SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.1

SPring-8 Section C: Technical Report

液体窒素冷却シリコン二結晶分光器の安定化とKBミラー集光光学系の高強度化に関する評価
Evaluation of Stabilized Si Double-crystal Monochromator with Liquid-nitrogen Cooling System and High Flux KB Focusing Mirror Optics

DOI:10.18957/rr.8.1.167
2016A1839 / BL39XU

湯本 博勝, 山崎 裕史, 竹内 智之, 小山 貴久, 鈴木 基寛, 河村 直己, 水牧 仁一朗, 大橋 治彦

Hirokatsu Yumoto, Hiroshi Yamazaki, Tomoyuki Takeuchi, Takahisa Koyama, Motohiro Suzuki, Naomi Kawamura, Masaichiro Mizumaki, and Haruhiko Ohashi

(公財)高輝度光科学研究センター

Japan Synchrotron Radiation Research Institute

Abstract

 従来と比較して 100 nm × 100 nm あたり20倍の集光フォトン数が期待できる KB 配置型ミラー集光光学系を構築した。本光学系は垂直方向に関して光源の直接縮小投影を用いるため、不安定性の原因となりえる光路中の液体窒素冷却シリコン二結晶分光器について、熱的安定性に寄与する機器を改良した。高真空型集光ミラー姿勢調整装置を BL39XU 第2実験ハッチに導入し、集光性能を評価した。結果、2.5×1011 photon/s の集光ビーム:115 ~ 140 nm(垂直)× 93 nm(水平)(半値幅)を確認した。


Keywords: 液体窒素冷却シリコン二結晶分光器、集光ミラー、ナノ集光


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背景と研究目的:

 BL39XU では2011年より、第2実験ハッチ(延伸ハッチ)においてヘリウム雰囲気使用の KB 配置型ミラーによる 100 nm 集光光学系がユーザー実験に提供されてきた[1][2]。従来の集光光学系では、分光器下流側に設置した4象限スリットで成形されたX線を2次光源としていた。本研究では垂直方向に関して2次光源スリットを用いず、アンジュレータ光源を直接投影する縮小光学系へと集光光学系を改造し、最適化を行った。これにより高強度 100 nm 集光ビームをユーザー実験に提供可能なように集光システムを構築することを目的とした。2次光源スリットの制限によるフォトンのロスを防ぐことにより、100 nm × 100 nm 集光ビームの強度を従来の20倍に増加することができ、ユーザー利用実験での高感度化や測定時間の短縮が期待できる。

 光源の直接投影では光源と集光ミラーの間に液体窒素冷却シリコン二結晶分光器[3]が配置されるため、分光器の不安定性が集光ビームの性能劣化に直接影響する。本高性能化では分光器の冷却温度制御方式の改良を併せて行ったので、その性能についても調査を行う。

 高強度化に伴うミラー表面のコンタミ防止対策のため、高真空対応型の高安定ミラー姿勢調整装置を導入し、本装置を用いた集光ミラーのアラインメント調整及び集光性能評価を実施する。

 

実験:

【液体窒素冷却シリコン二結晶分光器】

 オフラインの局所加熱レーザーを用いた事前測定により、結晶のクランプにより導入された機械的なひずみが熱負荷により増大されることを確認している。機械的なひずみの主な要因はクランプ面の非一様性である。そこで、クランプ面の平坦化を行った結晶ホルダを製作し(図1)、新品の結晶と共に分光器に設置した。冷却能力の向上のため、結晶冷却用の液体窒素の流量を増加させた。また、液体窒素の循環温度を精密制御するため、液体窒素循環装置に組み込まれている冷凍機3台の運転と、温度制御用ヒータ3個の出力を自動制御する温度コントローラを製作した。温度コントローラは液体窒素の戻り温度から入熱量を判断し、冷凍機の運転台数を決定する。ヒータ出力制御は戻り温度によるフィードフォワード制御と吐出温度によるフィードバック制御のハイブリッドとした。

 

   

    図1. 新しい結晶ホルダ。クランプ面をより平坦化するため、突起を除去した。

 

【集光ミラー光学系】

 2015 年度末の停止期間に第2実験ハッチ内に設置した高真空対応 KB 型ミラー集光調整装置(図2)について、X線を利用したミラーの手動軸、自動軸の姿勢調整を大気雰囲気下で実施した。その後チャンバーを真空排気しミラーの精密姿勢調整を実施した。上流側から 300 mm 長さの水平方向集光ミラー、200 mm 長さの垂直方向集光ミラーの順番に配置されており、斜入射角はミラーの中心でそれぞれ 4.0 mrad と 3.8 mrad、焦点距離はミラーの中心から集光点までそれぞれ 460 mm と 200 mm である。本配置は従来の光学配置と同じミラー基板を用いており、従来の集光光学系では、上流側が「垂直」方向集光ミラー、下流側が「水平」方向集光ミラーの順番であったものを、改造後の集光光学系では、上流側が「水平」方向集光ミラー、下流側が「垂直」方向集光ミラーの順番に配置した。改造により、垂直方向集光ミラーの焦点距離が 460 mm から 200 mm へと短くなり、光路中の二結晶分光器の振動による垂直方向集光ビームサイズの悪化への影響が 1/2.3 倍に小さくなることが期待できる。ミラー姿勢調整装置は、高安定化のために石定盤上に設置され、真空チャンバー下流側の出射 Be 窓から集光点まで 85 mm 以上の距離を有する。サンプル設置位置となる集光点近傍はフリースペースとし、石定盤上に設置する装置を交換することで、ユーザーは電磁石などにより試料環境を変化させながら大気圧下において試料に集光ビームを照射することができる。

 

   

図2. 高真空対応 KB 型ミラー集光調整装置。真空チャンバー内に集光ミラーを取り付けた際の写真。

 

結果および考察:

 実験ハッチ内のX線強度モニタにより、液体窒素の流量を 5.6 から 7.6 L/min に増加させても、流体による振動が増加しないことを確認した。従来の液体窒素の温度制御方式では熱負荷の変化に対して吐出温度が安定するまでに 1.5 時間を要していた。図3は今回導入した新たな温度コントローラを使用した場合の液体窒素の送り出し温度の変化である。第一分光結晶への入射パワーは 185 W であり、時刻 0 分に照射を開始し、40 分後までの変化を示している。この条件では入熱の変化に伴い冷凍機の運転台数が1台から2台に変化するため、安定化制御にとって最も厳しい条件となる。この条件下でも 15 分以内に温度が安定化される。また、安定化後の吐出温度の変動も従来の 0.3 K から 0.02 K 以内に減少した。冷凍機は入熱に応じて、従来の3台運転から1 ~ 2台運転となり、9 ~ 18 kW の省エネになっている。

 

      

図3. 液体窒素送り温度の精密制御。185 W 照射開始0分から15分以内に安定化。照射前と照射後の温度差は安定化には関係ない。

 

【集光ミラー光学系】

 集光ミラーの精密姿勢調整後に、1) 集光ビームプロファイル、2) 集光フォトン数、3) ミラー反射率のエネルギー依存性、4) 集光ビームサイズやフォトン数の2次光源スリットサイズ依存性、5) X線分解能テストチャートの観察などの集光ビーム評価を実施した。本研究での実験により、以下の性能をもつ集光ビームがユーザーに提供可能となった。なお、ユーザー利用実験において集光ミラーは 1×10-5 Pa 以下の真空度で運用され、コンタミの発生防止に役立てられている。

 

1) 集光ビームプロファイルと2) 集光フォトン数

 Au ワイヤを利用したナイフエッジスキャン法により集光ビームプロファイルを評価した。アンジュレータ光源を垂直方向光源、TC1 Slit を水平方向2次光源(TC1 Slit サイズ:水平 8 µm)とした場合の集光サイズに関して、垂直 115 ~ 140 nm ×水平 93 nm (Full width at half maximum (FWHM))、集光フォトン数:2.5 × 1011 photon/s を 12 keV のX線で達成した(図4 (a)、(b))。なお、垂直方向の集光ビームサイズは、二結晶分光器の振動状態に影響され、発光点サイズの幾何光学的倍率から見積もられる集光サイズ 34 nm (FWHM)に対して増大して観察された。2015 年度まで使用されていた大気環境下使用の 100 nm 集光 KB 光学系と比較し、100 nm×100 nm あたりの集光フォトン数は 20 倍に向上し、設計通りの集光フォトン数を確認した。垂直水平共に2次光源(TC1 Slit サイズ:垂直 9 µm × 水平 4 µm)とした場合の集光サイズに関して、垂直 49 nm × 水平63 nm (FWHM)、集光フォトン数:1.5 × 109 photon/s が 12 keV のX線エネルギーにおいて得られた(図4 (c)、(d))。これにより2次光源から下流側の機器が 100 nm 以下の集光を実現するために十分安定な振動レベルを有すること確認した。

 

       

図4. 集光ビームプロファイル測定結果。(a)垂直方向(2次光源スリットなし)、(b)水平方向(2次光源スリットサイズ 8 µm)、(c)垂直方向(2次光源スリットサイズ 9 µm)、(d)水平方向(2次光源スリットサイズ 4 µm)

 

3) ミラー反射率のエネルギー依存性

 7 ~ 20 keV のX線エネルギーにおいて、ミラー表面コーティング金属のロジウム密度がバルクと同一(充填率 100%)として計算した結果と、2枚のミラーによる反射率の実測値が数%の誤差で一致していることを確認し、入射X線エネルギーに対して設計通りの反射率が得られることが分かった。13 keV 以下のX線エネルギーにおいて、2枚のミラーによる反射率が 80% 以上あることを確認した。

 

4) 集光ビームサイズやフォトン数の2次光源スリットサイズ依存性

 100 nm 以上の集光サイズ時は、水平方向のみ2次光源スリットを使用し、垂直方向集光に関してはアンジュレータ光源を直接投影する光学系とした。垂直水平方向共に2次光源スリットサイズが全開状態で、集光ビームサイズ:垂直 115 ~ 140 nm × 水平 2.8 µm (FWHM)、集光フォトン数:1.2 × 1013 photon/s が得られ、2次光源スリットを利用することで、上記最小集光ビームサイズと集光フォトン数との間で調整可能であることが 12 keV のX線エネルギーで示された(図5)。

 

       

図5. 集光ビームサイズと集光フォトン数の関係。2次光源スリットサイズの調整により、集光ビームサイズと集光フォトン数の調整可能。

 

5) X線分解能テストチャートの観察

 集光位置や集光ビームサイズの安定性を評価することを目的として、集光ビームを使用して走査型X線顕微鏡を構築し、Ta 製テストチャートの透過像(吸収コントラスト像)を、12 keV において観察した(図6)。図6 (a)は、水平方向のみ2次光源スリットを用い、集光ビームサイズ:垂直 115 ~ 140 nm × 水平 93 nm (FWHM)(図4 (a)と(b))、データ間隔 20 nm、データサンプリングレート 500 Hz、ステージ走査速度 10.5 μm/s(2 s/line)、測定時間60分で取得した。図6 (b)は、垂直方向、水平方向ともに2次光源スリットを用い集光ビームサイズが図4 (c)と(d)の条件として、データ間隔 10 nm、データサンプリングレート 1000 Hz、ステージ走査速度 10.5 μm/s(2 s/line)、測定時間122分で取得した。図6 (a)では、水平方向は 50 nm のラインアンドスペース構造が分解できているのに対して、垂直方向は 50 nm の構造が分解できないものの、100 nm 以下の構造を分解できた。図6 (b)では、垂直水平方向共に明瞭に 50 nm のラインアンドスペース構造が分解できた。

 

       

図6. Ta 製テストチャートの透過像。(a) 水平方向のみ2次光源スリットを用いて図4 (a)(b)の集光ビームにより取得した場合。(b) 垂直、水平方向ともに2次光源スリットを用いて図4 (c)(d)の集光ビームにより取得した場合。放射状分解能テストチャートの中心部は 50 nm のラインアンドスペース構造である。データはオンザフライにて試料走査ステージを停止させず、走査ステージとイオンチェンバー (I0) および PIN フォトダイオード (I) 検出器を同期させて取得した。ステージの走査方向は図の水平方向、観察視野は垂直 20 μm ×水平 21 μm である。透過光の取得強度(I/I0)は、試料走査ステージ搭載のリニアスケール値に基づき描画した。

 

 ナイフエッジスキャン法によるプロファイル評価では、1点あたりの強度取得時間が短い場合、微分プロファイルがなめらかに描けず、また、集光ビームにワイヤを半分挿入した状態で、下流側に設置したカメラにより像を観察した際に、集光ビームの垂直方向の位置振動が観察されるなど、これは垂直方向集光ビームの位置振動が原因であると考えられる。ナイフエッジスキャン法で取得した図4 (a)のプロファイルは、1点あたり2秒の強度取得時間であり集光ビームの位置振動に対して十分に時間平均されている。これに対して、図6 (a)では 500 Hz の強度取得レート、すなわち、2ミリ秒の強度取得時間であるため、2ミリ秒間のビームサイズや位置を反映した像となり、水平方向プロファイルと比べると垂直方向プロファイルは集光ビームの垂直方向の振動の影響により滑らかではないテストチャート像として観察された。また、集光ビームの位置の安定性に関して、像の取得時間 1~2 時間程度の間において、温度変動に起因すると思われる数十 nm の像の歪が観察される程度であり、像の取得開始と終了時に特に分解能の悪化は観察されず、安定な顕微システムが構築できていることを確認した。

 

今後の課題:

 BL39XU の二結晶分光器は他ビームラインの標準品と異なり、シリコン220反射をブラッグ角 45° まで使用することができる。ブラッグ角 40°(エネルギー 5 keV) において、反射ビームの水平方向の位置ドリフトが観測された。これは、クランプ面の平坦化のため結晶ホルダを簡素化した際に、散乱X線シールドの機能を果たしていた部品を取り外したためと考えられる。次回のビームライン運転停止時にシールド部品の追加を行う。本研究では垂直方向に2次光源スリットを使用しない場合の最小集光サイズの目標を 100 nm と設定したが、今後、100 nm よりも高分解能かつ高強度ビームを安定して利用するために、二結晶分光器の低振動化対策として液体窒素流路の改良を実施する。

 

参考文献:

[1] T. Koyama et al., Proc. of SPIE, 8139, 81390I (2011).

[2] M. Suzuki et al., Journal of Physics: Conference Series, 430, 012017 (2013).

[3] T. Mochizuki et al., Nucl. Instrum. Meth. A, 467-468, 647-649 (2001).

 

 

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(Received: July 26, 2019; Early edition: October 30, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)