Volume 02, No.1 Pages 13 - 16
2. SPring-8の現状/PRESENT STATUS OF SPring-8
構造生物学研究棟の建設計画について
Construction Plan on Structural Biology Facility
日本原子力研究所・理化学研究所 大型放射光施設計画推進共同チーム 企画・管理グループ JAERI-RIKEN SPring-8 Project Team Planning and Coordination Group
構造生物学研究棟は、理化学研究所が大型放射光施設(SPring-8)の利用を中心とした研究分野を展開するため、平成9年度に設置する予定である「理化学研究所播磨研究所(仮称)」の最初の建物として計画されたもので、平成9年度の完成を目途に平成7年度から建設を進めている施設です。
1.経緯
SPring-8は、日本原子力研究所と理化学研究所が共同して平成10年度の供用開始を目指し、平成2年度から建設を開始しましたが、建設途中で各界からの早期完成の要望に応えて供用開始を平成9年度に1年繰り上げることとなりました。現在、加速器及びビームライン並びにそれらを収容する建物、関連の施設等の建設が順調に進み、順次加速器の試験調整運転が始まっています。
これらの建設にあわせて理化学研究所は、SPring-8を利用した独自の研究を進めるため、平成5年度から理化学研究所が製作・利用するビームラインである「理研ビームライン」の開発研究を開始しました。このビームライン(最初の理研ビームラインであるので「理研ビームライン-1」という)は、生体高分子結晶の構造解析及び生体高分子の静的・動的構造解析を行うことを目的とした、垂直偏光アンジュレータを光源とするビームラインです。さらに、平成7年度からは、白色X線による生体高分子の動的構造解析及び蛍光X線による局所構造解析を行うことを目的とした、偏向電磁石を光源とする理研ビームライン-2の開発研究を開始するとともに、ビームラインの利用に向けて生体高分子の大型結晶化等の研究も開始しました。
このような流れの中で、理研ビームラインを利用した研究計画等を明確にするため、SPring-8を中心とした播磨地区における研究体制「播磨研究所(仮称)」のあり方等の構想を検討する「『播磨理研』構想検討委員会」(委員長:長柄喜一郎副理事長[当時])を平成6年2月に設置しました。その検討の結果、平成6年12月に研究体制、施設等の整備に関する基本的な項目をまとめた「播磨研究所(仮称)基本構想中間報告」及び年次計画を含めた施設の全体計画・配置計画等の概略をまとめた「播磨研究所(仮称)における施設整備計画」を作成しました。
これらをもとにして、理化学研究所は、平成8年度から播磨地区における最初の研究施設として、構造生物学研究棟をSPring-8の供用開始時期である平成9年度までに建設するための予算要求を行うこととしました。一方、平成8年度予算要求と同時に行われた平成7年度第2次補正予算の編成に際して、構造生物学研究棟の建設を1年前倒しして予算要求したところ、3カ年による建設計画が認められました。
これに伴い、上記「播磨研究所(仮称)基本構想中間報告」の見直しと施設全体計画のとりまとめ及び構造生物学研究棟の設計を進めるため、平成7年10月に「播磨研究所計画推進委員会」(雨村博光副理事長)を設置し、その作業組織として「播磨研究所計画推進室」(室長:上坪理事)を設置しました。このような体制の下で検討及び作業の結果、構造生物学研究棟の設計を完了し、平成8年3月に建設が開始されることとなり、また平成8年4月には「播磨研究所(仮称)基本計画」が策定されました。
なお、理研播磨研究所の設置については、平成9年度予算として要求しています。
図1 構造生物学研究棟完成予想図
2.構造生物学研究について
構造生物学研究棟において展開される構造生物学研究とは、生命現象の仕組みを生体内に存在するタンパク質等の巨大分子の機能を基に解明する研究領域であり、21世紀の生物学の主流のひとつとなるものです。
タンパク質は、その構成要素であるアミノ酸が鎖のように配列(一次構造、二次構造)されていますが、それだけでは、タンパク質のもっている優れた機能を理解することはできません。タンパク質は、その鎖が折り畳まれて特定の立体的な配置(三次構造、四次構造)をとったときにその機能を発現するため、機能を理解するためには、立体構造とその微妙な動きを原子レベルで解明することが重要です。
播磨研究所における構造生物学研究は、SPring-8の高輝度・高強度の放射光を用いたタンパク質の高次構造の解明を目指します。
3.施設配置計画の概要
構造生物学研究棟の建設にあたっては、その建設場所を確定しなければなりませんが、その前提条件として播磨研究所全体の施設配置計画と並行して検討することとし、構造生物学研究棟の設計とともに、設計会社(入札の結果、㈱日建設計が実施)の参加を得てまとめあげました。SPring-8の敷地においては、加速器施設が建設されている北東のエリアがSPring-8の放射光を利用する研究開発と放射光と相補的な実験技術を用いる研究開発を行うエリアとして位置づけられていますので、播磨研究所の施設もその場所に展開することとしました。さらに、その最初の建物として建設する構造生物学研究棟の建設場所は、SPring-8関係またはそれ以外の将来施設の整備計画に対して、土地利用上の自由度を最大限に確保することを考慮して、敷地境界側(北側)の周回道路付近としました。また、電気、給水、排水、都市ガス等のユーティリティーも周回道路から引き込むこととなるため、構造生物学研究棟の北側にエネルギー棟を配置することとしました。
写真1 SPring-8敷地の航空写真(平成8年7月撮影)
左方円形の施設が蓄積リング棟、その右横の施設が線型加速器棟及びシンクロトロン棟(いずれも完成)。構造生物学研究棟は、中央右上部に建設中。
4.施設計画の概要
構造生物学研究棟の設計にあたっての基本的コンセプトは、第1に柔軟性を確保することです。これは、現時点では、予算を含めた今後の施設整備計画が流動的であることと、施設の性格として利用研究分野を固定的に考えず、随時施設の仕様変更、機器の増設等を行いうるよう施設としての融通を十分確保しておくことに配慮した結果です。このため、将来の研究分野の変更に対応できるよう、各実験室における実験用分電盤、コンセント等の電気設備及び純水、窒素ガス等のユーティリティー設備の仕様を共通化するとともに、将来設置する可能性のある空調機等の室外機設置スペース、ドラフトチャンバー等のダクト設置スペース等を確保するため、実験室の窓外にバルコニーを設置することとしました。
基本的コンセプトの第2は、効率的に研究スペースを確保することです。このため、研究ゾーンについては、廊下を挟んで両側に実験室と研究室を配置する中廊下型の計画としました。
また、構造生物学研究の性格上、実験室において光をコントロールする必要性が高く、日照への配慮が必要となるので、その対応策として、建物の方角を配慮したうえで、実験室を北側に集約すること、バルコニー、ルーバーにより遮光すること、実験室の窓を小さくすることなどに配慮しました。
さらに、研究者の交流スペースを確保するため、各階の北西側のコーナーにリフレッシュコーナーを設けることとしました。構造生物学研究棟は、敷地の最も北側に位置しており、そのうえに敷地外より高い位置にあるため、天気の良い日は遠くの山々までが景観できます。
5.施設の内容
構造生物学研究棟の仕様の概略は、下記のとおりです。
(1)構造
鉄筋コンクリート(RC)造
(2)規模
[階数]地上4階
[最高高さ]21.5 m
[建築面積]1,306.47 m2
[延床面積]4,462.53 m2
(3)各階の構成
[1階]
共通の実験室・機器室の他に、研究を支援する諸室として、セミナー室、資料室、及び技術員室を
配置しています。
[2階〜4階]
原則的として1フロアに1つの研究室が収容されるように計画しています。1つの研究室は、主任研究員
及び研究員の居室、実験室、特殊設備室(低温室)及び共通実験室・機器室が配置されています。
[各階コア部分]
エレベーター、階段、空調機械室の他に、便所、給湯室等の水廻り、リフレッシュコーナー(1階のみ
ロビー)が各階に配置されています。
(4)付帯施設
エネルギー棟(鉄骨(S)造・地上1階・215.66 m2)
船田 孝司 FUNADA Takashi
昭和30年11月23日生
日本原子力研究所・理化学研究所大型放射光施設計画推進共同チーム
企画・管理グループ 企画グループ
TEL:07915-8-0308
FAX:07915-8-0311
E-mail:funada@sp8sun.spring8.or.jp
兼務 理化学研究所 播磨研究所計画推進室
略歴:昭和53年東京理科大学理学部応用化学科卒業、同年 理化学研究所に入所、企画部企画課に所属、科学技術庁振興局管理課に派遣の後、企画室、国際フロンティア研究推進部企画管理課、高速外環状道路関係移転建設推進室、施設管理部建設課等を経て平成6年4月から現職。