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Volume 13, No.1 Pages 63- 68

5. 研究会等報告/WORKSHOP AND COMMITTEE REPORT

第11回SPring-8シンポジウム報告
Report of The 11th SPring-8 Symposium

鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 Research & Utilization Division, JASRI

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1. はじめに

 第11回SPring-8シンポジウムが2007年10月29日(月)〜30日(火)に、SPring-8放射光普及棟にて開催された。参加者は前回を上回る258名(外部:133名、施設内部:125名)であった。今回のシンポジウムは1997年10月の供用開始からちょうど10周年の節目であり、建設期から成熟した利用期へと差し掛かったSPring-8の将来を考える好機である。また、2006年4月に行われたSPring-8利用者懇談会の研究会再編成から二度目の会議となる。シンポジウムの企画にあたり、実行委員会でこれらの点を勘案した結果、(1)SPring-8供用開始10周年記念講演を行う、(2)パネルディスカッション形式の総合討論を行い、その中で今後の施設の高度化について議論する、(3)研究会からの活動報告に施設への要望や高度化のアイデアを盛り込むこと、をプログラムの柱とした。また前回に引き続き、SPring-8利用推進協議会から推薦いただいた講演者による産業利用に関する招待講演をお願いし、産学の研究交流の場となることを期待した。加えて、ユーザーと施設側との意見交換はシンポジウムの重要な目的であるため、事前に研究会に施設への意見・要望をアンケートで募り、講演に反映させることを試みた。なお、今回から独立行政法人理化学研究所が主催者として加わり、財団法人高輝度光科学研究センター(登録施設利用促進機関)、SPring-8利用者懇談会の3団体の共催としてシンポジウムは開催された。

 

 

2. 会議内容

 シンポジウムは理研 壽榮松所長とJASRI 吉良理事長の挨拶で開会した(写真1)。SPring-8運営における理研とJASRIの役割や、XFEL完成後にはXFEL+SPring-8を利用者の共用に供する施設とする計画について話があった。続いて、文部科学省 研究振興局 基礎基盤研究課の桑田加速器科学専門官からご挨拶をいただいた。施設側報告として、JASRI 大野専務理事からは、2006年7月から2007年7月に行われた「科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 研究評価部会 SPring-8評価作業部会」での評価・提言内容について報告があり、優れた成果と施設の最大限の活用が求められている点が強調された。また、産業利用研究の割合が順調に伸びていること、それに関連して成果専有利用料も増加していることが示された。JASRI 高田利用研究促進部門長からは、ビームラインの利用状況、2007年8月に行われたJASRI組織再編について報告があった。5件の専用施設(BL)設置計画の趣意書が選定されたことが示された。SPring-8施設のアップグレードに関しては、今年度から検討を開始し、2019年に大規模な改造を開始する計画が提示された。JASRI 大熊加速器部門長からは、最近の加速器部門の取り組みとして、バンプ電磁石の傾き調整によるTop-up入射時の蓄積ビーム振動抑制と、長直線部カウンター6極電磁石の導入について報告があった。ユーザーからの要望、質問に回答する形で、短パルス放射光生成の可能性や低アルファオプティクス、4 GeV運転スタディの現状と可能性、大電流バンチ運転について丁寧に説明され、大変わかりやすかった。理研の石川センター長からは、XFEL計画とプロトタイプ機の現状について報告があった。1 kmビームラインに並行する形で、2010年完成予定で建設が進んでいること、プロトタイプ機ではアンジュレータを交換することでレーザー発振が飽和に至ったことが示された。質疑応答では、海外のXFEL施設と比べて最もコンパクトでありながら最も短波長の発振が可能であるというSCSSの利点が再確認された。

 

 

写真1 SPring-8シンポジウム講演の様子

 

 

 施設側の現状報告の後、物構研の飯田氏(利用研究課題審査委員長)から課題選定状況の報告があり、1年課題や複数BL希望の申請時の注意点などが説明された。つづいて、長期利用課題の事後評価を兼ねた「飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験」に関する報告が名古屋大学 小賀坂氏からあった。天体観測用の硬X線望遠鏡の評価効率や精度がSPring-8を使うことで飛躍的に向上したとのことであり、ロマンを感じさせる講演であった。

 昼食休憩後は、SPring-8利用者懇談会の坂井会長の挨拶の後、研究会からの報告が行われた。今回のシンポジウムでは、施設への要望とその回答を講演に盛り込むために、研究会の講演時間を35分間たっぷり取った。そのため、利用者懇談会で協議し、34研究会のうち口頭発表を10研究会に限らせていただいた。トップバッターの、原子分子の内殻励起研究会の上田氏(東北大学)からは小数均等バンチモードの必要性が訴えられ、加速器や時間分解測定を行う研究者との活発な議論が行われた。理論研究会の石原氏(東北大学)からは、「理論家も実験に参加する!」という力強いメッセージが発信された。高分子薄膜・表面研究会の高原氏(九州大学)からは、活発な研究会活動の報告の後、アンジュレータ放射光によるGISAXSの有機薄膜試料への有用性が示された。休憩をはさんで、高圧物質科学研究会、核共鳴散乱研究会を代表して小林氏(兵庫県立大学)からは、高圧物性研究に特化したビームラインの高度化の方向性が示された。構造物性研究会の北川氏(九州大学)、結晶化学研究会の小澤氏(兵庫県立大学)による講演では、BL02B1に汎用的な構成の新型単結晶カメラを導入する計画が示された。講演終了後、利用者懇談会の利用促進委員会報告と総会が行われた。その後、食堂で開かれた懇親会は大盛況であった。こうして1日目のセッションを終了した。

 2日目の午前中は前日に引き続き、研究会からの報告が行われた。ナノ組織損傷評価研究会の三浦氏 (東北大学)、地球惑星科学研究会の入舩氏(愛媛大学)、スピン・電子運動量密度研究会の小泉氏(兵庫県立大学)、固体分光研究会の関山氏(大阪大学)の講演が行われた。

 午前中最後のセッションは、産業利用に関する招待講演であった。SPring-8利用推進協議会の推薦により、講演者として八田氏(JASRI)、井上氏(株式会社カネボウ化粧品)をお招きした。講演はX線小角散乱法を用いた皮膚・毛髪構造の研究およびヘアケア製品への応用という身近で大変興味深いお話であった。

 午後からは、普及棟中講堂において、13時から14時30分までのコアタイムとしたポスターセッションが行われた(写真2)。研究会から33件、共用ビームライン16件、理研・専用施設14件、パワーユーザー活動報告5件、長期利用課題中間報告9件、合計77件の発表があった。そして今回はJASRI利用業務部からも力作ポスターの発表があった。ユーザーからの質問への回答や、課題申請システムについて報告があり、聴衆で賑わっていた。全体的にポスターボードの前に多くが集まり、専門的な議論や意見交換が活発に行われていたと感じた。

 

 

写真2 ポスター発表の様子

 

 

  14時30分からは大講堂に会場を戻し、JASRI菊田参与によるSPring-8供用開始10周年記念講演「SPring-8の過去・現在・未来」が行われた(写真3)。SPring-8の計画段階から、建設、供用開始にいたる歴史が菊田氏のご経験とともに語られた。SPring-8のビーム特性を活用したこの10年間での研究成果の特色をまとめられた後、今後、高エネルギーX線や長直線部といったSPring-8ならではの特徴を活用することの重要性を強調された。さらに、SPring-8とXFELを百貨店と専門店に例えられ、共存共栄を目指す方向性が示された。

 

 

写真3 菊田惺志氏による供用開始10周年記念講演

 

 

 15時20分から、総合討論がパネルディスカッション形式で行われた(写真4)。この総合討論は、前回のシンポジウムから採り入れられたプログラムである。パネラーは、理研 石川センター長、JASRI堀江コーディネーター、日本原子力研究開発機構 水木放射光科学研究ユニット長、JASRI高田利用研究促進部門長、JASRI大熊加速器部門長、JASRI鈴木研究調整部長の6名が登壇した。

 

 

写真4 総合討論(パネルディスカッション)の様子

 

 

 司会進行役の坂井利用者懇談会会長より、総合討論の主旨とテーマ内容についての説明があった。今回の議題は、第一部:現在の施設への意見・要望等、第二部:SPring-8の将来・高度化計画である。第一部では、坂井会長からアンケート結果の報告の後、効率的なビームタイムの利用形態や停止期間等運転計画に関して、パネラーから現状についての見解が述べられた。ビームラインのスクラップ&ビルドについては、高度化委員会で検討中であるが、利用促進委員会を通じて利用懇研究会からも意見を出してほしいとのことであった。続く第二部は、3名のパネラーからの5分程度の問題提起で開始された。最初のパネラーである石川センター長からは、XFELとSPring-8を融合した施設として最適化していく方向性が示された。SPring-8の次をそろそろ考え始める時期に来ているとのことであった。二人目のパネラーである堀江コーディネーターからは、ユーザーの立場でのSPring-8の利用について提案があった。今後10年で、対象分野の拡大、ユーザーの拡大(X線の専門家から物作りの専門家へ)、産学共同の形をすすめていきたいというお話があった。3人目のパネラーの水木ユニット長からは、ESRFアップグレードミーティングの報告があった。ESRFの半数のビームラインが今後アップグレードの対象となること、ナノ科学、時分割、極限条件、タンパクや高分子の構造と機能、X線イメージング、という5つの重点研究領域(Highlight areas)を設定して高度化を行っていく方針などが紹介された。この後、全体討論に入り会場からの質問や意見を募ったが、会場とパネラー間での議論は発展せず、パネラー同士での意見交換が主になってしまった。ESRFのバイオ分科のユーザーミーティングでは、アップグレードのためにリングの運転を停めるなど認めないという意見が出て大荒れになったそうである。本SPring-8シンポジウムも最大規模のユーザーミーティングであり、会場からの積極的な発言がなかったことは、ESRFとSPring-8のユーザーの温度差を感じて少々残念であった。とはいえ、パネラーからは高度化計画に関する新しい話題も引き出せ、有意義であった。最後に青木SPring-8シンポジウム実行委員長による閉会の辞をもって、2日間にわたる会議を終了した。

 

 

3. おわりに

 今回のシンポジウムでは事前にアンケートを実施するという新しい試みを行った。研究会代表者およびメンバー各位にはアンケートにご協力くださり感謝申し上げます。また、研究会からの意見に対してご回答いただいたビームライン担当者や関係部署にもお礼申し上げます。各研究会からの講演には、研究会の活動・成果や、施設への要望・高度化がバランス良く盛り込まれており、前回以上に効果的な意見交換が行えたと感じている。一方で、反省点としては、質疑応答が例年よりも少なく、討論の盛り上がりに欠けていた。また、総合討論は前回に引き続きプログラムの目玉として設定したつもりだったが、聴衆はあまり多くなく、活発な討論には至らなかった。実行委員会としては、プログラムに議題やパネラーの顔ぶれなどを早めに掲載するべきだったと、反省している。特に若手の参加が少なかったことや、研究会報告で施設スタッフの聴衆が少ないことは今後の課題である。本シンポジウムは研究分野が多岐にわたっており、専門外の講演はとっつきにくい点があるかもしれない。しかし、ビーム性能に対する要求や装置のスクラップ&ビルドなどは全ての研究会にとって共通点の多い話題である。このような話題を共有し、ユーザー主導で議論を進めていく姿勢をもっと利用者懇談会会員は持つ必要があるように思う。SPring-8シンポジウムは学会のような研究発表の場というだけでなく、施設に対してユーザーが忌憚なく意見交換する場であるという認識を持って出席してはどうだろうか。

 最後に、例年以上に大変な作業であったにもかかわらず、シンポジウムを無事に終えることができたのは、青木SPring-8シンポジウム実行委員長をはじめとする実行委員の方々、そして坂井SPring-8利用者懇談会会長のご尽力のおかげです。この場を借りてお礼申し上げます。また会場設営や撤収作業に携わって下さったJASRIテクニカルスタッフの方々、当日会場係を務めていただいた兵庫県立大の学生の皆さんにも感謝いたします。

 

 

第11回SPring-8シンポジウム実行委員
委 員 長 : 青木 勝敏 (日本原子力研究開発機構)
副委員長: 鈴木 基寛 (JASRI利用研究促進部門)
委  員: 池田  直 (岡山大学)
猪子 洋二 (大阪大学大学院)
小澤 芳樹 (兵庫県立大学)
櫻井 伸一 (京都工芸繊維大学)
高橋  功 (関西学院大学)
池本 夕佳 (JASRI利用研究促進部門)
熊坂  崇 (JASRI利用研究促進部門)
佐藤 眞直 (JASRI産業利用推進室)
高田 恭孝 (理化学研究所)
高野 史郎 (JASRI加速器部門)
竹内 晃久 (JASRI利用研究促進部門)
広野 等子 (JASRI制御部門)
舟越 賢一 (JASRI利用研究促進部門)
古川 行人 (JASRI制御部門)
鈴木 昌世 (JASRI研究調整部長)
垣口 伸二 (JASRI研究調整部)
射延  文 (JASRI研究調整部)
平野 志津 (JASRI利用業務部)

 

第11回SPring-8シンポジウムプログラム
10月29日(月)
Session I:SPring-8の現状
9:20- 9:35 開会の挨拶
壽榮松 宏仁(理化学研究所播磨研究所 所長)
吉良 爽(高輝度光科学研究センター 理事長)
9:35- 9:40 ご挨拶
桑田 悟(文部科学省 研究振興局 基礎基盤研究課 加速器科学専門官)
9:40-10:00 施設全体の管理・運営
大野 英雄(高輝度光科学研究センター)
10:00-10:30 ビームラインの利用・運転状況
高田 昌樹(理化学研究所播磨研究所/高輝度光科学研究センター)
10:30-10:45 コーヒーブレイク
10:45-11:05 加速器・光源の現状
大熊 春夫(高輝度光科学研究センター)
11:05-11:25 XFELの現状
石川 哲也(理化学研究所播磨研究所)
11:25-11:45 課題審査委員会報告
飯田 厚夫(高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所)
 
Session II:長期利用課題報告
11:45-12:20 飛翔体搭載用硬X線結像光学系システムの性能評価実験
小賀坂 康志(名古屋大学)
12:20-13:15 昼食
 
Session III:利用者懇談会研究会の活動報告I
13:15-13:25 利用者懇談会会長挨拶
坂井 信彦(SPring-8利用者懇談会会長/高輝度光科学研究センター)
13:25-14:00 原子分子の内殻励起研究会の活動報告
上田 潔(東北大学)
14:00-14:35 相関電子物性研究におけるX線散乱・分光の役割と理論研究
石原 純夫(東北大学)
14:35-15:10 SPring-8における高分子薄膜・表面研究会の取り組み
高原 淳(九州大学)
15:10-15:25 コーヒーブレイク
 
Session IV:利用者懇談会研究会の活動報告II
15:25-16:00 構造物性研究会の活動報告
北川 宏(九州大学)
16:00-16:35 高圧科学に対するイノベーションと高度化
小林 寿夫(兵庫県立大学)
16:35-17:10 SPring-8における結晶化学研究
小澤 芳樹(兵庫県立大学)
17:10-17:30 利用促進委員会報告
松原 英一郎(京都大学)
17:30-18:10 SPring-8利用者懇談会総会
18:20-19:30 懇親会
 
10月30日(火)
Session V:利用者懇談会研究会の活動報告III
9:00- 9:35 ナノ組織損傷評価研究と今後の放射光活用高度化計画
三浦 英生(東北大学)
9:35-10:10 地球深部物質科学の新展開に向けて
入舩 徹男(愛媛大学)
10:10-10:45 スピン・電子運動量密度研究会の活動
小泉 昭久(兵庫県立大学)
10:45-11:00 コーヒーブレイク
11:00-11:35 SPring-8の固体分光−赤外分光から軟・硬X線光電子分光まで
関山 明(大阪大学)
 
Session VI:招待講演I
SPring-8利用推進協議会招待講演
11:35-11:55 皮膚・毛髪の構造研究の基礎から応用へ
八田 一郎(高輝度光科学研究センター)
11:55-12:05 X線小角散乱法を用いた毛髪キューティクルの構造解析
井上 敬文(株式会社カネボウ化粧品)
12:05-12:10 質疑応答
12:10-13:00 昼食
13:00-14:30 ポスターセッション
 
Session VII:招待講演II
SPring-8供用開始10周年記念講演
14:30-15:10 SPring-8の過去・現在・未来
菊田 惺志(高輝度光科学研究センター)
 
Session VIII:総合討論
15:20-16:30 総合討論(パネルディスカッション)
パネラー:
 石川 哲也(理化学研究所播磨研究所)
 堀江 一之(高輝度光科学研究センター)
 水木 純一郎(日本原子力研究開発機構)
 高田 昌樹(理化学研究所播磨研究所/高輝度光科学研究センター)
 大熊 春夫(高輝度光科学研究センター)
 鈴木 昌世(高輝度光科学研究センター)
進行役:
 坂井 信彦(SPring-8利用者懇談会会長/高輝度光科学研究センター)
16:30 閉会の辞
青木 勝敏(シンポジウム実行委員長/日本原子力研究開発機構)

 

 

 

鈴木 基寛 SUZUKI Motohiro

(財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門

〒679-5198 兵庫県佐用郡佐用町光都1-1-1

TEL:0791-58-0832 FAX:0791-58-1873

e-mail : m-suzuki@spring8.or.jp

 

 

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