Volume8 No.1
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
XAFSを用いたカルボン酸の選択的水素化反応触媒の局所構造解析
Analysis of Local Structure of Catalysts for Selective Hydrogenation of Carboxylic Acid by XAFS
a株式会社ダイセル, b大阪大学大学院基礎工学研究科, c(公財)高輝度光科学研究センター
aDaicel Corporation, bOsaka University, cJASRI
- Abstract
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酢酸の高選択的水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応を目的として、高活性を示す PdFe 合金触媒の開発を実施した。酢酸の水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応において高活性を示す Pd-Fe2O3 触媒は Fe 前駆体種、組成により同 Pd 量でも活性が大きく変化する。Fe 前駆体種、組み合わせ比率の異なる各触媒を Pd K 殻及び Fe K 殻 XAFS 測定することにより PdFe 合金の生成を確認、比較した。Fe 前駆体の組み合わせにより PdFe 合金生成量が変化しており、触媒活性に影響していることが示された。
Keywords: XAFS、合金粒子、水素化反応、還元反応
背景と研究目的:
資源枯渇の懸念から世界的に石油を原料とする石油化学から石油、天然ガス、石炭、バイオマスなどの天然資源を統合的に利用する流れに変化してきている。世界的なエチレン誘導品の需要は今後も伸びていく見通しであり、世界の安価な天然ガスを原料にするエチレンのコスト競争力に対して、ナフサクラッカーの多い日本では原料転換の必要性に迫られている。将来的な原油価格の高騰に備えて無駄のない製造プロセスが必要であり、中でも精密に反応を制御するためには高機能な新しい触媒の開発が求められている。
. 単一金属触媒にない特異的な機能を有する合金触媒は安価な金属の組み合わせで高価な金属と同等以上の活性を発現し高価な金属を代替することが可能であるという元素戦略の観点からも注目されている。
我々の研究グループでは、これまでに固体触媒を用いた酢酸の高選択的水素化反応によるアセトアルデヒド合成の検討を行ってきた。酢酸からアセトアルデヒドへ変換する固体触媒として Pd-Fe 系触媒が高い活性を示すことを見出しており、Pd-Fe2O3 触媒は一定の温度、水素雰囲気下で PdFe 合金を形成することを確認している[1]。これまでの実験(2017A1763)でFeに対する Pd 量が多い程、PdFe 合金が形成され易く、合金生成量と活性に相関があることを見出している。現在、PdFe 合金の生成量をコントロールするため Fe の前駆体種、組み合わせ比率の検討を実施している。その結果、Fe に 対する Pd が同等量であっても Fe 前駆体種、組み合わせ比率を変えることによって活性が大きく変化することを確認している[2]。
本研究で Fe 前駆体種、組み合わせ比率の異なる各触媒を XAFS 測定し PdFe 合金の生成量と活性との相関を確認した。少量の Pd でも Fe 前駆体種、組み合わせ比率により活性と相関のある PdFe 合金の生成量をコントロールすることが可能であれば、高活性かつ高価な貴金属である Pd の使用量を低減した触媒の設計が期待できる。
実験:
20 wt% Pd-Fe2O3 触媒(Fe2O3 100 wt% に対して Pd 20 wt%)は、表1のように任意の割合で硝酸パラジウム溶液と硝酸鉄、酸化鉄、クエン酸を混合し、110 °C で乾燥、400 °C で焼成処理により調製した。各触媒は硝酸鉄と酸化鉄の割合を mol 比で 100:0、50:50、0:100 で調製した。
硝酸鉄:酸化鉄 (mol 比) |
酸化パラジウム (g) |
硝酸鉄 (g) |
酸化鉄 (g) |
クエン酸 (g) |
100:0 | 3.6 | 4.3 | - | 0.9 |
50:50 | 3.6 | 2.1 | 0.4 | 0.9 |
0:100 | 3.6 | - | 0.8 | 0.9 |
XAFS 測定は、SPring-8 の産業利用ビームライン BL14B2 にて実施し、Pd K 端には Si(311) 面、Fe K 端は Si(111) 面を使用した。XAFS 測定用の検体は、反応後の Pd-Fe2O3 触媒粉を直径 10 mm のディスク状に成型し、Pd K 殻、Fe K 殻の透過法 Quick XAFS 測定を実施した。Pd 及び Fe のリファレンス化合物については、Pd foil (Pd)、酸化パラジウム(PdO)、Fe foil (Fe)、酸化鉄(γ-Fe2O3、Fe3O4)を用いた。データ解析は Athena、Artemis ver. 0.9.25 を使用した。
結果および考察:
反応後の Pd-Fe2O3 触媒の各金属の化学状態変化を追跡した。Fe K 殻透過法 XANES 測定の結果を図1に示す。各反応後触媒は Fe まで還元されていることが分かった。表2に示すように硝酸鉄と酸化鉄の割合が 50:50 の場合に最も Fe が還元され易い傾向にあることが見られた。
図1. Fe K-edge XANESスペクトル
各化学状態の割合 | |||
硝酸鉄:酸化鉄 (mol 比) |
γ-Fe2O3 | Fe3O4 | Fe-foil |
100:0 | 3% | 20% | 77% |
50:50 | - | 10% | 90% |
0:100 | 1% | 21% | 78% |
Pd K 殻透過法の EXAFS 干渉関数と EXAFS を変換した動径構造関数を図2に示す。各反応後触媒において Pd-O シェルに由来するピークは見られないため反応中 Pd は0価まで還元されていることが分かる。Fe 前駆体の割合により Pd-Pd シェル、Pd-Fe シェルに由来するピークの比率が異なっており、硝酸鉄と酸化鉄の割合が 50:50、次点で 0:100、100:0 の順に PdFe 合金が生成し易いことが明らかになった。これにより、触媒調製時に前駆体である酸化鉄が Pd の担体として機能し Pd 粒子が Fe に対して高分散で担持されることで Pd と Fe の界面が増量、Fe の還元が促進され、合金化がより進行することが推測される。また TEM 観察で酸化鉄を前駆体に用いた触媒は Pd が微粒子化されていることを確認している[2]。
図2. Pd K-edge(左)EXAFS 干渉関数(右)動径構造関数(k-weight=3、フーリエ変換範囲 k=3–14Å-1)
表3に各反応後触媒のフィッティング結果と STY(Space Time Yield)を示す。表2のように硝酸鉄と酸化鉄の割合が 50:50 の時が最も Pd-Fe 結合の N×S02 の値が大きく、PdFe 合金生成量が多いことが分かった。また N×S02 と STY に相関があることから同 Pd 量でも Fe 前駆体種、組み合わせ比率を調整することにより PdFe 合金生成量を増加させ触媒活性を向上できることが分かった。
試料 | 結合種 | N×S02 | Sigma^2 | R | STY |
Pd-foil | Pd-Pd | 10.6130 | 0.0059 | 2.7427 | - |
0:100※1 | Pd-Pd | 6.4060 | 0.0082 | 2.7439 | 1137 |
Pd-Fe | 1.8070 | 0.0061 | 2.6253 | ||
50:50※1 | Pd-Pd | 4.4820 | 0.0067 | 2.7202 | 1193 |
Pd-Fe | 3.7710 | 0.0085 | 2.6377 | ||
100:0※1 | Pd-Pd | 7.0930 | 0.0080 | 2.7827 | 552 |
Pd-Fe | 0.5170 | 0.0023 | 2.5826 |
※1:硝酸鉄:酸化鉄(mol 比)
今後の課題:
Pd-Fe2O3 触媒は第3成分金属を担持することにより活性、触媒寿命が向上することを見出している。今後は第3成分金属を添加した Pd-Fe2O3 触媒に関して調製法毎に測定を実施し、各金属の価数や構造変化と活性との相関を調べ、第3成分金属の機能を解明し高活性な触媒構造の設計に活用したい。なお当初予定していた別触媒において in-situ XAFS 測定を実施したが想定していたデータの取得に至らなかったため、比較的触媒構造の違いが顕著であった本触媒の XFAS 測定結果を報告した。
参考文献:
[1] 特開2017-047377 (P2017-47377A)
[2] 特開2017-177837 (P2017-177837)
(Received: October 1, 2018; Early edition: November 28, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)