Volume 16, No.3 Page 177
理事長室から -祝・X線自由電子レーザー発振-
Message from President – SACLA Lased! –
去る6月7日午後4時10分、予ねて調整運転中であったXFEL施設が見事にX線自由電子レーザーを発振しました。
ご承知のように、このXFEL施設は国家基幹技術の一つとして、我が国の最先端技術の粋を結集して2006年度から5ヵ年の計画で整備が進められ、施設としては昨年度末(2011年3月)までに完成、公募により愛称をSACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser:サクラ)と定めました。SACLAはその後調整運転を進め、運転開始からわずか3ヶ月という短期間で波長1.2 Åという、先行する米国のXFEL施設の記録を凌ぐ世界最短波長のX線レーザーの発振に成功しました。さらに7月13日には0.8 Åのレーザー発振を確認するなど、より高強度・短波長のX線レーザーを安定的に供給できるよう調整を進めており、今年度内(2012年3月)には開かれた施設として供用運転の開始を目指しています。これまでこのXFEL施設整備計画に心血を注いでこられた理化学研究所播磨研究所のスタッフの方々をはじめ、ご関係の皆様方のご努力に心から敬意を表したいと思います。
SACLAの利用については、かねてから文部科学省においてその戦略的な利用推進に向けて、専門家や有識者からなる「X線自由電子レーザー利用推進戦略会議」が開催され、利用研究の重点分野の基本的な考え方等が議論されており、その結果を中間的に取り纏めた報告書が文部科学省のホームページに公表されています。(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shinkou/022/gaiyou/1308960.htm)詳細はこの中間報告をご参照いただきたいと思いますが、実はJASRIは既に今年度からSPring-8だけでなくSACLAについても特定大型放射光施設の登録施設利用促進機関として位置づけられており、この中間報告で述べられている登録機関の役割はJASRIが果たすことになっています。例えば、JASRIでは既に共用法に基づくSACLAのための選定委員会を設置し、去る8月5日には第一回の委員会を開催して具体的な利用制度のあり方等の検討を始めたところです。JASRIとしては、上記中間報告に示された諸点、例えば、「SPring-8でのノウハウを活かしつつ、利用者本位の運営を基本とする。・・登録機関は、設置者や課題提案者等と協力することにより、SACLAに特化した支援体制の確立を目指す。・・産業界を含む全てのユーザーが参加するコミュニティにより、利用研究の開拓・推進を図る。・・」等々を基本としつつ、本年度末の供用開始に向けた制度設計を早急に煮詰めて行きたいと思っています。
SACLAはSPring-8をはるかに凌ぐ全く新しい光の利用機会を与えてくれます。そこからは、現在はまだ想像の域を出ないような新たなサイエンスの誕生すら予感させます。SPring-8のキャンパスは、SACLAが戦列に加わることによって文字通り世界随一の高輝度光科学研究のCOEになろうとしています。JASRIはこれまでもSPring-8で培った経験と人材を提供することによってSACLAの建設整備に大きな貢献をしてきたと自負していますが、これからはさらにその利用面でも大きな役割を果たさなければならないと、覚悟を新たにしているところです。本利用者情報誌の読者の方々にも、SPring-8に留まらずSACLAの利用研究へも果敢にチャレンジしていただき、世界が刮目するような光科学研究の成果の発信を目指して頂きたいと思います。