SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.1

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

位相変調フィルターを用いたX線顕微鏡像特性の研究
Image Characterization of X-Ray Microscope Using Phase Modulator for the Microscope Objective

DOI:10.18957/rr.8.1.49
2015B1108 / BL20XU

高野 秀和a, 竹内 晃久b

Hidekazu Takanoa, Akihisa Takeuchib

a東北大学多元物質科学研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター

aIMRAM, Tohoku University, bJASRI

Abstract

 単一の結像素子のみで定量的な微分干渉像が得られるX線顕微鏡を構築するため、対物フレネルゾーンプレートにヒルベルト位相フィルターを作用させる光学系での実現可能性を調べた。位相反転による集光ビームのスプリットを確認し、結像光学系に適用した。部分コヒーレント照明、インコヒーレント照明系に於いて像特性を調べたところ、位相敏感効果は観測できたものの、定量的な微分位相像を得るまでには至らなかった。


Keywords: X線顕微鏡、位相イメージングCT


背景と研究目的:

 X線顕微鏡において、試料の位相変化を像コントラストとして利用することにより、高感度でのイメージングを実現することができる。特に高空間分解能観察においては、軟元素材料のコントラストを増強できるため非常に有用であるが、三次元観察法であるトモグラフィと組み合わせる場合、位相変化を定量計測することが求められる。位相定量計測には様々な手法があるが、X線顕微鏡光学系との組み合わせの場合、二波以上の干渉計を組み合わせることが多く、対物素子以外に、フレネルゾーンプレート(FZP)、プリズム、回折格子等の光学素子を必要とする[1]。また、縞走査法により計測を行うため、光学系に極めて高い安定性が必要となる。単一の光学素子のみで位相コントラスト像をシングルショット撮影が可能となれば、その波及効果は大きい。これまで、特殊な FZP を用いたアプローチ[2,3]が報告されているが、位相定量が可能な CT 測定にまで応用できたケースは無い。本研究では、通常の FZP 開口面に開口の半分領域の位相を半波長ずらすヒルベルトフィルターを作用させることで、定量計測が可能な微分位相顕微鏡像が得られるかを試みた。

 

実験:

 実験は、前述位相変調フィルターの効果を以下の順序で調べた。

 実験①:FZP 集光特性評価

 FZP 開口の半分に位相変調フィルターを作用させ、集光スポットを暗視野ナイフエッジ走査法[4]で評価した。

 実験②:部分コヒーレント照明系における結像顕微鏡像評価

 集光素子を用いない(が、拡散版は用いる)照明系での結像子顕微鏡を構築し、位相変調フィルターを対物 FZP 開口の半分に作用させた場合の像についてテストチャートを用いて調べた。

 実験③:インコヒーレント照明系における結像顕微鏡像評価

 集光素子と拡散版を用いたインコヒーレント照明系での結像子顕微鏡を構築し、位相変調フィルターを対物 FZP 開口の半分に作用させた場合の像についてテストチャートを用いて調べた。

 それぞれの光学系配置概略を図1に示す。FZP は直径 155 µm、最外線幅 100 nm の物を用いた。実験①では FZP 全面に空間的にコヒーレントなビームを照射する必要があり、全ての実験を BL20XU 中尺ビームラインにて行った。位相変調フィルターには使用したX線エネルギー 12.3 keV において半波長の位相変化を与える 25 µm 厚のポリイミドフィルムを使用した。位相変調フィルターは FZP の焦点深度以内で FZP に近づけた。

 

        

                      図1.実験配置図

 

結果および考察:

 実験①で得られた集光プロファイル(Line spread function: LSF)を図2に示す。位相変調フィルターを作用させたプロファイルではビーム中心にディップが観測された。位相反転している点像分布関数がシアー(位相変調フィルターが実効的に対物 FZP の直径と等しい回折格子として作用)して重なり合うという、予想通りの結果が得られた。顕微鏡光学系の相反定理より、これが結像顕微鏡の点像分布関数となると考えられる。

 

      

          図2.実験①で得られた集光ビームプロファイル

 

 実験②において、位相変調フィルターを作用させて得られた画像を図3に示す。試料には厚さ 100 nm(12.3 keV に対する透過率は 96.5%)のタンタル製解像度テストチャート(NTT-AT 製)を用いた。位相フィルター無しの画像(図3(a): 吸収コントラスト像)に比べて、(b)と(c)は位相コントラストによる像コントラスト増強の効果が観測されている。(b)は FZP 開口の半分に位相変調フィルターを作用させた結果であり、期待した試料微分位相の定量性は悪く、その効果も小さい。特に視野外では外れた場所では像コントラストが崩れている。この光学系はコヒーレント結像系に近いため、対物の後焦点面に試料のフーリエ変換像が形成される。(c)は対物後焦点面の半分に位相変調フィルターを作用させた像であり、試料の微分位相に近い像コントラストが得られた。この像はシングルショットでの位相計測の可能性を示唆するものではあるものの、対物素子と離れた位置に位相変調フィルターを作用させる必要があるため、本研究で目的としている単一結像素子での定量位相計測という観点からは目的外である。

 

   

   図3.部分コヒーレント照明系における結像顕微鏡像

(a): 位相変調フィルター無し(吸収コントラスト像)、(b): FZP 開口の半分に位相変調フィルターを作用させた像、(c): FZP 後焦点面半分に位相変調フィルターを作用させた像。

 

 図4にインコヒーレント結像系を用いた結果を示す。コンデンサーに FZP を用いた臨界照明系に拡散板を用いている。位相変調フィルターの効果は横方向のボケとして出ており、図2の LSF をインコヒーレントに(強度で)重畳した作用になったと考えられる。

 

   

   図4.インコヒーレント照明系における結像顕微鏡像

 

今後の課題:

 単一の結像素子で定量的なX線位相計測ができる顕微鏡構築を目的とし、対物開口に位相変調フィルターを用いる光学系の特性評価を行った。評価の結果、コヒーレント光学系ではある程度機能する可能性はあるが、定量性の面では対物後焦点面に作用させた像には及ばなかった。本実験では非常に簡単なヒルベルトフィルターを用いたものであったが、スパイラル FZP[5]など、単一光学素子で結像以上の機能を持たせた素子も登場してきており、対物レンズの開口変調による効果の追求はまだ広範な可能性があると考える。

 

謝辞:

本研究はJST-ERATOプロジェクト(JPMJER1403)の助成を受けた。

 

参考文献:

[1] A. Momose, Microscopy 66, 155-166 (2017).

[2] E. Di Fabrizio, D. Cojoc, S. Cabrini, Opt. Express 11, 2278-2288 (2003).

[3] C. Chang et al., Opt. Lett. 31, 1564-1566 (2006).

[4] Y. Suzuki et al., Jpn. J. Appl. Phys. 44, 1994-1998 (2005).

[5] Y. Kohmura et al., arXiv. 1809, 05138 (2018).

 

”creative

 

(Received: June 30, 2019; Early edition: August 30, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)