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Volume 05, No.3 Pages 221 - 222

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第3回SPring-8利用技術に関するワークショップの報告(その2)
A Brief Report on the 3rd Technical Workshop for SPring-8 Utilization (Part-2)

河合 潤 KAWAI Jun

京都大学大学院 工学研究科 Department of Materials Science and Engineering, Kyoto University

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 表記のワークショップが2000年3月8日〜9日にかけてSPring-8管理棟講堂と蓄積リング棟A中央2階会議室で行われました。はじめに管理棟講堂で全体会議が行われ、松井懇談会長の挨拶の後、上坪研究所長から長直線部を使うための磁石の再配列などが2000年夏にあることやそのための運転スケジュール、改造作業の日程、ビームラインの今後の長期的な建設計画などについて説明がありました。
 坂田幹事から、SPring-8ワークショップとシンポジウムの違いについて、後述するような興味深い説明があり、続いていつのまにか鬚をはやした植木利用促進部門長から、最長3年有効の実験課題募集が始まる予定であるなどのアナウンスがありました。その後、分析・高圧地球科学・生物・軟X線光セッションに分かれたワークショップが行われ、私は分析セッションに参加しましたので、主にその報告をさせていただきます。
 実は今回のワークショップに関する連絡が、分析セッション担当の早川さん(広大)から廻ってきたとき(1月13日)、e-mailの件名が『SP-8シンポジウム(WSは誤りです)』となっていました。あまり注意して件名を見ないので、多分それ以前の連絡はWSとなっていたのでしょう。その後正式のプログラムが掲載された「ワークショップ開催のお知らせ」が郵送されてきましたので、ワークショップかシンポジウムか、揺れ動いていたことになるわけです。坂田懇談会幹事の説明を一言でまとめると、ワークショップはSPring-8ユーザーに蓄積された最新・独創的な技術情報の交換の場であり、シンポジウムは施設側の報告である、ということのようです。たしかに手元の辞書(Oxford Advanced Learner’s Dictionary)によると、ワークショップは「工場」以外の意味としてperiod of discussion and practical work on a particular subject,when a group of people share their knowledge and experienceとあります。また、OEDには、A meeting for discussion,study,experiment,etc.,orig.in education or the arts,but now in any field;an organization or group established for this purposeとあります。下線部に書いてありますように、ユーザーグループがノウハウを共有する点がワークショップの目的として重要なようです。大型加速器では、こうした目的でしばしばワークショップが開かれますが、われわれユーザーは、いつのまにか本来の意味がわからなくなっていたようです。X線分析の分野でもワークショップがあります。デンバーX線会議(毎年8月に米国デンバー市またはその近郊のスティームボートスプリングスやアスペンなどのリゾートで開催される蛍光X線とX線回折分析の国際会議)では、アカデミックな会議とは別に、ワークショップと題する分野別の講習会(OEDの説明するところのeducationに重点があるようです)が開催されます。「○○年から××年に製造された△社の回折計は試料ホルダーの面から50µm奥がゴニオの回転中心になっているので、他の測定データと比べるときには注意せよ」などという実際的なノウハウの共有が目的です。
 話がそれてしまったので、分析セッションの報告からいくつか印象に残った発表を列挙します。

●広大の早川慎二郎さんは微小・微量分析の例として、富山医科薬科大の高川 清さんが用意したラットの腎臓の低濃度(〜ppm)カドミウム分布測定について、美しいカラー分布図を示しました。カドミウムは電池にも最近まで使われていましたので、生体中のカドミウムの挙動は古くて新しい研究課題です。


●金材研の桜井健次さんは全反射蛍光X線による集積回路のマイクロマッピングを示したのが、今までに無い新手法として印象的でした。


●東京理科大の寺田靖子さんは、硬X線蛍光分析が、砒素中の微量不純物金属の分析ばかりではなく、応用範囲が広いことを示しました。今後も環境や医学など人類の生存にかかわる重要な分析データが測定されて行くことが期待できました。


●阪大の渡辺 巌さんは全反射XAFSによる溶液表面の化学種の動的な分析に関して発表しました。溶液表面の測定は低濃度分析に相当すると考えられます。今までは想像によって、溶液中のイオンの様子が教科書にイラストとして出ていましたが、今後は実際に測定することにより教科書が書きなおされてゆくことでしょう。


●筑波大の渡辺紀生さんは様々なタイプのX線顕微鏡を要領良くまとめて説明した後、開発中の結像型X線顕微鏡について発表しました。人間は目で見ることによってはじめて理解する動物ですから、スペクトルよりも顕微鏡による3次元物質情報の可視化という方向へと、SPring-8における分析研究が進んでいるように感じました。


 今回の分析セッションでの発表はありませんでしたが、京大のエクテサビさんが発足させた新サブグループ「脳機能研究会」[1]では、局所・微量分析技術による神経細胞の分析を目指しており、ワークショップの目的とする分析技術の共有は重要なことであると考えられます。今後多くの研究者が、SPring-8における分析のノウハウを共有し、応用が広がると期待できました。
 最後に蛍光X線ホログラフィー研究に関する我々の発表について一言触れておきます。SPring-8供用開始直後のX線は今よりも安定していたように感じています。その後加速器側の改善は進みましたが、蛍光X線ホログラフィー測定にとっては、残念ながら、必要なだけのX線の安定度を得られていません。図1は、1999年後半に測定した蛍光X線強度の角度異方性です。入射光強度と蛍光X線強度が連動して変化しているのがわかります[2]。これはサンプルへ入射するX線が何らかの原因で数分程度の周期で強度変化していることを示しています。この変化幅は数%ですが、蛍光X線ホログラム測定では1桁小さい変化を抽出する必要があります。今後SPring-8におけるX線ビームの更なる質の向上を期待したいと思います。 
 
 
 
図1 入射X線の不安定性を示す測定データ。銅単結晶を回転させながら測定した蛍光X線強度(上)と入射光強度(下)。
 点は実測、実線は移動平均による平滑化を行ったデータ。方位角1度ごとに1秒計数した。回転に要する時間も必要なため、方位角0度から360度のデータは、約20分間の変動の記録とみることができる。入射光強度は、イオンチャンバー電流計測のゲイン設定ミスのため十分な連続性が無いが、平滑化したデータの変動は、蛍光X線の変動と良く対応している。



参考文献
[1]エクテサビ アリ:SPring-8利用者情報、Vol.5,No.2(2000)128〜129.
[2]佐井 誠、河合 潤、林 好一:X線分析の進歩31(2000)75.

河合 潤 KAWAI  Jun
京都大学大学院 工学研究科 材料工学専攻
〒606-8501 京都市左京区吉田本町
TEL:075-753-5442 FAX:075-753-4861
e-mail: jkawai@process.mtL.kyoto-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
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