Volume 04, No.4 Pages 16 - 19
4. 原研・理研・R&Dビームライン/JAERI・RIKEN・R&D BEAMLINE
産業界専用IDビームライン(BL16XU)の現状
Present Status of Industrial Consortium ID Beamline for Materials Research
㈱日立製作所 基礎研究所 Advanced Research Laboratory, Hitachi, Ltd.
- Abstract
- Beamline BL16XU at SPring-8, together with its sister beamline BL16B2, was designed and constructed by an industrial consortium of 13 companies to characterize various materials developed for industrial purposes. The main experiments are fluorescence X-ray analysis and X-ray diffraction using X-ray beam of several tens-µm to sub-mm size. Optics for several-µm X-ray beam will also be available for characterization of sophisticated thin film devices and new fine structured materials.
1.はじめに
産業界専用IDビームライン(BL16XU)は、産業界専用BMビームライン(BL16B2)とあわせてSPring-8に建設された専用ビームラインである。1998年5月に着工、10月に基幹設備(アンジュレータ、フロントエンド、輸送部、ハッチ等)が完成して調整を開始し、また、同時に実験設備(蛍光X線分析、X線回折、マイクロビームの各装置)を設置・調整して、1999年5月末に一通りの調整作業を終えたところである。2本の産業界専用ビームラインの建設利用の母体である「産業用専用ビームライン建設利用共同体」(13社で構成、JASRIが事務局)については、すでに本誌(SPring-8利用者情報誌Vol.2,No.4,p.18)に述べられているので、ここでは、上記の基幹設備と実験設備の概要と現状について述べさせていただくことにする。
本ビームラインBL16XUの主な利用目的は、BL16B2と合わせて産業界の基幹事業を支える電子・磁気デバイス材料、エネルギー関連材料、機能性構造材料、等の評価解析を行い、製品の性能向上と新規材料の創生等に資することである。ビームライン利用は、各社利用あるいはグループ利用の調整を13社で行い、また、装置の整備・改良も施設側と連携を取らせて頂きつつ計画的に進める予定になっている。
このビームラインの特徴は、
(1)標準型アンジュレータより磁石周期長を長くし、長波長ビームを出し易くしたこと、
(2)輸送部にレーザーとナイフエッジを入れ光軸調整を容易にするとともに、収束ミラーの収束位置にピンホールを置きマイクロビーム用仮想光源としたこと、
(3)光学ハッチと実験ハッチがBL16B2のそれらと一体構造であり(仕切りの遮蔽壁はある)、限られたスペースで2本のビームラインが利用可能となっていること、
(4)実験ハッチに3つの実験装置を配置し、各社持ち込み装置を設置する余裕も設けたこと、
等である。図1に実験ホール内の全体図を示す。つぎに、概要と現状を述べる。
図1 BL16XUの全体図
2.基幹設備
2. 1 装置概要
表1に実験ハッチでのX線ビームの特性を示す。光子エネルギーは電子デバイス材料等に含まれるTiのK吸収端エネルギー(4.97keV)をカバーするために4.5keVからとしている。そこで、アンジュレータの周期長を標準型の32mmより長くし、40mmとした。これにより、低光子エネルギー領域でのフロントエンドへの熱負荷が軽減され4.5keVからの光子を利用可能としている。従って、フロントエンドのマスク、アブソーバ等の耐熱機器等はすべてSPring-8標準機器が使われている。
表1 BL16XU実験ハッチでのX線ビーム特性
輸送部は、一部を除きSPring-8標準機器を用いている。主な機器である単色器は、SPring-8標準の回転傾斜型二結晶単色器を用い、反射面はSi(111)面である。光子エネルギーは4.5〜40keVの範囲である。現状、施設側から借用した結晶を搭載してビームを出している。
単色器下流に設置した収束ミラー(母材はSi結晶、反射面はCr下地Rh膜、寸法は1m長さ×10cm幅)は、円筒形状を光軸方向に反らせてトロイダル形状にしたものであり、実験ハッチ内のピンホール位置に2次元集光が可能である。ミラーを退避させれば単色器からのビームをそのまま実験ハッチに導けるが、ミラー下流のビームパスを上下動させる必要はない。また、収束ミラーへの入射角(視射角)は5mradであり、Rh反射面の全反射により〜14keV程度の光子エネルギーまで使用可能、かつ4.5〜13.5keVのエネルギー領域で3次光以上の高次光除去が可能となっている。
ピンホールはX線ビーム取り出し用Be窓の直下流にあり、固定サイズのピンホールを交換する方式である。下流の実験装置用真空ダクト、あるいはHeパスと接続が出来るようになっている。
光学ハッチと実験ハッチは、図1に示すように、BL16B2のハッチと一体となっており、BL16B2光学ハッチからの避難、装置の移動等が可能な構造となっている。
2. 2 調整状況
基幹設備の調整の初期にはFCSやDSS不具合によるビームアボート、単色器内部での漏水等があったが、その後安定した運転状況で推移している。図2は実験ハッチ内のイオンチャンバーで測定したアンジュレータスペクトルである。正確な強度の校正は行っていないが形状は概ね計算値を再現している。表1に現状達成されているX線ビームの基本特性をまとめて示す。収束ミラーによる2次元集光サイズは期待される値より約1桁大きい。理由の特定は今の所難しいが、単色器の影響やミラーの曲げが理想的でないこと等が考えられる。高次光除去の効果は認められる。
図2 アンジュレータスペクトル(計算結果(SPECTRAプログラムによる)はリング電流値100mAの場合。)
3.実験設備
図1のBL16XU実験ハッチ内の上流から、蛍光X線分析、X線回折、マイクロビーム形成評価の3装置をタンデムに配置している。各々の概要と現状を述べる。
3. 1 蛍光X線分析装置
薄膜、ウエハー、バルク等の材料の組成分析や微量分析、不純物分析を行うために、高感度蛍光X線分析装置を設置している。図3に装置概要を示す。特徴はつぎの通りである。
(1)波長分散、およびエネルギー分散型の両方式の検出器を備えていること、
(2)真空中で、通常法、直入射斜出射法、全反射法の測定が可能であること、
(3)4軸自由度の試料台に、12インチウエハーまで搭載可能であること。
図3 蛍光X線分析装置
装置全体は、架台(1m×0.7m)の上に入射コリメーター、I0モニター、試料室、分光結晶/検出機構、半導体検出器、ロードロック室、出射モニター、および簡易クリーンブースが配置されている。制御ソフトはLabViewベースの専用ソフトを使用している。
現状、通常の蛍光X線分析に加えて、全反射法による微量分析が可能である。入射ビームの試料照射領域は1mm程度である。全反射法による検出感度は、エネルギー分散測定においては市販装置を凌いでおりノイズレベルも極めて低い。
3. 2 X線回折装置
薄膜、粉末、バルク等の材料の構造評価を行うために、縦型の角度分散X線回折計を設置している。図4に装置概要を示す。特徴はつぎの通りである。
(1)薄膜回折、粉末回折、等を主目的に、汎用的な利用も考えて設計されていること、
(2)全体は、定盤(1.2m×1.2m)に載せた入射部と回折計で構成され、回折計は、ω−2θ垂直ゴニオメーター、ω軸ゴニオ上の試料台、2θアーム上のアナライザー用ゴニオ、受光スリット、シンチレーション検出器からなること、
(3)ω軸ゴニオ上の試料台は並進3軸、回転3軸(内あおり2軸)の自由度があり、位置決め、試料走査等が可能であること。
図4 X線回折装置
ω軸の移動分解能は0.045秒/パルス、2θ軸は0.36秒/パルスである。制御ソフトは、BL09XUの依田先生のグループで開発されたLabViewベースのソフトウエアを利用させて頂いている。
現状、(1)に述べた測定が行われ、また数十ミクロン角の入射ビームを形成して特定の回折線の2次元走査測定の結果も得られている。
3. 3 マイクロビーム形成評価装置
微細加工材料などの組成・構造を評価するために微小なX線ビームを形成し、点分析やイメージング測定を行うことを目的としている。図5に装置概要を示す。特徴は以下の通りである。
(1)ピンホールを仮想光源とし、ピンホールサイズ選択により集光サイズ可変であること、
(2)微小X線ビーム形成用集光ミラーはKB配置の2枚の楕円筒面ミラーであること、
(3)試料は10nmステップで2次元走査でき、透過顕微法、分光顕微法、等が可能であること。
図5 マイクロビーム形成評価装置
装置全体は、1.5m×1.2mの定盤上に入射4象限スリット、I0モニター、集光ミラー、試料台で構成されている。集光ミラーの母材は溶融石英、反射面はCr下地Rh膜である。定盤上には、半導体検出器、シンチレーション検出器、イオンチャンバーがセット可能であり、検出器からの信号を取り込みながら2次元走査によるイメージング測定が可能となっている。
現状、数ミクロン角のX線ビーム形成は比較的容易に行うことができ、また(3)に述べた測定も可能となっている。
4.おわりに
昨年10月のインターロック検査に始まったビームライン調整作業の結果、3つの実験装置が「なんとか使えそう」なレベルにたどり着いたと思われる。どう使うかは本報告の範囲を越えてしまうが、しかし、まだ多くの技術課題(単色器結晶の最新バージョン品への交換、機器・ソフトの整備等も含めて)が残っているので、当面使い方に幾つかの制約が付くのは仕方がないであろう。一日も早く、各社から成果が出るように装置を使いこなして行きたいと考えている。
最後に、日頃ご指導頂いている上坪所長、植木部門長、および立ち上げ・調整にご協力いただいたSPring-8スタッフの皆様、神戸製鋼所の古川行人氏(現JASRI)に誌面をお借りして深く感謝致します。また、蛍光X線分析装置の調整にご協力頂いた理学電機工業㈱の庄司 孝氏にも感謝の意を表します。
平井 康晴 HIRAI Yasuharu
㈱日立製作所 基礎研究所
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