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Volume 07, No.5 Pages 321 -324

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

日本ハンガリーセミナー 現代科学技術と物理
−光科学最前線−
Japan-Hungary Seminar Physics in Modern Science and Technology
-Frontier of Photon Science-

江尻 宏泰 EJIRI Hiroyasu[1]、大野 英雄 OHNO Hideo[2]

[1](財)高輝度光科学研究センター、大阪大学 核物理研究センター JASRI and RCNP Osaka University、[2](財)高輝度光科学研究センター JASRI

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1.光科学最前線 日本ハンガリーセミナー
 最近の光ビーム科学技術の進歩は目覚ましく、21世紀の科学を大きく発展させるものとして期待されている。光ビーム科学の最前線を主テーマとして、現代科学技術と物理の日本ハンガリーセミナーが5月13日から17日の5日間に亘って開かれた。日本からはJ.Kanamoriが、ハンガリーからはD.Berenyiが代表となりChairを勤めた。本セミナーは1998年ハンガリーで行われた第一回セミナーに続く第二回セミナーである。今回の開催場所は大阪大学核物理研究センター(RCNP)、高輝度光科学研究センター(JASRI)、国際高等研究所(IIAS)の3会場である。
 SPring-8・JASRIは放射光からレーザー電子光に亘る広いエネルギー領域で高性能の光ビームを提供し、光科学のCOEの一つと云える。この様な事からセミナーの一日(5月15日)は見学をかねてJASRIで開かれた。
 海外の科学者9名(内ハンガリー代表7名)を含む42名の最先端研究者が集まり活発な討論が行われた。ここではセミナーの主なハイライトを簡単に紹介する。詳しくはセミナーのProceedingsとそこに載せてある参考文献を見て頂きたい。 
 
 
 
 
 
2.素粒子核物理に於ける光科学最前線
 最近、光ビームや光分析が素粒子核分光の有力な研究方法として脚光を浴びている。高エネルギー 電子ビームによるレーザー光の逆コンプトン散乱によって、高エネルギーの光ビームが得られるようになった。レーザー電子光と云われ、方向が揃っていてエネルギーの最高値で強度がピークになり、且つ最大の偏極度を持つ。従って精密な素粒子核分光に大変有効である。
 SPring-8では1999年7月に最高エネルギーのレーザー電子光を得ることに成功した。現在RCNP、JASRI、JAERI初め国内外の研究グループが活発に研究に取り組んでいる。
 一方、チェレンコフ光やシンチレーション光を使った粒子検出は大型素粒子核分光に大変有用である。最近この種の光検出器が広く高感度素粒子核分光に使われだした。
 セミナーではH.Ejiriが光ビームと光検出によるニュートリノ核分光の最前線の話をした。特にMOON(Mo Observatory Of Neutrinos)などのニュートリノ核分光に光検出は有効である。また中高エネルギー光ビームはニュートリノの中性カレント核レスポンスを調べるのに使われよう。
 最近のSPring-8でのレーザー電子光LEPS(Laser Electron Photons at SPring-8)の研究については4人の研究者が話をした。T.Nakanoはレーザー電子光の特徴と最近のファイ中間子生成の結果を述べた。光反応でのポメロン—グルーボールの機構を明らかにする興味ある実験で、速やかなデーター解析が期待されている。R.ZegersはK反応とハイペロン生成の話をした。尚関連してT.Kishimotoがハイパー核分光法によるストレンジ核の最近の研究を紹介した。光反応と核分光はストレンジ核の新しい構造を明らかにする可能性がある。
 理論的展開についてはA.Titovが偏極GeV光ビームが開くハドロン構造理論と計算結果を紹介した。またA.Hosakaはハドロンのクオーク構造理論とクオークガンマ分光の話をした。いずれも興味ある理論で高偏極光LEPSによる実験面での研究が待たれる。

3.宇宙核分光とレーザー核物理
 核分光や光核反応によって宇宙天体に於ける核反応研究の興味ある側面が解る。Y.Nagaiは天体核生成のKeyとなる核反応を中性子ガンマ分光で調べた。同じくH.UtsunomiyaはMeV領域のレーザー電子光による最近の研究を紹介した。SPring-8でも低エネルギーのレーザー電子光の開発によってこの種の宇宙核分光物理の大きな発展が期待できよう。
 中高エネルギー(100〜10 MeV)領域の核分光と光反応は少数系核の研究に有効である。M.Nomachi はRCNPサイクロトロンを用いて陽子反応からの制動輻射を測定しアイソバー効果を調べた。T.Shimaはレーザー電子光アルファ反応で荷電対称性の精密測定をした。原子核理論の新たな展開としてY.Suzukiは量子少数多体系の研究を、R.Lovasは相関ガウシアン核物理の研究を発表した。またH.Tokiは原子核の準位と中間子の話をした。
 素粒子や宇宙核物理には中高エネルギービームが必要である。高出力レーザー光の高電場を利用して中高エネルギー加速の可能性が開かれつつある。H.Takabeはこの様な方法で中エネルギー粒子による核反応の研究ができ、レーザー核物理が展開される事を強調した。レーザー光による高エネルギー加速の可能性についてはT.Tajimaが興味ある話をした。またY.Katouはレーザー科学技術の最先端にある関西原研APRC(Advanced Photon Research Center)の現状を紹介した。将来の楽しみな分野である。
 粒子加速に関してはK. Szegoがスペースプラズマでの新しい粒子加速機構の理論を話した。またT.Itahashiは天体核反応研究に際しスクリーニング等の原子物理がある事を指摘した。

4.原子電子分光と化学物性の最前線
 原子、化学、物性等の分野の研究で原子電子分光が重要な役割を担っている。この分野の最新の研究について日本ハンガリーの双方から多くの優れた研究が発表された。原子電子分光についてはL. Sarkadiはイオン原子衝突での連続電子放出を、T.Mukoyamaは内殻電離での電子遷移を話した。新しいオージェー崩壊についてはL.Koverが最近の研究を紹介した。原子分光のこれからの展望をD.Berenyiが話したが、永年原子分光を発展させて来た人だけに実に示唆に富むものであった。金属及びイオン状態についてはH.Adachiが量子化学的方法の研究を、Z.G.Klencsarがメスバウアー分光法の研究を話した。
 計算機を使った研究としてはY.Yamamuraはクラスター固体相互作用のシュミレーション結果を動画を使って紹介した。またR.Shimizuはモンテカルロ法によるエネルギー損失の計算の話をした。

5.SPring-8に於ける光科学最前線
 セミナーの一日は最高性能の光ビームを持つSPring-8で行われ、そこでの興味ある研究が紹介された。SPring-8の放射光は高ブリリアンス、マイクロビーム、広エネルギー領域、円偏極、等の優れた特徴を持つ。これらの特徴を生かし、物質科学、地球科学、環境科学から生命医学科学に至る広い分野で活発な研究が行われている。
 A.Kira(所長)のハンガリーの音楽にもふれた歓迎の辞に続いて、H.OhnoがSPring-8の研究、装置、組織等の現状を紹介した。加速器、リング、ビーム等の性能についてはH.Ohkumaが詳細に説明した。また最近のSPring-8放射光の研究のトッピクスがS.Kikutaによって紹介された。いずれの話も実に迫力あるものであった事は云うまでもない。
 SPring-8の特徴の一つのLEPS(GeV)光による研究の概要と理論の話は、前に述べた様にRCNPであった。ここではN.MuramatsuがLEPSビームラインと検出器の現状を話し、研究の一部をR.Z(既述)が話した。

6.まとめ
 レーザー電子光、高輝度放射光、レーザー光等によりGeVからeVの広いエネルギー領域でユニークな光ビームが得られるようになった。またGeV−eVに亘る光(電子)分光法や光を用いた粒子検出法が大きな進歩を遂げ大変有効に使われている。これらの光ビーム、分光分析、光検出は、電荷が主体となるイオンビーム、イオン分析、イオン検出と比べてクリーンでソフトである。従って光科学は21世紀に相応しい科学と云えよう。
 セミナーではこれらの「光」の特徴を生かした科学技術の実験と理論研究の最前線について活発な討論が行われた。話題は、レーザー電子光による素粒子宇宙核物理、放射光による物質から生命に亘る科学、光(電子)分光法による原子核、原子、物性、化学、等々広い範囲に亘る。またRCNP、JASRI、APRCの最新の実験装置を視察し現場でも熱心な議論が行われた。
 セミナーの最後の日はJ.Kanamoriが関西と科学技術の発展史を、D.Berenyiがハンガリーの科学の発展について話をした。若い我々にとって大変感銘深いものであったと云える。その後日本ハンガリー科学協力について自由討論がなされた。ここで強調されたのは、各グループがユニークなアイデイア、装置(ビーム、測定器等)、手法、理論等を持ち相互に協力することである。
 本セミナーによってこれからの光科学技術の発展と日本ハンガリー科学協力のいくつかの芽が生まれたと云えよう。それらが大きく育つ事を期待したい。

 尚セミナーはJSPSとHASのサポートのもと、IIAS−研究事業部はじめRCNP、JASRI、APRC他多くの協力を得た。お礼申しあげたい。プログラムを以下に示す。

Physics in Modern Science and Technology
−Frontier of Photon Science−

Session I Opening  (Chair H. Ejiri)
J. Kanamori (IIAS) Opening Address
D. Berenyi (HAS) Introductory Talk.
  Quo Vadis Atomic Physics
Session II Photon Spectroscopy and Nuclear
  Particle Physics (Chair Y. Nagai)
H. Ejiri (RCNP/JASRI)  Photon Spectroscopy
  and Nuclear Particle Physics    
V. Gogohia (RMKI) The Jaffe-Witten Mass
  Gap and Confinement
Session III Photon Spectroscopy and Nuclear
  Astrophysics  (Chair K. Szego)

Y. Nagai (RCNP) Prompt Gamma Spectroscopy
  for Nuclear Astrophysics
H. Utsunomiya(Konan) Medium Energy
  Photon Probes for Astrophysics
M. Nomachi (OULNS, Osaka) Proton-
  Proton Brems-strahrung and Hadrons
Session IV  Atoms, Plasmas and Lasers in
  Astro-particle Physics. (Chair M. Nomachi)

K. Szego (RMKI) Particle Acceleration
  Mechanisms in Space Plasmas.
H. Takabe (ILE, Osaka)
  Laser Nuclear Physics
T. Itahashi (RCNP)
  Atomic Physics in Astronuclear Physics
Session V Laser Electron Photon Spectroscopy for
  Quark Nuclear Physic (Chair V. Gogohia)

T. Nakano (RCNP)
  LEPS and Quark Nuclear Physics
A. Titov (JAERI/JINR) Hadron Physics with
  Polarized Photon Probes
Session VI  Hadron Photon Spectroscopy  
  (Chair R.Lovas)

A. Hosaka (RCNP) Baryon Structures and
  Quark Gamma Spectroscopy  
T. Kishimoto (Osaka)
  Gamma Spectroscopy for Hyper Nuclei
H. Toki (RCNP) Nuclear Spectroscopy Frontiers at RCNP
Session VII Atomic and Nuclear Physics (Chair. T. Kushida)
R. Lovas (ATOMKI)
  Nuclear Physics with Correlated Gaussians
Y. Suzuki (Niigata.) Quantum Few-Body Problems 
L. Sarkadi (ATOMKI) Continuum-Electron
  Emission in Ion-Atom Collisions
T. Mukoyama (Kansai Gaidai)
  Electron Transition in Inner-Shell Ionization
Session VIII Science Frontiers with Synchrotron
  Radiation Photons (Chair H. Ejiri)
J.Kanamori (IIAS) Introduction   
A. Kira(JASRI) Welcome Address
H. Ohno (JASRI) Present Status of SPring-8
H.Ohkuma(JASRI) Accelerator Complex of SPring-8
Session IX Science Frontiers of SPring-8 (M.Fujiwara)
S. Kikuta(JASRI) Synchrotron Radiation
  Science Highlights
N. Muramatsu(JAERI)  Present Status of LEPS
R.G.T. Zegers(RCNP) K+ photoproduction at
  LEPS/SPring-8
T. Shima (RCNP) Symmetries by Laser Photon
  Spectroscopy
Session X  Chemical Effect and Solid State
  Physics (Chair. T. Mukoyama)

L.Köver(ATOMKI)
  Auger Decay from Excited States in Soilds
H.Adachi( Kyoto) Quantum Chemical
  Approach to Materials Design
Z.G. Klencsâr (Lorand Eötvös Univ.) The Local
  State of Iron from 57Fe Mössbauer
  Spectroscopy and Related Methods in Perovskites,
  Spinels and Iron Complex Solutions
Session XI Computer Simulation as Applied to
  Surface Physics (Chair. L. Köver)

Y.Yamamura (Okayama) Computer Simulation
  of Cluster - Solid Interaction
R. Shimizu (Osaka I.T.) Energy Loss Functions
  Derived by Monte Carlo Simulation Analysis
Session XII  High Intensity Laser Physics
  (Chair J.Kanamori)

Y. Kato (APRC Kansai JAERI) Ultra-short Pulse
  Lasers for High-Field Science at APRC
Toshiki Tajima (APRC Kansai JAERI):
  Future Scope of High Field Science  
Special Session Public Lectures
  (Chairs. R. Lovas & R. Shimizu)

J. Kanamori(IIAS) Kansai Area and History of
  Natural Science in Japan
D. Berenyi(HAS) Hungarian Science
  −Past, Present and Future


江尻 宏泰 EJIRI  Hiroyasu
(財)高輝度光科学研究センター 参与
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0954 FAX:0791-58-0955
e-mail:ejiri@spring8.or.jp


大野 英雄 OHNO  Hideo
(財)高輝度光科学研究センター 常務理事
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0954 FAX:0791-58-0955
e-mail:ohno@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794