Volume 02, No.1 Pages 36 - 40
5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT
SPring-8シンポジウム報告
SPring-8 Symposium
(財)高輝度光科学研究センター 実験部門 Japan Synchrotron Radiation Research Institute (JASRI)Experimental Research Division
平成8年10月28日から2日間にわたり兵庫県立先端科学技術支援センターにおいてSPring-8シンポジウムを開催し、現在建設を進めている共用ビームラインを用いて行う研究課題に関する総合的な討論を行った。建設グループならびに各サブグループから140名以上の参加者を得、別紙のプログラムに従った熱心な討議が行われた。
本シンポジウムを開催するにあたり、JASRI放射光研究所上坪副所長(原研・理研共同チームリーダー)から、本施設を用いて大きな成果を得るには、安定なマシン、優れた利用研究課題のみならずSPring-8の性能を十分に活用した利用方法が重要であり、このためにはJASRIにおいても利用者のニーズに充分対応可能な柔軟な仕組みを持つ必要があるとの指摘がなされた。また、SPring-8利用者懇談会菊田会長から、本シンポジウム開催の意義、JASRIがSPring-8の管理運営を引きついでからの利用者懇談会のあり方について説明があった。本シンポジウムの意義は、利用フェーズで開始されるSPring-8シンポジウム(仮称)の序章として位置づけられるもので、各実験ステーションで行う研究課題を把握するものであった。
本シンポジウムでは、10本の共用ビームラインで行う研究課題のみならず、原研/理研ビームラインならびにR&Dビームラインで行う研究課題に関する報告も併せて行われた。各ビームラインの仕様に関しては、SPring-8ビームラインハンドブック(Beamline Handbook '96)ならびにSPring-8利用者情報(SPring-8 Information)などを参照していただくこととし、本稿では、とくに立ち上げ当初に計画されている各サブグループの研究項目を簡単にまとめた。
(a)結晶構造解析ビームライン
本ビームラインを用い構造相転移、化学反応、粉末回折、散漫散乱に関する研究課題を行う。
構造相転移: | 高エネルギーX線構造解析(常温・常圧、50 keV,KHS) |
背面反射法による低温での格子定数の温度変化測定(CeP) | |
常温常圧での単結晶構造解析(AgS) | |
低温高圧での水素結合系の構造解析(四角酸) | |
異常分散法による非結晶からの結晶析出の研究 | |
化学反応: | 時分割測定による結晶相反応/固相内反応の研究 |
微小結晶の構造解析 | |
異常分散効果を利用した有機分子の絶対配置決定 | |
粉末回折: | 高分解能(<0.01°)粉末回折 |
高エネルギー粉末回折(20~30 keV) | |
散漫散乱: | 結晶構造の揺らぎ・乱れの研究 |
異常散乱法による3元合金(Fe-Cr-Ni)の元素間相関の研究 |
(b)核共鳴散乱ビームライン
本ビームラインを用い核共鳴散乱、表面界面構造に関する研究課題を行う。
核共鳴散乱: | α-Fe2O3からの核共鳴線を用いた強度相関実験 |
ヘモグロビン生体高分子などの核共鳴非弾性散乱分光 | |
放射光核共鳴励起による内部転換電子放射の測定 | |
核共鳴前方散乱を用いた超高圧下での超微細構造の測定 | |
磁場変調タイプのX線干渉実験 | |
高分解能(〜μeV)X線分光実験 | |
強磁性アモルファスリボンによる核共鳴ハローの観察 | |
磁気二重共鳴がある時の核共鳴散乱の時間追跡 | |
表面界面構造: | 半導体表面の微小格子歪み |
SiO2/Si界面における酸化過程のその場観察 | |
金属表面に吸着した軽元素分子の吸着構造 | |
禁制反射におけるX線定在波の可能性 | |
金属表面の酸化膜・腐食膜生成過程の動的観察 | |
X線回折法による表面・界面構造の精密測定 | |
表面界面磁気構造の研究 |
(c)生体分析ビームライン
本ビームラインを用い磁気散乱・吸収、分析、医学利用に関する研究課題を行う。
磁気散乱・吸収: | X線共鳴磁気散乱(化合物、フッ化物、合金、多層膜/スピン角運動量分離) |
MCD(磁気円偏光二色性) | |
X線磁気回折 | |
分 析: | 蛍光X線超微量元素分析、イメージング |
斜入射法による表面分析 | |
高分解能蛍光X線分析・分光 | |
医 学 利 用: | 生体中の微量元素分析(微量元素の状態および組織分析) |
(d)生体高分子結晶構造解析ビームライン
本ビームラインを用いX線構造生物学、生体高分子(結晶)に関する研究課題を行う。
X線構造生物学: | MIR-OAS法によるタンパク質結晶(超高分子量)構造解析 |
生体高分子(結晶): | タンパク質結晶構造のルーチン解析 |
(e)軟X線固体分光ビームライン
固体電子物性: | 内殻吸収MCD |
磁性体電子状態、磁性化合物中の非磁性原子のMCD | |
高分解能光電子分光(内殻励起共鳴下でのフェルミ準位近傍電子状態) | |
相転移、バルク電子状態 | |
光電子回折(2次元電子放出角度分布) | |
3次元的電子配置、フェルミ面形状、非磁性体の表面構造研究 |
(f)高エネルギー非弾性散乱ビームライン
コンプトン散乱: | 300 keVX線によるコンプトン散乱実験 |
ヘビーフェルミオン系など重元素試料の測定 | |
高分解能コンプトン散乱実験(100-150 keV) | |
フェルミ面と電子相関 | |
ウムクラップ過程と運動量分布 | |
伝導電子の磁性(4f、5d系) | |
RKKYと運動量分布 | |
相転移と運動量分布 |
(g)XAFSビームライン
広エネルギー領域XAFS: | 一般的なXAFSを手段とした研究/XAFS全般の精密化 |
高エネルギー領域のXAFS | |
希薄系のXAFS |
(h)高圧構造物性ビームライン
本ビームラインを用い極限構造物性、高輝度XAFSに関する研究課題を行う。
軽元素物質の高密度状態のX線回折・散乱・分光 | |
H2O, HeS, HFなどの水素結合分子の分子解離機構の解明 | |
分子性固体の金属化と構造相転移の探索 | |
珪酸塩鉱物の高圧構造解析 | |
精密構造解析 | |
分子性固体や構造無秩序化過程など分子結合性の変化 | |
圧力・温度誘起2次相転移や臨界現象の研究 | |
非晶質体の定量構造解析 | |
低次元構造(数原子程度)を対象とした外場(光励起、温度電場)に対する空間的・時間的な変位としての微視的構造の精密解析 |
(i)高温構造物性ビームライン
本ビームラインを用い高圧地球科学、高温に関する研究課題を行う。
圧力スケールの確立 | ||
高温高圧下での珪酸塩鉱物の研究 | ||
珪酸塩鉱物と鉄合金系の結晶構造、状態方程式、相転移、レオロジー、マグマの構造、密度、粘性 | ||
金属系ならびに非金属系融体の構造と物性 | ||
材料科学(ダイヤモンド合成過程のその場観察) | ||
超臨界流体水銀、セレン、合金の構造 | ||
液体合金の高温での構造 |
(j)軟X線光化学ビームライン
本ビームラインを用い軟X線光化学、軟X線CVD、原子分子に関する研究課題を行う。
放射光励起エッチング反応機構の研究 | ||
内殻励起分子の電離/解離機構の研究 | ||
原子、分子、イオンの内殻電子の分光特性および動的過程の研究 |
(k)理研ビームライン
3本のビームラインを建設し、構造生物学ならびにX線干渉光学の研究を進める。構造生物学ビームラインを用い、共用ビームラインで将来行う予定であるタンパク質結晶学、生体高分子(非結晶)の研究の一部を行う。
生体高分子のMAD法結晶構造解析、小角散乱 | ||
生体高分子のラウエ法時分割構造解析 | ||
時分割XAFS | ||
動的タンパク質解析 | ||
巨大蛋白分子複合体などの小角散乱実験 |
(l)原研ビームライン
重元素科学ならびに材料科学研究のため3本のビームラインを建設している。
アクチナイド系物質の構造と電子状態の研究 | ||
表面化学研究 | ||
放射線生物研究 | ||
表面・界面構造研究(電気化学の界面、結晶成長の界面、固体/固体界面、半導体/磁性界面) | ||
DAFS(シリサイド相転移、微粒子触媒、アモルファス結晶成長) | ||
ランダム系物質中範囲秩序 | ||
高温高圧状態(結晶、溶融塩など)での構造解析 |
(m)R&Dビームライン
光学系ならびに利用技術開発を目的とする。
高度化技術開発 | ||
高精度光学素子開発 | ||
硬X線領域のイメージング技術 |
SPring-8シンポジウムプログラム
日 時 : 1996年10月28日(月)〜10月29日(火)
場 所 : 兵庫県立先端科学技術支援センター 大ホール
主 催 : 財団法人高輝度光科学研究センター、SPring-8利用者懇談会
10月28日(月) | |
開会の挨拶 | 上坪 宏道(JASRI放射光研究所) |
菊田 惺志(利用者懇談会) | |
建設の現状 | 大野 英雄(共同チーム) |
結晶構造解析ビームライン | |
構造相転移 | 野田 幸男(千葉大学) |
化学反応 | 田中 清明(名古屋工業大学) |
粉末回折 | 虎谷 秀穂(名古屋工業大学) |
散漫散乱 | 前田 裕司(日本原子力研究所) |
核共鳴散乱ビームライン | |
核共鳴散乱 | 依田 芳卓(東京大学) |
表面界面構造 | 中谷信一郎(東京大学) |
生体分析ビームライン | |
磁気散乱・吸収 | 圓山 裕(岡山大学) |
分析 | 早川慎二郎(東京大学) |
医学利用 | 中井 泉(東京理科大学) |
生体高分子結晶構造解析ビームライン | |
X線構造生物学 | 三木 邦夫(京都大学) |
生体高分子(結晶) | 山根 隆(名古屋大学) |
理研ビームライン | |
理研ビームライン | 植木 龍夫(理化学研究所) |
蛋白質結晶学 | 森本 幸生(姫路工業大学) |
生体高分子 | 八木 直人(東北大学) |
10月29日(火) | |
軟X線固体電子分光ビームライン | |
固体電子物性 | 菅 滋正(大阪大学) |
高エネルギー非弾性散乱ビームライン | |
コンプトン散乱 | 坂井 信彦(姫路工業大学) |
XAFSビームライン | |
広エネルギー領域XAFS | 江村 修一(大阪大学) |
原研ビームライン | |
重元素科学(I) | 横谷 明徳(日本原子力研究所) |
重元素科学(II) | 水木純一郎(日本原子力研究所) |
R&Dビームライン | 香村 芳樹(共同チーム) |
高圧構造物性ビームライン | |
極限構造物性 | 浜谷 望(お茶の水女子大) |
高輝度XAFS | 大柳 宏之(電子技術総合研究所) |
高温構造物性ビームライン | |
高圧地球科学 | 浦川 啓(岡山大学) |
高温 | 辻 和彦(慶応義塾大学) |
軟X線光化学ビームライン | |
軟X線光化学 | 小谷野猪之助(姫路工業大学) |
軟X線CVD | 正畠 宏祐(名古屋大学) |
原子分子 | 小泉 哲夫(立教大学) |
利用者懇談会顧問のコメント | |
閉会の挨拶 | 坂田 誠(名古屋大学) |
大野 英雄 OHNO Hideo
昭和18年3月29日生
日本原子力研究所 大型放射光開発利用研究部長
日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 研究開発グループリーダー
(財)高輝度光科学研究センター放射光研究所 実験部門 部門長
〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1503-1
TEL : 07915-8-0308
FAX : 07915-8-0311
略歴:昭和45年京都大学大学院理学研究科博士課程修了、日本原子力研究所材料研究部次長を経て、現在大型放射光開発利用研究部長並びに共同チーム研究開発グループリーダー、昭和50〜51年アルゴンヌ国立研究所留学、理学博士。イオン性液体(溶融塩)及びガラスのX線並びに中性子線構造解析の研究に従事。