Volume 09, No.1 Pages 50 - 51
4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
第14回加速器科学研究発表会に参加して
The Report on 14th Symposium on Accelerator Science and Technology
2003年11月11日から13日にかけて、つくば国際会議場「エポカルつくば」で第14回加速器科学研究発表会が開催された。この研究発表会は加速器同好会が主催しており、2年に1度開催されている。加速器同好会は2004年3月末で解散し、2004年4月に設立される日本加速器学会(仮称)に財産などを移譲することになっている。従って今回が最後の発表会となった。今回の参加人数はおよそ400人であった。
発表会は、招待講演、特別講演、ポスター発表、一般講演にわけられ、一般講演はA,Bのパラレルセッションであった。SPring-8に関連した発表では、1件の口頭発表、22件のポスター発表(うちNewSUBARUが12件、播磨理研が2件)あった。
招待講演は3つ、特別講演は8つあった。J-PARC、GLCなど大きな加速器の計画の話、それから医療・診断用、物性研究用の小さな加速器の話などがあった。
大規模加速器の話の1つとして、「ニュートリノ物理の最前線」のタイトルでKEK戸塚氏による講演があった。現在KEKから神岡にニュートリノの照射を行う実験が行われているが、原研東海に建設中の大電流陽子加速器J-PARC(http://jkj.tokai.jaeri.go.jp/index_j.html)から神岡に向けてさらに強度を増したニュートリノビームを打ってニュートリノ物理の研究を行うといった内容だった。次に「GLC計画」のタイトルで東大の駒宮氏がGrobal Linear Collider(http://www-jlc.kek.jp/)について講演を行った。これは、質量の起源、真空の構造、暗黒物質の暗黒エネルギーの起源などを調べることを目的として、長さが30kmにも及ぶ電子、陽電子リニアコイラーダーを建設する計画である。大型施設の建設には大きな建設費が必要となる。日本での大型研究としては、国際熱核融合実験炉イータ計画、宇宙開発、ゲノム、ナノテク、原子力などいろいろ有るが限られた予算でどの計画に重点を置くかと言うことは慎重に判断しなければならないと思う。
小型加速器の話の1つとして「先進小型加速器事業」のタイトルで放医研の山田氏による講演があった。肺、肝臓、骨軟部、前立腺などの悪性腫瘍に対する粒子線治療の効果が日本の医療の世界でも認められつつ有る。2015年に予想される89万人のガン患者の内、6万人が粒子線治療に適している。1つの施設で治療できる患者数は1年間に1000人ほどなので、全国で50台の治療施設が必要となり、コンパクトで安価な加速器の開発が望まれる。これに関連した話題としてKEKの森氏からFixed Field Alternating Gradient加速器の講演があった。FFAG加速器はcyclotronと同様に固定磁場を用いるがsynchrotron並みに高いエネルギーにまで粒子を加速できるという利点を持つ。そのほかにも小型加速器として、制動放射、逆コンプトン散乱を用いたX線源などの話題も出されていた。
そのほかに興味を持って聞いた講演の1つとしてKEKの高山氏の「誘導加速シンクロトロンの実証研究」があった。通常のシンクロトロンは正弦波の加速電場を用いてビームの加速、閉じこめを行っている。ビームはシンクロナス位相の回りの狭い範囲でしか安定に加速されない。そこで、ビームの閉じ込めを正、負極の離れたパルス電場、加速を幅の長い矩形パルス電場で行うことにより、マイクロ秒オーダーのバンチ長を持つビームを作ることができる。KEKの12GeVのProton Synchrotronに適用すればビーム電流を2〜4倍にすることが予想され、実証試験のためのR&D器の製作が進められているそうである。
また、通常のポスター発表とは別に施設報告という形で「常設展示ポスター」が期間中貼られていた。例えば兵庫県の粒子線医療センターや若狭湾エネルギー研究センターなど国内の大きな施設から小さなところまで26箇所の施設の現状の紹介がなされていた。このようなポスターも含め、SPring-8に閉じこもっているとわかりにくい日本の加速器の動向が鳥瞰できる場としてこの研究発表会は貴重なものであることを感じた。
加速器科学研究発表会には、加速器科学もしくは加速器科学における基礎・応用技術の進歩発展に大きく貢献した論文等を対象として、論文賞と技術賞の二つの賞が設けられている。今回は、「炭素イオン生成用永久磁石型小型ECRイオン源」を開発した放医研の村松氏が技術賞を受賞した。このイオン源は、将来の炭素イオン治療施設用に小型かつ低コストの治療装置の開発を目指したもので、永久磁石のみで閉じ込め磁場を形成する点に特徴がある。1年間以上に亘る試験の結果、ビーム強度やビーム安定度等治療用イオン源に要求される性能が十分に達成されたそうである。
施設見学は13日の午後、会場からバスでKEKに移動して行われた。構内の見学10箇所を3台のバスが循環し、見学したい所で降り、終わればまたバスに乗って次のところに移動する方式であった。J-PARC関係の電磁石はさすが大きいと感じたが磁場測定器のハーモニックコイル回転部をKEK内部で製作したと聞きさすが、と思った。リニアコライダー関係ではXバンドのクライストロンと導波管などを見学したが、加速空胴を超電導にするかKEKのような常伝導か方式をめぐって厳しい国際競争をしているとのことであった。多くのところを見たいと思ったが2時間弱だったので数カ所も回るのは難しかった。
加速器同好会は原子核実験、高エネルギー実験、粒子線医療など様々な加速器の分野の人や関連企業の人が集まって情報交換し交流を深めることを目指して設立され、ここSPring-8でも6年前、第11回の発表会が開催された。同好会総会の中で木村氏から、このような同好会による発表会という形式から今なぜ学会へなのかというあたりの話も含め発足当時から現在までの歴史が話された。このような話や加速器は医療等有用であり社会にもっと発言していくべきだというような話もあり、参加者は同好会から学会への流れを比較的自然なものとして受けとったのではないか。このように、加速器同好会は、その役割を日本加速器学会(仮称)に譲り解散することとなった。今後さらなる加速器分野の発展を望みたい。
大島 隆 OHSHIMA Takashi
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:ohshima@spring.or.jp
高野 史郎 TAKANO Shiro
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:takano@spring.or.jp
張 超 ZHANG Chao
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:czhang@spring.or.jp
妻木 孝治 TSUMAKI Koji
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:tsumaki@spring.or.jp
松井 佐久夫 MATSUI Sakuo
(財)高輝度光科学研究センター 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0851 FAX:0791-58-0850
e-mail:matsui@spring.or.jp