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Volume 03, No.2 Pages 8 - 10

1. ハイライト/HIGHLIGHT

セベラルバンチ運転の状況−ビームラインからの報告−
Status of Several-bunches-mode Operation -report by beamline division-

矢橋 牧名 YABASHI Makina

(財)高輝度光科学研究センター ビームライン部門 JASRI Beamline Division

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はじめに
 BL09XUでは、核共鳴散乱SGによって、様々な核共鳴散乱実験が計画されている。核共鳴散乱は、通常の電子散乱と比べて散乱断面積がはるかに小さいが、両者の特性の違いを生かすと弁別することができる。代表的な手法として、核共鳴散乱の時間遅れ特性の利用があげられる。これにより高いS/N比が稼げるのみならず、時間スペクトルの解析によって核準位の超微細構造等のエネルギー領域の情報も得られる、といった点で優れた手法である。ただし、このためには、核共鳴散乱を励起する入射光の時間間隔が(時間遅れ成分に比べて)ある程度以上広いことが必要である。
 SPring-8においては、共同利用開始直後の運転モードはフルフィルのマルチバンチ運転(バンチ数 2436、バンチ間隔2nsec)であったが、これでは上記のような核共鳴散乱実験が全くできない状況であったため、各方面で協議の結果、昨年の11月から12 月にかけて、蓄積リングの等間隔21バンチモードでの運転(バンチ間隔228nsec)が行われることになった。21バンチモードが採用された理由として、① 20mA運転時の1バンチ当たりの電流値(~1mA)を考慮すると、蓄積電流のライフタイムの極端な低下はないと判断されたこと、また利用者からは②57Fe (τ=98nsec)を用いる核共鳴散乱実験が殆ど実施可能となること、があげられる。実際には、まず11 月半ばから試験運転が行われ、その結果を受けて、 11月末から12月にかけて、共同利用実験時の運用が実施された。この間BL09XUでは、バンチ純度の測定に引き続いて、核共鳴散乱の共同実験が行われた。
 ここでは、ビームライン側からみた少数バンチ運転の状況を、純度測定の結果を中心に報告する。また、これまで本誌において、BL09XUの試験調整運転(コミッショニング)以降の報告を行っていないため、BL09XUのコミッショニングのまとめと基本的な性能、共同利用実験の概要等も合わせて述べる。
 尚、本号の加速器スタッフからの報告(鈴木寛光氏ら)も適宜参照して頂きたい。
 
コミッショニングの報告
 BL09XUでは、7月初めから、本格的なコミッショニングを開始し、10月初めに終了した。特に、分光器のコミッショニングに関して述べると、光学系グループによって、治具を用いたオフライン調整法が開発され、標準型分光器を有する全ビームラインにおいて、メカニカルな調整が精度よく迅速に行われた。ただし、BL09XUにおいては、分光結晶の方位に関して混乱があったり、ピンポスト第一結晶を破損させてしまって分光器チェンバー内に水が溜まったり、という幾つかの珍事があったものの、何とか乗り越えて共同利用開始にこぎ着けることができた。
 コミッショニング終了時(共同利用開始前)に測定された単色光(E=14.4keV)のフラックスは、 PINフォトダイオードで測定されたカレントをフォトン数に換算すると、2×1012photons/sec(計算値の数分の一、本号の後藤氏の報告も参照のこと)、またE=14.4keVにおける第一結晶のロッキングカーブ幅(FWHM)は、11arcsecとなり、計算値の2.5倍であった。
 これらの測定値の計算値からのずれは、主として第一分光結晶の歪みに起因するとみられている。光学系グループによるR&Dが引き続いて行われている。  
 
 
  
 
図1 タイミングシステムのダイヤグラム 
 
21バンチ運転の概要
 
バンチ純度の測定は、二結晶分光器によって分光された放射光を、実験ハッチ内におかれた高速検出器によってカウントし、それと加速器の運転に用いられているRFタイミング信号との時間差を測定する、という方法で行われた。タイミングシステムのダイヤグラムを図1に示す。検出器としては、時間応答の速いアバランシェ・フォトダイオード(APD)が用いられた。APDからのシグナルと、RF信号(508.58MHz)を適宜分周したものが、それぞれ TACのスタート、ストップに入力され、それらの時間差が電圧に変換される。これらをADCを介して MCAに入力することにより、時間スペクトルが得られる。ここで、回路系が適正に動作するように、 APDへの入力フォトン数を制限(~数万cps程度)し、同時に回り込みの散乱光をカットする必要がある。そのため、当初は、APDの受光面をダイレクトビーム方向に向け、かつその前にダブルスリットを置いて測定した。その後、二結晶分光器の第一結晶のディチューンによる減光でも測定に影響しないことが確認されたため、定常時には後者の方法によって測定を行った。
 まず、11月7日(第10サイクル試験調整運転)、最初の21バンチのスタディが行われたが、タイミング系の不良により、等間隔のバンチを実現することができなかった。加速器系グループによってそれらの不具合が修正された後、11月19日から20日(第11サイクル試験調整運転)にかけて、再びスタディが行われた。このときは、RFノックアウトシステムによりシンクロトロン内の1バケットのみ残しそれを蓄積リングに入射する、ということを繰り返す方法によって、ある程度の純度を持つ少数バンチ運転が実現された。そのときの測定結果を図2及び図3に示す。図2は全てのバンチを別々に測定したもの、図3 は21バンチを重ね合わせたものである。これより、メインピークを106カウントためたとき、後ろのバンチにこぼれはなく、また、メインピークの2nsec 手前に強度比10-3 程度のサブバンチがみられることがわかる。
 この結果、一定の(高精度の時間スペクトルの解析が不要な)核共鳴散乱実験に利用できる状態であることがわかったため、11月25日から28日と、12月5日から18日の第11、12サイクルの共同利用実験時に、この運転モードが採用された。
 その後しばらくの間は、上記と同様な、メインピークの2~4nsec前にサブピークを持つようなプロファイルであったが、12月12日に入射系のタイミングシステムが改善され、この結果サブバンチの入る確率は減少し、純度の向上がみられた。12月14日2時の入射直後に測定された時間スペクトル(21バンチの重ね合わせ)を図4に示す。このときのバンチ純度は10-6オーダーであることがわかる。
 その後も、蓄積リングへの入射時に純度が若干悪化する場合があった。これについては、加速器系グループにより、今回の冬期シャットダウン中にそれらの原因の究明が行われている。今までの測定において、蓄積中のバンチ純度の悪化は認められていないため、上記の点が改良されると、安定して高純度が得られると期待している。
 また、フルフィルのマルチバンチモード運転と比べて、入射に要する時間が若干余計にかかる(0 mAからの入射時で約1時間、10mA程度からの積み上げ入射で約30分)ということで、他の利用者にご迷惑をおかけしているが、これは線型加速器のショートパルスモードへの変更とシンクロトロンからの入射方法の改良によって短縮が見込まれている。
 さらに、蓄積リングの電子ビームのライフタイムは20時間程度(フルフィル時は~60時間)であった。 100mA運転の際には、少数バンチモードの利用とそれ以外の利用の共存のためには、運転モードの再検討等の対応が必要であろう。
 また、ビームライン側としても、近い将来に迅速に純度測定ができるシステムを開発する予定である。  
 
  
 
図2 第11サイクル試験調整運転時のビームプロファイル(11/21 0:52) 
 
 
 
図3 第11サイクル試験調整運転時のビームプロファイル(11/21 1:07)(21バンチの重ね合わせ) 
 
共同利用実験の概要
 BL09XU実験ステーションの建設及び立ち上げは、核共鳴散乱(代表 依田芳卓氏(東大・工))と、表面界面(代表 高橋敏男氏(東大・物性研))の二つのサブグループが中心となって行われた。
 10月から11月中旬までの、フルフィルのマルチバンチ運転(バンチ間隔2nsec)時には、主にX線光子のパラメトリック散乱実験及び高分解能分光器の性能評価試験が行われた。
 また、21バンチ運転時に行われた主な実験・技術開発としては、1)高い励起エネルギーを持つ核種からの核共鳴散乱の観測(依田氏)、2)57Feの核共鳴散乱をプローブとした、各種物質における非弾性・準弾性散乱実験(瀬戸誠氏(京大・原子炉)他)、 3)偏光解析を利用したメスバウアー時間スペクトロスコピー(三井隆也氏(原研))、4)強磁性体アモルファス中の57Feからの核共鳴前方散乱の観測(那須三郎氏(阪大・基礎工))、5)多素子APDの性能試験(岸本俊二氏(PF)他)、といったものがあげられる。例えば、1)は高いエネルギー領域における大強度特性というSPring-8ならではの利点を生かしたものであるが、今回は、161Dyの第3励起準位(74.57keV)を励起させ、第1励起準位(25.65keV)からのカスケード放出を観測する(~0.1cps)という実験に初めて成功したという報告を受けた。今後も、高エネルギー領域の他のメスバウアー核種へのアプローチや、カスケード遷移を利用した高いS/N 比の実験が期待される。
 3月には、表面界面SGによって、立ち上げ及び利用実験が行われる予定である。X線回折散乱法による表面・界面の構造研究や、X線CTR散乱における多波回折効果の研究等が計画されている。   
 
  
 
図4 第12サイクル時に測定されたビームプロファイル(12/14 2:53)(21バンチの重ね合わせ)

終わりに
 
ビームラインの建設及びコミッショニングの際には、様々な方からのご支援をいただいた。特に石川哲也、後藤俊治(JASRI)、竹下邦和(JASRI)、木村洋昭(JASRI)の各氏には、建設時から一貫してご指導頂いた。また、北尾真司(原研)、田中義一(理研)、石井真史(JASRI)、水牧仁一朗(JASRI)の各氏には、コミッショニングの現場で多大なるご協力を仰いだ。さらに、北尾氏及び依田氏には、共同利用時のバンチ純度測定を行って頂いた。ここに改めて感謝の意を表したい。  
 
 
矢橋 牧名 YABASHI Makina
昭和46年4月22日生
(財)高輝度光科学研究センター
ビームライン部門研究員(中央管理棟2F)
TEL:07915-8-0831(PHS3811)
FAX:07915-8-0830
略歴:平成8年東京大学工学系研究科博士課程(物理工学専攻)中退、同年(財)高輝度光科学研究センター。最近の研究:回転傾斜配置二結晶分光器に関するいろいろなこと。趣味:ピアノ、読書、旅行、宴会。



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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