SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

XAFSによる排ガス浄化触媒Pd/αAl2O3のPd状態解析
Analysis of Automotive Catalyst Pd/αAl2O3 for XAFS

DOI:10.18957/rr.8.1.108
2014A1566 / BL14B2

池田 知廣,藤倉 亮子,小山 博史,岡山 竜也,古川 敦史

Tomohiro Ikeda, Ryoko Fujikura, Hiroshi Koyama, Tatsuya Okayama, Atsushi Furukawa

株式会社 本田技術研究所

Honda R&D Co., Ltd.

Abstract

 自動車排ガス浄化触媒における貴金属(Pd)の有効活用の為の基礎研究として、αAl2O3 に担持された Pd の状態変化を大気雰囲気中の in-situ 昇温測定にて観測した。担持された Pd の初期状態は酸化物(PdO)構造であり 900°C まで酸化物相を保つが、900~1000°C において金属(Pd)構造に変化することが明らかになった。


Keywords: Pd-K吸収端,in-situ XAFS


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背景と研究目的:

 近年、世界的な環境意識の高まりの中、低燃費・低排出ガスの自動車が求められている。低燃費化は内燃機関の仕事量を実質減少させ、排ガス温度が低下する傾向にあるため触媒には低温活性の機能が求められる。また、低排出ガスに対しては触媒性能全体の機能向上が必要で、触媒改良が盛んに行われているが今なお多量の貴金属担持が必要である。その一方で、新興国の経済発展に伴う自動車販売数の増加に伴う排ガス浄化用貴金属の使用量増加と併せて貴金属使用量の低減は大きな課題となっている。これらの課題を解決する一案として、自動車排ガス成分である CO、HC、NOx の浄化に必須である貴金属活性点数を保持するために貴金属粒子の凝集を抑制することが挙げられる。

 しかし、低貴金属化が進んでいる現在、XRD では貴金属のピークが観測できず、貴金属粒子の構造について議論することは不可能である。また、TEM を用いた観測においても元素配列を特定することは困難になっており、触媒としての貴金属粒子の構造変化を完全に理解できているとは言い難い。貴金属粒子の微細構造とその粒成長機構を明らかにするためには、温度・雰囲気変化過程における貴金属原子周りの配位環境の変化を原子レベルで把握する必要があり、 in-situ 高温セルを用いた XAFS 測定を試みた。

 

実験:

(a) 測定試料:Pd/αAl2O3

 αAl2O3(高純度化学 99.9%)に硝酸 Pd 水溶液(小島化学薬品)を用い、Pd 金属として 1 wt% 担持したものを硝酸成分の除去の為 450°C 3時間焼成した。(以下 Fresh)

(b) 実験方法(使用装置・測定条件)

 XAFS 測定は SPring-8 BL14B2 にて Pd-K 端を透過法にて測定した(分光結晶:Si 311).温度変化・ガスフローにはビームライン保有の高温セルを、標準試料にはビームライン保有の Pd フォイル・PdO を用いた。また、標準試料の測定は大気雰囲気・室温でのみ実施した。

 ガス雰囲気は、O2:N2=1:4 の割合でガスを混合することで大気雰囲気を模擬し、100 cc/min の流量でフローすることで制御した。

 昇温試験は室温 ~1000°C まで 10°C/min で連続的に昇温しながら 2 min 毎に QXAFS 測定を行った。

(c) 解析方法

 XANES・EXAFS の解析には IFEFFIT(Athena/Artemis)を用いた[1]。

 

結果および考察:

 αAl2O3 上に担持した Pd の in-situ 測定データの XANES 測定結果を図1に示す。

 

   

     図1. Pd-K 吸収端の XANES 温度依存性

 

 昇温測定開始前の Fresh の XANES スペクトルは PdOと 同様な特徴を有し、室温 ~900°C までは酸化物相であった。1000°C になると Pd と一致していることから、金属相への相変化が示唆される。

 EXAFS 測定結果(図2)を k = 2-18 (Å-1)の範囲でフーリエ変換することで動径構造関数(図3)を得た。得られた動径構造関数は XANES 測定結果と同様な傾向を示し、Fresh では動径構造関数が PdO と類似していることから、担持初期の Pd 配位環境がバルクの PdO と類似していることがわかった。一方で、第一配位圏の動径分布は温度の上昇と共に配位数が減少しているような振る舞いを示し、第二配位圏の動径分布は温度上昇と共に大きく変化している。また、XANES 測定結果と同様に 1000°C においては動径構造関数が Pd と類似する形状となっている。これらの変化は温度因子の影響が大きくなっただけでなく、Pd が形成する粒子の結合状態が変化していることを示唆する。

 

   

   図2. Pd-K 吸収端の EXAFS 温度依存性(一部抜粋)

 

   

    図3. Pd-K 吸収端の動径分布関数の温度依存性

 

 このことは、αAl2O3 上に担持した Pd が、酸素を潤沢に含む大気雰囲気中でも 900-1000°C で酸化物相から金属相へ相変化する事を示している。一方、CO 吸着による比表面積率測定からはテスト前後の Pd の凝集状態に差は見られなかった。しかし、別途行った耐久試験の結果より、大気雰囲気中では 900°C から Pd の粒成長が促進されることが明らかになっている。先行検討の Pt 系では相変化が粒成長に寄与していることが明らかになっており[2,3]、Pd の価数の振る舞いが Pt と同様の傾向を示していることから、Pd の凝集機構もPtと類似している可能性があることが推測される。

 

今後の課題:

 貴金属粒子の微細構造とその粒成長機構を解明する為、以下の2点が今後の課題となる。

  ・実環境を模擬するため雰囲気への水分添加の検討

  ・Pdの微細構造の検討

 

参考文献:

[1] M. Newville, J. Synchrotron Rad. 8, 322-324 (2001)

[2] 第112回触媒討論会 2J04 池田, 古川, 岡山, 吉田

[3] 第114回触媒討論会 3C03 池田, 古川, 岡山, 吉田

 

(Received: February 5, 2015; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)