SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

高アルカリ性溶液に接する岩の透過像−XRD連成法による変化の分析
Analysis on Alteration Rocks Contacting Highly Alkali Solution Using Integrated Transmission Image – XRD Method

DOI:10.18957/rr.4.1.102
2014A1517 / BL19B2

人見 尚, 鵜山 雅夫

Takashi Hitomi, Masao Uyama


(株)大林組

Obayashi. Co. Ltd.


Abstract

 大深度地下に建設が検討されている放射性廃棄物処分場には、坑道の安定性確保などの目的でセメント系材料の使用も検討されている。本実験では、セメント系材料に触れて高アルカリ性溶液となった地下水の坑道周辺の母岩である花崗岩に及ぼす影響の把握のため、花崗岩の浸漬試験を行い、また時分割で透過像と局所X線回折を行い、アルカリ作用により41時間程度の浸漬においても構成鉱物の変質が起きることを見出した。


キーワード: 放射性廃棄物処分場,セメント系材料,花崗岩変質,透過像,X線回折,

       時分割測定


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背景と研究目的:

 放射性廃棄物処分場は大深度地下の岩盤に建設した坑道を中心とした施設となることが検討されている。この中では、止水や坑道安定性の確保に、コンクリートなどセメント系材料の使用も検討されている。セメント系材料に接した岩盤は地下水の介在により高いアルカリ性の水分に接することになる。放射性廃棄物処分場の供用期間は長期におよび、その間の変化を限られた時間で求めるには、微小な変化を高精度に把握できる放射光実験が最適である。先行研究では、センチメートルオーダーの観察に留まっており[1,2 など]、高アルカリ性溶液に接する岩盤の影響を精度よく求めたとは言い難い。本課題では、岩盤の劣化に関し、精密な測定を通じ長期の放射性廃棄物処分場の安全性予測・評価に資する知見を得ることを目的とした。


実験:

 放射性廃棄物処分場の模擬実験施設である、日本原子力研究開発機構の瑞浪超深地層研究所の深度500 mの研究坑道より採取した花崗岩を用いて、アルカリ性溶液に接触させながら観察を行った。

 写真1に花崗岩1、写真2に花崗岩2の外観を示す。花崗岩1および花崗岩2は、事前の観察より前者は雲母成分を多く含むもの、後者は緑泥岩を多く含むと推察されたものを用いた。それぞれ、原位置の坑道建設時に発生する数十センチ単位の大きな破砕物を採取し、岩石カッターを用いて小規模の塊に加工後、ワイヤーカッターを用いて微小な試料に加工した。さらに厚さ0.8 mm,幅8 mmおよび高さ10 mm程度の薄板状に研磨し、観察に供した。写真3にアクリル製の溶液タンクとその上部から吊した試料を示す。左から花崗岩1,花崗岩2を設置し、右側はダミーのサンプルとしてセメント硬化体を2体(普通ポルトランドセメント,低アルカリ性セメント)を設置した。セメント硬化体の設置の目的は、後述するように、アルカリ性溶液の発生源となることから、これの浸漬による材料への影響も別途調べることにある。

 試料はアクリル製の細い板で上部を挟み込み瞬間接着剤で固定し、上から吊り下げる形式とした。溶液との接触はフェルト(写真では青と赤の短冊状のもの)を介して行い、下端を触れるようにして、溶液の作用も下端より及ぶように設定した。溶液は蒸発に伴う減量分を追加し、常に十分な量の溶液が試料に接触する状態を保った。浸漬液は、セメント系材料からの溶出液として、初期のナトリウム(Na)やカリウム(K)の多い配合のものを用いた(アルカリ金属イオン含有溶液:Na = 0.065 mol/l, K = 0.13 mol/l, Ca = 0.002 mol/l, pH = 13.0 at 25°C)。

 セメント系材料からの溶出液は、初期にイオン半径が小さく、拡散係数の大きいNaやKが先に拡散するため、上記の配合とした。時間の経過に伴い、これらのイオンが少ない状態となった場合には、溶出液の主成分はカルシウム(Ca)イオンとなる二段階のアルカリ性溶液となるが[1]、本課題では、初期の段階でのセメント系材料の影響という設定とした。

 X線透過法により形状の変化を把握し、X線回折法により構成鉱物の変化を把握した。実験はBL19B2で行い、透過像撮影装置とX線回折装置を交互に入れ替え、これを繰り返すことで、1時間ごとの繰り返し観察を行った。写真4に装置の外観を示す。まず、透過像を撮影し、次いでX線回折プロファイルを取得した。



写真1 花崗岩1(雲母)  写真2 花崗岩2(緑泥岩)  写真3 浸漬試験中の試料



写真4 装置の外観


X線回折プロファイルの測定には検出器PILATUS 300K,透過像の測定にはCCDカメラ(浜松ホトニクス社製C11440)を用いた。カメラ長は214.3 mmとした。

 透過像は下端の接触面から高さ5 mm,幅5 mm程度の領域を露光時間0.2秒で撮影した。高さ0.1 mm,幅1 mmのX線ビームを照射し、下端より0.4 mmごとに5点から回折像を得た。図1に観察の概念図を示す。X線回折の積算時間は5分とした。すべてのX線のエネルギーは、厚さ0.8 mm程度の試料を十分透過することのできる17.6 keVとした。



図1 透過像-XRD観察概念図


結果および考察:

透過像の観察結果

 図2に、花崗岩1および花崗岩2の透過像の結果を示す。なお、浸漬用のフェルトの位置を3時間経過後に変更したため、結果も4時間経過後を初期値として示し、最終的な41時間経過後の図と比較した。図の位置合わせは、ImageJのプラグインであるStackregを用いて行い、その後、浸漬前後の差分を求めた。いずれの画像からも、明瞭な変化は確認できなかった。また、花崗岩2では下部にひび割れ様のものが見られ、位置合わせでも精密に合わせられなかったために差分画像では強調される結果となったが、大きな形状変化は見られなかったと考える。



図2 試料の浸漬前後の透過像および差分画像


X線回折の結果

 試料は、大きな結晶粒から構成され、X線の照射位置が異なると鉱物構成が異なる。このため単純な浸漬位置からの距離の関係として回折プロファイルを検討することが難しいため、本報告では、最も変化が顕著だった浸漬面に一番近いデータのみを取り扱った。図3に取得した二次元回折データの例として花崗岩1の初期値のデータを示す。図の右下を中心として1/4円状のデバイリングのデータを取得し、これを円周上で積分し、X線回折プロファイルを求めた。図3でも顕著なようにデバイリングは不連続であった。本測定では、鉱物を粉砕することなく測定しているため、粗粒効果が顕著で、各回折の強度比を比較することはできない。また、得られたプロファイルにおいて含有される鉱物のすべてのピークが一致するわけではない。測定装置の入れ替えによる再現性については、透過像の初期と41時間後、さらに中間における任意の透過像の比較では、画像にずれは見られなかった。このため、光学系の装置の時間経過に伴うずれの発生は、X線回折プロファイルにも影響のない範囲であると判断した。同様に二次元検出器のずれに関しても検討が必要であるが、今後の課題としたい。



図3 取得した二次元回折データの例


 図4, 5に示したデータは、それぞれ花崗岩1と花崗岩2の初期と41時間経過後の結果である。41時間後の結果は、カウント数に300を加算して表示してある。ICSDの結晶データベースとの比較を行い、一致した鉱物を合わせて示した。鉱物は、事前に市販のX線回折装置でも分析を行い、あらかじめ候補を準備したうえで比較を行った。雲母の含有が多いと思われ花崗岩1では、黒雲母であるBiotiteのピークと多く一致し、同一観察点の41時間経過後ではBiotiteのピークが減少する結果を得た。また、Quartzと一致するピークも多く得られた(図4)。図5に26.5°付近のX線回折プロファイルの時系列変化を示す。徐々にピークが減少する傾向が見られた。



図4 花崗岩1のX線回折プロファイル



図5 花崗岩1の26.5°付近のX線回折プロファイル


 花崗岩2では事前の顕微鏡観察より緑泥岩の含有が多いとされたが、花崗岩1とは異なり、Quartzが主成分であると判断された(図6)。浸漬後は、初期にみられたQuartzのピークは多くの位置で減少の傾向を示した。また、強度が低く、岩盤の劣化をもたらすものであるとされる粘土鉱物の一種であるカオリン(Kaolinite)と思われるピークは浸漬前後に一部見られたが、そのピークも減少の傾向を示した。カオリンのピークである20°付近のX線回折プロファイルの時間変化を図7に示す。



図6 花崗岩2のX線回折プロファイル



図7 花崗岩2の20°付近のX線回折プロファイル


 それぞれ、放射性廃棄物処分の期間と比べても短い期間の浸漬であるが、雲母鉱物の一種であるBiotiteの減少や消失といった現象を確認することができた。カオリンに関しては、今回の浸漬の結果生じたものかの分析には至っておらず、花崗岩の劣化の兆候と判断するには早計と考える。これらの結果は、放射性廃棄物処分場建設の際に用いられるセメント系材料が周辺の母岩にも影響を及ぼす可能性のあること示している。この母岩の変質が、強度の劣化を引き起こし、坑道安定性を検討する場合に重要な要素となるか、今後検討を深めていく必要性を示唆する結果を得た。


今後の課題:

 端部からの浸漬であるため、影響範囲は狭いと考えられる。浸漬方法などの再検討や温度条件の変更などを検討したい。


参考文献:

[1] Savage D., Bateman K., Hill P., Hughes C., Milodowski A., Pearce J., Rae E., Rochelle C., Appl. Clay Sci., 7, pp.33-45, (1992)

[2] Adler M., Mäder U. K., Waber H. N., Schweiz., Mineral. Petrogr. Mitt., 79, pp.445-454, (1999)



ⒸJASRI


(Received: January 16, 2015; Accepted: December 11, 2015; Published: January 25, 2016)