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Volume 08, No.2 Pages 114 - 115

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

(第6回SPring-8利用技術に関するワークショップ)
高エネルギーX線 不規則系物質の構造解析の最近の進展
−SPring-8の高強度単色高エネルギーX線を用いた精密構造解析−

鈴谷 賢太郎 SUZUYA Kentaro

日本原子力研究所 放射光科学研究センター Synchrotron Radiation Research Center, JAERI

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 2002年12月19、20日の2日間、放射光普及棟において「不規則系物質の構造解析の最近の進展−SPring-8の高強度単色高エネルギーX線を用いた精密構造解析−」と題するワークショップが開かれ、活発な意見交換が行われた。高エネルギー領域(E >30keV)の強いX線は、SPring-8のような高輝度放射光源の大きな特徴のひとつである。液体やアモルファスなどのランダム系物質の精密構造解析は、Q(scattering wavevectot)の大きい領域まで正確な回折データが必要であることから、この高エネルギーX線の利用が最も有効な研究領域である。SPring-8では高エネルギーX線回折ビームラインBL04B2を中心に、(単色)高エネルギーX線回折(High-Energy X-ray Diffraction=HEXRD)を用いたランダム系物質の構造解析が積極的に展開されてきている。それと同時に、得られた良質のデータを精密構造解析に結びつけていく解析法の最近の進展も見逃せない。そこで、ランダム系物質のHEXRD実験、解析に関する現在の技術と知識の共有、そして今後の展開への討論を目的としてこのワークショップが企画された。
 ワークショップ初日は、原研・米田氏の結晶構造解析の話からはじまった。誘電体などの局所的に乱れた結晶の場合には、HEXRDで大きいQまで回折パターンを測定し、高い実空間分解能のPDF(2体分布関数)によって短・中距離構造を観察することが、それらの結晶の構造物性の理解に重要であることが示された。次に、九大・川北氏は、高エネルギーX線の高い透過能と低い散乱角度で大きいQまで測定できるという特徴によって、電気炉やセルのバックグラウンドにほとんど煩わされることなく高温金属液体の正確な回折パターンが得られるようになり、中性子回折との組み合わせで液体金属の電子構造の正確な理解がなされつつあることを報告した。お茶の水女子大院の大村氏は、これまで正確な構造因子S(Q)を得るのは困難と考えられていたダイアモンドアンビルセル(DAC)を用いた高圧下のアモルファス状態の構造解析の試みが報告された。高エネルギー単色X線とイメージングプレートの組み合わせによって、高圧力下(最高55GPa)のアモルファスSnI4の回折パターンを測定し、S(Q)の規格化に成功したことが示された。京大院の松本氏は、京大グループが開発した室温で安定かつ優れた物性を示すHF-有機塩系溶融塩について、この様な複雑な構造の液体でも、組成を変えながらHEXRDで丁寧に高い実空間分解能観察を行うことで、その特性(高電気伝導率等)を支える構造的な特徴を知ることが出来ることを示した。学習院大・渡辺氏は、電磁浮遊法という新しい手法でセルを用いることなく浮上させた溶融Siの白色X線構造解析の結果について報告し、HEXRDで再度精密な測定・解析を行うことの必要性とこの様なコンテナレス法とHEXRDの組み合わせの有効性について論じた。
 2日目は、SPring-8 BL04B2の担当者であるJASRI・小原氏が、BL04B2 2軸回折計の現状と海外のHEXRDによるランダム系物質の研究事情について報告し、BL04B2の実験環境を整備し、高温、高圧などの極端条件下での実験をより積極的に進める必要性を説いた。神戸大の内野氏は、近年開発されたwavelet法による構造解析を紹介し、従来のフーリエ変換による実空間スペクトルの解析では知り得ない中距離構造に関する情報が得られることとその情報の持つ意味について論じた。引き続いて、JASRIの小原氏は逆モンテカルロ法(=RMC)を用いたネットワークガラスの中距離構造解析について講演し、ガラスの中距離構造という概念がRMCによる構造モデルによって明確になりつつあることを示し、このような信頼できる構造モデルは大きいQまで回折パターンを精度良く測定できるというHEXRDによる良質のデータに大きく依存していることを強調した。原研の片山氏は病欠の稲村氏に代わって近年話題になっているシリカガラスの高温・高圧下での相転移について講演し、SPring-8での白色X線回折によって大きな構造変化を見出したという最新の成果について詳説した。JASRIの広田氏は、JASRI検出器グループが開発した2次元検出器「YAPイメージャー」について説明し、HEXRDの迅速測定に優れていることがシリカガラスの測定を例に示された。最後に「ランダム系物質高エネルギーX線回折」研究会副世話人の神戸大・梶並氏から全体総括があり、ワークショップは閉会した。
 今回のワークショップでの講演はどれも普段の学会ではサイエンスの成果の陰に隠れてなかなか伺うことのできない含蓄に富むものばかりであった。参加者の今後のHEXRD実験、データ解析、研究計画の立案に大いに役立つことと思われる。最後に、ワークショップ開催にあたりお世話いただいた姫路工大・篭島先生や利用懇談会事務局の皆様方、佐久間さんをはじめとするJASRIの皆様方に感謝致します。


鈴谷 賢太郎 SUZUYA Kentaro
日本原子力研究所 関西研究所 放射光科学研究センター
構造物性研究グループ(東海駐在)
〒319-1195 茨城県那珂郡東海村白方白根2-4
TEL:029-282-6823 FAX:029-282-5832
e-mail:suzuya@popsvr.tokai.jaeri.go.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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