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Volume 07, No.2 Pages 108 - 111

3. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第2回JASRI-PALシンポジウム
The Second JASRI-PAL Symposium

大熊 春夫 OHKUMA Haruo[1]、鈴木 昌世 SUZUKI Masayo[2]

[1](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門 JASRI Accelerator Division、[2](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 ビームライン・技術部門 JASRI Beamline Division

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1.はじめに
 標記のシンポジウムが1月30日と31日の両日、SPring-8で開催された。第1回のJASRI-PALシンポジウムは1999年12月にPohang Accelerator Laboratory(PAL)で開催されている。今回が第2回目ということであるが、これ以前にも日韓シンポジウムと呼ばれた会議が数回開かれていると聞いている。それらの会議では、日本側からはSPring-8だけでなく、高エネルギー研フォトンファクトリー、岡崎分子研UVSORなどからも出席していた。いずれにしても、これらの会議は韓国側の放射光分野での日本との協力関係を進めたいという強い希望によって開かれてきたものであることは間違いないであろう。日本にとっても最も近い国であり、アジアの中で第3世代放射光施設を持っている国の一つとして協力関係を持つことが大切であることはもちろんである。PAL側からはBaik所長を始め、17名の参加者であった。

2.初日
 PAL一行は朝9:40にIncheon空港を出発して11:05には岡山空港に着くことが出来るという近さのために、SPring-8に到着して昼食後、すぐにOpening Sessionを開くというちょっとタイトなプログラムでシンポジウムは始まった。吉良所長のOpening Remarksは、「上坪前所長から所長を引き継いだばかりであり、放射光とは違う分野が専門であったために、Pohangの放射光施設についても今回始めて認識したような状態である。こんなに多くの人が来られるとは思っていなかった。実り多いシンポジウムになると期待している」というような趣旨の歓迎の挨拶であった。
 続いては菊田副所長から、“Status of SPring-8”の講演があり、最近のSPring-8蓄積リングの性能、運転時間、ユーザー利用など施設の現状についての話の後、幾つかのビームラインでの最近の研究成果についての紹介があった。これに対して、PAL側からはSPring-8で言えば、ビームライン部門長とでも言うべき立場にあるHwa Shik Youn氏から、“Status of the Pohang Light Source”と題した講演があった。組織の話から始まり、Linacと蓄積リングで構成されるPohang Light Source(PLS)の性能、運転時間とトラブル、全体のビームラインの紹介などがあった。年間の運転時間が思っていたより多いという印象であった。ユーザータイムは実績で3800時間(2001年の蓄積リング総運転時間は4955時間)を越えているとのことであった。しかしながら、マシントラブルはちょっと多い。特に、RFに関するトラブルに悩まされていたようである。
 初日のセッションが終わって休む間もなく、PAL側の出席者全員を連れてサイト見学に出発した。中央制御室、高温構造物性ビームライン(BL04B1)、R&Dビームライン(I)(BL47XU)、構造生物学(I)(BL41XU)、そして組立調整実験棟を訪れた。中央制御室では、加速器の運転とモニターシステムなどについて説明をした。COD、サイクル毎の軌道再現性等についての質問があった。講演の中にも出てくるが、PLSでは軌道再現性に苦労しているとの事であった。実験ホールへ移動後、BL04B1では、片山芳則氏(原研)、BL47XUでは香村芳樹氏(理研)、BL41XUでは森山英明氏(JASRI)が各ビームラインの概要と利用研究の成果を説明し、組立調整実験棟では田中隆次氏(理研)が製作中の挿入光源を前に詳細な説明を行った。
 その日に特別食堂にPAL側の参加者全員とSPring-8側の講演者達が集まりReceptionが開かれ、研究者同士の友好を深めることが出来た。

 二日目は午前に利用実験に関するセッション、午後に加速器のセッションが開かれた。プログラムはSPring-8側とPAL側が交互に共通のテーマについての講演を行う形に組まれていた。これは、少しでも多くの共通の話題を議論できたらという考えから行ったことである。以下に、利用実験に関するセッションを鈴木が、加速器に関するセッションを大熊が報告する。

3.第二日目、午前
 シンポジウム二日目の午前中は、途中にブレークを挟んで、利用研究に関する講演が8件行われた。
 鈴木芳生氏(JASRI)は“X-ray Imaging”と題して講演し、sputtered-sliced Fresnel zone plate等の実験的研究を提示して、SPring-8のBL47XU並びにBL20XUに於けるX-ray microbeam及びscanning microscopyの成果を報告した。続いてHwa Shik Youn氏(PAL)は“X-ray Microscopy at PLS”と題して講演し、PLSに於けるX-ray μ-diffraction、hologram、X-ray microscopyの研究成果を紹介して、材料科学、生命科学、医療への利用を議論した。
 片山芳則氏(JAERI)は“High Pressure Studies in SPring-8”と題して講演し、第3世代放射光施設が創生する高エネルギーX線ビームと進展する高圧発生技術との併用の優位性を指摘して、地球、材料、物性、核共鳴等の諸分野に於いて、SPring-8のBL04B1、BL14B1、BL10XU、BL39XU、BL09XU、BL11XUの各ビームラインが達成した最近の利用研究の成果を報告した。Young Ho Kim氏(Gyeongsang National University)は“Material under Pressure”と題して講演し、高圧・高温条件下に於けるPyrite(FeS2)及びCopper Germanate(CuGeO3)の物性に焦点を合わせて、SSRL(II-2)、SPring-8(BL14B1)、NSLS(X17C、X17B1)に於いて実施している利用研究とその成果を紹介した。
 森山英明氏(JASRI)は“Protein Crystallography in SPring-8”と題して講演し、放射光科学に於ける蛋白質構造解析を概観した上で、SPring-8に於いて蛋白質構造解析実験を実施しているビームライン群(BL38B1、BL41XU、BL45XU)を例示して、その設備・機能の詳細を述べると共に、利用研究の成果を報告した。Heung-Soo Lee氏(PAL)は“PLS Macromolecular Beam-line Status and Experiment Results”と題して講演し、PLSに於いて蛋白質構造解析実験に特化して建設されたビームライン(6B)に関して、その経緯、設計概念、光学系、試料冷却装置、検出器、データ収集系の詳細を説明し、整備状況を構造解析の実例を提示して報告した。
 田中隆次氏(RIKEN)は“Undulator Design,Manufacturing,FieldMeasurement”と題して講演し、In-vacuum undulator及びsoft X-ray undulatorを取り上げて、その構造、特徴、製作過程、磁場計測・補正等に関して説明し、先端的なundulator technologyを紹介した。Dong-Eon Kim氏(PAL)は“Current Status of ID Programs at PLS”と題して講演し、PLSに於けるundulator及びwigglerの設計指針を述べた上で、各挿入光源を磁場、X線輝度・強度、beam dynamics等の観点から紹介し現状を報告した。Swiss Light SourceにSPring-8が貸した真空封止undulatorがPLSに来る日を期待して待っていることも述べられた。

4.第二日目、午後
 午後のセッションは加速器がテーマであった。SPring-8側の講演の内容は、別の機会にも耳にすることもあると思うので、PAL側の講演について多めにページを割くことにする。
 まず、最初に“Activity toward Ultimate Beam Orbit Stability at SPring-8”と題して、SPring-8蓄積リングのビーム軌道安定化について、田中 均氏(JASRI)が講演を行った。近年、軌道安定化のために1つ1つ振動の原因を追求して対策を施してきた事例を紹介して、将来的にはサブミクロン領域のビーム安定化を目指していることを述べた。これに対して、Young-Chan Kim氏(PAL)が“Measurement of Dynamic Mechanical Factors Affecting Electron Beam Orbit at PLS”と題して、真空チェンバや電磁石およびその架台の変形変位によるビーム軌道の変動についてのPLSでの現状についての講演を行った。PLSの大きな問題の1つに入射のエネルギーと蓄積のエネルギーが異なり、入射の前後にいわゆるde-ramping/rampingがある。入射をする2GeVと蓄積する2.5GeVで電磁石の励磁量が異なるため電磁石磁極の吸引力の違いによる変形量が異なり、このことによる軌道変動が制御出来ていないようである。もちろん、4極電磁石の再現性などの条件も厳しくなるであろう。Rampingに伴う軌道再現性の問題は、Full Energy Injectorを持たない施設にとっては共通の悩みと言っても良い。台湾SRRCも当初1.3GeVで設計をして、後に蓄積リングの運転エネルギーを1.5GeVに上げたため、スカンジトロニクス社製のブースターシンクロトロンは1.3GeVでしか運転が出来ず、入射後のrampingによる軌道変動に苦しんでおり、どうにかブースターシンクロトロンを1.5GeVにしようと考えていた。バンケットの時にPALのOperation Gr.のリーダーJ.Y.Huang氏に聞いた話では、「Linacは2.3GeVで運転できるので、蓄積リングを2.3GeVで運転することにすれば解決される問題も多いのだが…。」とのことであった。わずか0.2GeVの違いだが、高エネルギー側ぎりぎりのハードX線領域の放射光を利用しているユーザーにとっては認めがたいことなのであろうか。
 次の講演は佐々木茂樹氏(JASRI)による“SPring-8 Storage Ring Beam Position Monitors” で、SPring-8のBPMシステムについて処理回路系を含めた紹介があった。“The PLS Diagnostic System and its Upgrade Activities”と題したSung Joo Park氏(PAL)の講演は、Linacおよび蓄積リングのビーム診断システム全体の紹介の後、蓄積リングBPMの分解能を向上させるために行ってきた平均化やローパスフィルターの導入について述べた。また、ビーム診断ラインでのビームプロファイルの測定や高精度光BPMの試験などの予定についても紹介した。
 中村 剛氏(JASRI)は、“Beam Instabilities Observed in the SPring-8 Storage Ring”と題して、挿入光源の増加によりResistive wall impedanceが大きくなり、そのためにクロマティシティを+7程度にして運転を行っている現状について報告した。また、single bunch運転によるバンチ長とエネルギー拡がりの増大、fast ion trappingの観測などについても報告した。“Beam Instability Studies with the PLS Storage Ring”と題したEun-San Kim氏(PAL)の講演では、PLSは1999年12月まで、instabilityのために設計の蓄積電流を達成出来なかったが、2000年に行った対策により2GeVでは450mAまで蓄積出来たとの報告があった。縦方向のcoupled bunch instabilityの対策のために4つの高周波加速空胴の温度を精密に制御して758MHzの高次モードを逃れ、また、ベータチューン、クロマティシティ、フィリングパターンについての調査を綿密に行い、それらを調整することにより、横方向coupled bunch instabilityとion instabilityに対処した等の説明があった。
 ブレークの後、“Suppression of Coherent Synchrotron Oscillation”と題した大島 隆氏(JASRI)からの講演が行われた。ピックアップ電極のビーム信号と高周波加速空胴のRF信号発生器との位相差を測定してフィードバックを掛けることにより、シンクロトロン振動の振幅を約20dB低下させることに成功した。これによる、ビーム振動の低減に大きな効果があった。Myung Hwan Chun氏(PAL)は“Current Status of the PLS RF System”と題して、PLSのRFシステムの現状と改善についての紹介をした。PLSの加速空胴は単セルフォトンファクトリータイプのもので4台をリングに設置して、2.0Gevで400mA、2.5GeVで200mAの運転に対応できるようにクライストロンのパワーは240kWである。挿入光源の増加を考えるとパワーが不足しており、段階的にクライストロンを増強し、2007年までには5台目の空胴を設置する計画との事であった。また、安定な運転のためにLow Level RF系を新しいものに置き換えた事も紹介された。
 加速器に関する最後のテーマは制御系であった。田中良太郎氏(SPring-8)は、“SPring-8 Control System”と題して、SPring-8全ての加速器が1つの制御システムで構築されていることを強調して述べた。また、蓄積リングに関してはコミッショニング開始の1997年から、その他の加速器は制御系の統一以来、データベースには膨大な各機器の状態やビームに関する情報などが蓄積されており、何時いかなる時の加速器の状態をも直ちに検索できることが述べられた。最後の講演は、“Development Status of the PLS EPICS Control System”と題したJi Hwa Kim氏(PAL)からのものであった。現状のPLS制御系を、信頼性の向上、加速器研究者が簡単に運転データを扱えるようにする等のためにEPICS(Experimental Physics & Industrial Control System)による制御系に改善または交換することを考えて行っている開発状況について報告をした。テストベンチで主電磁石電源のコントローラ、BPMの信号処理などを行っており、今後は2002年中にRF、タイミング、真空などの制御を取り込んで、2003年の終わりまでに制御系のUpgradeを完了する予定であるとの事であった。

5.最後に
 Closing Remarksとして、吉良所長は、特に加速器のセッションで議論が盛んであったのが印象的であったとの感想を述べた。PALのBaik所長は、PALで開いた第1回目のシンポジウムではSPring-8から6人の参加であった。今回PALからは倍以上の研究者が参加した。次回、PALで開くシンポジウムには今回の倍の研究者がSPring-8より参加することを期待していると述べ、このシンポジウムを軸に両研究所の協力関係がより緊密になることを切に望んでいる気持ちを表していた。
 この後、食堂でバンケットが開かれた。写真は、バンケットに先だって撮影されたものである。シンポジウムが多少延びたために、講堂から食堂へ急いで移動して早速撮影したために、遅れてきた参加者が何人か写っていないのが残念である。
 今回のシンポジウムの開催に当たっては、PAL側との連絡、岡山空港への出迎え・見送り、当日の会場準備、プロシーディングスの発行など、企画調査部の松本さん、坂川さん、丸尾さん達の尽力に依るところが大きい。この場をお借りして感謝したい。

 


バンケット会場での記念撮影


大熊 春夫 OHKUMA  Haruo
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 加速器部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-0858 FAX:0791-58-0850
e-mail:ohkuma@spring8.or.jp


鈴木 昌世 SUZUKI  Masayo
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 
ビームライン・技術部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1
TEL:0791-58-1842 FAX:0791-58-0830
e-mail:msyszk@spring8.or.jp



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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