Volume4 No.1
SPring-8 Section B: Industrial Application Report
ヒト毛髪内部浸透成分解析、及び、ヘアトリートメント効果評価
Analysis of Ingredients that Penetrate into the Inside of Human Hair and Hair Treatment Effect Using Infrared Microspectroscopy
aクラシエホームプロダクツ(株), b(公財)高輝度光科学研究センター
aKracie Home Products, Ltd., bJASRI
- Abstract
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効率的に毛髪用製剤を開発するためには、毛髪内部へ製剤成分の浸透性を直接的にかつ簡便に解析することが重要となる。本研究においては顕微IRを用いて毛髪内部に局在する物質を直接解析し、適用した製剤の物質浸透性及び局在部位を確認する事を目的とした。その結果今回、製剤処理条件の違いに対応して、毛髪内部へのシロキサン化合物の局在分布状況に差異が生じていることが示唆された。
キーワード: 顕微IR、化粧品、毛髪
背景と研究目的:
ヒト毛髪への美容目的とした化粧品であるヘアトリートメント剤、及び、ヘアカラーリング剤においては、その機能を効果的に発現するために、毛髪内部への製剤物質の浸透性をコントロールする事が重要な技術となっている。例えばヘアトリートメント製剤では毛髪内部へ毛髪補修物質(油剤、アミノ酸、タンパク質、高分子ポリマー等)の浸透性を、ヘアカラーリング剤では色素の浸透性を高める事が効果的に機能を発現する為に重要である。従って、それら物質の浸透性能を解析することは、効果の高い製剤を開発する上で重要な事となってくる。
従来、物質の毛髪への浸透性能を確認する手法としては、色素で毛髪を染色し、その色差量から間接的に推測する、又、直接的な手法としては、ラジオアイソトープや蛍光物質などでラベルリングした物質により解析してきた。しかしながら、ラジオアイソトープラベリングはサンプル作製に時間を要する、蛍光ラベリングは化学構造や物理学的性質の変化などが生じてしまうため、正確に浸透した物質を評価しているとは言い難いものである。またこれまでに顕微IRを使用して毛髪横断面の化学組成分布(アミド結合、及び、スルフォネート結合)を評価する手法が報告されており[1]、製剤物質の局在状況確認の可能性も示唆されていた。
本研究においては、2011B期までに、SPring-8 BL43IRの赤外顕微鏡を用いることで複数種の構成成分からなるヘアトリートメント製剤の毛髪内部への作用機序の確認を試みた[2] [3]。その結果ヘアトリートメント製剤中で配合割合が多く、毛髪に残存しやすいシロキサン化合物の局在分布状況の確認が可能となった[4]。2012A期においては、製剤処理条件の違いに対応した毛髪内部へのシロキサン化合物の局在分布状況の差異確認を試みることとした。
実験:SPring-8 BL43IR 顕微IR装置
試料:マイクロチューブ(1.5 mL)に毛髪包埋用樹脂(Technovit 7100)を注ぎ、毛髪30本の包埋ブロックを準備した。ミクロトーム(MICROM、タングステンカーバイドナイフ)を使用して、毛髪横断切片(厚さ6 μm)を作製し、測定に用いた。
BL43IR光学系測定装置:Vertex 70 + Hyperion 2000(Bruker社製)
条件:波数範囲7500–450 cm−1、200 SCAN、波数分解能8 cm−1、測定間隔3 μm、Aperture 幅6 μm
測定内容:毛髪横断切片を顕微IR に透過配置し、マッピングステージを使用して、毛髪断面領域を測定、IRスペクトルを取得した。
結果および考察:
3通りの洗髪(ヘアシャンプー+ヘアトリートメント)処理(製剤A、B、C)を実施後、それぞれから毛髪サンプルを採取し、毛髪横断面のIR測定を行った。ブランク(未処理)毛髪、製剤処理の毛髪横断面から得られた代表的なIRスペクトルを図1に示した。これらのスペクトルから特定の結合吸収ピークに対して積分を行い、ピーク強度(Intensity/arb. unit)を算出した。
図1 IRスペクトル
その結果、ケラチンタンパク質アミド由来アミドⅡ結合吸収ピーク(1540 cm−1)によって得られた毛髪横断面の輪郭に対応するように、シロキサン化合物由来のSi-O結合吸収ピーク(1080 cm−1)の横断面内部での局在状況が観察された(図2)。A、B、C、3通りの製剤処理の違いに対応するように、毛髪内部へのシロキサン化合物の局在分布状況に差異が見られた。製剤処理毛髪においてはアミドⅡ結合吸収ピークに対応するように、毛髪切片と基板との境界で比較的明瞭にSi-O結合吸収ピークが検出されていた。
図2 製剤処理比較
一方でブランクについて、Si-O結合吸収ピークは毛髪切片と基板との境界が不明瞭であり、製剤処理の結果によるシロキサン化合物の検出を捉えていると考えられた。製剤構成成分の作用性能比較を行う評価手法としての有効性が今回の結果により示唆される結果となった。
今後については製剤中の脂質成分などについても着目することで、製剤成分の作用機序の解明に努めていきたい。
今後の課題:
今後については、測定点の間隔と測定時間の短縮化のバランスを見極めながら、N数を稼ぐことで毛髪1本1本の個体差と全体で起こっている現象の見極めを行っていきたい。毛髪1本1本の状況に応じたヘアケア処理方法、成分の作用機序の確認が可能になっていくと考えられる。将来的には個々人のケアニーズに応えていくことが可能になると考えられ、本手法の産業界における普遍的な活用を目指していきたい。
参考文献:
[1] Jean-Louis Bantignies, G. L. Carr, Dominique Lutz, Sylvie Marull, Gwyn P. Williams and Gilbert Fuchs, J. Cosmet. Sci., 51, 73-90 (2000)
[2] Satoshi Inamasu, Taro Moriwaki, Yuka Ikemoto, SPring-8 Research Frontiers, 162-163 (2007)
[3] Satoshi Inamasu, Taro Moriwaki, Yuka Ikemoto, 第65回SCCJ研究討論会講演要旨集, 27-28 (2009)
[4] Satoshi Inamasu, Taro Moriwaki, Yuka Ikemoto, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 3(2) 388-391 (2015)
ⒸJASRI
(Received: July 6, 2015; Early edition: November 30, 2015; Accepted: December 11, 2015; Published: January 25, 2016)