SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.3

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

EXAFS解析に基づくバイメタリックナノ微粒子の表面元素比率評価
Surface Atomic Ratio of Bimetallic Nanoparticle Estimated by EXAFS Curve Fitting Analysis

DOI:10.18957/rr.8.3.522
2014B5372, 2015A5372, 2015B5371 / BL16B2

西村 友作

Yusaku F. Nishimura

(株)豊田中央研究所

Toyota Central R&D Labs., Inc.

Abstract

 広域X線吸収微細構造(EXAFS)解析で得られる平均配位数に基づいて、バイメタリックナノ微粒子(BNP)の表面元素比率を評価することを試みた。BNP を構成する2元素が金属状態であることが求められるため、Pd、Pt ともに金属状態で存在する Pd–Pt BNP の実測データを用いて表面 Pd/Pt 比を見積もった。透過電子顕微鏡観察・エネルギー分散型X線分光分析の結果と無矛盾な結果(即ち Pt が BNP 表層に濃化していることを示す結果)が得られた。


Keywords:バイメタリックナノ微粒子,EXAFS解析,原子分布


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背景と研究目的:

 2つの金属元素から構成されるナノ微粒子(バイメタリックナノ微粒子[BNP])は、熱力学的[1–4]あるいは電子論的[5–8]な効果によって単一金属ナノ微粒子とは異なる特性を示す。そのため、燃料電池用電極触媒、排ガス浄化触媒をはじめとする不均一触媒としての応用が期待されている。不均一触媒において触媒化学反応は触媒表面で進行する。触媒粒子表面に存在する金属原子の酸化状態、元素比率は、触媒特性(活性、選択性)に影響を与える重要な指標である。触媒特性は動作条件で確認される物性であるから、この触媒特性と関連付けられる酸化状態、元素比率を operando 条件で測定できる分析手法が望まれる。

 これまでにX線吸収分光法(XAS)や透過型電子顕微鏡法(TEM)に基づく、operando 分析に適用できる触媒粒子内原子分布評価法が提案されている。Hwang ら[9, 10]は、2つの構成元素の広域X線吸収微細構造(EXAFS)カーブフィッティング解析によって求められる配位数の比から合金化度を定義し、この指標とおおよその原子分布との関連付けを行った。これにより原子分布の定性解析が行えるようになった。同様に Frenkel ら[11–13]は、配位数の比から短距離秩序の度合いを定義し、この指標とおおよその形態との関連付けを行った。Liら[14, 15]は、operando XAS スペクトル測定および operando TEM 観察用の実験セルを開発した。以上の検討から、operando 条件で触媒粒子構造に関する平均情報、局所情報が得られるようになった。

 触媒特性と触媒表面状態とを関連付けるためには、触媒特性への影響の小さいプローブ(即ち、平均自由行程の大きなプローブ)を用いて BNP 表面元素比率を定量評価できる手法が必要となる。本研究では、透過能の高い硬X線を用いる XAS に着目し、EXAFS 解析により得られる平均配位数 N から BNP 表面元素比率を評価可能か検討した。

 

実験:

 BNP 試料として、ポリビニルピロリドン(PVP)で保護された Pd–Pt、Cu–Pt、Pt–Rh 各 BNP を用いた。いずれの試料においても Pt と異種金属 M (M: Pd、Cu、Rh)のモル比は1とした。上記微粒子を含むコロイド溶液を窒化ほう素微粒子(富士フィルム和光純薬(株)、純度: > 99%)と混合し、室温(25°C)で真空乾燥した。乾燥後に解砕した粉末を錠剤成型し XAS スペクトル測定に用いた。Pd–Pt BNP の走査 TEM (STEM)観察、エネルギー分散型X線分光(EDX)分析には真空乾燥後に解砕した粉末を用い、日本電子(株)製電界放出形透過電子顕微鏡 JEM2100F を用いて行った。得られた高角度散乱暗視野(HAADF)-STEM 像を ImageJ [16]を用いて解析し、Pd–Pt BNP の粒度分布を求めた。

 各吸収端での XAS 測定(Cu K-、Pd K-、Pt LIII-、Rh K-edges)は BL16B2 にて透過法で行った。EXAFS 振動 χ(k) の減衰およびカーブフィッティング解析に用いられる χ(k) の波数 k 区間の狭小化を防ぐため、クライオスタットを用いて 10 K で XAS 測定を行った。測定された XAS スペクトルは ATHENA [17]で規格化、フーリエ変換 (FT) の各処理を行った。規格化吸光度が 0.5 となるエネルギー位置を光電子の運動エネルギーの閾値 E0 と定めた。高 k 領域での χ(k) の減衰を補うため χ(k) に k3 を乗じた上で、32 ≤ k/nm−1 ≤ 195 (Pd K-edge)、33 ≤ k/nm−1 ≤ 170 (Pt LIII-edge)、30 ≤ k/nm−1 ≤ 135 (Cu K-edge)、30 ≤ k/nm−1 ≤ 110 (Rh K-edge)の各区間でフーリエ変換 (FT) し、実空間 (R′ 空間) における FT スペクトルを得た。Pd–Pt BNP に関する EXAFS 振動 χ(k)の解析には ARTEMIS [17]および第一原理多重散乱計算コード FEFF 6L [18]を用いた。カーブフィッティング解析は Pd50Pt50 合金に対する FEFF 計算結果(有効散乱振幅、位相シフト)を用い、FT スペクトルを0.18 ≤ R′/nm ≤ 0.31 (Pd K-edge)、0.20 ≤ R′/nm ≤ 0.31 (Pt LIII-edge)の各区間(第1配位圏に相当)で逆 FT した k 空間スペクトルに対して実施した。Pd K-edge、Pt LIII-edge で取得した2つの k 空間スペクトルに対して、第1配位圏の原子間距離 R(Pd–Pt) = R(Pt–Pd)、XAS Debye-Waller 因子 σ2(Pd–Pt) = σ2(Pt–Pd)、3次キュムラント C3(Pd–Pt) = C3(Pt–Pd)、モル分率 x と平均配位数 N の積 xPdN(Pd–Pt) = xPtN(Pt–Pd)の拘束条件の下、カーブフィッティングを行った。ここで括弧内の M1–M2 (M1、M2 は Pd または Pt)は、吸収原子 M1 から見た第1配位圏 M2 を意味する。減衰因子 S02 は同条件で測定した Pd 箔、Pt 箔に対して第1配位圏の配位数が 12 であるとしてカーブフィッティング解析を行うことで求めた。その結果、Pd K-edge における S02 は 0.881、Pt LIII-edge における S02 は 0.859 とそれぞれ求められた。Pd–Pt BNP の EXAFS 解析の際は S02 を上記の値(定数)とした。

 

結果および考察:

 図1および図2に各吸収端で測定された BNP 試料の吸収端近傍X線吸収構造(XANES)スペクトル、FT スペクトルをそれぞれ示す。比較のために、同条件(ただし室温)で測定された金属箔、酸化物標準試料の XANES スペクトルをそれぞれ点線、破線で示している。XANES スペクトル形状および E0 値から、本研究で用いた Cu–Pt BNP 内 Cu は2価、Pt–Rh BNP 内 Rh は3価で存在していると考えられる。FT スペクトルから、両 BNP 試料内 Cu および Rh が Cu–O 結合、Rh–O 結合を有し、酸化物として存在していることがわかる。両 BNP 試料内 Pt についても Pt LIII-edge ホワイトライン強度が Pt 箔より高いことから、一部が酸化されていることがわかる。一方、Pd–Pt BNP 内 Pd、Pt は、その XANES スペクトル形状が金属箔標準試料に近いことから、金属状態で存在していると考えら れる。本研究で取り組んだ表面元素比率評価には BNP を構成する2元素が金属状態であることが求められるため、以下では Pd–Pt BNP に対してのみ検討を行うことにした。

 

       

図1.各 BNP および標準試料の XANES スペクトル:(a) Pt LIII-edge、(b) Pd K-edge、(c) Cu K-edge、(d) Rh K-edge。

 

     

図2.各 BNP および標準試料の FT スペクトル:(a) Pt LIII-edge、(b) Pd K-edge、(c) Cu K-edge、(d) Rh K-edge。

 

 図3に Pd–Pt BNP の TEM 観察、EDX 分析結果を示す。EDX マップから、Pd–Pt BNP はコアシェル型原子分布を有することがわかる。TEM 像および粒度分布から、本研究で用いた Pd–Pt BNP は単分散性が高く、平均粒子径が(3.10 ± 0.60) nm であることがわかる。

 

     

図3.Pd–Pt BNP の TEM 観察,EDX 分析の結果:(a) TEM 像,(b) EDX マップ(赤は Pd,緑は Pt)、(c)粒度分布(n、σd はそれぞれ標本数、平均粒子径、粒子径標準偏差を表す)。

 

 図4に Pd K-edge および Pt LIII-edge で測定された EXAFS 振動に対するカーブフィッティング結果を示す。ここで、測定値は FT スペクトルにおける第1配位圏を逆 FT したもの(実部)である。図4から良好なフィッティング結果が得られていることがわかる。このときの各フィッティングパラメータの値を表1にまとめる。Pd の配位数 NPd [= N(Pd–Pd) + N(Pd–Pt) = 10.87]よりも Pt の配位数 NPt [= N(Pt–Pt) + N(Pt–Pd) = 9.34]の方が小さいことから、Pd よりも Pt の方が表面に多く存在することがわかる。

 

     

図4.Pd–Pt BNP 内 Pd、Pt 第1配位圏の EXAFS 振動 k3χ(k)の比較:(a) Pd K-edge、(b) Pt LIII-edge。いずれにおいても第1配位圏の逆FTスペクトルの実部を示しており、黒点線は測定値、黒実線はフィッティング結果、青破線・赤点線はフィッティング結果の各要素をそれぞれ表す。

 

 表1の第1配位圏配位数に基づいて表面元素比率を評価することを試みた。粒子径(直径)は、第1配位圏平均配位数の加重平均 N [= xPdNPd + xPtNPt = 10.13]、空間群 、格子定数 a = b = c = 0.391 nm (第1配位圏原子間距離 0.277 nm)の場合の平均配位数 N と粒子径との関係(球状粒子を仮定)から 2.77 nm と見積もられた。この値は図3に示す TEM 観察結果と符合する。球状粒子を仮定すると、平均配位数と粒子径の関係のほか、粒子径、粒子を構成する原子数、配位数が Ni [≤ 12] となるサイト数の関係が求められる。Pd ないし Pt の未結合手数に関する方程式を立てることで、粒子表面、即ち配位数 Ni が 12 未満のサイトに存在する Pd ないし Pt の原子数と NPd ないし NPt とを結び付けることができる。この方程式を満たす解(原子配置)は複数存在し、系のエネルギーに差がないと近似できる場合、解の平均値に対する表面 Pd/Pt 比はその期待値を与える。このようにして見積もられた表面 Pd/Pt 比は 0.542 であった。この表面 Pd/Pt 比は表層に Pt が約 65%、Pd が約 35% 存在することを意味する。見積もられた表面 Pd/Pt 比は、Pt の表面濃化を意味する点で、図3に示す TEM および EDX 分析結果と良い一致を示す。表1にまとめた第1配位圏平均配位数に近い値を持つ Pd–Pt BNP モデル構造を図5に示す。この Pd–Pt BNP モデル構造の場合、表面 Pd/Pt 比は 0.561 となる。上述の方法で見積もられた表面 Pd/Pt 比(0.542)はモデル構造の表面 Pd/Pt 比と比較的良い一致を示す。EXAFS 解析で求められる第1配位圏平均配位数を再現するモデル構造を見出さなくとも、上述の方程式の解の平均値を求めることで BNP の表面元素比率を比較的精度よく見積もることができると考えられる。

 

   表1.Pd@Pt BNP 内 Pd、Pt 第1配位圏に関する EXAFS カーブフィッティング解析結果。

   

 

          

図5.Pd–Pt BNP モデル構造(Pd は黒色、Pt は灰色):(a)全体像、(b)断面。この BNP に対する第1配位圏配位数は N(Pd–Pd) = 8.73、N(Pd–Pt) = 2.18、N(Pt–Pd) = 2.31、N(Pt–Pt) = 7.07である。

 

今後の課題:

 本報で示した表面元素比率評価法を不均一触媒に応用する場合、BNP 粒度分布および原子分布を制御しながら保護剤 PVP を除去し、その上で operando XAS 法により表面元素比率と触媒特性との関連付けを行う必要がある。上述の個々の事象を押さえながら触媒反応現象を議論していく。

 

謝辞:

本研究は JSPS 科研費(26810127)の助成を受けたものである。

 

 

参考文献:

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(Received: February 28, 2020; Accepted: October 23, 2020; Published; October 29, 2020)