ページトップへ戻る

Volume 04, No.3 Pages 43 - 45

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

BL10XU実験ステーションの現状
Current Status of Extremely Dense State BL10XU Experimental Station

石井 真史 ISHII Masashi[1]、谷田 肇 TANIDA Hajime[1]、片山 芳則 KATAYAMA Yoshinori[2]

[1](財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division、[2]日本原子力研究所 JAERI Dep. of Synchrotron Radiation Facility Project 

Download PDF (109.07 KB)


1.はじめに
 BL10XU高圧構造物性ビームラインは1997年10月のSPring-8供用開始と同時に運用をはじめたビームラインの一つである。真空封止型のアンジュレータを光源とし、光学ハッチ内で常時使用する光学素子は標準型モノクロメータだけというシンプルな構造である。取り出せる光のエネルギー範囲は約6〜36 keVである。ビームラインの詳細及び供用開始当初の光学的な特性については、本誌Vol. 3 No.2(1998)の中で述べているので、そちらを参考にしていただきたいが、あとに述べるように最近はモノクロメータの分光結晶の交換などを行い、ビームラインの特性は飛躍的に改善している。BL10XUの実験ステーションは、「極限構造物性」および「高輝度XAFS」の二つのステーションからなる。これらは各々異なるサブグループが中心となって建設・調整が進められた、いわゆる相乗りのビームラインである。各ステーションの実験に応じて集光素子や高次光除去用ミラー等を光軸に挿入して最適な光を得るスタイルである。本稿では、それぞれの実験ステーションの現状について別々に述べることとする。
 
2.極限構造物性ステーション
 超高圧実験ステーション(極限構造物性ステーション)は軽元素固体の超100GPa圧力領域における構造物性研究を主目的にして建設され、1997年10月より供用が開始された。本ステーションではアンジュレータを光源とする単色X線とダイヤモンドアンビルセル(DAC)と呼ばれる超高圧発生装置を組み合わせた粉末X線回折実験が中心に行われている。
 DACによる実験では、試料をガスケットと呼ばれる穴の空いた金属片に詰め、それを二つの単結晶ダイヤモンドではさみこむことにより、超高圧を発生させる。100GPaを超える圧力を発生する場合、試料は直径100μm以下、厚み数十μm以下となる。このような微小な試料のX線回折を精度よく測定するには、十分な光子度が必要となる。アンジュレータからの高輝度X線はこのような実験に最適である。また、DACでは、回折X線の取り出し角が制限されるので、精密構造解析のため多くの回折線を測定するには、高エネルギーのX線が必要となる。8GeVというSPring-8のエネルギーの高さは、この点でメリットが大きい。現在、Si(111)分光結晶で E<36keVの単色X線が利用できる。供用開始直後に行われた評価実験ではフラックスはデザイン値の数分の一、試料位置での光子密度は数十分の一と低い値が見積もられたが、1999年はじめに行った新型分光結晶への交換により、光子密度は10倍以上改善された。
 さらに光子密度を上げるため、集光素子の使用も可能である。回折計上に設置するBragg Flesnel Lensの集光効率を測定した結果、直径10μm以下のサイズ試料で有効なことが分かった。また、光学ハッチ内に設置する屈折レンズによる集光も試みられ、試料位置で数倍以上の光子密度の上昇が確認された。
 図1に回折計の全景を示す。回折計上の各ステージはサブミクロンの移動精度をもたせているので、ビーム位置と試料位置を容易に一致させることができる。通常の実験ではユーザーが各自のDACを持ち込む。日本で使われている標準的なDACについてはステージが用意されている。高倍率の顕微鏡により試料位置をステージに乗せたまま、観察や位置合わせが可能である。また、ルビー蛍光法による圧力測定もオンラインでできる。さらに、ピンフォトダイオードを使い透過光強度のマッピングを行うことで、より高精度でビームと試料位置を一致させる方法も確立されている。よりよい粉末回折パターンを得るため、DACを水平面内で回転させる揺動装置も1998年度整備された。その場読取式のイメージングプレート(リガク製RAXIS4)は迅速なデータ収集と処理を可能にしている。
 回折計設計上の主眼のひとつは低温高圧粉末X線回折実験を容易にすることにあった。ヘリウムガス駆動DACとヘリウム循環型冷凍機を組み合せた装置は1998年5月に立ち上がった。90度の開口角をもつフランジの回折線出射側窓には厚さ250μmの透明なマイラーを用い、回折計上でDACを冷却したままルビー蛍光法による圧力測定ができる。これまでに17GPa、10Kでの回折実験を行っている。
 アンジュレータを用いた超高圧ステーションは国内では他になく、その特性を生かしたサイエンスが期待されている。現在までに通常の粉末X線回折実験の他、MEM解析を目的とした超伝導酸化物の高精度粉末回折パターン測定、NbなどのK吸収端の異常分散を利用した回折実験、SnのK吸収端付近のXANES分光などが試みられている。軽元素であるPの100GPaを超える高圧実験も行われた。また、DACのかわりに小型プレスを回折計に載せ、X線を使った高温高圧下での融体の密度測定も行われた。
 1999年3月末には、DACとYAGレーザーを組み合せた3000Kまでの高温高圧発生装置が納入され、5月よりX線回折実験が開始される予定である。 
 
3.高輝度XAFSステーション
 高輝度XAFSステーションでは、SPring-8の第三世代のリングという特徴を活かすために、アンジュレータを使ったXAFSという観点からのシステム構築が現在進行している。このような高輝度の放射光を使うことで、極めて希薄な元素の局所構造に関する情報を得られると期待される。一方でアンジュレータ光のエネルギー幅が通常XAFSを測定するのに必要なエネルギー幅に比べて狭い準単色であるため、例えばSPring-8汎用XAFSステーションであるBL01B1のような従来の偏向電磁石を使ったビームラインでのXAFSでは必要なかった若干煩雑な手順が必要になる。すなわち、アンジュレータのギャップとモノクロメータの角度を準同期ないしは同期することで、強度の高い光がXAFSの測定範囲内であたかもブロードなスペクトルを持っているようにする必要がある。具体的には、モノクロメータの角度と最適なアンジュレータのギャップの関係を適当な式で近似する方法や、測定中にギャップスキャンを行って自動的に最適ギャップを見積もる方法等が考えられる。モノクロメータのエネルギー校正の経時変化や放射光の最大強度を得るためにはおよそ10μmのギャップ移動精度が必要なこと等から明らかなように、前者の場合は近似式の精度によってビームの強度が最大にならない可能性がある。他方ギャップスキャンは測定時間が著しく長くなる。また、それぞれについてギャップ駆動をどのくらいの頻度で行うかで、測定時間やデータの質が変わる。現在は測定時間の短縮という観点から、近似式を使う方法を採用しているが、今後のユーザーの要求次第では最大強度が得られるギャップスキャンが必要となる可能性も考えられる。ギャップ駆動の頻度は、測定中にビーム強度に飛びがあると、測定系の応答時間などに起因して吸収スペクトルに不連続点が現れる場合があることが分かっており、なめらかな放射光スペクトルを得るために、全ての測定点で行うことが望ましいであろう。
 実験ステーション内の全景を図2に示す。試料のマウント用にゴニオメータが設置してある。これはクライオスタットを載せたままχサークルを90度回して試料を取り外すことなく偏光XAFSがとれる設計になっており、アンジュレータの高い偏光度を有効に利用できる。また、θ−2θ回転によって回折とXAFSを組み合わせた測定が可能である。最近、多層膜の界面のXAFSを定在波法を使って測定する課題がこの回折計を使って進められ、アンジュレータ光の発散の小ささと高強度を反映した良好なデータが得られている。
 検出器は、イオンチェンバーと7素子のSi(Li)のSSDを用意している。多素子の検出器を使ってアンジュレータの強い光を最大限利用するというのが、BL10XUの方針の一つである。調整中の100素子のGeのSSDを含めて多素子の検出器からのデータ処理を迅速に行うために、出力信号のデジタル処理化を進めている。デジタル処理のためのプロセッサボードであるDXPはこれまでのアナログ処理と異なる多くのパラメータ設定が必要となるために、この制御ソフトについても如何にユーザーフレンドリーにするかが現在進行中の課題の一つになっている。素子の特性が一つ一つ違う100の素子の最適パラメータを決定するためには、今後かなりの労力が必要になるであろう。
 現状でもXAFSの測定は可能であるが、より精度良く、早く、手軽に計測を行うべくシステムの構築を進めている。このため使用方法が刻一刻と変化しているが、なるべく早い収斂を心がけたい。   
 
 
 
図1 極限構造物性ステーションの回折計
 
 
 
図2 高輝度XAFSステーションのゴニオメータ
 
4.まとめ
 BL10XU高圧構造物性ビームラインの実験ステーションの現状を、極限構造物性・高輝度XAFSの両実験ステーションのそれぞれについて述べた。供用により成果が得られ始めているが、それと同時に新しい装置の導入やソフトウェアの改善によりビームラインの高度化も精力的に行われている。リーダーの浜谷氏(お茶大)、大柳氏(電総研)をはじめとするサブグループのメンバーや、いろいろな方からのアドバイスやご協力に感謝して本稿のまとめとする。 
 
石井 真史 ISHII  Masashi
(財)高輝度光科学研究センター放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:0791-58-0918 FAX:0791-58-2752
e-mail:ishiim@spring8.or.jp
 
谷田 肇 TANIDA  Hajime
(財)高輝度光科学研究センター放射光研究所 利用促進部門
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:0791-58-1833 FAX:0791-58-2752
e-mail:tanida@spring8.or.jp
 
片山 芳則    KATAYAMA  Yoshinori
日本原子力研究所
〒679-5198 兵庫県佐用郡三日月町三原323-3
TEL:0791-58-1843 FAX:0791-58-0830
e-mail:katayama@spring8.or.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794