Volume 05, No.5 Pages 348 - 349
6. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
EPAC2000に参加して
EPAC2000 Report
EPACのPACとは、Particle Accelerator Conferenceの略称であってProgram Advisory Committeeのことではない。EPACのEは勿論欧州(Europe)を指す。元祖PACが1年おきに米国で開催されており、対抗するEPACは間を埋める様に隔年で欧州において催される。(加速器)業界ではPACとEPACが年間を通しての一大イベントと言うところで毎回多数の参加者で賑わうが、今回のEPACはミレニアムを記念してか音楽の都ウィーンで6月26日から30日まで開催され700名を越す参加者を数えた。SPring-8から参加した某氏は、年に一度の晴れ舞台と機上したころには既に興奮状態にあり、偶々隣に座り合わせた医学生相手にポスター発表を始める始末で、展開したポスターにジュースをこぼしスチュワーデスを動員して拭いてもらうなど大騒ぎだった。
プログラムは、口頭発表が初日と最終日は1セッション、その他の日は平行して2セッションが朝9時から16時まで(但し最終日は昼まで)行われ、その後最終日を除いてポスター発表が18時まで続くというものだった。この様にタイトなスケジュールである為、ポスター発表では説明のためポスターに張り付いていなければならないこともあって僅か2時間では興味ある話すら説明を聞きに行く余裕がなかった。幸いPAC、EPACに関しては電子出版システムが進んでおりproceedingsのインターネット上(http://accelconf.web.cern.ch/accelconf/e00/)の閲覧が部分的には早くも(平成12年8月1日現在)出来るので、詳細に興味がある方はそちらの方を覗いて頂きたい。
以下、口頭発表を中心に会議の概要を感想も交えてトピック的に紹介する。発表の分類の主なものを示すと、
・Lepton Accelerators and Colliders
・Large Hadron Accelerators and Colliders
・Linear Colliders, New Modes of Acceleration, Advanced Concepts
・Synchrotron Light Sources and FELs
・Accelerator Technology
・Beam Dynamics and Optics
などなど。加速器と言えば高エネルギー実験と言う印象は拭えないが、放射光関係の比重も増して来たことも事実であると思う。
その高エネルギー実験の分野で今最もホットな競争を繰り広げているのはKEKBとPEP-ⅡのB-Factoryであろう。B-Factoryは電子陽電子衝突型リング加速器で、衝突によって中性B中間子を生成しCP Violationの精密測定を行うことを目的としている。B-Factory加速器の特徴は、生成された中性B中間子の飛行時間差を観測するので電子エネルギーと陽電子エネルギーにasymmetryを持たせていることと、rare eventを対象にするのでluminosityを稼ぐ為にhigh currentであるということである。前者を達成する為B-Factoryの加速器は電子用と陽電子用のダブルリングになっている。B-Factoryではその蓄積電流値がhigh currentである為様々な不安定性が起こっているようであるが、bunch by bunchフィードバックに依って抑え込まれているようである。但し、陽電子リングでは放射光で叩き出された光電子雲との相互作用によるbeam blow upが問題になっているとのこと。光電子雲効果を抑制する為C-york磁石を直線部真空槽に装着し光電子を真空槽壁面近辺に吸引する工夫をしているとのことであるが、陽電子ビームがlong trainになるとシュミレーションから期待される程の効果がなかったとのことで、ソレノイド電磁石の導入を予定しているとの報告があった。B-Factoryのhigh current運転の経験は放射光リングの高電流化に資するものがあるのではと思われる。
高エネルギー実験分野でもう一つのトピックスはnutrino factory用muon sourceあるいはmuon colliderのmuon加速器である。円形加速器で電子を加速するには放射損失から既にLEP辺りでエネルギー的には限界に来ており、高エネルギー化の次の進展として放射損失のないlinear colliderを採用することが取り沙汰されているが、もう一つのオプションとして円形加速器において電子の代わりに静止質量の大きいleptonであるmuonを用いることが考えられる。加えてK2K(KEK to Kamioka)プロジェクト(KEKでµ-nutrinoを生成して大規模nutrino検出器のある神岡鉱山に向けて打ち込むというもの)でニュートリノ振動が確認されつつあるというニュースが伝わって以来、muon加速器が注目を集めるようになっているようである。CERN(欧州)で生成したnutrinoをアメリカや日本に向けて打ち込むというような壮大な話をしていたが、加速器物理の観点からは目新しいものは見られなかった。
素粒子の標準理論検証実験に供され永らく電子陽電子衝突型リング加速器の最高峰に位置していたLEP(Large Electron Positron Collider)が、LHC(Large Hadron Collider)に道(トンネル)を譲ってシャットダウンになることから、その歴史を振り返って“Twelve Years of Beam in LEP”というタイトルの講演があった。ビール瓶がリングの中に入っていた話やTGVの運行がビーム軌道に影響を及ぼすことなどLEPで起こったことを面白可笑しく披露していたが、流石に加速器屋の揃っているCERNは色々なことをやっているようで、エネルギーのアップグレードで低下するluminosityを改善するため放射減衰係数のコントロールまでしているとのことだった。方やLHCの方は建設が始まるのでR&Dの成果など数多くの発表があった。LHCの加速器では超伝導電磁石が用いられるが、これを開発する技術力には目を見張るものがあった。
放射光関係のトピックスとしてはDESYのTTF(TESLA Test Facility)FEL(Free Electron Laser)におけるSASE(Self-Amplified Spontaneous Emission)の発振が挙げられる。第4世代光源のターゲットはX線レーザーと目されているが、この波長領域ではミラーを用いる共振型FELでは発振が困難なので、1 passで発振するSASEが有望視されている。SASE FELでは発振による電子ビームの品質低下が激しい為、電子ビームドライバーとして蓄積リングの代わりに線型加速器が採用される。発振波長の短波長化に伴いFELゲインは減少し、電子ビームのスペックに対する要求は厳しくなるが、基本技術を同じくするlinear collider開発と相俟ってX線領域のFELが視野に入ってきたようである。今回TTF FELの発振波長は109nmだったが、2期計画では利用に供することを目的とした軟X線FEL施設を建設する予定があるそうである。また、トリエステのELETTRAで進められていたUV/VUV Ring FELプロジェクトも、稼働中の施設で時間が取れないにも関わらず順調に進展して、350nm、引き続き220nmでも発振したとの報告があった。
その他放射光関係の発表では、ALSにおいてダイナミックアパーチャーを広げることを目的にオプティクスの対称性を回復する努力を重ねていたことが目に付いた。ESRFでは、精密温度調整などRFシステムの改善によりfull fillでもビームを蓄積できるなど以前より安定にビーム運転ができるようになって来たとのことで、ビーム不安定性のスタディなどが系統的に進められるようになっていた。また同施設ではコミッショニング以来エミッタンスのカップリング補正を続けて来たが、今回の会議でこれに関して口頭発表があり、この補正過程で数台の6極電磁石に大きな(〜500µm)アライメント誤差があることが判明し並べ直したとのことだった。
さて、冒頭で述べた某氏が機上する前から興奮状態にあったのには訳がある。昨年のPACで我々が発表したSPring-8蓄積リングの垂直エミッタンスの評価に関して欧州大型放射光施設の加速器屋達から当を得ない批判を受けたからである。その論文は電子ビーム電流密度とビーム寿命の関係を使い水平垂直振動の結合度から推定した垂直エミッタンスの正当性を主張するものだったが、彼等は同施設においては水平垂直振動の結合度、ビーム寿命が垂直エミッタンスを反映しないからとの理由で我々の結果を認めようとしなかった。SPring-8の垂直エミッタンスがあまりに小さいのでこの1年も直接測定は成らなかったが、昨夏垂直エミッタンスを補正する為に導入されたスキュー4極電磁石を利用して得られた更に確固としたデータを携えて、某氏は彼の加速器屋達を説得すべくEPACに参加したのだった。今回は彼らも我々の評価法の正当性に納得し、某氏は同施設で同じマシンスタディを行う約束まで取り付けてきたのであった。
高雄 勝 TAKAO Masaru
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