ページトップへ戻る

Volume 01, No.5 Pages 14 - 16

3. 共用ビームライン/PUBLIC BEAMLINE

軟X線光化学ビームライン(BL27SU)の概要
Outline of the Soft X-ray Photochemistry Beamline(BL27SU)

小谷野 猪之助 KOYANO Inosuke[1]、奥山 雅則 OKUYAMA Masanori[2]

[1]姫路工業大学理学部 Himeji Institute of Technology Faculty of Science、[2]大阪大学基礎工学部 Osaka University Faculty of Engineering Science

pdfDownload PDF (71 KB)

 

1.はじめに

 このビームラインは狭義の軟X線光化学(以下 “光化学”)と軟X線CVD(以下“CVD”)の2つのサブグループの実験ステーションからなる併設ビームラインである。併設案が出された当初は、これに原子物理学を加えた3つのサブグループの相乗りビームラインとする計画であったが、その後、原子物理学ビームラインは結晶分光器の開発という共通の目的をもつ別のグループと一緒にやることになり、別かれた。本ビームラインの光源は、熱負荷の問題を解決した軟X線直線アンジュレータ(いわゆる“8の字アンジュレータ”)であり、これは北村、田中両氏のアイディアになる新しいタイプのものである。光化学サブグループは、このアンジュレータから得られる良質の軟X線の特性をフルに活用することによってこの領域における世界最高の分解能と強度を実現し、内殻励起分子の分光学および光イオン化/解離ダイナミックスの研究を行うことを目指している。一方、CVDサブグループは、本アンジュレータ光の高い強度に着目し、それを分光せずに用いてSRCVD、SRエッチング、SRアブレーションを行い、それらの反応機構を解明することを目指している。

 

 

2.高分解能軟X線分光器

 光化学サブグループの目的を達成するための要となるのは高分解能回折格子分光器である。これに要請される性能は、光子エネルギー1 keVにおける相対分解能ΔE/E=10-5、この分解能で照射位置に最終的に得られる光子数は1012/sである。また、照射位置でのビームサイズは0.5 mm × 0.5 mm以下が目標である。このような分解能を要請するのは、内殻励起分子のダイナミックスにおいては核の動き(分子振動)とカップルした電子過程を調べることが重要であり、それには振動準位が最大限に分解された励起が必要であるからである。この分解能において初めて、多くの分子で内殻励起状態の振動構造が分解できると期待される。このような性能をもつ分光器として、なん通りかの新しい型のものがグループメンバーの一人である石黒によって考案され、グループ内で検討が重ねられてきたが、結論として定偏角型平面回折格子分光器と放物面集光鏡を組み合わせたものを採用することになった。しかし、残念ながら諸般の事情でその完成は平成9年に最初の光が出るときには間に合わず、同年度末(平成10年3月)になる可能性が高い。しかし、光化学とCVDの2つの実験ステーションに光を振り分ける鏡とそのあとの前置鏡、および観測チェンバー(次項)は今年度中に完成の予定であるので、どちらのグループの実験もとりあえずは分光しない光を用いて光の供給開始と同時に始められる予定である。図1に前置光学系、分光器および2つの観測チェンバーの配置図を示す。

 

図1 軟X線光化学ビームライン(BL27SU)配置図

 

 

3.軟X線光化学観測チェンバー

 分光器の後にくる観測チェンバーおよび計測機器は昨年度に競争入札・落札を終え、現在、製作業者のもとで製作が進行中である。図2に光化学観測チェンバーの概略図を示す。全体は大別して3つの部分からなる。それらは1)フィルター室を兼ねた差動排気槽、2)照射領域、分析/検出器等を収容する回転主チェンバー、3)主排気槽である。上記の研究目的を達成するために、主チェンバーには光電子/オージェー電子エネルギー分析器、イオンエネルギー/質量分析器、リフレクトロン型質量分析器等が設置され、それらは入射光の伝播方向の回りにセットで(チェンバーごと)回転できるとともに、電子分析器-イオン分析器相互の角度も変えられる設計になっている。これによって、光電子/オージェー電子および解離イオンの角度分布のみならず、電子-イオン間の角度相関をもとることができるようになっている。これらの性能と上記の高い分解能を組み合わせることによって、光イオン化/解離ダイナミックスの研究は格段に進展するものと期待される。また、上記のアンジュレータ光にはかなりの高次光が含まれており、それを除去するために金属板による多重反射を利用したフィルターが差動排気槽の中に設置される。

 

図2 軟X線光化学観測チェンバー

 

 

4.軟X線CVD 観測チェンバー

 CVDではできるだけ強度の強い軟X線が必要であることから、本アンジュレータからの軟X線ビームを分光せずに直接照射するダイレクトビームと、集光鏡によるマイクロビームとを分けて利用する計画である。両者を含む観測チェンバー全体のレイアウトを図3に示す。建設計画では、まず比較的容易なダイレクトビームの実験ステーションを構築し、ついで集光鏡を挿入してマイクロビームを作りだす予定である。昨年度にダイレクトビームラインのための真空チェンバー仕様書の立案、検討を行い、決定、公開入札の上、発注を行った。今年度は本装置が納入され、組立、検査を経ていよいよ単独の装置として稼動、テストを行う段取りである。図からわかるように、本実験ステーションは差圧排気装置、反応容器、分析容器からなる。反応容器内でガスを導入、試料上への薄膜堆積、エッチングを行った後、これを大気解放せずに分析容器に移し評価するようになっている。しかし、初年度発注分のこのセットには集光鏡や評価装置が含まれていず、今後ぜひ装備していく必要がある。また、こういった研究を安全かつ有効に行っていく上で、試料準備室、クリーンルーム、使用ガスの安全管理設備、廃ガスの無害化設備等が不可欠であり、実験開始までにどうしても設置されなければならない。

 

図3 軟X線CVD観測チェンバー

 

 

5.どのような研究が行われるか

 これらの装置を用いて行う研究として各サブグループのメンバーから提案されている課題は次のようなものである。光化学では、1)内殻励起領域における超高分解能分子分光、2)光イオン化ダイナミックスの完全実験、3)内殻励起/電離分子の解離過程の完全解明、4)軟X線をメスとする分子内結合の選択的切断(光による分子過程制御の新原理の探求)、5)レーザーとSRの組み合わせによる新しい研究分野の開拓等である。CVD では、電子材料となる種々の半導体、誘電体、金属を対象物質として選んだ1)薄膜作製、2)微細加工、3)アブレーションやエッチングの反応機構の解明等である。これらは、物質創製、微細加工のイノベーションを目指したものである。

 

 

 

小谷野 猪之助 KOYANO Inosuke

昭和11年7月31日生

姫路工業大学理学部 物質科学科

〒678-12 兵庫県赤穂郡上郡町金出地1479-1

TEL:07915-8-0167

FAX:07915-8-0132

E-mail: koyano@sci.himeji-tech.ac.jp

略歴:昭和40年東京工業大学理工学研究科博士課程(化学専攻)修了、同年東京工業大学助手、昭和45年カナダ国ヨーク大学博士研究員、昭和51年分子科学研究所助教授、平成2年姫路工業大学教授。理学博士。日本化学会、日本物理学会、日本分光学会、日本質量分析学会、日本放射光学会、原子衝突研究協会、光化学協会各会員。最近の研究:内部状態を選択したイオンの反応の動力学、深い価電子または浅い内殻電子の励起による分子/分子イオンの解離過程、クラスターイオンの衝突誘起および光解離、分子2価イオンの反応。

 

 

奥山 雅則 OKUYAMA Masanori

昭和21年3月4日生

大阪大学基礎工学部 電気工学科

豊中市待兼山町1-3

TEL&FAX:06-850-6330

FAX:06-850-6341

E-mail:okuyama@ee.es.osaka-u.ac.jp

略歴:昭和48年大阪大学基礎工学研究科博士課程(物理系専攻)修了、同年4月日本学術振興会奨励研究員、昭和49年大阪大学助手、昭和52年4月米国カーネギーメロン大学客員研究員、昭和61年4月大阪大学助教授、平成3年同教授。工学博士。日本物理学会、応用物理学会、電気学会、日本赤外線学会、日本放射光学会、日本表面科学会、IEEE、システム制御情報学会。最近の研究:強誘電体薄膜の作製とデバイス応用、SiO2薄膜の低温成長と物性。

 

 

Print ISSN 1341-9668
[ - Vol.15 No.4(2010)]
Online ISSN 2187-4794