SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume4 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

1次元X線検出器MYTHENを利用した結晶粒度評価法の検証
Evaluation of Crystal Granularity Using 1-D Detector MYTHEN

DOI:10.18957/rr.4.1.75
2012A1755 / BL19B2

大坂 恵一a, 佐藤 眞直a, 松本 拓也b, 広野 等子c, 川瀬 守弘a, 豊川 秀訓a

Keiichi Osakaa, Masugu Satoa, Takuya Matsumotob, Toko Hironoc, Morihiro Kawasea, Hidenori Toyokawaa


a(公財)高輝度光科学研究センター, b(株)スプリングエイトサービス, cボン大学

aJASRI, bSPring-8 Service Co., Ltd., cUniversity of Bonn


Abstract

 産業利用ビームラインにおける粉末回折装置の検出器として導入を検討しているオンライン1次元検出器MYTHENを用いて、検出器が有する時分割測定機能を利用した結晶粒度評価法を開発し、その詳細な評価条件を検証した。その結果、結晶粒度の相対的な比較が可能となる最適な条件を見いだすことができた。


キーワード: 粉末回折、新装置開発、自動化、高効率化、高度化


背景と研究目的:

 SPring-8のBL02B2ならびにBL19B2に設置されている粉末回折装置(大型デバイシェラーカメラ)は、数mg程度の極微量な試料でも電子レベルの精密構造解析が可能なデータが収集できる。そのため、学術界のみならず産業界においても、新規材料開拓に必要不可欠な実験・解析ツールとして認知されている。我々は、BL19B2の装置において、試料搬送・精密位置決めロボット「JukeBox」を開発し[1]、データ収集の高効率化・省力化を推進し、X線を利用した実験に慣れていないユーザーでも高品質のデータを効率よく収集できる仕組みを作り上げた。近年では、この装置を利用して土壌の粉末回折データベースの構築に着手しており[2]、放射光実験の新たな活用法を提案している。

 大型デバイシェラーカメラでは、回折データはイメージングプレート(以下IP)上に2次元画像として記録されるので、良好なデータ収集に不可欠な「結晶粒度評価」が視覚的にできるという利点を持ち合わせている。一方で、IPの装置への装填や測定後の読取作業は、人の手(オフライン)で行っており、完全な無人自動運転の実現、ひいては完全リモート実験の実現にとって大きな障壁となっている。

 そこで我々は、2012年度より「オンライン検出器」を用いた新しい粉末回折装置の開発をスタートした。検出器として導入を検討しているMYTHEN[3,4]は、Swiss Light SourceのMaterials Scienceビームライン(MS-X04SA)の粉末回折用検出器として開発された1次元固体Si検出器である。この検出器は高速時分割測定が可能であることから、温度・湿度などの外場応答を観測する実験で力を発揮する。しかしながら、検出器の1次元化を推し進める一方で、2次元画像のデバイリングの不均一性を利用した「結晶粒度評価」というIPの有用性が失われる。これを克服するために、我々は、MYTHENの特徴である「時分割測定」に着目し、新しい結晶粒度評価法を発想した。本研究は、この新しい評価方法を検証し、IPを用いた方法(5分程度の露光およびIP読取作業)よりも高効率でより迅速な評価方法を確立することを目的とした。


実験:

 我々の新しい結晶粒度評価法は、試料を回転させながらある回折線の強度を測定したときの、回転角に依存する強度変化(いわゆるωスキャン)を利用して評価するものである。粉末試料の結晶粒子径が適度に細かく、粒径分布が均一な粉末試料の場合、ωスキャンの強度変化は、観測強度の統計ゆらぎ程度である。逆に言えば、ωスキャンの強度変化が統計ゆらぎよりも明らかに大きい場合は、結晶粒径が粉末回折測定に対して適切ではなく、粒径分布が均質ではないと言える。本研究では、高速時分割測定が可能な検出器MYTHENを利用してωスキャンに相当する強度変化から結晶粒度評価が可能であることを検証し、評価に適した実験条件(サンプリング時間,サンプリング角度幅,露光時間)を検討した。図1に実験装置の模式図を示す。実験はSPring-8産業利用IビームラインBL19B2に設置されているHuber社製多軸回折計を用いて行った。MYTHEN検出器(1基)は、Huber社製多軸回折計の2θ軸上に設置した。X線のエネルギーは30 keV,ビームサイズは大型デバイシェラーカメラで用いるのと同じ縦0.3 mm×横3 mmに設定した。試料は、結晶粒径が精密に制御されたダイヤモンド粉末(3種類),NIST標準試料CeO2(結晶粒径:約380 µm)ならびに石英ガラス粉末で、いずれもガラスキャピラリーに封入した。石英ガラス粉末は、結晶粒度の影響を受けない対照試料として用意した。各試料に対する露光時間は長いほど統計精度が良く、高精度な結晶粒度評価が可能になることは自明である。しかしながら、今回の実験の目的は、従来の方法よりも高効率で迅速な方法を検証することであるため、すべての試料に対して露光時間は1分に固定した。加えて、X線照射領域にある結晶粒による回折強度の寄与を均等にするため、試料回転速度は360°/分に固定した。したがって、サンプリング角度幅は、サンプリング時間と相関するので、サンプリング時間,すなわち1分割測定あたりの計数時間のみが独立な可変パラメータである。サンプリング時間が短ければ、結晶粒度のばらつきが緻密に観測できる反面、統計精度が低いデータとなる。逆に、サンプリング時間が長ければ、広いサンプリング角度幅の平均情報しか得られない。したがって、適切なサンプリング時間を検討することは非常に重要である。



図1 実験装置の模式図


結果および考察:

 図2は、異なる結晶粒径のダイヤモンド粉末の回折線を、サンプリング時間0.5秒で測定した結果である。この場合、サンプリング回数は120(= 60秒 / 0.5秒),サンプリング角度幅は3°(= 360°/ 120)である。この図は、本実験に際して、ωスキャンによる回折線の強度変化を容易に図示し、解析するために開発した専用ソフトウェアを用いて表示している。



図2 異なる結晶粒径のダイヤモンド粉末の回折線の時分割測定の比較。サンプリング時間は0.5秒。(a)は時分割測定された1次元回折プロファイルを測定順に並べて2次元画像化したもの。(b)(c)(d)は111回折線の強度変化を表す。


(a)は、ωスキャン中に時分割測定された1次元回折プロファイルを測定順(「サンプリング数」)に上から順に並べ、観測強度をグレースケールで表示したものである(黒が強度大に相当)。このように表示することによって、1次元検出器で測定されたデータが、あたかも2次元検出器で測定された画像のように表現できる。(b)(c)(d)は、時分割測定された回折線(ダイヤモンド111)の強度変化を比較したものである。横軸は(a)で説明したサンプリング数である。ここで、N回のサンプリング回数のうち、j番目に観測された回折強度をIjと表し、Ijの平均値をIとする。すなわち、

である。Iの平方根は、回折強度の検出統計ゆらぎに相当する。一方で、実測したIjの強度変化の度合いは、標準偏差σIで評価することができる。ここでσIは、

である。図2(b)(c)(d)の各プロファイル中の黄色および青色の帯は、平均値Iに対する検出統計ゆらぎおよびσIに対応した回折強度の変化の幅を表現している。これらを見ると、結晶粒径が大きくなるにしたがって、に対するσIの相対値が大きくなっているのがわかる。ここで、以下のようなPgなる結晶粒度評価パラメータを定義する。

 図3は、サンプリング時間を5通り(0.25秒,0.5秒,1秒,2秒,3秒)設定し、各試料に対するPgを比較したものである。サンプリング時間とともに、サンプリング角度幅も併記した。また、Pgを算出するにあたって、結晶試料(CeO2ならびにダイヤモンド粉末)では、最強線である111回折線の強度を用いたが、非晶質である石英ガラス粉末では明瞭な回折線が現れないので、散乱強度が最大となる角度位置の強度を用いた。これを見ると、石英ガラス粉末のPgはすべてのサンプリング条件においてほぼ1であり、観測された回折強度のゆらぎは検出統計ゆらぎ幅とほぼ一致することを意味している。これに対し、他の結晶試料については、Pgはすべて1より大きな値となっている。これらのデータから、Pgは結晶粒径と相関があることが理解できる。図3をさらに詳しく見ると、いずれのサンプリング時間に対しても、Pgには結晶粒径に対して正の相関があるが、サンプリング時間3秒のデータに関しては、ダイヤモンド粉末の結晶粒径に対して負の相関となる部分がある(矢印で示す)。このことから、結晶粒径の大小を相対的に評価するには、サンプリング時間を2秒以下に設定することが必要であることがわかる。



図3 異なるサンプリング時間で測定された時分割測定から算出した結晶粒度評価パラメータPgの試料ごとの比較。


 以上の結果をまとめると、MYTHENの特徴である「時分割測定」を利用して、IPを用いた方法よりも高効率でより迅速な結晶粒度を評価するためには、以下の条件が必要であることがわかった。

 ● 1試料あたりの露光時間は1分

 ● 試料回転速度は360°/分

 ● MYTHENのサンプリング時間は2秒以下(サンプリング角度幅は12°以下に相当)

 また、本研究に際して新規に開発したソフトウェア(図2参照)を利用すれば、1次元検出器を用いた場合でも、IPなどの2次元検出器と同様に、擬似的に2次元画像として結晶粒度の目視評価が可能であり、さらに(3)式で定義した結晶粒度評価パラメータPgを用いることによって、試料間の相対的な評価まで拡張できることがわかった。以上のことから、新しい粉末回折装置の開発における検出器の1次元化による懸念は解決したと言える。


今後の課題:

 本研究の成果は、産業利用ビームラインに将来導入を計画しているオンライン検出器型粉末回折測定装置の開発にフィードバックされる。この装置の開発にあたって、今後は、「最適なカメラ半径の検証」および「検出器のフォトン計数効率の検証」に関する実験が必要である。


参考文献:

[1] K. Osaka, T. Matsumoto, K. Miura, M. Sato, I. Hirosawa and Y. Watanabe : AIP Conference Proceedings, 1234, 9-12 (2010).

[2] W. S. K. Bong, I. Nakai, S. Furuya, H. Suzuki, Y. Abe, K. Osaka, T. Matsumoto, M. Itou, N. Imai and T. Ninomiya : Forensic Science International, 220, 33-49 (2012).

[3] B. Schmitt, Ch. Brönnimann, E.F. Eikenberry, F. Gozzo, C. Hörmann, R. Horisberger, B. Patterson : Nuclear Instruments and Methods in Physics Research A, 501, 267–272 (2003).

[4] http://pilatus.web.psi.ch/mythen.htm



ⒸJASRI


(Received: September 29, 2014; Early edition: November 30, 2015; Accepted: December 11, 2015; Published: January 25, 2016)