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Volume 02, No.5 Pages 24 - 27

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

高温構造物性 BL04B1 実験ステーションの現状
Current Status of High Temperature Research BL04B1 Experimental Station

内海 渉 UTSUMI Wataru[1]、舟越 賢一 Funakoshi Ken-ichi[2] 

[1]日本原子力研究所 大型放射光開発利用研究部 JAERI Dept. of Synchrotron Radiation Facility Project、[2](財)高輝度光科学研究センター 利用促進部門 JASRI Experimental Facilities Division

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1.はじめに

 BL04B1ビームラインは、高温構造物性ビームラインと名づけられた共用ビームラインで、偏向電磁石からの白色X線(10〜150 keV)を利用する。このビームラインは、主として高圧地球科学SGと高温SGの2つのサブグループが建設に協力しており、タンデムに設置された2つの実験ステーション内に、それぞれのグループの実験装置が設置される。偏向電磁石からの白色光をそのまま利用するため、フロントエンド部は、他の偏向電磁石ビームラインBL01B1、BL02B1とほぼ同じであるが、輸送チャンネル部には、ミラー、モノクロメーターなどがなく、真空機器の他には、固定マスク、水冷スリット、ビームモニターなどが設置されているだけの、単純な構成となっている。

 原研・理研共同チームならびにJASRIのビームライン建設・立ち上げメンバーの努力により、本ビームライン建設は順調に進み、平成9年7月7日に主ビームシャッター(MBS)を開け、このビームラインにおける最初の放射光が観測された。ハッチの放射線漏洩検査を行った後、引き続いて、高圧地球科学実験ステーション内に設置されている高圧プレスを用いた予備的実験を開始し、わずか3日のマシンタイムであったが、高圧下での試料からの回折線プロファイルを得ることができた。また、高温実験ステーション設置の高圧ガス装置も順調に立ち上がっている。本稿では、平成9年8月12日現在における、これらの実験ステーション内設置装置の状況を報告する。本ビームラインについては、以前、辻和彦氏による計画紹介がなされているので、そちらも参照されたい(SPring-8利用者情報 Vol.1 No.3 p30)。なお本ビームラインは、白色X線専用ビームラインであるため、ビームライン使用許可に係る変更許可申請においては、2つの実験ハッチが、光学ハッチ2、光学ハッチ3という名称になっているが、ここでは、便宜上、他のビームラインと同じく、上流側から実験ハッチ1、実験ハッチ2という呼び方をするものとする。

 

 

2.高圧地球科学実験ステーション

 上流側の実験ハッチ1には、最大加重1500トンをかけられる大型高圧プレスを主とする高温高圧X線回折装置が設置された。ここでは、高温高圧力下での種々の物質の構造をX線回折の手段で研究することにより、地球をはじめとする諸惑星内部の構造やその形成進化過程などについての知見を得ることを目的としている。

 図1は、平成9年2月14日にSPring-8に搬入された装置の外観写真である。装置の高さは3 m、総重量は約20トンある。本装置の基幹となる高圧力発生部は、4本柱で支持された1500トンプレスであり、通称DIA型と呼ばれる六方押しタイプの金型を持つ。先端50 mmのマレイジング鋼製のアンビルと先端20 mmの炭化タングステン製のアンビル(未準備)が標準に取り付けられるようになっている。X線回折を行うための光学系は、入射光学系部と垂直受光光学系部ならびに水平受光光学系部からなる。入射光学系部には、厚さ10 mmの炭化タングステン製の固定スリットが設置され、所定の大きさの入射ビームに整形される。受光光学系部は、垂直ならびに水平のゴニオメータであり、それぞれのアーム上には、コリメーター、スリット、半導体検出器(SSD)が搭載される。ゴニオメータの可動範囲は垂直方向で±25°、水平方向±10°である。また、実験に応じて、高圧試料ならびに回折系を放射光位置に合わせるため、プレスならびに各回折系は、それぞれ、xyzステージの上に設置されている。これら各ステージは、サーボモーターあるいはパルスモーターにより遠隔自動操作される。すべての軸の移動量はリニアスケールにより読み取られ、コンピューターによる帰還制御により、1 µm単位での位置制御が可能になっている。

 

図1 高温高圧X線回折装置外観

 

 このようなマルチアンビルと呼ばれる大容量3次元試料空間をもつ高圧力発生装置と放射光の組み合わせは、PFをはじめとする第2世代の放射光施設において、すでに大きな実績を上げてきたものであるが、SPring-8においては、これをさらに継承発展させることが期待されている。そのためには、発生圧力温度領域の拡大の要求が大きく、この目的のため、本装置においては、6-8押しと呼ばれる2段式加圧システムが標準に用いられる。これは、6個のDIA型アンビルで形成される立方体空間内に、1つの角を落とした8個の立方体形状のアンビルを設置し、正八面体形状の固体圧力媒体(素材としては、エポキシ樹脂でかためた無定形ボロン、半焼成した酸化マグネシウムなどが用いられる)を等方的に加圧するものである。アンビル先端サイズなどの種々のパラメーターにより異なるが、炭化タングステンアンビルを用いて、20 GPa以上の圧力領域での実験が定常的に行えるようになる。また内部ヒーターを用いて、2000℃程度までの温度発生が可能である。

 入射スリットで整形された放射光は、アンビルの隙間を通って、圧力媒体に入り、試料にあたる。試料からの回折X線が、水平または、垂直受光光学系ゴニオメータ上に設置された受光スリットをへてSSDに入る。当面、この装置は本ビームラインに固定であるので、白色X線のみが使用可能であり、したがって、エネルギー分散法による粉末X線回折実験が主な実験手法となる。

 前述のように、本装置は、その主たる部分は2月14日にSPring-8に搬入され、その後現地での調整が進められてきたが、7月このビームラインで放射光が確認されるとすぐに、放射光を用いた予備的高圧力実験に入った。図2は、このようにして得られた最初の回折線データである。記念すべき第1号実験試料としてはZnSが選ばれ、15.5 GPaで起きる半導体から金属への相転移にともなって、回折線プロファイルが低圧相の閃亜鉛構造を示すものから、高圧相のNaCl構造のものへと変化していく様子が観測された。実験は、当面のリング運転電流である20 mAモードで行われたが、1つの回折線プロファイルを得るのに約5分程度であり、PFのビームラインBL14(垂直ウィグラー)での実験と同程度であった。100 mA運転が開始されれば、さらに、実験時間の短縮、スリットの絞り込みによるSN比向上などが期待できる。

 

図2 高圧下におけるZnSのX線回折線プロファイル変化

 

 

3.高温実験ステーション

 下流側の実験ハッチ2には、水銀、セレンなどの超臨界流体構造を研究するための、流体X線回折用高圧容器(以下高圧容器と称する)ならびにエネルギー分散型X線回折装置(以下回折計と称する)が設置された。高圧地球科学実験ステーション設置の高圧装置との違いは、こちらは、ガスを圧力媒体として用いるというところにある。本装置の中心となる高圧容器は、2000気圧という高圧ガスを取り扱うために、高圧ガス取締法に基づいた法律上の諸手続きをとる必要がある。幸い、通産省(ならびにその外郭団体である高圧ガス保安協会)の技術基準特別認可(特認)が平成9年2月におり、装置の製作許可を得ることができた。また、兵庫県への装置設置届けが平成9年7月に受理され、SPring-8が第2種高圧ガス製造事業所の認定を受けた。これを受け、7月25日に装置の基幹部分ならびに、高圧ガス防護壁が本実験ステーションに搬入設置された。

 図3は、実験ステーション内に設置された装置の様子である。回折計上に搭載された高圧容器本体が見える。手前に張り出している部分は、SSDが搭載される2θアームである。高圧容器は、圧力容器、プレスフレーム、ガス圧縮機ならびに制御盤などからなる(図4)。圧力容器は、外形φ105、内径φ50のシリンダーおよび上蓋、下蓋からなり、高圧ガス空間はφ50 × 70 mmHある。この圧力容器がプレスフレーム内に設置され、圧力が高まるにつれて上下蓋にかかる力をプレスフレームが押さえ込むという機構になっている。ガス圧縮機によって加圧されたヘリウムガスが、高圧容器へ送りこまれ、2000気圧までの高圧での使用が可能である。高温は、内部ヒーターを用いて、1650℃までの温度が発生できるように設計されている。また、放射光を用いたX線回折実験のため、圧力容器シリンダーには、ベリリウム窓がいくつか設けてある。入射ビーム側に1箇所、回折線側には、5°、10°、15°、23°の位置に1 mmφの穴があけてあり、これらに、ベリリウムがはめ込まれている。

 

図3 流体X線回折用高圧容器ならびにエネルギー分散型X線回折装置外観

 


図4 高圧ガス容器本体図

 

 高圧ガス容器を搭載する回折計は、理学電機社製で、θ、2θの水平2軸ゴニオメータを持つ。試料位置を放射光ビームに合わせるために、ゴニオメータ全体がステージにのっており、y軸、z軸のそれぞれ±10 mmの並進移動、ならびにy軸の回りの±2°のあおり機構を有している。入射ビームは、厚さ1 mmの炭化タングステン板を用いた4軸可動スリットにより整形され、試料からの回折線は、2θアーム上に設置された4軸可動スリットを経てSSDに入る。高圧地球科学ステーションにおける実験と同じく、ここでも白色X線とSSDを用いたエネルギー分散法による回折実験が行われる。

 高圧ガス取締法の定めるところにより、本高圧ガス装置の設置にあたっては、所定の防護壁を設けなくてはならない。このため、本件においても、放射線防護のための鉛実験ハッチとは別に、さらにその内側に5 mm厚の鉄板製の防護壁が設置された。このため、BL04B1ビームライン下流側実験ステーションは、2重のハッチの中に装置が設置されているように見える。

 高圧容器は、製作を受け持った神戸製鋼所において、すでに高圧ガス保安協会立ち合いのもとで、2000気圧までの耐圧試験、気密試験を終了しており、8月下旬には、SPring-8現地での高温高圧試運転にはいる予定である。また、回折計の配線ならびに動作試験も、8月12日に終了している。9月に予定されている放射光を用いた試験運転時には、放射光を実際に装置に導入して最終調整を行い、10月からの供用開始に備える手はずになっている。

 

 

4.建設協力メンバー

 平成9年7月に行われた高圧プレス立ち上げには、浦川啓、桂智男、入舩徹男、井上徹、大高理、内田雄幸、小栗克弥の各氏が参加された。また、高圧容器ならびに回折計の設計、製作は、田村剛三郎、乾雅祝氏が中心となってなされ、辻和彦氏には、SG(利用者懇談会サブグループ)リーダーとして、とりまとめをお願いしている。さらに、装置の設計製作においては、理研機器、トライエンジニアリング、神津精機、米倉製作所、神戸製鋼所、理学電機の各社にお世話になった。本文をまとめるにあたり感謝の意を表わしたい。

 

 

 

内海 渉 UTSUMI Wataru

(Vol.2, No.4, P23)

 

 

舟越 賢一 FUNAKOSHI Ken-ichi

昭和43年1月5日生

(財)高輝度光科学研究センター利用促進部門

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町SPring-8リング棟

TEL:07915-8-1843

FAX:07915-8-0830

E-mail:funakosi@sp8sun.spring8.or.jp

略歴:平成8年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程(地球惑星科学)修了、同年(財)高輝度光科学研究センター。理学博士。日本高圧力学会、日本放射光学会会員。最近の研究:高温高圧下での融体、ガラスの構造解析。趣味:スキー、バドミントン、テニス。

 

 

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[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794