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Volume 04, No.3 Pages 50 - 52

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

医学利用偏向電磁石中尺BL20B2の建設について
Construction of Medical and Imaging Application R&D BL20B2

梅谷 啓二 UMETANI Keiji、鈴木 芳生 SUZUKI Yoshio、八木 直人 YAGI Naoto

(財)高輝度光科学研究センター 実験部門 JASRI Experimental Research Division                                        

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1.はじめに
 偏向電磁石ビームラインBL20B2は、SPring-8で初めての中尺ビームラインであり、医学利用実験施設の実験棟まで、光源から約200mの長さを有している。写真1に実験棟と研究棟から成る医学利用実験施設と、輸送パイプ長屋根の全景を示し、図1に実験棟のレイアウトを示す。
 BL20B2の全長は、ESRFのメディカルビームラインID17の144mを抜き、今のところ世界一の長さである。医学利用実験施設には、3本の中尺ビームラインが計画されており、BL20B2が最初で、続いて2本目はアンジュレータビームラインBL20XUの建設が予定されている。
 BL20B2は中尺の偏向電磁石ビームラインであるため、医学利用実験施設において水平方向で、最大300mmのビームが利用可能である。垂直方向は約20mmであるが、垂直方向へのビーム拡大により、均一な大断面積の単色X線ビームが利用できる。
 BL20B2では医学診断や基礎医学での研究や、硬X線領域における各種のイメージングの研究に、共用ビームラインとしての幅広い利用が予定されている。医学利用の研究では、屈折コントラスト、位相コントラスト、微小角散乱コントラスト、単色X線CTなどによる画像診断や、血管造影での基礎医学的研究などが想定されている。
 イメージングの研究では、大断面積平行ビームを利用した回折イメージングや、空間コヒーレンスの良さを生かした可干渉X線の利用実験などが想定される。さらに本ビームラインは、今後予定される中尺や長尺ビームライン建設のためのR&Dにも使用される。  
 
  
 
図1 医学利用実験施設・実験棟のレイアウト   
 
 
 
写真1 中尺ビームライン屋外部全景
 
2.ビームラインの概要
 BL20B2では、写真2に示す蓄積リング棟内に、光学ハッチと実験ハッチ1がある。実験ハッチ1からは、直径40cmで全長150mの輸送パイプが、医学利用実験施設まで延びている。輸送パイプは、長さ400cmの真空パイプと、長さ50cmのベローズが交互に配置された構造であり、これらは全て鉛シールド付きである。
 医学利用実験施設の生物照射室には、光源から200mおよび206m位置に、写真3に示す実験ハッチ2および3がある。実験内容に応じて、これら3種類の実験ハッチの使い分けが可能となっている。
 光学ハッチ内は、標準的な偏向電磁石ビームラインの構成であるが、BL01B1やBL02B1と異なり、ミラーがないため光学ハッチの全長が短い。光学ハッチ内には、標準型2結晶分光器があり、5〜100keVのエネルギー範囲の単色X線が利用可能である。
 各実験ハッチにはXY方向の移動レールが装着された定盤があり、レール上には各種のゴニオメーターや移動機構が装着されている。また、ゴニオメーターや移動機構は、定盤上の複数のレール間で容易に移動可能であり、多くのユーザーの実験に対応した各種の配置が可能となっている。 
 
  
 
写真2 蓄積リング棟内の配置  
  
 
 
写真3 医学利用実験施設の生物照射室
 
3.建設の経過
 ビームライン建設は、平成9年4月の概念設計の開始から、詳細設計・入札・発注を経て、平成10年5月から、蓄積リング棟と医学利用実験施設でのハッチ建設や、輸送パイプ長屋根の建設が平行して進められた。
 これらの完成後に夏の長期休止期間から、フロントエンド部を含めてビームラインコンポーネントの組立が行われた。11月にはインターロック系がほぼ完成し、その後は平成11年2月からコミッショニングサーベイを行い、続いてビームラインの立ち上げを進めた。
 
4.利用研究について
 医学利用研究においては、他の研究分野とは異なり多くの利用者は、実験装置にあまり詳しくない。そのため、重要な研究分野をいくつか決めて、必要な実験装置を施設者側で開発するというプロジェクト的な研究体制が必要となる。また、将来臨床研究を行うためには医学利用研究の評価を行う評価委員会や、安全性・倫理性を検討する委員会も必要となる。
 これらを段階的に行うために、まず医学関係者や放射光関係者が集まった「SPring-8医学利用研究検討会(座長:阿部光幸 兵庫県立成人病センター総長)」にて、ビームラインにおける医学利用実験のための装置開発として、当面3つ(血管造影、CT、イメージング)の3年程度のプロジェクト研究がスタートすることになった。
 これらは,いずれも共同利用実験に供するための実験装置とソフトウェアを開発するのが目的であるが、完成した装置の使用を希望する研究者の参加も可能となっている。このため、平成11年3月に、SPring-8の医学利用実験に関わる装置開発への参加募集が実施された。
 なお、BL20B2については、並行して共同利用実験の課題募集も行われるが、こちらは他のビームラインの課題募集と同じ趣旨で、一般の共同利用課題を募集するもので、プロジェクト研究ではないため注意をお願いしたい。
 各プロジェクトの詳細は以下のとおりである。なお、BL20B2は、現在のところ摘出標本及び動物実験専用となっているため、これらのプロジェクトで開発する装置も、臨床試験を対象としたものではありません。 
 

(1)血管造影
・プロジェクトリーダー:梶谷文彦(川崎医科大学)
・検討会からの参加者:盛英三(東海大学)、宇山親雄(国立循環器病センター)、安藤正海(高エネルギー加速器研究機構)、中村仁信(大阪大学)、井上俊彦(大阪大学)、平岡真寛(京都大学)
・その他の参加者:横山光宏(神戸大学)
・JASRI側担当者:梅谷啓二
・プロジェクトの概要:SPring-8の高エネルギーX線を用いた脳・心臓などの血管造影、および癌組織、脳などの微小血管や胆管・膵管の造影のための医学利用実験装置の開発

(2)CT
・プロジェクトリーダー:板井悠二(筑波大学)
・検討会からの参加者:取越正巳(放医研)、杉村和朗(神戸大学)
・その他の参加者:遠藤真広(放医研)、武田徹(筑波大学)
・JASRI側担当者:八木直人
・プロジェクトの概要:単色X線を用いた高空間分解能・高濃度分解能CT、および蛍光X線による特定元素の分布のCT撮影のための医学利用実験装置の開発

(3)イメージング
・プロジェクトリーダー:河野通雄(兵庫県立成人病センター)
・検討会からの参加者:百生敦(日立製作所)、山崎克人(神戸大学)、杉村和朗(神戸大学)
・その他の参加者:武田徹(筑波大学)
・JASRI側担当者:鈴木芳生
・プロジェクトの概要:位相差X線イメージング・屈折コントラストイメージングなどの新しいX線イメージング技術を用いた医学利用実験装置の開発
 
5.おわりに
 BL20B2の建設においては、多くの方々のご協力を頂きましたので、関係各位にここで深く感謝いたします。特にビームライン部門および利用促進部門の方々には、ビームライン建設の順調な進行に直接努力して頂きましたので、ここに厚く感謝いたします。

 

 

梅谷 啓二 UMETANI  Keiji
(財)高輝度光科学研究センター 放射光研究所 実験部門 医学・イメージンググループ
〒679-5198
兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL: 0791-58-0831 
FAX: 0791-58-0830
e-mail:umetani@spring8.or.jp
略歴: 昭和56年筑波大学大学院修士課程理工学研究科修了。同年㈱日立製作所中央研究所入所。放射光を利用した血管造影の研究に長らく従事。平成10年4月より財団法人高輝度光科学研究センター。医学博士。
最近の研究: 充電中。
趣味: 粗酒粗食。

 

鈴木 芳生 SUZUKI  Yoshio
(Vol.3,No.1,P36)

 

八木 直人 YAGI  Naoto
(Vol.3,No.5,P23)



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794