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Volume 05, No.6 Pages 401 - 408

4. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

SRI 2000報告
Report on SRI 2000

植木 龍夫 UEKI Tatsuo[1] 、原 徹 HARA Toru[2] 、田中 隆次 TANAKA Takashi[2] 、斎藤 祐児 SAITOH Yuji[3] 、矢橋 牧名 YABASHI Makina[4] 、鈴木 芳生 SUZUKI Yoshio[4] 、鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro[4] 、山本 雅貴 YAMAMOTO Masaki[5] 、鈴木 昌世 SUZUKI Masayo[6]

[1](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 JASRI Research Sector、[2] 理化学研究所 播磨研究所 RIKEN Harima Institute、[3] 日本原子力研究所 関西研究所 JAERI Kansai Research Establishment、[4](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 JASRI Research Sector、[5] 理化学研究所 播磨研究所 RIKEN Harima Institute、[6](財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 JASRI Research Sector

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はじめに(植木)
 SRI'97(放射光装置技術国際会議,1997)で3年前には大変忙しい日々を過ごしたことを思い出します。SPring-8の10月からの供用をひかえて、加速器の忙しさは言うまでもなく、ビームラインの立ち上げ調整にSRI'97が重なったにも関わらずみなさんには大変なご協力をいただきました。で3年、SRI2000がベルリンで開かれることとなったのですが、前回の会議がSPring-8の設計などが中心で、生きたデータを示すことが出来ずに悔しい思いもしたことを思い出します。
 700名をこえる参加者をベルリン工科大学に迎え、SRI2000(第7回)は8月21日から25日の間開かれました。20日夜には登録と"Get Together Party"があったのですが、JASRIからの参加者はベルリン到着が夜遅かったとか飛行機の遅れもあって21日が初日だったようです。開会の挨拶の中で、日本からの出席者が事前の登録で179名と紹介され、JASRIからの出席者が30名をこえることは承知していたのですがやはりびっくり。
 会議の内容は後のお話ででてくるのでしょうが、ベルリン工科大学と共にBESSYが主催ですから、我々から見ると会議は少し軟らかい放射光の分野が強調されていたようです。SPring-8からの報告は、原研、理研、JASRIからの参加者やユーザーが報告した研究開発の成果は、招待講演1件、口頭発表10件およびポスター発表が84件数えられました(数え方によっては少し数字が変わりますが)。ビームライン建設が一段落して、この会議がSPring-8の完成度を世界に示す機会となったようです。3年後の第8回会議(SRI2003)はSSRL(スタンフォード)とALS(バークレー)が共催してサンフランシスコで開かれることとなりました。SPring-8も第三世代放射光施設の特徴を生かした開発研究が問われる会議となりますので、先端施設の新しい利用のための開発研究を押し進めていくことが施設者側のスタッフのみならず共同利用研究者にも求められることとなります。
 最後になりましたが、会議とは別に、ベルリンですからドイツのビールを「1メートル」飲んだことや骨付きのハムを楽しんだ1週間でもあったことを付記いたします。


挿入光源(原、田中)
 挿入光源関連の報告はオーラル5件、ポスター25件であり、前回に比べて発表件数は減少している。また、オーラル、ポスターのいずれにもESRF、APSの発表がなく、やや拍子抜けであった。
 初日のオーラルセッションは、SRI2000のホストであるBESSY ⅡのBahrdt氏の発表で始まった。内容はBESSYにおける挿入光源の現状報告が中心で、BESSY独自の設計を採用した準周期アンジュレータや、直線部にタンデムに配置した2台のAPPLE Ⅱアンジュレータと、チョッパーを用いた偏光方向スイッチングシステムなどの報告があった。また、あらゆる偏光状態を作り出せるAPPLE Ⅱアンジュレータを現在製作中であるという話も聞かれた。磁場調整では、寸法精度と各磁石単体の磁場測定データの向上により、磁石配列の最適化のみでプラナーアンジュレータで2°、APPLE Ⅱアンジュレータで3°のフェーズエラーを達成している。
 続いて北村氏は、2000年秋から運転が開始される25m長尺真空封止アンジュレータと、現在開発中のリボルバー型真空封止ミニポールアンジュレータを中心に、SPring-8での挿入光源開発計画について報告した。開発中のミニポールアンジュレータの全長は1.5mで、4つの磁石列(周期長6mm〜20mm)を光のエネルギーによって切り替えて使用することができ、SPring-8に設置すれば100keV以上の光をアンジュレータでカバーできる。また25m真空封止アンジュレータの完成は、SASE型FELにも必要な長い挿入光源を、真空封止型であれば分割せずに製作できることを証明した。最後にSPring-8における、C-バンドLINACと真空封止ミニポールアンジュレータを用いた、SASE計画の紹介があった。
 その後講演は、台湾SRRCのHwang氏が液体ヘリウムフリーの超伝導技術の開発、MAX研究所のWalle′n氏による49ポールの超伝導ウィグラーの開発についての報告が行われた。
 セッションの最後は、立命館大学で開発中の21MeVテーブルトップ硬X線光源の現状を山田氏が発表した。これは、制動放射を用い低エネルギービームで硬X線を発生させるものである。現在入射効率など、システムの性能向上を行っているとのことであった。
 2日目のポスターセッションではSPring-8、BESSY Ⅱ、SRRC(台湾)、PLS(韓国)などの既存の施設の他、Swiss Light Source、HiSOR、New SUBARUといった比較的新しい施設からの報告があった。内容としては、挿入光源現状・計画11件、光源計算6件、超伝導光源3件、新型光源・手法2件、測定手法4件であった。これらの中で特に興味深かったのはSSRLのRowen氏らの、円偏光ヘリシティの高速切り替えの新手法であった。この方法では、ヘリシティの違う2つのヘリカル(楕円)アンジュレータをタンデムに置き(ここまでは従来の方法と同じ)、付加的に設置した(アンジュレータと同周期の)電磁石により1次光のエネルギーをモノクロメータのバンド幅から外れる程度に低エネルギー側にシフトさせ、左右どちらかの円偏光だけを実験ステーションに導くという手法を用いている。電磁石によるピーク磁場の典型的な値としては300G程度必要とのことであった。これは、我々のグループで開発を進めている、非対称8の字アンジュレータによる円偏光スイッチングと同程度の電磁石磁場であり、ESRFで行われている電磁石ヘリカルアンジュレータによるスイッチングよりも渦電流などの影響が少なくて済むのではないかと思われる。
 全般的な印象としては、挿入光源の現状、計画に関する発表が多かったと感じている。ただ、現状報告だけではなく、光源の評価(磁場特性、運転時の影響、光特性)についても言及しているものが多数あり興味深かったが、スペースの都合上、十分な説明がないものも見受けられた。また、今回のSRIではSASEに基づいた第4世代光源の話がちらほらと出始めており、挿入光源でも第4世代光源に向けた長尺アンジュレータの話が聞けるかと期待していたのだが、特に詳細な報告はなかった。


軟X線光学素子・ビームライン(斎藤)
 本カテゴリーでは、初日(8月21日)午後の後半の「Mirrors and Gratings」、2日目午後の前半の「VUV- and Soft X-ray Beamlines」、3日目午前の「Spectroscopy」のオーラルセッションと、2日目午後のポスターセッションにて発表が行われた。
 「Mirrors and Gratings」のセッションではヨーロッパを代表する回折格子メーカーであるCarl Zaiss社(ドイツ)及びJobin Yvon社(フランス)からの招待講演が有った。Carl Zaiss社のNellesらは、同社の機械切り(ブレーズ型)及びホログラフィック(ブレーズ型及びラミナー型)回折格子の溝形状、粗さ等の製作及びAFM等による評価の現状について発表し、ブレーズ型回折格子においても溝形状のシャープさという点でホログラフィック製法が有効であること、また、最終表面コーティングにおいてはion assist蒸着により、粗さを0.5 nm程度に抑えることができる事等が示された。Jobin Yvon社のJourdainらは、ホログラフィック製法によるラミナー型非等間隔溝刻線平面回折格子の製作現状が報告された。同社では、溝刻線パラメーター、デューティ比及び溝深さの最適化(設計)、高い精度での基盤及び溝加工等が可能であり、さらにVUV領域でのパフォーマンスを示した。
 「VUV- and Soft X-ray Beamlines」のセッションでは、Follath はBESSY Ⅱで新しく採用したコリメート型SX700分光器(BESSY ⅡでPGMといえばこのタイプの分光器を指す)のパフォーマンスをU125ビームラインで得られた結果を中心に報告した。本ビームラインは、光エネルギー64eV(He 2p3d共鳴線)で10万、400eV(N2 1s-π*)で1万数千、更に530eV(O2 1s-π*)でも振動構造が分離できており1万程度のエネルギー分解能(E/ΔE)が達成されている。数年前であれば、酸素分子の1s-π*(530eV)の振動構造が分離できるビームラインが非常に少なかったのであるが、BESSY Ⅱではもはや常識の様である。それ以上のエネルギーでの分解能評価にについては、残念ながら発表されなかった。更に光エネルギーの再現性を強調し、光エネルギーに対しそのズレは10−4程度であることが示された。この分光器は、可変偏角型であり、エネルギー走査は回折格子の回転と直前の平面ミラーの連動が必要であるが、その2軸それぞれの角度を超高真空中のロータリーエンコーダーにて直接読んでいる。平行ビームを回折格子に入射すること及び高い精度での光学素子の位置制御により、SX700型分光器の性能が一気に向上したと言える。
 Chung等はSRRC(台湾)の楕円偏光アンジュレータビームラインのパフォーマンスについての講演を行った。採用されているドラゴン分光器のエネルギー分解能は高く、O2 1s-π*の振動構造が分離できており、更に870eV(Ne 1s)でもエネルギー分解能1万程度が得られていることを示した。更に、利用実験ではスピン分解光電子分光と内殻光吸収磁気円2色性が行われており、それらの結果より円偏光度は300eVで95%以上、700eVで50%程度であること等が報告された。
 Weissらは、BESSY ⅡのUE56アンジュレータビームラインの分光系パフォーマンス及びMCD測定試験の結果の報告を行った。分光系は前述のコリメート型SX700が採用されており、U125PGMをわずかに上回る分解能が達成されていた。さらに、このビームラインの最大の特徴は、2台のAPPLE型可変偏光アンジュレータをタンデムに配置し、それぞれから左右円偏光を光軸をずらして発生させ、分光後の光を試料表面の同じ位置に導き、回転式チョッパーで試料に照射している光の偏光の向きを反転させる事によりMCD等の測定が計画されていたことである。本方式によるMCDの試験測定がFe箔を試料に行われ、第一段階としては満足される結果が得られており、ビームラインの整備が順調に進んでいるように思われた。
 「Spectroscopy」のセッションのSuga(阪大)の招待講演では、SPring-8の最初の軟X線ビームラインBL25SUの分光器のパフォーマンス及び高分解能バルク敏感光電子分光の成果が発表された。本ビームラインは、高熱負荷から逃れる事及び円偏光利用実験の重要性という両方の観点から採用されたKitamura(SPring-8)型ツインヘリカルアンジュレータ、高いエネルギー分解能及び高フラックス達成のために設計されたHettrick-Underwood型非等刻線間隔平面回折格子分光器(VLSPGM)及び利用実験ステーションで構成されている。講演では、本分光器でカバーされる0.2〜1.8keVの全範囲で10000以上、特にNe 1s吸収端(870eV)では最高20000のエネルギー分解能が比較的低刻線密度の回折格子を用いて実現されていることを示し、さらに、強相関系物質の電子状態の研究における1keV程度以上のエネルギーの放射光を用いた高いエネルギー分解能の光電子スペクトルの測定の重要性を強調した。
 2日目午後のポスターセッションでは、本カテゴリーでは50件を越す発表が有った。前回と比べると、ビームライン評価に関する発表が非常に多く、BESSY Ⅱ、MAX Ⅱ、PLS、HiSOR、そしてSPring-8等の新しい放射光施設において、数多くのビームラインの調整及び評価が進んでいた。さらに、その他の施設でも新設又は移設ビームラインの発表が有り、VUV-軟X線分光器の分解能評価のための気体の吸収スペクトルがポスター会場の一角にずらりと並んでいたのが印象的である。射入射分光器では、新旧SX700型、ドラゴン型、VLSPGM等がそのビームラインでの利用目的(又は伝統?)によって採用されている様であった。全体的には、100eV以下のVUV領域ではBESSY ⅡのPGMが、500eV以上ではSPring-8のVLSPGMの性能が群を抜いており、その中間領域ではPGM、VLSPGM、BESSY ⅡのSGM(可変偏角型球面回折格子分光器)、台湾のドラゴン分光器がほぼ同程度(気体の吸収スペクトルでは違いがはっきりしないぐらいに性能が良い)という状況である様に感じた。


結晶光学、X線ビームライン(矢橋)
 “Crystal and Crystal Optics”のセッションでは、A.Freund(ESRF)により、硬X線光学素子の最近の研究のreviewが行われた。コヒーレンスを破壊しないためには、窓材、ミラー、結晶等の光学素子に関して、良質な表面が要求される。このため、イオンビーム照射によってミラー表面のスロープエラー、ラフネスを低減させる技術が紹介された。第4世代X線光源も睨んだ高熱負荷光学系として、ダイヤモンド結晶または20Si結晶の低温冷却が有効であろうという提言がなされた。DeBerrs製のダイヤモンド結晶のトポグラフが紹介されたが、結晶性は良くなかった。D.P.Siddons(NSLS)により、高エネルギー領域での非弾性散乱実験用光学系が紹介された。ブラッグ・ラウエケースのベント結晶の組み合わせにより、20keV以上の領域でもハイスループットが得られることが特徴である。結晶のベンディングのテスト結果が紹介された。Yu.V.Shyvd'ko(Unversitat Hamburg)により、背面反射光学素子の紹介が行われた。対称性の低い結晶を用いることで、背面反射特有の多重回折の影響を避けることができる。現在のところサファイヤ(Al2O3)結晶が最も優れた性能を示している。20keV以上の高いエネルギー領域へのアプローチも紹介された。
 “Hard X-ray Beamlines”のセッションでは、E.E.Alp(APS)により、非弾性散乱X線スペクトロメータの発表が行われた。Nested channel-cut 配置の高分解能光学系を20 keV以上の領域に拡張するため、4枚の反射面を独立に制御する機構が発表された。しかし、従来の対向型ゴニオメータのデザインを引きずっているため、冗長なメカニズムの印象を受けた。A.Erko(BESSY)により、SiにGeをドープすることにより格子定数を変化させた結晶を用いた分光器が紹介された。40”以上の広い発散角をもつ入射光に対して、通常のSi220反射を用いた場合と比べて2倍以上の高いスループットが得られた。ただし、トポグラフでは、サブミリオーダーの成長縞が観察されている。また、P.Petrasherf(SLAC)の口頭発表でも紹介されたように、この結晶をベントさせることで、レンズとして用いることもできる。A.Baron(SPring-8)により、SPring-8のBL35XUの紹介がなされた。ビームラインの概要、アナライザー結晶、新しいデザインの高分解能分光器の紹介と、盛りだくさんの内容であり、普段の倍くらいの早口での発表であった。また、聴衆の外国人にとってなじみがないであろうSPring-8ビームラインの建設システムを、OHPシート1枚で見事に説明していた。J.Hoszowsak(ESRF)により、熱負荷がかかった際の結晶歪みの解析が発表された。Takgi-Taupan方程式と、ANSYS等の熱解析コードを組み合わせることにより、シミュレーションが行われた。このときの最大熱負荷は、全パワー75W, パワー密度45W/mm2と、SPring-8の標準アンジュレータビームラインより1桁程度小さい値であるが、計算と実験結果はよく一致していた。両者とも、熱歪みにより、ロッキングカーブが低角側にテールをひくのが特徴的である。
 “Imaging and Coherence”のセッションでは、C.Chang(ALS)により、波長30.4nmにおける、ヤングの2重スリットによるコヒーレンス度測定が発表された。測定されたコヒーレンス長は計算値より若干短く、この原因を光学系の収差に求めていた。A.Snigirev(ESRF)により、コヒーレントイメージングの最近の研究のレビューがなされた。屈折コントラスト、マイクロトモグラフィ、キノフォルムレンズ等の多数の実験結果が紹介された。T.Ishikawa(SPring-8)により、SPring-8のコヒーレント光学ビームラインの紹介がなされた。19LXU、29XUL、40XU等の特徴的なビームラインの詳細とともに、ÅFELの計画も紹介された。特に後者が聴衆の関心をひいた。A.Momose(Univ. of Tokyo)により、広い視野をもつX線干渉計の開発が紹介された。大型のSkew型干渉計と、分離型干渉計の2タイプが紹介された。また、4k×4kのピクセル数、10×10µm2のピクセルサイズをもつ、大面積CCD検出器の開発も行われている。


マイクロビームと顕微鏡(鈴木芳生)
 マイクロビームOpticsに関して前回までのSRIとの大きな違いは、硬X線領域でのサブミクロン分解能があたりまえになってきたことと、一時期はやっていたX線キャピラリーがまったく無くなっていたことである。特に、6年前に50nm分解能を公称していたコーネル大学のグループが今回キャピラリーとは言いながら一回反射の回転楕円反射鏡を作って数ミクロンのマイクロビームを生成し、回折実験等への応用を試みていたのが印象的であった。今までの繰り返し反射のキャピラリーと比べて、ワーキングディスタンスが3cm程度と長く、ゲインも上がっている。また、ブラッグフレネルレンズも以前ほどは重視されていない。これらのOpticsでは実用上の問題が大きいからではないだろうか。キャピラリーではワーキングディスタンス(光学素子と試料の距離はほぼゼロにしなければならない)、ブラッグフレネルレンズではエネルギー可変性(不可能ではないが、光軸が変わる)に問題がある。これに対して、今回脚光を浴びていたのは屈折レンズである。マイクロビームでは、一次元方向だけとは言いながら、ESRFから0.4µmの集光ビームサイズ(25keV)が報告されている。また、屈折レンズを用いた結像顕微鏡ではSPring-8から同じく0.4µmの分解能(18keV)が報告されていた。フレネルゾーンプレート、積層型ゾーンプレート、全反射ミラーOptics等も着実に進歩しており、トップデータは屈折レンズやブラッグフレネルレンズと同等である。集光効率(いわゆるGain)に関しては、屈折レンズは全反射鏡に比べると桁違いに低いのが事実であるが、ESRFからの発表では一切無視されていた。原理的には全反射鏡がもっとも優れたものであるはずであり、今後の進展が期待される。
 第三世代光源が動き出してから従来より高エネルギーのマイクロビームが試みられるようになったことも特徴的である。5〜6年前までは、8keV前後(Cu Kα線!)のエネルギーが中心であったが、今は例えば屈折レンズでは20keV前後での利用が中心である。さらに、積層型FZPを用いた場合は80keV以上の高エネルギー領域でもマイクロビームが生成されている。(しかし、こんな高エネルギーのマイクロビームを何に使うんだろう?)
 軟X線顕微鏡ではゲッチンゲン大学からの60nm分解能のCTが注目されていた。キーになる技術は、FZPを使った結像顕微鏡以外に試料のクライオ技術、および位置ずれを補正する画像処理である。試料はガラスキャピラリー(直径10µm、管壁の厚みが0.4µm!)に封止して、急速凍結し、液体窒素温度下で観察する。CTの回転ステージにnmオーダーの精度はないので(せいぜいµm程度らしい)、予め金微粒子を位置マーカーとしてキャピラリーに付着させておき、これを基準点として画像補正を行っているそうである。このグループでは、単なる軟X線顕微鏡技術だけでなく、位相差顕微法、放射線損傷を避けるためのクライオ法、ステレオ投影の立体視、等々10年以上かけて着実に技術開発を進めてCTによる三次元軟X線顕微鏡に至っている。たいしたものである。


磁性・偏光利用(鈴木基寛)
 磁性関連の装置では、光電子顕微鏡(Photoelectron emission microscope,PEEM)や走査型X線顕微鏡を用いた磁気イメージングの報告が目立った。Microspectroscopy のセッションでは、ALSのS.Anders らによる、PEEMを用いた反強磁性磁区観察についての報告があった。彼らは3d遷移金属元素のL吸収端におけるX線磁気線二色性(X-ray Magnetic linear dichroism, XMLD)とPEEMを組み合わせることにより、エピタキシャル磁性薄膜(Co/LaFeO3/SrTiO3)の面内磁区構造を20nmの空間分解能で観測した。この研究の手法的な特色は、XMLDを用いることにより反強磁性体(LaFeO3)の磁区構造を観察したことである。これは、これまでのXMCDを用いた強磁性磁区観察とは異なる。もう一つの特色は試料選択の巧みさである。用いた試料はExchange biasを示す反強磁性-強磁性膜である。エピタキシャル磁性膜の反強磁性磁区の大きさはバルク試料の磁区に比べてはるかに小さく、中性子回折、X線トポグラフィ、あるいは光学的な手法のいずれも空間分解能が不足する。PEEMの高空間分解能を生かし、100nm程度の大きさを持つ磁区構造のイメージングを実現した。さらに、Fe L吸収端のXMLDイメージングだけでなく、Co L吸収端の XMCDイメージングを用いて強磁性磁区を同時に観察することにより、Co/LaFeO3 界面における強磁性-反強磁性磁区構造の強い相関を明らかにした。TEMの結果と比較することで、これらの共通の磁区構造は crystal-lographic structure に関係するという結論を導いた。講演の最後に、現在 ALS では高時間分解能を持つ PEEM-Ⅲを開発中であるとの報告があった。シングルバンチ運転と組み合わせて時間分解測定を行い、磁区ダイナミックスのイメージングを行う計画があるということである。
 もう一つの PEEM を用いた磁気イメージングの報告は、Max-Plank研究所のW.Kuchらによる、スピンと軌道モーメントの選択的イメージングであった。彼らのXMCD-PEEM 装置はSPring-8 BL25SU に立ち上げられた。装置性能のデモンストレーションのために、Cu(001)基板上にエピタキシャル成長させたCo/Niのダブルウェッジ試料についての結果が示された。CCD上の個々のピクセル(370×370nm)についてNi L2,3 吸収端のMCDスペクトルを測定し、sum ruleを適用することで面内方向についてスピンと軌道モーメントのマッピングが行われた。その結果、CoとNi層の厚さの変化に応じて、モーメントが面内から面に垂直な方向に再配列することが明らかになった。さらに、モーメントの向きの変化に伴い、スピンと軌道モーメントの大きさの比が変化していることが示された。これは、Ni層の磁気結晶異方性と軌道磁気モーメントの相関によるものと説明された。
 Multilayers and variably polarised SR experiments のセッションでは、BESSYⅡに立ち上げられた、可変偏光アンジュレータビームラインからの報告が2件あった。ひとつは、A.Ranck と E.Kiskerらによる、軟X線走査型顕微鏡を用いた磁気イメージングである。彼らは Fe M4,5 吸収端における横磁気カー効果(transverse magnetic Kerr effect,T-MOKE)を利用し、ゾーンプレートによりビームを集光することにより、パーマロイの矩形ドットの磁気イメージングを1µmの空間分解能で行った。ストライプ状に多数配置されたµmオーダーの大きさの矩形ドットのそれぞれについて磁気ヒステリシスループを測定した。矩形の形状(アスペクト比)やストライプ中の位置によってヒステリシスループが変化し、保磁力も大きく変化することが示された。
 ふたつめは、BESSY の H.-Ch.Mertinsらによる遷移金属 L吸収端での ファラデー回転(FR)の測定である。磁化されたCo、Fe/Niフォイルに直線偏光を入射し、透過光の偏光状態をW/B4C 多層膜アナライザーによって調べた。その結果、±90°以上の巨大な FR が観測された。FRの入射角依存性、磁場依存性などが示された。さらに、FRのスペクトルはそのKramars-Kronig共役であるMCDスペクトルとよく対応する結果が得られた。この巨大FRの応用として、磁性薄膜に交流磁場をかけることにより透過光の直線偏光の方向を切り替える、polarization modulatorが提案された。可視光領域でのファラデーセルに相当するものであるが、回転角が90°以上というのが特長である。これにより、軟X線領域での偏光変調MLD測定の可能性が開かれた。
 放射光を用いた磁性研究は、空間分解および時間分解の方向へ確実に向かっていると感じた。PEEM を用いた磁気イメージングは空間分解能において他の多くの顕微的手法を凌駕し、さらに元素選択性や偏光といった放射光の特性を活用した応用研究が可能となった。最初に紹介したALSのグループの研究は、装置開発と応用がうまく噛み合った例であろう。装置開発の段階でも効果的な応用研究を意識し、放射光以外の分野の科学や工学にインパクトを与えるような装置および実験方法の開発が重要であると改めて感じた。


タンパク質結晶構造解析(山本)
 タンパク質結晶構造解析関連では、今後の大きな方向性の1つとして、ポストゲノムとしての大規模迅速構造解析を目指した構造ゲノミックスに関する発表が見られた。また、本会議のイベント講演として初日の晩にノーベル賞受賞者のR.Huber(Max-Planck-Inst.)により“Protein crystallography at the interface of chemistry, physics and biology”のタイトルで特別講演が行われた。C.Nave(CLRC Daresbury Lab.)はタンパク質結晶構造解析に最適な光について、ビームサイズ0.1mm、発散角1mrad、エネルギー分解能10−3(多波長異常分散法10−4)の位相空間内のフラックスを最大化することが、測定データ精度を上げるために重要であり、今後増加が予想される巨大分子の微小結晶サンプルには、アンジュレータを光源とすることが最適であると発表していた。さらに、構造ゲノミックス成功のためには、回折強度測定・解析の自動化が不可欠とのことだった。構造ゲノミックスにむけての第一歩として、DORISのビームラインBW6の自動化についての地道な取り組みをD.Kosciesza(Max-Planck-Inst.)が発表した。また、アメリカでの構造ゲノミックスプロジェクトの1つとして、P.Kuhn(SSRL)はSSRL、ALSと西海岸の構造生物学研究グループによる共同プロジェクトJoint Center for Structural Genomicsの紹介を行った。このプロジェクトではSSRLは迅速結晶構造解析の部分を担当しており、それに向けてのビームラインの新規建設も含めた自動化やソフト開発を進めているとのことであった。検出器関連では、E.M.Westbrook(Molecular Biology Consortium)は現在蛋白質結晶構造解析において、最も有効であると考えられているモザイク状CCD検出器開祖の一人として、同検出器の特質について主にイメージングプレートとの比較により解説した。その中で、モザイク状CCD検出器の最大の問題点として大面積化とコスト高による限界をあげて、半導体ピクセル検出器だけでなくレンズ結合型CCD検出器の可能性について言及していたのは意外であった。
 また、Free Electron Lasers関連のなかで、B.Sonntag(Univ. Hamburg)が、self-amplified spontaneous emission(SASE)によるFELについての講演を行い、DESY(Hamburg)のTESLAプロジェクトのTest Facilityにおいて、2月に109nmの波長においてSASEを確認したとの報告があり、最終日のホットトピックスでもR.Treuch(HASYLAB)により報告されていた。その講演の中で、構造生物学への応用についてはJ.Hajdu(Uppsala Univ.Sweden)らが今夏科学誌Natureに発表した論文を引用して、3.8×106photons/Å2の超高輝度光は、数フェムト秒の単一露出によるX線ダメージから蛋白質分子の構造崩壊をもたらすが、単分子ないしは数個の分子からなるクラスターの散乱限界シュミレーションから数フェムト秒の露出により分子構造が得られる可能性があるとの報告が印象的であった。


時間分解実験(田中義人)
 時間分解実験については、初日のオーラルセッションおよび2日めのポスターセッションで発表があった。
 オーラル発表は5件で、扱った時間領域はフェムト秒からミリ秒までと幅広いものであった。このセッション中、最速レンジを扱ったR.W.Schoenleinの発表では、パルス幅約300fsのX線発生法が紹介された。ALSの蓄積リングにて、ウィグラー中で電子バンチとこれに同期させたフェムト秒レーザーを同軸方向に相互作用させることにより電子ビームにエネルギー変調をかけ、下流の偏向磁石により変調部分からの放射を取り出して超短パルス放射光を得たことを発表した。コヒーレントな遠赤外光を取り出す話にまで発展させたが、まだ議論の余地がありそうだ。P.A.Heimannは、超短パルスレーザーで誘起したInSbにおけるコヒーレントフォノンをX線回折で観測したデータを披露した。ストリークカメラで決まる測定系の時間分解能は2psで、周期数十psの強度変化が報告された。A.Oelsnerは放射光のパルス時間構造を利用する光電子顕微分光用TOF-PEEM(Time-of-Flight Photoemission Electron Microscope)を紹介。CCDの代わりに遅延線を用いた空間、時間(500ps)分解能をもつ電子検出器の開発について報告した。B.P.Tolochkoは、爆発過程におけるnsからµsの時間スケールの現象を放射光によりプローブする斬新な計画を発表した。R.Zaeperはピエゾアクチュエーターによる二結晶分光器の高速掃引(10 ms)法を紹介した。
 ポスターセッションでは1〜100 msの時間分解能が得られる表面界面用X線反射計(R.F.Garrett)や小角散乱装置(T.Narayanan)の他、特定バンチからの放射光パルスを取り出すために開発された、ゲート幅100ps、繰り返し900Hzの回転式チョッパー(B.Lindenau)等が紹介された。
 これらの発表の他にも、4日めの“Two-Color Experiments”のセッションで、短パルスレーザー励起−放射光プローブの時間分解測定についての発表があった。光電子分光法を用いて、レーザー照射時のSi 2p状態のエネルギー広がりとシフトを観測し、相互相関をとった例(T.E.Glover)や、時間分解赤外分光用のレーザー同期システム(G.L.Carr)等が紹介された。
 時間分解実験関係の発表全体から受けた印象は、その内容は幅広く、未だ流行している特定のターゲット・系がないということである。こうした状況の下、様々な趣のある発想が披露されたが、それらが実現可能か、どのように発展していくか今後が楽しみである。


検出器(鈴木昌世)
 X線検出器に関する発表は、主として、第2日目の午後に行われた“Detector(Oral Session)”と“Poster Session 1 Detectors”に集められた。“Detector(Oral Session)”では、冒頭、Molecular Biology ConsortiumのE.M.Westbrookが登壇し、“Segmented CCD Detectors for Protein Crystallography”という演題で基調講演を行った。同講演は、2次元配列型CCDX線検出器に関して、X線光子数、読み出しノイズ、ピクセルサイズ、系統誤差を議論し、現在同検出器の空間分解能は50µmに達していることを強調すると共に、今後の課題として、データー収集系の高速化、ピクセルアレイ検出器への移行、レンズ型CCDX線検出器の可能性を指摘するものであった。続いてLawrence Livermore National Laboratoryの S.Friedrichらが“A Superconducting Detector Endstation for High-Resolution Energy-Dispersive SR-XRF”という演題で講演を行った。超伝導下にあるNb-Al-AlOx-Al-Nb多層構造結晶を用いて、STJ(Superconducting Tunnel Junction)タイプのX線検出器を実現した例が報告された。Coopier対の生成エネルギーが数ミリeVと、通常のe-h対背性エネルギーに比較して3桁程度低いために、良好なエネルギー分解能が期待され、実際に、12.8±0.2eV(FWHM)、8.1±0.2eV(FWHM)の成果が報告された。また、理化学研究所のY. Nishiらは、“Development of a High gain MicroStrip Gas Chamber with a Conductive Capillary Plate”という演題で講演を行った。従来、MicroStrip Gas Chamberを用いて高い電子増殖率を安定に維持することは困難とされてきたが、導電性を有するキャピラリー・プレートを電子増殖の前段機構として用いることで解決の計られることが報告された。実験的に電子増殖率3000倍が確認され、105 cps/mm2の高計数率下においても安定に動作することが示された。さらに、高輝度光科学研究センターのM. Suzukiらが“A YAP(Ce)Imager Operated in High Energy X-ray Region”という演題で講演を行った。高エネルギーX線への高速応答が期待されるYAP(Ce)シンチレーター素子の2次元配列構造を用いて、50keV以上の領域で動作する新しい高速X線画像検出器が紹介され、R&Dの成果が報告された。最後に登壇したM. Kochは“Improving Readout System for Position Sensitive Gas Detectors − the PASERO Project”という演題で講演を行い、Time-to-digital converter、40MHz throughput、gaseous electron multiplier、wire-to-wire detection mechanism、closed-delay-line method等のキーワードを並べたが、会議プログラムの誤りにより、講演に混乱を生じたのは残念であった。“Detector(Oral Session)”に引き続き行われた“Poster Session 1 Detectors”には24件の発表があった。個別の紹介は割愛するが、その内訳はMicroStrip Gas Chamber, Ion Chamber, Gas Electron Multiplier等のガス検出器関係で8件、microstrip Germanium detector, superconducting detector, silicon drift chamber, silicon pixel array detector, photodiode, avalanche photodiode等の半導体検出器関係で7件、イメージング・プレート及び2次元配列型CCDX線検出器関係で4件、ストリークカメラ等フェムト秒領域検出器が2件、polarimeterが1件、multiple detector systemが1件、データー収集系関係が2件であった。




植木 龍夫 UEKI  Tatsuo
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原 徹 HARA  Toru
理化学研究所 播磨研究所
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田中 隆次 TANAKA  Takashi
理化学研究所 播磨研究所
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斎藤 裕児 SAITO  Yuji
日本原子力研究所 関西研究所
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矢橋 牧名 YABASHI  Makina
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鈴木 芳生 SUZUKI  Yoshio
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鈴木 基寛 SUZUKI  Motoharu

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山本 雅貴 YAMAMOTO  Masaki
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鈴木 昌世 SUZUKI  Masayo
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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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