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Volume 03, No.1 Pages 17 - 20

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

XAFS BL01B1実験ステーションの現状
Current Status of XAFS BL01B1 Experimental Station

宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya

(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division

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1.はじめに
 XAFSビームラインBL01B1は、広いエネルギー領域(4.5~90keV)にわたり、多様な手法を用いてXAFS研究を行うことを目的として建設されたものである。特に、SPring-8偏向電磁石光源の特徴の一つである高エネルギー領域(30~90keV)での高輝度性は他の既存の放射光研究施設にはないものである。ここで供されるエネルギー領域は、これまでL吸収端のみでXAFS測定が可能であった元素(I~Pb)に対し、K吸収端での測定を可能にするものであり、これにより研究対象の飛躍的な拡大が期待される。本稿では、1997年12月初の時点におけるBL01B1の状況について報告を行う。BL01B1の概要については、江村・前田両氏による報告(本誌Vol.2,No5,P27~29)も併せて参照されたい。

2.BL01B1の概要
 BL01B1は、光学ハッチ、実験ハッチ各1からなり、遮蔽壁から実験ハッチ下流端までの全長は約27mである。ビームラインに要望されている主な性能は、以下のようなものである。
・広いエネルギー領域にわたり、XAFS測定が簡便に行えること
・試料へ入射する光の位置と強度がエネルギースキャンの際に安定であること
・高調波成分が少ないこと(基本波に対する比率が10-4 以下であること)
・必要十分なエネルギー分解能が達成可能なこと(4.5~90 keVで2 eV程度以下)
・二次元集光が可能なこと
 光学系は、分光器の上流に、エネルギー分解能の向上と、高調波成分の除去を目的として前置コリメーションミラーが、また下流には、鉛直方向の集光と高調波成分の除去を目的として後置集光ミラーが設置されている(図1)。これは、「SPring-8偏向電磁石標準ビームライン」と呼ばれる配置で、BL02B1も同様の配置となっている。ミラーの傾き角は各エネルギー領域における、1次光反射率と3次光の混入比を考慮して、0~10mradの間で設定される。そのため、分光器を含む前置ミラーから後置ミラーまでのコンポーネントは傾斜架台(全長8m)上に、また後置ミラーより下流のコンポーネントは上下の平行移動(ストローク250mm)を行う昇降架台(全長5m)上に設置されている。 
 
 
 
図1 BL01B1光学ハッチ内機器配置図 
 
 二結晶分光器は、一組のSi結晶を用いて4.5~90keVの広範なエネルギー領域の分光に対応できるよう、回折面をSi(111)、間で切り換える傾斜可変型である。第二結晶には、Si(311)及びSi(511)の水平方向の集光用にサジタルベント機構を搭載する。
 実験ハッチ内には、昇降架台付定盤上に、基本的なXAFS計測システムである試料周辺機器及び検出器系が設置される。試料温度調整にクライオスタット及び電気炉が準備され、検出器は、17cm長及び31cm 長のイオンチェンバーと簡易蛍光スペクトル測定用のライトル検出器が準備されている。

3.立ち上げの現状
 まず、これまでの立ち上げの経過について簡単に述べる。BL01B1は、1997年7月7日の試験調整運転開始より、共同チームと建設サブグループ(広エネルギーXAFSグループ)によるビームラインの立ち上げ・調整作業が行われている。7月の試験調整運転期間には、まず分光器からの回折光を実験ハッチまで導き、漏洩検査を合格のうちに無事終了した。次に分光器結晶の回折面切換機構と第二結晶のサジタルベント機構の予備的な動作テストを行った。また、Zr、In、Snなどの標準試料に対しXAFSスペクトルの測定を行った。更にこのビームラインの目玉の一つである高エネルギー領域でのXAFS測定のデモンストレーションとして、PbのK端(E=88keV)での吸収ジャンプを測定し、90keVにおいてもフォトン数が充分であることを確認した。
 9月の試験調整運転期間中には、分光器の第一結晶をフィンク-リング結晶に交換した。また、ミラー系の調整を開始し、ミラー挿入状態でXAFSスペクトルが測定可能な状態にまで立ち上げを行った。
 10月の供用開始後は、共同チーム建設メンバーによる光学系の調整、性能評価作業に加え、建設サブグループを主体としたユーザーサイドからのビームライン性能評価を目的としたデータ測定及び利用実験も並行して進められている。
 以下では、各コンポーネントの立ち上げ状況について述べる。

(1)分光器
 分光器はSPring-8偏向電磁石BL用二結晶分光器(IHI/神津精機製)が1997年2月に設置された。
 第一結晶には、竹下氏(共同チーム)設計の直接水冷却をしたフィンク-リング結晶を用いている。現在、第一結晶のロッキングカーブ幅は、理論値に近づいているが、放射光の照射領域の拡大と共に多少広がる傾向が見られるため、更なる改良の検討を行っている。第二結晶には、古川氏(共同チーム)設計のサジタルベント機構が搭載される予定であるが、結晶クランプ部分等の改良が進められているため、現状はSi(311)平板結晶が取り付けられている。
 結晶の回折面は、エネルギー領域、フォトン数及びエネルギー分解能の兼ね合いを考慮して決定される。使用可能なエネルギー範囲は、Si(111)面が4.5~37keV、Si(311)面が9~63keV、Si(511)面が14~97keVである。結晶の回折面切換は、スイベルステージにより行い、移動に要する時間は5~10分程度である。

(2)ミラー
 ミラー調整装置2台は1996年11月に納入・設置された。両装置とも円筒面曲げ方式のSPring-8標準1m長ミラーシステム(IHI/トヤマ製)である。ミラー本体の研磨とコートはSESO社(フランス)で行われ、1997年2月に納入された。前置ミラーには熱付加(100mA運転時に約150W)がかかるため、ミラー本体には熱特性に優れたSiを用い、ミラー本体の側面に水冷却銅ブロックをIn/Ga合金を介して熱接触させることにより冷却を行っている。ミラー本体の表面形状は平面(1000×90×50mmt)である。一方、後置ミラーのミラー本体には合成石英を用いている。ミラー本体は曲率半径1km程度まで湾曲するため、内部応力を緩和する目的で予め曲率半径2.25kmに研磨したものを製作した。両ミラー共、表面にはRhがコートされている。
 前置コリメーションミラーの湾曲量調整は、実験ハッチ内に設置したアナライザー結晶を用いて行った。手順としては、まず後置ミラーを平面状態になるよう湾曲量調整を行い、次に測定光のエネルギー分解能が最小になるように前置ミラーの湾曲量を決定した。
 後置集光ミラーの湾曲量調整は現在進行中である。
 また、ミラーの挿入時に測定光に含まれる高調波成分の比率を測定した。図2にミラーの傾き角が2mradの場合の1次光の反射率と高調波の存在比の測定結果を示す。 
 
 
 
図2 ミラー挿入時(2mrad)の1次光の反射率及び高調波の存在比 
 
(3)実験ハッチ内機器
 実験ハッチ内には、アルミハニカム製定盤(1.2×2m)上に敷設されたリニアガイド上に、4象限スリット、検出器及び試料周辺機器が設置されている(写真1)。定盤は上下ストローク250mmの昇降ステージ(IHI製)上に設置されており、ミラーの傾き角変更に伴う測定光の上下移動に追従することが可能である(図3)。 
 
 
 
写真1 実験ハッチ内の光学定盤上に設置された機器(4象限スリット、イオンチェンバー、クライオスタット) 
 
 
 
図3 実験ハッチ内の昇降架台側面図 
 
 輸送チャンネル最下流のBe窓の直下流には4象限スリット(IHI製)が設置され、測定光の整形を行う。各ブレードのストロークは20mm、送り量は2μm/1パルスである。ブレードには、高エネルギー対応用に、エッジ部分の厚さが3mmのTaを使用している。
 検出方法としては、現状、イオンチェンバー(応用光研製) を用いた吸収法とライトル検出器(EXAFS社製)を用いた蛍光法が可能である。
 試料ホルダーはパルスモーター駆動XZステージ上に設置することが可能である。
 試料温度は、クライオスタットと電気炉により、6~1600Kの範囲で温度設定が可能である。クライオスタット(長瀬産業製)は、1997年4月に納入され、12月より運転されている。温度調整範囲は6~300K、設定精度は0.1Kである。冷却速度は室温から6Kまで50分である。電気炉は2台あり、そのうち一台(石川化工製)は1100Kまで制御可能であり、蛍光スペクトル測定用の側窓が設けられている。現在細部の改良を行っている。もう一台は、1600Kまで制御可能なもので、現在製作中である。

(4)制御系
 光学系と測定系の制御プログラムは、現状は、山崎、玉作両氏(共同チーム)が制作したプログラム(Laboview)を基に谷田氏(共同チーム)がXAFS測定用に改良したものを使用している。将来的には、建設サブグループの原田氏(阪大)を中心に開発が進められているプログラム(Delphi)を導入する予定で、現在動作テストを行っている。

4.XAFSスペクトル測定の現状
 次にこれまでに測定されたXAFSスペクトルについて報告する。10月~11月中旬は、建設サブグループが中心となって、主にビームラインの性能評価を目的としたXAFSスペクトルの測定が行われた。4.5~20keVのミラーを挿入するエネルギー領域では、ミラーによる高調波除去とエネルギー分解能向上の効果を示す測定データがいくつかの試料に対して示された。図4に、コリメーションミラーの挿入によるK2MoO4のプリエッジスペクトルの先鋭化を示す(ミラーへの入射光の角度発散は約60μrad。エネルギー較正はしていない)。設計段階では、ミラーの使用領域は、コート材であるRhのK端(E=23keV)以下を想定していたが、IのK端(E=33keV)のXAFS測定(阪大・渡辺氏)の際、傾き角1.5mradでミラーを挿入したところ、エネルギー分解能の向上によりスペクトルに微細構造が見いだされ、30keV付近でもミラー系が有効であることが分かった。 
 
 
 
図4 K2MoO4のプリエッジ部分のスペクトル(ミラーの傾き角2 mrad) 
 
 35keV以上にK端を有する元素に対しては、Eu、Dy、Ta、Pt等のXAFSスペクトルの測定が行われ、徐々に成果が上げられつつある。これらの元素はこれまでK端のXAFSスペクトルを得ることが難しかったものである。図5にPtのXAFSスペクトル(原研・西畑氏)を示す。XAFS振動が明瞭に見られる。イオンチェンバーのガスはKr、リング電流は16mA、1点の計測時間は1sである。これらの結果は、高エネルギー領域でのSPring-8偏向電磁石光源の優れた高輝度性を示すものである。 
 
 
 
図5 PtのK端のXAFSスペクトル(原研・西畑氏提供)

5.今後の課題
 これまでの立ち上げ作業により、吸収法と簡易蛍光法による基本的なXAFSスペクトルの測定が4.5~90keVの領域で可能となり、本ビームラインの特徴を生かした研究がある程度まで可能な段階になったと思われる。しかしながら、解決すべき課題もいくつか残っている。主なものを挙げると、エネルギースキャンの際の分光器の送り速度の高速化と入射光強度の変動(特に高エネルギー領域で顕著)の低減、第一結晶冷却ホルダーの改良、ガス供給システムの整備、傾斜架台のPCによる遠隔操作等である。これら問題に対しては、できるだけ早期に解決を計りたいと考えている。
 最後に、BL01B1の立ち上げに協力して頂いている、石川、米田、谷田、竹下、西畑、黒田、古川、山崎、鈴木(昌)、豊川、佐藤(一)の各氏他共同チーム建設メンバーと、江村、高橋(昌)、渡辺(巌)、原田(阪大)、前田、久保園(岡山大)、田中(庸)(京大)、木村(英)(NEC)の各氏他建設サブグループのメンバーに感謝いたします。

 



宇留賀 朋哉 URUGA Tomoya
昭和35年3月18日生
(財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門
〒678-1298 兵庫県赤穂郡上郡町
SPring-8リング棟
TEL:07915-8-1857(PHS 3836)
FAX:07915-8-0830
e-mail:urugat@spring8.or.jp
略歴:平成1年大阪大学基礎工学研究科博士課程(生物工学)中退、平成2年理化学研究所大型放射光研究協力員、平成8年(財)高輝度光科学研究センター。工学博士。日本生物物理学会、日本結晶学会、日本放射光学会会員。最近の研究:放射光ミラーシステムの開発。

 



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[ - Vol.15 No.4(2010)]
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