「課金問題」に対する見解をここで披露すべきなのかもしれませんが、この問題は正に現在進行形で議論が進んでいるところであり、また、私自身も責任の一端を担っている立場をお引き受けした関係上、この問題に対する個人的見解を述べることは控えさせていただくことに致します。後日、もし、何らかの機会があれば稿を起こしたいと思います。
「課金問題」は、大変大きな問題で、そのことによりSPring-8利用者懇談会も激流の中に投げ入れられたような印象を持っておりますが、この様な時こそ、原点を見つめることが大切と考え、先ずはSPring-8利用者懇談会の現状から紹介したいと思います。
現在(2004年6月2日)、会員数は1389名です。会員数の内訳は、大学関係者が950名、研究所関係者が255名、企業関係者が171名、その他の方が13名となっております。研究所関係者と言うのは現在では分かりにくい表現かもしれませんが、旧国立研究所の研究者とご理解ください。数字の上では、68%が大学関係者となっております。SPring-8利用者懇談会の会員だけが、SPring-8のユーザーではないので、この数字だけから判断できませんが、実体としてのSPring-8は、大学に所属する研究者が主力になった世界最大の放射光施設と言っても第1次近似ぐらいでは、間違いではないように個人的には思っております。しかしながら、皆様ご存知のように、SPring-8は大学共同利用機関として運営されているわけではありません。このことが、色々な問題を考える時の1つの大きなファクターになっているように感じます。
さて、前述したようにSPring-8利用者懇談会の会員のほぼ70%は大学に籍を置く研究者です。しかもその大半は旧国立大学に属している研究者です。会員の多数が所属する大学で大変革が起こっております。今年4月から大学が法人化され、大学に大きな自由度が与えられました。色々な方々とお話をすると大学によって事情は異なるようですが、これまでの延長で大学が推移すると考えておられる方はさすがに居ないようです。予測が成り立たず、厳しい状況ばかりが目に付くのは、私だけではないと思います。これまでSPring-8に吹いていた風向きも、全く変わったように感じます。必ず、この法人化がもたらす効果は、SPring-8にもSPring-8利用者懇談会にも現れると思います。
どのような効果が現れるかは、全く予測が出来ませんが、私のように早とちりの人間は、今が正にSPring-8の危機(クライシス)なのではないかと感じてしまいます。私のような凡人は危機(クライシス)と言うとこれから何か恐ろしげなことが起こるように感じてしまいますが、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ロンドン大学、ハーバード大学で研究活動を行い、「水平思考」で有名な教養人デ・ボノ[2]によると、「クライシスとは、決断や行動の為の時点で」あり、「クライシスが、いわれるほど深刻ではなくて、じっと何もしないことが最良の行動だということは、常にあり得る」が、「その時点で何もしなければ、状況は急激に悪化して、惨事とか破局に達してしまう」と言うことです。要するにクライシスとは、決断の時であり、何もしないことも一つの決断をしたことに相当するということなのでしょう。私自身は、今がSPring-8利用者懇談会のクライシスと考えて行動をしなければいけないのではないかと思っております。何をするか、何もしないかで、その後の状況が大きく左右される可能性が高いものと考えております。
クライシスの中心にいわゆる「課金問題」があるのかもしれませんが、関係者全てが、根本的な考えとして、世界最高性能のSPring-8が最先端の研究を推進していく上で不可欠であり、それを最大限有効に活用するにはどうすべきかという共通認識は持っていることを忘れないようにしたいと思っております。その為の方策として何が最適なのかと言う点においてのみ、それぞれの立場で意見が分かれているということだと思っております。現場を最もよく知る利用者団体としては、クライシスにあたって現場からの意見を適宜述べると同時に、許される範囲内で適切な決断をしたいと思っております。
そのような重要な時期に、SPring-8利用者懇談会を支える方々として今年度のSPring-8利用者懇談会の幹事および運営委員を表1および表2により紹介します。幹事、運営委員また世話人の方々を始めとして会員の皆様の協力によりこのクライシスを乗り切りたいと思っております。会員の方々だけでなく関係者皆様の協力を切にお願いする次第です。
来年、どのような文章が書けるのか分かりませんが、大きな変革を経験することになるのかもしれないと言う予感を禁じえません。どのようなことになろうとも、科学・技術の原点は変わりようがないので、しなければならないことは、余り変わらないのかもしれません。
表1 2004年度SPring-8利用者懇談会幹事
会 長: 坂田 誠(名古屋大学)
庶務幹事: 沼子 千弥(徳島大学)
鈴木 淳巨(名古屋大学)
会計幹事: 田村剛三郎(京都大学)
行事幹事: 難波 孝夫(神戸大学)
伊藤 正久(群馬大学)
編集幹事: 渡辺 巌(大阪女子大学)
鳥海幸四郎(兵庫県立大学)
利用幹事: 黒岩 芳弘(岡山大学)
篭島 靖(兵庫県立大学)
久保田佳樹(大阪女子大学)
運営幹事: 佐々木 聡(東京工業大学)
雨宮 慶幸(東京大学)
坂井 信彦(兵庫県立大学)
表2 2004年度SPring-8利用者懇談会運営委員
伊藤 正久(群馬大学)
今田 真(大阪大学)
黒岩 芳弘(岡山大学)
佐々木 聡(東京工業大学)
澤 博(KEK)
高橋 敏男(東京大学)
鳥海幸四郎(兵庫県立大学)
難波 孝夫(神戸大学)
浜谷 望(お茶の水女子大学)
早川慎二郎(広島大学)
雨宮 慶幸(東京大学)
坂田 誠(名古屋大学)
高田 昌樹(JASRI)
月原 冨武(大阪大学)
並河 一道(東京学芸大学)
野田 幸男(東北大学)
松井 純爾(ひょうご科学技術協会)
圓山 裕(広島大学)
村上 洋一(東北大学)
渡辺 巌(大阪女子大学)
参考文献
[1]SPring-8利用者情報 Vol.8 No.4 (2003) 243
[2]Edward de Bono (1977)“Wordpower”European Services Ltd.
日本語訳:「デ・ボノの知的用語辞典─ワード・パワーを高める本」芦が原伸之訳 講談社(1979)
坂田 誠 SAKATA Makoto
名古屋大学大学院 工学研究科 応用物理専攻
〒464-8603 名古屋市千種区不老町
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