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Volume 06, No.1 Pages 27 - 30

3. その他のビームライン/OTHER BEAMLINES

無機材質研究所専用ビームライン(BL15XU)の現状
Present Status of NIRIM Beamline (BL15XU)

二澤 宏司 NISAWA Atsushi[1]、奥井 眞人 OKUI Masato[2]、八木 信弘 YAGI Nobuhiro[2]、水谷 剛 MIZUTANI Takeshi[2]

[1]無機材質研究所 専用ビームライン事務所 Harima Office, National Institute for Research in Inorganic Materials (NIRIM)、[2]スプリングエイトサービス㈱ SPring-8 Service Co., Ltd.

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1.はじめに
 無機材質研究所専用ビームラインBL15XUは、総合的な材料研究を目的として企画された。BL15XUの特徴は0.5keV〜60keVの広いエネルギー範囲の光を利用できることにある。このため光源には、リニアアンジュレータおよびヘリカルアンジュレータの2種類を切り換える、リボルバー型挿入光源が採用されている。分光器は使用するエネルギーに応じて、回転傾斜配置二結晶分光器(>2keV)と平行平板配置二結晶分光器(<2keV)を切り換えて使用する。尚、ビームラインの構成については参考文献[1,2] を参照されたい。
 ビームライン建設は’99年5月に着工され、同年12月にはリボルバー型挿入光源の両フェイズの最初の発光を確認した。’00年に入り、第2サイクルで最初の光通しを完了し、その後、光学ハッチおよび実験ハッチの放射線漏洩検査も順調に終了し、第4サイクル後半からコミッショニング作業を開始した。夏の休止期間中にインターロック2000への仕様変更、分光器上流側に水冷機能付可動型Be窓の追加などの改造を行っている。
 本稿では、先行して立ち上げを行っている傾斜配置二結晶分光器光学系および粉末回折計の現状について紹介する。

2.傾斜配置二結晶分光器光学系の現状
2-1.  傾斜配置二結晶分光器

 BL15XUの分光器はBragg角72°までをカバーするため、第一結晶と第二結晶のオフセットを100㎜としている。また、標準分光器と異なり、第一結晶と第二結晶が独立したθ軸を持ち、さらに第一結晶ユニットがY軸上を並進移動する構造となっている。この条件により、第一結晶と第二結晶の干渉は避けられるものの、分光器自身が大型化し、制御軸も標準分光器とは異なる仕様となっている。[1,2] 分光結晶には標準分光器と同仕様のピンポスト冷却Si結晶を用いているが、導入予定のSi結晶と同ロットの結晶に水漏れ事故が多発していたため、夏前までは実績のある旧型結晶を借用して光学系の調整を行った。この間に信頼性の高い結晶が入手できたため、夏の休止期間を期に新結晶に交換し現在に至っている。以下で紹介するデータは第8サイクル以降で得られたものである。
 現在リニアアンジュレータ挿入光源との組み合わせで、傾斜配置二結晶分光器はSi(111)面を反射面として4keV〜20keVまでの単色X線を取り出すことが可能である。分光器の制御はビームラインのPC(Windows NT)からVisual Basicで作成したソフトにより行っており、エネルギーとアンジュレータギャップの連携駆動まで可能である。

2-2.  スペクトルの強度分布
 図1に、新結晶で得られたアンジュレータギャップ値24.762㎜時(基本波エネルギー6keV)の強度スペクトルの測定結果と計算の比較を示す。図は蓄積電流100mAあたりの光子数に規格化して示してある。フロントエンドスリットの開口は0.3×0.3㎜で、イオンチェンバーで測定したX線強度を窓材の吸収および空気散乱などの補正を行うことにより、実験ハッチ内で得られる光子数を求めた。電子ビームのエミッタンスを7nm・radとしたときの計算値(実線)とも良い一致を示している。尚、ロッキングカーブの半値幅から見積もった分光器のエネルギー分解能はΔE/E〜1×10−4である。X線強度は夏前と比較して、約数倍向上している。これは、新結晶の性能によるところが大きい。 
 
 
 
図1 BL15XUのX線強度スペクトル。リニアアンジュレータ使用時。


2-3.  ビームサイズと定位置出射
 図2に第8サイクルの1mA運転時に実験ハッチ内に設置した(第二結晶中心から〜11.5m下流)ビームモニター上で観測したビーム形状を示す。フロントエンドスリットの開口は1.0×1.0㎜、エネルギーは18.9keVである。ビームサイズは、縦〜1㎜、横〜3㎜の綺麗な長方形であることが確認された。標準分光器に比べて、横方向のサイズが大きいのは、第一結晶と第二結晶のオフセットが100㎜であることに起因していると考えている。 
 
 
 
図2 1mA運転時に実験ハッチ内に設置したビームモニター上で観測したビーム形状。


 現状、5keV〜20keVのエネルギー範囲では出射位置の横方向のずれは約1㎜に収まっているが、5keV以下では急激にずれ量が拡大され、4keVでは約2㎜ずれる。これもビーム形状と同様に第一結晶と第二結晶のオフセットが100㎜と大きいため、横方向の拡大率が標準分光器に比べて増大しているためと考えている。加えて、Y軸の移動幅が4keV〜20keVでは約400㎜にもなるため、Y軸リニアガイドのピッチングおよびヨーイング特性の影響も大きく、ピッチングについてはΔθ軸の微調整で吸収できるが、ヨーイングについては吸収しきれていないためと考えている。また、傾斜配置の特性上5keV以下ではX線は斜出射となるため、X線の出射方向に対する屈折率の影響が大きくなることも原因の一つと考えている。

2-4.  基本特性の評価
 分光器は独立したθ1、θ2およびY軸を制御関数で連動させる計算結合型であるため、それぞれの軸の再現精度の重ね合わせが分光条件の位置再現性となって現れる。ここでは、分光器の基本特性として位置再現性およびエネルギー校正曲線の評価結果を紹介する。
 位置再現性の評価は、Cu K吸収スペクトルを10回測定し、それぞれのスペクトルの吸収端エネルギーを統計処理することにより行った。尚、測定はΔθ軸を9keVで微調整したパルス位置に固定して行った。その結果を表1に示す。正規標準偏差(σn)、母標準偏差(σn−1)共に1秒で、標準分光器と遜色のない高精度の分光が可能であることが確認された。

表1 BL15XU分光器繰り返し位置再現精度 
 
 
 
 図3に純度金属薄膜の吸収スペクトルから求めた吸収端のエネルギー値と基準値[3]とのずれを比較したエネルギー校正曲線を示す。基準値からのずれは現在分光可能なエネルギー領域に対して、分光器の位置再現性およびエネルギー分解能の精度内に収まっていることが確認された。 
 
 
 
図3 分光器のエネルギー校正曲線。図中、Ti Kなどのラベルは吸収端を縦軸はそれぞれの基準値からのずれを示す。


3.粉末X線回折計
3-1.  立ち上げ状況

 粉末X線回折計は超伝導セラミクスなどの結晶構造をより精密解析することを目的にしている。装置は高エネ研Photon Factory BL04Cに設置されている虎屋ゴニオ[4]を基本にして設計制作されている。試料台はキャピラリ用および平板用(面内回転機能付き)が用意されている。測定は対称反射モード(θ−2θスキャンモード)および非対称反射モード(入射角固定2θスキャンモード)に対応している。
粉末X線回折装置の立ち上げは第7サイクルに開始され、新結晶でのビームスタディ終了後の第10サイクル後半から無機材研内部の実験課題を進めながら本格的な運用を視野に入れたマシンスタディを行っている。第7サイクルでは、回折計の機械的な基本動作を確認の他、8keVのX線でSi粉末標準試料を用いた角度精度、分解能などの基本性能の評価を行った。第10サイクル以降では高エネルギーのX線を利用した場合の基本特性の評価に重点を置いたマシンスタディを進めた。一例として、17.5keVのX線で得られたCeO2粉末(NIST 標準試料)の回折パターンを図4に示す。全角度領域で良好なSN比および角度分解能が得られている。 
 
 
 
図4 CeO2粉末(φ0.3mmキャピラリ)の回折パターン。X線のエネルギーは17.5keVである。


3-2.  今後の予定
 今後、性能向上のために以下の改良を予定している。’01年第一サイクルから改良に着手し、実験課題と平行してマシンスタディを行う予定である。
(1)高計数率への対応
 現状では検出器にNaI(Tl)シンチレーションカウンタを用いているが、図4からもわかるように反射強度の強い試料では、リニアリティの限界に近い。高エネルギーの検出効率を高める目的も兼ねて、YAP(Ce)シンチレーションカウンタを導入する。
(2)高分解能化
 より高分解能測定を可能にするために、長尺ソーラースリットおよび結晶アナライザを導入する。
(3)SN比の向上化
 現状で入射側のみに設けられている真空パスを、2θ軸カウンタアームにも設置し透過X線の空気散乱によるバックグラウンドの低減を図る。加えて、入射スリット系も散乱を抑えた構造に改良する。

4.終わりに
 筆者らは放射光施設での実験ステーションの立ち上げ、実験経験はあるものの、ビームラインの立ち上げに関してはほとんど未経験で当然のことながら全くの素人から始めることとなった。なかでも、平行平板結晶の光学系に慣れた者にとっては回転傾斜配置の光学系は敷居が高く、Δθ軸の微調整とともにビームが横方向に移動することは想像もつかないことであった。このため、調整作業で観測したデータが正しいかどうか判断できないことが頻繁に発生した。光軸調整をしている時間よりも、データを抱えて経験豊かなスタッフの方々を訪ねて自転車でホール内を右往左往する時間の方が遙かに長い時期もあった。そんな素人質問にもかかわらず、利用系、光学系グループをはじめとするスタッフの方々には実験の合間に時間を割いてまでデータに対するコメント、調整法に関するアドバイスや資料を提供して頂いた。また、分光器の制御ソフト作成にあたっては制御グループの方々には、相当無理なお願いをしたり、有益なアドバイスを頂いた。改めて、スタッフの方々に感謝いたします。
 SPring-8の発生するX線は想像もつかないほど強力で、筆者らにとっては未知との遭遇と言えるものであった。夏前までは経験の無さを克服するために経験を積むことで精一杯であった。改めて、経験を積むという当たり前のことが大切であることを痛感した。最近になってようやく、ビームライン独自でビームスタディ、マシンスタディができるようになり、その手法も独自性を出せるようになってきた。今後、早期の利用運用を目指して行きたい。
 回折計の立ち上げに協力していただいた無機材研 池田卓史博士、また、ビームラインコンポーネントの技術サポートを頂いたメーカーの方々に感謝いたします。

参考文献
[1]吉川英樹、二澤宏司、福島 整:SPring-8利用者情報 Vol.5 No.1(2000)33.
[2]S.Fukushima,H.Yoshikawa : SPring-8 Annual Report 1998(1999)92.
[3]J.A.Bearden : Rev.Mod.Phys., 39(1967)86.
[4]虎屋秀穂:理学電機ジャーナル 28(1977)1.



二澤 宏司 NISAWA  Atsushi
無機材質研究所 専用ビームライン事務所
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1 
SPring-8内BL15XU
TEL・FAX:0791-58-0223
e-mail:nisawa@spring8.or.jp

奥井 眞人 OKUI  Masato
スプリングエイトサービス㈱
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1 
SPring-8内BL15XU
TEL・FAX:0791-58-0223

八木 信弘 YAGI  Nobuhiro
スプリングエイトサービス㈱
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1 
SPring-8内BL15XU
TEL・FAX:0791-58-0223

水谷 剛 MIZUTANI Takeshi
スプリングエイトサービス㈱
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町光都1-1-1 
SPring-8内BL15XU
TEL・FAX:0791-58-0223



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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