Volume8 No.1
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
ガス浮遊超高温X線回折法によるZrO2の融点近傍の構造解析
Structural Analyses up to the Melting Point of ZrO2 using High-Temperature X-ray Diffraction with Aerodynamic Levitation Furnaces.
aCROSS 東海事業センター, b熊本大学, c大阪大学, dSPring-8/JASRI
aCROSS, bKumamoto University, cOsaka University, dSPring-8/JASRI
- Abstract
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コンテナレス・ガス浮遊超高温X線回折法を用いて高融点を持つ ZrO2 の融点までの構造解析を行った。高温での激しい粒成長のため二次元IP検出器による放射光迅速測定を行った。正方晶 ZrO2(空間群 P 42 /nmc, Z = 2)の格子定数、熱膨張および c/a 軸率等を決定した。正方晶相から立方晶相への相転移点は 2430-2540℃ の間である。2200℃ を超えると相転移の前兆現象が観測される。正方晶相から立方晶相への転移点では明確な格子体積変化は観察されない。我々は正方晶相と立方晶相との間の P/T 相境界は負の勾配ではないと提案する。
Keywords: ガス浮遊超高温X線回折法、高融点材料、pure-ZrO2、ジルコニア、正方晶ZrO2、立方晶ZrO2、相転移温度、格子定数、熱膨張、軸率c/a、転移の前兆現象、P/T相境界、クラペイロン勾配
背景と研究目的:
ZrO2 (baddelyite)は、超イオン伝導体や高温材料、光学機器材料などの現代のセラミック材料として、また重要な材料の主要構成元素である。 高温型である正方晶(space group: P42/nmc)および立方晶 ZrO2 (fluorite-type structure, space group: Fm3m)は、その重要性から今日においても広く研究されている。 高圧下での ZrO2 の相転移についても、材料研究や地球科学的分野でも注目されている[1-3]。これまでに純粋な ZrO2 の正方晶から立方晶への転移点付近の格子体積の温度依存性や詳細な構造に関する最新の報告はなく、転移温度の再調査や立方晶相の結晶学的データは公表されていない。
ZrO2 は極めて高い融点(2715℃)を有し、高温下で不純物混入や酸化還元等の影響を回避できる適切な実験試料保持のためのコンテナ材はない。 高融点を有する液体の構造分析は、コンテナレス・ガス浮遊超高温X線回折法により著しく進歩した[4,5]。この装置は結晶にも使用できるが、粒子成長が高温ではひじょうに激しいために装置の改良を要する。我々は二次元IP検出器による短時間での回折点の測定と広い範囲のデータの一次元投影を行う改良により粉末解析法を可能とした。レーザー加熱とシンクロトロン放射を用いたその場観察により純粋な ZrO2 焼結球体サンプルを 2710℃ まで加熱し、結晶学的データを得た。ここでは、格子常数の温度依存性、正方晶相から立方晶相への相転移温度や相転移の前兆現象の観測等について報告する。現在、ZrO2 の相平衡図の提案に向けた最終的な詰めを行っている。
実験:
コンテナレス・ガス浮遊超高温X線回折実験のために、純粋な ZrO2 粉末、および ZrO2-白金粉末混合物を使用した(混合白金粉末の重量比は 20%)。 純粋粉末および混合物を円筒形に圧縮しそして 1400〜1550℃ で24時間焼結後、焼結体を直径 2 mm の真球に成形し実験に用いた。
ZrO2 の高温角分散回折実験は、SPring-8 放射光施設の BL04B2 ビームラインに設置されているレーザー加熱・ガス浮遊装置[4,5]により行った。高温での粒子成長が起こるために、各回折実験は約3分以内で行った。 二次元IP検出器を使用し広い方位角の回折プロファイルを Reatveld 解析のために一次元投影データとした。試料の温度は、ZrO2(2,715℃)と Al2O3(2072℃)の融解温度を使用して温度校正した二色高温計によってモニターした。白金の格子常数の温度依存性を中程度の温度範囲(Pt の融点まで)における温度較正に使用した。この手法では試料回転等の必然的な揺らぎがあるが、温度は ±30℃ 以内で決定できた。
結果および考察:
正方晶系 ZrO2(空間群 P 42/nmc、Z = 2)の格子定数、熱膨張および c/a 比を融点近くまで測定した。回収試料は真っ白で酸素欠損や Zr4+ の還元は起こっておらず、純粋な ZrO2 であることが分析の結果から確認できた。正方晶相から立方晶相への転移温度は、2430〜2540℃ の間に特定できた(図1-3)。a 軸の熱膨張の増加、c 軸の格子定数の収縮は 2200℃ 付近で起こり、立方晶相への転移の前駆現象が 2200℃ 付近から明瞭になる(図1-3)。高温正方晶相は単斜晶相の高圧相でもある。 さらに、正方晶相から立方晶相への転移点では明確な格子体積変化は観察されない。これまでに提案された ZrO2 の P-T 相図では、正方晶相から立方晶相への相境界は負の傾きで示されている。この観測から、正方晶相から立方晶相への相境界は負の勾配を持たないことが提案できる。高圧高温その場観察実験[1-3]では、正方晶相が 12.5 GPa 未満の融解温度まで安定であり、純粋な ZrO2 は高温領域に立方晶相が存在しないことを明らかにしている。正方晶から立方晶への相境界はおそらく正の勾配を有することと調和する。
Figure 1. Temperature dependence of lattice constant a for pure ZrO2
Figure 2. Temperature dependence of lattice constant c for pure ZrO2
Figure 3. Temperature dependence of c/a ratio for pure ZrO2
我々は高融点をもつ ZrO2 の高温その場観察実験を 2700℃ まで行い、これまで不明であった立方晶相の存在、正方晶相から立方晶相への相境界、熱膨張の詳細を明らかにした。この物質は重要な材料であり、2000℃ 程度の中温域までは多くの報告がある。3000℃ に近い融点までの純粋な試料の構造の詳細報告は初めてである。コンテナレス・ガス浮遊超高温X線回折実験は不純物の混入が起こらず、雰囲気もコントロールできる。試料の回転方法のコントルールや温度校正(±30℃)も比較的良い精度で行えた[6]。温度自体は ±5℃ 以上の精度で測定できるが、試料の回転と粒成長による表面のラフネス等が温度揺らぎの原因である。結晶成長が進む超高温域では、粒成長と観測時間の兼ね合いなど、経験と条件出しが必要であった[6]。
今後の課題:
相平衡図の提案と材料科学・地球科学的議論を加えるために、追加のデータの観測を行ってきた。成果が重要であるため、充分な議論と合わせて国際誌へ投稿を行う。
参考文献:
[1] O. Ohtaka, T. Yamanaka, and S. Kume, J. Ceram. Soc. Jpn., 99, 826-827 (1991).
[2] O. Ohtaka, et al., J. Am. Ceram. Soc., 78, 233-237 (1995).
[3] O. Ohtaka et al., J. Am. Ceram. Soc., 84, 1369-1373 (2001).
[4] S. Kohara, and K. Suzuya, Jpn. Soc. Synchr. Radiat. Res., 14, 365-375 (2001).
[5] S. Kohara et al., J. Phys.: Condensed Matter, 19, 506101 (2007).
[6] T. Tobase et al., Phys. Status Solidi B, 255, 1800090 (2018).
(Received: June 6, 2019; Early edition: August 30, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)