Volume8 No.1
SPring-8 Section C: Technical Report
土砂中一次鉱物のCT画像からの定性および定量について
Discrimination of Soil by the Classification of the Primary Mineral Particles using X-ray CT
a(公財)高輝度光科学研究センター, b京都大学
aJASRI, bKyoto University
- Abstract
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土砂の法科学での異同識別では一次鉱物成分組成の比較によって行うことが多い。このために用いられる実体顕微鏡や偏光顕微鏡での観察による方法では土壌の粒子一つ一つの成分同定を目視観察で行うことは経験と熟練を要し、各成分の組成比を算出するための計数作業は時間を要する。そこで鉱物粒子の塊についてX線 CT 測定を行い異同識別の可能性を検討した。その結果、線吸収係数の違いから CT 画像の解析で個々の粒子の定性を行うことで、異同識別のための鉱物組成を見積もることができた。
Keywords:土砂、X線 CT、異同識別
背景と研究目的:
2011 年に公益財団法人 高輝度光科学研究センター・利用研究促進部門内に創設されたナノ・フォレンシック・サイエンスグループは、放射光を用いた分析によって法科学(フォレンシックサイエンス)分野における社会的貢献をすることを使命として活動を始め、薬物、毒物、自動車塗膜などの放射光による測定について研究を行い、グループとしての活動を終了したあとも利用研究促進部門において放射光の法科学への利用について活動を継続してきた。
土砂の識別は犯罪鑑識においては重要なテーマであり、容疑者の着衣、靴底に付着する土砂と犯罪現場の土砂との異同識別は捜査部門からの鑑定依頼が多い。
土砂の法科学での異同識別においては一次鉱物の組成の比較によって行うことが多い。これには実体顕微鏡や偏光顕微鏡による形態観察による方法が用いられるが、50 µm 以上の一次鉱物であっても土壌の粒子一つ一つの成分同定を目視観察で行うことは経験と熟練を要し、各成分の組成比を算出するための計数作業は時間を要する。鉱物粒子の塊の CT 画像を測定し、 線吸収係数の違いから定性を行い、 3次元の CT 画像から各鉱物の体積比を算出することで土砂の異同識別を行うことを試みた。測定は SPring-8 の BL20B2 ビームラインで行った。
実験:
土壌中に多く含まれる、 石英(珪砂)、カリ長石、 斜長石(An0-10、 An10-30 および An90-100)、 白雲母、 黒雲母、 カンラン石、 直方(斜方)輝石(Fs30-50)、 単斜輝石(普通輝石)、 普通角閃石、 アクチノ閃石、 方解石の13種類の標準鉱物試料を乳鉢で粉砕しふるい分けした。顕微鏡観察との比較がしやすいように、 250-500 µm の分画の粒子を直径 3 mm、 厚さ 1 mm の透明アクリル円板にカナダバルサムを用いて固定した。測定は 30 keV のX線を用い BL20B2 ビームラインの CT 測定装置で 180° 回転させ 0.1° ごとに合計 1800 枚の画像を取り込んだ。画素サイズは 2.75 μm/pixel である。各投影像の露光時間は 300 msec である。各鉱物の線吸収係数の測定に続いて、 13種の標準鉱物をすべてマウントした試料と公園の砂についてマウントしたものを測定し各粒子の鉱物種の識別ができるかについて検討した。
結果および考察:
13種の標準鉱物をすべてマウントした試料の実体顕微鏡イメージと CT 測定結果を図1に示し、公園の砂についてマウントした試料の実体顕微鏡イメージと CT 測定結果を図2に示した。また標準鉱物と公園の砂の線吸収係数を図3に示した。この結果からは公園の砂については石英、硝石が主成分であることが分かる。
図1. 標準鉱物試料の実体顕微鏡イメージ(左)と CT 測定結果(右)
図2. 公園の砂の実体顕微鏡イメージ(左)と CT 測定結果(右)
図3. 標準鉱物試料と公園の砂の線吸収係数
土砂の一次鉱物の主成分は石英、長石、雲母などの限られた鉱物種であることが多いが、目視観察や光学顕微鏡(実体顕微鏡)による色調の観察に加えて、線吸収係数により各粒子の鉱物種の識別が正確になり、これに CT 画像による各粒子の体積分率が算出できることから本法は土砂の異同識別に有効な手法であるものと考えられた。
今後の課題:
今回分析したのは 250-500 µm の分画の粒子であるが、粘土鉱物レベルの粒径の小さい土砂について検討すること。また3次元画像から線吸収係数ごとの粒子の体積比を算出できるようにすることを目標としたい。
(Received: September 30, 2019; Early edition: November 28, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020 )