Volume 02, No.3 Pages 23 - 25
4. 専用ビームライン/CONTRACT BEAMLINE
専用ビームライン計画の現状について
Present Status of Contract Beamlines Which Are in the Construction Planning Stage
(財)高輝度光科学研究センター 企画調査部 Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI) Research and Planning Department
1.まえがき
日本原子力研究所及び理化学研究所以外の者によってSPring-8に設置され、設置者が利用する専用ビームライン計画については、「設置計画趣意書」及び「設置実行計画書」の2段階の審査がJASRIの諮問委員会(専用施設検討委員会)によって実施されます[1][1]SPring-8利用者情報 Vol.1, No.5 (1996) 1.。「設置計画趣意書」は計画の科学的及び技術的内容、ビームラインを専用とする必要性等について、また、「設置実行計画書」は専用ビームラインの建設体制・スケジュール・予算、維持管理計画及び安全管理計画、利用計画、並びに技術的実行可能性等についてそれぞれ審査されます。
これまでに7件の専用ビームライン設置計画趣意書の応募があり、いずれもSPring-8への受入れが了承されていますが、さらにこれらの中から、挿入光源型4件、偏向電磁石型1件の合計5件の専用ビームライン設置実行計画書の提出がありました。本稿ではこれらの計画の審査状況と計画の概要について紹介します。
2.応募のあった設置計画趣意書
専用ビームライン設置計画趣意書は平成7年7月に募集が開始されて以来[2][2]SR科学技術情報 Vol.7, No.7 (1995).これまでに表1に示す7件の応募がありました[3][3]SPring-8利用者情報 Vol.1, No.1 (1996) 32.。これらの計画については、諮問委員会(委員長:高良和武)及び専用施設検討委員会(主査:石黒武彦)において、検討評価が行われ、いずれの計画も設置実行計画書の提出を求めるのが適当であるとの結論が得られました。
なお、表1の7件の計画の他に、大阪大学核物理研究センターから設置計画趣意書「レーザー電子光によるクォーク核物理の研究計画」の提出がありました。専用ビームラインは、「日本原子力研究所及び理化学研究所以外の者によってSPring-8に設置されるビームラインであって、特定放射光施設に係る放射光を使用して試験研究を行うためのものをいう」[4][4]特定放射光施設の共用の促進に関する法律(平成6年法律第78号第2条第3項).とされており、この計画は蓄積リングからの放射光を利用するのではなく、蓄積リングの8GeV電子に直接レーザー光を作用させ、その時に発生する逆コンプトン散乱による高エネルギー・偏極光子ビームを用いるもので[5][5]藤原 守:SPring-8利用者情報 Vol.1, No.3 (1996) 38.、厳密な意味では専用ビームラインに該当しないが、ビームラインの設置場所を占有することから専用ビームラインに準じるものとして取り扱うことにしました。この計画については、専門家より構成される「レーザー電子光によるクォーク核物理研究計画」評価委員会(委員長:中井浩二)を特別に設置して検討評価を行い、その結果が第4回諮問委員会(平成7年12月1日)で審議され、本計画は科学的意義のある計画であり、 SPring-8の本来の目的に支障ないよう慎重な配慮がなされることを条件に受入れ可能であるとの答申を得ました。また、この他の計画として、インドの専用ビームライン計画[6][6]植木龍夫:SPring-8利用者情報 Vol.1, No.4 (1996) 45.についてはSPring-8側との協力等について会合が持たれています。計画趣意書、実行計画書の提出を待って諮問委員会(専用施設検討委員会)での具体的検討評価が行われる予定です。
表1 応募のあった専用施設設置計画趣意書
機 関 名 | ビームラインの名称 |
京都大学化学研究所 科学技術庁金属材料技術研究所 科学技術庁無機材質研究所 大阪大学蛋白質研究所 兵庫県 産業用専用ビームライン建設利用共同体 産業用専用ビームライン建設利用共同体 |
京都大学先端光科学ビームライン 超精密材料解析ビームライン I 超精密材料解析ビームライン II 生体超分子構造解析ビームライン 兵庫県ビームライン サンビームID サンビームBM |
3.提出のあった設置実行計画書
これまでに兵庫県ビームライン、大阪大学ビームライン、科学技術庁無機材質研究所ビームライン、産業界専用IDビームライン及びBMビームラインの計5件について設置実行計画書の提出がありました。兵庫県ビームライン(HARU-HX)の設置実行計画書については第7回専用施設検討委員会(平成8年9月17日)において検討評価が行われ、その結果が第6回諮問委員会(平成8年9月24日)において、また、大阪大学ビームライン、科学技術庁無機材質研究所ビームライン並びに産業界の2本のビームラインの4計画の設置実行計画書については第8回専用施設検討委員会(平成9年2月19日)で検討評価され、その結果が第7回諮問委員会(平成9年2月26日)においてそれぞれ審議され、いずれも計画を進めることが適当であるとの答申が得られました。これらの答申を受けて、特定放射光施設運営調整会議(原研・理研・JASRIの三者によるSPring-8の運営に係る重要事項の協議機関)は、計画の内容を確認するとともに、ビームラインの設置場所を決定しました。これらを受けて、計画の受入れ及び設置場所が提案者へ通知されており、遅くとも、受入れ決定より2年以内にJASRIと専用ビームラインの設置に関する契約を締結し計画が実行に移されることになります。
4.専用ビームライン計画の概要
以下に、受入れが決定した専用ビームライン5計画の 概要を紹介します。詳細についてはSPring-8ビームラインハンドブック(英語版)[7][7]SPring-8ビームラインハンドブック(英語版), in press.をご覧下さい。
(1)兵庫県ビームライン(Hyogo-BL)[8][8]松井純爾他:SPring-8利用者情報 Vol.2, No.2 (1997) 29.(BL24XU)
(機関名)兵庫県
(ビームラインの概要)
光源:水平・垂直偏光用真空封止アンジュレータ
エネルギー範囲:3.5〜60 keV
光子数:1015 photons/s
ビームサイズ:1 mm以下
(目的)X線構造解析実験ステーション、材料評価実験ステーション、医学利用実験ステーションから構成されるビームラインを整備し、材料とバイオメディカルの両分野において、産官学の研究者による横断的研究プロジェクトを推進
(内容)微小結晶構造の効率的解析手法の開発、気相堆積法等における結晶成長時の表面・界面の構造及び特性のin-situ解析、超高分解能X線CTの開発研究等
(2)生体超分子構造解析ビームライン(BL44XU)
(機関名)大阪大学蛋白質研究所
(ビームラインの概要)
光源:真空封止アンジュレータ
エネルギー範囲:9〜16 keV
光子数:1014 photons/s
ビームサイズ:50〜200 μm
(目的)生体超分子の構造解析を目的とし、当面は格子定数1500 Åまでの結晶の測定を目指す
(内容)単結晶構造解析及び溶液散乱による蛋白質・核酸集合体等の生体超分子の構造決定、構造と機能発現機構の解析研究等
(3)広エネルギー帯域先端材料解析ビームライン[9][9]福島 整他:第4回SPring-8講演会予稿集 (1997) 35.(BL15IN)
(機関名)科学技術庁無機材質研究所
(ビームラインの概要)
光源:真空封止リボルバー型アンジュレータ[予定]
(ヘリカルアンジュレータ+直線偏光アンジュレータ)
エネルギー範囲:500 eV〜60 keV(500 eV〜 5 keV:ヘリカルアンジュレータ、5 keV〜60 keV:直線偏光アンジュレータ)
光子数:1014 photons/s
ビームサイズ:10 μmφ以上
(目的)真空封止リボルバー型アンジュレータにより得られる軟X線領域から硬X線領域までの幅広いエネルギー範囲の高輝度単色X線を用いて、試料や実験装置を移動することなく軟X線あるいは硬X線を用いて構造解析や電子構造解析等を同時に行うことにより、先端材料の高精度解析を実施
(内容)高空間分解能光電子顕微鏡、X線照射による材料改質の解析、超高圧X線ディフラクトスペクトロメトリー、原子・分子ビームの光電離、緩和過程等の研究
(4)産業界専用IDビームライン(BL16XU)
(機関名)産業用専用ビームライン建設利用共同体(13社)
(ビームラインの概要)
光源:真空封止アンジュレータ
エネルギー範囲:4.5〜40 keV
光子数:1014 photons/s以上(mmビームサイズ時)
ビームサイズ:数μm〜数mm
(目的)X線回折、蛍光X線分析実験ステーションを利用した産業用新材料の分析、マイクロビーム実験ステーションを利用したサブミクロンマイクロビーム光学系の開発による 13社の産業共同体における新材料開発研究を推進
(内容)X線回折を用いた薄膜、界面構造解析及び動的構造解析、蛍光X線分析を用いた表面不純物汚染分析及び状態分析研究等。サブミクロンマイクロビーム光学系の開発による高性能薄膜素子や新機能性構造材料等の微小領域の組成、状態分析並びに構造解析研究等
(5)産業界専用BMビームライン(BL16B2)
(機関名)産業用専用ビームライン建設利用共同体(13社)
(ビームラインの概要)
光源:偏向電磁石
エネルギー範囲:3.5〜60 keV
光子数:1010 photons/s以上
ビームサイズ:数mm2程度
(目的)XAFS及びトポグラフィー実験ステーションを整備し、13社の産業共同体における新材料開発研究を推進
(内容)XAFSによるLSI用薄膜の解析、磁性薄膜の評価、機能性構造材料の解析研究、トポグラフィを用いた化合物単結晶材料の高精度解析研究等
参考文献
[1]SPring-8利用者情報 Vol.1, No.5 (1996) 1.
[2]SR科学技術情報 Vol.7, No.7 (1995).
[3]SPring-8利用者情報 Vol.1, No.1 (1996) 32.
[4]特定放射光施設の共用の促進に関する法律(平成6年法律第78号第2条第3項).
[5]藤原 守:SPring-8利用者情報 Vol.1, No.3 (1996) 38.
[6]植木龍夫:SPring-8利用者情報 Vol.1, No.4 (1996) 45.
[7]SPring-8ビームラインハンドブック(英語版), in press.
[8]松井純爾他:SPring-8利用者情報 Vol.2, No.2 (1997) 29.
[9]福島 整他:第4回SPring-8講演会予稿集 (1997) 35.