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Volume 04, No.2 Pages 56 - 57

6. 談話室・ユーザー便り/OPEN HOUSE・A LETTER FROM SPring-8 USERS

BL25SU立ち上げ記「こんなこともありました」
Short Note on Starting of BL25SU Experimental Station

関山 明 SEKIYAMA Akira

大阪大学 基礎工学研究科 Faculty of Engineering Science, Osaka University

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 私が参加したBL25SUの立ち上げ時期は、他のBLのみならずSPring-8全体の立ち上げとも重なっていたのか、来所するたびにリングの内外問わず風景が変わっていたように思います。(これは建設メンバーであるにもかかわらず来所間隔が開いていたからかも?)そこで、まじめな話はBL担当者の方による紹介(SPring-8利用者情報Vol.3,No.4,p15)にまかせて、ここでは私の体験を通して「過渡期だったSPring-8(97.6〜98.7)」の様子を紹介させていただきます。
 ○月×日 大阪から中国道山崎ICを経て初めてSPring-8に出張。安全教育講習がリング棟Bゾーンの一室で行われるので、急がねば(注:まだ専用の部屋も今のようなビデオも無かったのです)。しかし敷地内の道路がどうなっているのか良く分からない。あげくのはてに誤ってリングの内側の道路を一周してしまった。それにしてもあの道は走っていて方向が分からない(注:この時期は案内板も無く、中央管理棟さえも工事中でした。さていつの事でしょう?)。
 ○月×日 BL25SUの実験ステーションでは、スタッフや業者の方々の努力によって真空チェンバーや排気系はすでに設置されていた。しかし、このままでは試料回転機構の位置が高くて手が届かないし、高い所にちゃんとした足場がないと試料冷凍機の保守ができない。そんな訳で作業用架台の設計を行う。それにしてもBL25SUのまわりってBL23SUがあるだけで他は何もないなあ(まだBL24XUもBL27SUも無かった頃です)。
 ○月×日 別の出張先である広島から山陽道で直接SPring-8に向かう。岡山県と兵庫県の県境で「ここから兵庫県」の案内板になんとSPring-8のマークが使われていた。
 ○月×日 作業用架台の部品が届いたので設置を行う。なんだかごつい。でもできた架台の上に立つとなかなか眺めが良い(BL25SUのステーション自体がデッキの上にあるので、さらにその上の架台となると相当な標高?です)。
 ○月×日 久しぶりにSPring-8出張。話には聞いていたが、食堂が夜も営業されるようになっていた。ヤッター。交流施設管理棟も完成して、宿舎の鍵はそこに取りに行くように変わった。それまでは当時リング棟Aゾーンにあった利用業務部(と当時呼んでいたかどうか忘れた)に鍵を取りに行くのだった。
 ○月×日 いよいよ高分解能光電子分析器を実験チェンバーに取り付ける日が来た。しかし出張当日の朝、BL担当者からメールが。「気象情報:SPring-8では現在雪が降っており、積もるかもしれません。くれぐれも気をつけて来て下さい。」がーん、雪道走った事ないよ、大丈夫かなあ。夜、不安になりながら中国道山崎ICをおりると何だか車の窓にゴミみたいなのがやたらつく。ワイパーで払ってみると雪だった。同乗している学生は自棄になって「はーてーしーなーいー」とSPEEDのWhite Loveを歌いだすし、山奥のSPring-8まで本当にたどり着けるのかと不安になる。行ってみると積もっておらず、ほっとする。
 翌日、分析器をとりつけようとするが、チェンバー側のフランジが丸穴ではなくネジ穴になっていることが判明。大部分はそれでも良いが、それだとどうしてもボルトが入らない、もしくは締められない場所が4箇所もある。しかたなく交代しながらハンドドリルで強引にネジ穴を広げて丸穴にする。おかげでメインの作業の前にすでに疲れてしまった。
 ○月×日 またまた出張。しかも今日は山陽道全線開通日だ。さっそく開通2時間後に通る。中国道よりも速いなあ。新しい道は快適だけど、トンネルが多い。竜野西SAでは開通記念紅白まんじゅうを売っていた。買わなかったけど。
 ○月×日 しばらくぶりの出張。おっ、BL25SUのとなりで新しくハッチを建設している。そうか、BL24XUも建設が始まるのか。これまで寂しかったCゾーンもにぎやかになるかな?
 ○月×日 今日はビームラインで一生懸命格闘しているBL担当者を横目に見ながら、光電子分析器の調整及び持ち込んだX線管を用いてのテスト測定を行う。うむうむ、装置はまともに動いてくれそうだ。
 ○月×日 今日も光電子分析器の調整の為に出張する。するとC1扉のまわりは工事中で入れない。ヤッター、ついにC1扉のまわりも舗装されてちゃんとした駐車場ができるんだ。
 ○月×日 ついに実験ステーションに放射光を通す日が来た。期待と不安が入り交じりながら放射光を通して分析器で信号を確認。カウントが来たーーー。しかし喜んでいる暇はなくチェンバーの位置調整を夜通し行う。
 翌日、どうもシグナルにかなり頻繁にノイズが入る事が判明。一体原因が何なのか色々調べてみるが分からない。仕方なく、ノイズが入る前にスキャンが終わる事を祈りつつ短い測定を繰り返す。スキャンの途中にノイズが入ったらすぐにやり直しなので常に装置にはりついていなくてはいけない。それを夜通し行う。いやー、精神的に疲れたなあ。そんなこんなでちょっと不安を残したままその実験サイクルは終了。
 ○月×日 いよいよ放射光で本番の実験を行うサイクルだ。まずはノイズを消さねば、と思っていた矢先にどうやら一部の真空ゲージがノイズ源らしいという事が偶然分かった。ラッキー、これでまともに測定できそうだ。最初に金でテスト測定を行い分解能の限界を見積もったところ、かなり良かった(とこの時は控えめに考えていたが、実はこの励起エネルギー領域における世界最高の分解能にあっさり到達していました。SPring-8の威力を感じさせられました)。勢いにのって、初めて持ち込んだ試料で測定をする。いやー、明るいし分解能良いなあ。こりゃすげー、とBL担当者とも手を取りあって大喜び。
 実験は何とか成功し、サイクル終了。ビームタイム利用報告書を書くが、そこに「施設に対する要望欄」がある。そういえば、宿舎の部屋は非常に快適だけど、風呂がユニットバスじゃないのに風呂用のイスがないのは何か変だよなあ。これくらいの要望ならお金もあまりかからなさそうだし実現可能なのではと思いつつ「要望:宿舎の風呂に体洗い用のイスを設置して欲しい」と書く。

 ’98年の秋。久しぶりに出張して宿舎にいくと、なんと風呂にイスが置いてある。やったあ、私の要望が取り上げられたんだ(実は同時期に同じ要望を書いたユーザーが他にもいたそうです。それにしても後でBL担当者座談会(SPring-8利用者情報Vol.3, No.6, p1)でこの話題が取り上げられるとは思ってもみませんでした)。

 何だかのほほんとした文章になってしまいましたが、どうにかBL25SUが実験できる状態になったのも、SPring-8のスタッフの方々の並々ならぬ尽力のおかげである事は言うまでもありません。BL担当者である斎藤祐児氏をはじめとするSPring-8のスタッフ、及びビームラインと実験ステーションで地道かつハードな作業に献身してくれた上田茂典、原田英幸、小嗣真人(阪大基礎工)の各氏に感謝いたします。また、まだまだ改善することも多く立ち上げが終わった訳ではありません。今後もさらなる性能の向上を目指してやっていこうと肝に銘じつつ、筆を置かせていただくことにします。



関山 明 SEKIYAMA  Akira
560-8531 大阪府豊中市待兼山町1-3
大阪大学大学院 基礎工学研究科
物理系物性物理学分野 菅研究室
TEL:06-6850-6422 FAX:06-6845-4632
e-mail:sekiyama@mp.es.osaka-u.ac.jp



Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794