SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

低温活性セリアジルコニアの in-situ XAFS解析
In-situ XAFS Analysis of Low Temperature Active Ceria-Zirconia

DOI:10.18957/rr.8.1.131
2017A1567 / BL14B2

村上 歩, 赤塚 一将,犬飼 浩之,高橋 洋祐

Ayumi Murakami, Kazumasa Akatsuka, Koji Inukai, Yosuke Takahashi

株式会社ノリタケカンパニーリミテド

Noritake Co., Ltd.

Abstract

 セリアジルコニア酸化物は酸化還元により酸素を吸放出する機能性粉体であり、貴金属とともに、排ガス浄化用触媒として利用されている。排ガス浄化に大きく寄与する Pd または Pt 還元メカニズム解明のため、既存のセリアジルコニアと開発中のセリアジルコニアに Pd または Pt を担持し、室温から 150°Ϲ までの昇温過程において in-situ XAFS 測定を実施した。開発したセリアジルコニアに担持した Pd と既存のセリアジルコニアに担持した Pd の還元温度に差はみられなかったが、Pt については開発したセリアジルコニアに担持したもののほうが低温で還元されていることがわかった。この結果は昇温還元測定(TPR 測定)による酸素放出挙動と定性的に一致した。


Keywords:排ガス浄化用触媒, セリアジルコニア, in-situ XAFS 測定


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背景と研究目的:

 先進国を中心とした排ガス排出規制の更なる強化、近年では新興国でも排出規制が強化されてきており、排ガス浄化技術の向上が求められている。特に、エンジン始動直後からの排ガス浄化が求められ、より低温からの触媒活性発現に向け、多くの研究がなされている。排ガス浄化用触媒中の貴金属は、セリアジルコニア助触媒(以下、CZ と記載)の上に担持されて使用される。CZ は CeO2 のもつ酸素吸蔵・放出能力によって、システムでは調節できないような排ガス浄化雰囲気の微妙な酸素濃度のズレを調節するという機能により、貴金属触媒の活性を高めている。

 当社で開発した CZ(以下、開発 CZ と記載)は、社内評価により、市場流通している CZ(以下、既存 CZ と記載)と比べ、低温からの酸素を放出できるという利点がある。既存 CZ と開発 CZ の各々に Pt を担持し、800°Ϲ まで H2 還元しながら TPR 測定を行うと、既存 CZ は 140°Ϲ 付近で酸素放出が起こるのに対し、開発 CZ は 90°Ϲ 付近と、より低温から酸素放出が起こるといった優位性が確認できている[1]。TEM 観察により、開発 CZ においては貴金属が細かく分散して担持されていることがわかっているが、酸素放出時の貴金属の状態は明確になっていない。排ガス浄化には貴金属の価数が減少することが必須であるが、CZ の酸素放出挙動の違いにより貴金属の価数状態も変化している可能性がある。そこで、Pd または Pt の担体に開発 CZ と既存 CZ を用い、担体の違いによる Pd または Pt の価数変化を明確にすることを本研究の目的とする。

 

実験:

 測定には、既存 CZ と開発 CZ の2種類のセリアジルコニアの粉末を用い、組成比は Ce 量 40wt% で統一した。開発 CZ は、ZrO2 の周囲を CeO2 で被覆したもの、既存 CZ は、ZrO2 と CeO2 が原子レベルで均一混合されたものである。これら2種の CZ に Pd または Pt をそれぞれ含浸法で 5 wt% 担持したものを作製した。測定サンプルは、Pd または Pt が担持された CZ と適量の窒化ホウ素(BN)と乳鉢混合して、プレス成形(ϕ 10 mm×0.1 mm)して測定試料とした。ビームラインは BL14B2 を使用し、分光結晶には Si (311)を用いて、透過法により Pd K 及び Pt LIII-edge in-situ XAFS 測定を実施した。標準試料には、Pd-foil 及び PdO powder または Pt-foil 及び PtO2 powder を用いた。In-situ 測定で用いるガスは、4%H2/N2 ガス、高純度人工空気ガス(大気組成、CO,CO2,THC<0.1vol.ppm)を用い、流量は 100 mL/min とした。4%H2/N2 ガスは昇温時に用い、高純度人工空気ガスは室温での測定時に使用した。測定温度は、室温~150°Ϲ とし、5°Ϲ /min で昇温し、各測定温度(室温、70°Ϲ、90°Ϲ、110°Ϲ、130°Ϲ、150°Ϲ)に到達後5分キープした後、測定を行った。解析ソフトは Athena を用いた。

 

結果および考察:

 図1に Pd K-edge in-situ XAFS 測定結果を示す。(a)が既存 CZ に Pd を 5wt% 担持した試料の各温度における XANES 測定結果、(b)が開発 CZ に Pd を 5wt% 担持した試料の各温度における XANES 測定結果、(c)が既存 CZ に Pd を 5wt% 担持した試料の EXAFS 振動、(d)が開発 CZ に Pd を 5wt% 担持した試料の EXAFS 振動、(e)が既存 CZ に Pd を 5wt %担持した試料の EXAFS 測定結果をフーリエ変換した動径構造関数 (Radial structure function : RSF)、(f)が開発 CZ に Pd を 5wt% 担持した試料の EXAFS 測定結果をフーリエ変換した動径構造関数である。なお、フーリエ変換は重み(filter)を k2 として波数域 2–12 Å-1、dk=1 Å-1 の Hanning window により行った。

 

   

   

   

    図1. CZ に担持した Pd の Pd K-edge in-situ XAFS 測定結果

 

 XANES 測定結果より、どちらの CZ においても担持された Pd は室温では PdO に近いスペクトルが得られ、4%H2/N2 ガスを流しながら温度を上げていくと、Pd foil のスペクトルに近付いていった。この挙動は EXAFS 測定結果をフーリエ変換し得た動径構造関数からも同様に観察された(動径構造関数は見やすくするため Pd foil、PdO、室温、150°Ϲ 測定結果のみを記載)。従って、Pd はどちらの CZ 上においても Pd イオンから、Pd メタルに変化していることが確認できる。各温度での既存 CZ に担持した Pd と開発 CZ に担持した Pd のスペクトルを比較しても還元状態にほとんど差はみられなかった。

 図2に Pt LIII-edge in-situ XAFS 測定結果を示す。(a)が既存 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の各温度における測定結果、(b)が開発 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の各温度における測定結果、(c)が既存 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の EXAFS 振動、(d)が開発 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の EXAFS 振動、(e)が既存 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の EXAFS 測定結果をフーリエ変換した動径構造関数、(f)が開発 CZ に Pt を 5wt% 担持した試料の EXAFS 測定結果をフーリエ変換した動径構造関数である。この際、フーリエ変換は重み(filter)を k2 として波数域 2–12 Å-1、dk=1 Å-1 の Hanning window により行った。

 

 

   

   

   

    図2. CZ に担持した Pt の Pt LIII-edge in-situ XAFS 測定結果

 

 XAFS 測定結果より、担持された Pt は Pd と同様にどちらの CZ 上においても Pt イオンから、Pt メタルに変化していることが確認できる。

 同じ温度での、既存 CZ に担持した Pt と開発 CZ に担持した Pt のスペクトルを比較すると、開発 CZ に担持した Pt は既存 CZ に担持した Pt に比べ、より低温から Pt メタルへと変化していく様子が観察された。そこで標準試料として使用した Pt foil を Pt 0 価、PtO2 を Pt +4 価とし、各測定結果から Linear Combination Fitting 法(LCF法)にて 11540~11590 eV の範囲で価数を算出した。

 ここで LCF 法について、開発 CZ に担持した Pt の 70°Ϲ での測定により得られたスペクトルを用いて説明する。標準試料として用いた Pt-foil の測定スペクトルを Pt 0 価の基準とし、PtO2 の測定スペクトルを Pt +4 価の基準として、Athena を用いて LCF によるフィッティングを行った(図3)。フィッティング後に得られた0価の割合は 62%、+4 価の割合は 38% であった。

 

    

      図3. LCF 法によるフィッティング前後のスペクトル

     (開発 CZ に担持した Pt の 70°Ϲ 測定スペクトルを用いた)

 

 このようにして LCF 法により0価と +4 価の割合を算出した結果、70°Ϲ、90°Ϲ では開発 CZ 担持 Pt の方がより低温から4価の割合が減少していることがわかった(図4)。

 

   

        図4. 温度変化による Pt +4 価の割合変化

 

 TPR 測定によって、Pt 担持開発 CZ の方が Pt 担持既存 CZ に比べて低温から酸素放出できることがわかっている。この結果をふまえると、開発 CZ に担持した Pt は低温から還元されることによって、低温での Pt の活性を高めることができると推察できる。高い浄化性能の持続には Pt メタルとなることが不可欠であり[2]、開発 CZ は、より低温から、Pt をイオンからメタルへ変化させることができると確認できた。

 

今後の課題:

 本試験では Ce K-edge についても測定予定であったが、測定できていない。これは Pd K-edge および Pt LIII-edge の測定の際、室温~150°Ϲ まで 20°Ϲ 間隔で各温度に到達し、温度が安定するまでに時間がかかってしまい、Ce K-edge の測定時間が無くなってしまったためである。今後はこの Ce K-edge の変化を測定すること、また、NOx や CH 等の排ガス浄化時の価数変化をとらえることが課題である。

 

参考文献:

[1]犬飼浩之, ”ディーゼルエンジン排気浄化における触媒材料およびシステムの開発・要素技術”,後藤淳編, サイエンス&テクノロジー株式会社, 2017, pp. 142.

[2] Y. Nagai et al., Catal. Today, 145, 279, (2009).

 

 

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(Received: March 30, 2019; Accepted: December 16, 2019; Published: January 22, 2020)