SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.3

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

高温下で溶融したガラス中Feの価数評価
Temperature Dependence of Fe Valence in Melting Glass

DOI:10.18957/rr.8.3.537
2018A3325, 2018B3325 / BL08B2

小林 秀雄, 東 遥介, 末広 省吾

Hideo Kobayashi, Yosuke Azuma, Shogo Suehiro

(株)住化分析センター

Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.

Abstract

 本研究ではガラスを最高 1100℃ で加熱し、溶融したガラスに対して XAFS 測定を行った。基板に表面処理を施したことで、溶融したガラスが流れずに基板上に留まった。この基板を用いて2種類のガラスについて XAFS 測定を行ったところ、リン酸系ガラスでは脱泡剤として添加した鉄が3価未満から3価への変化が確認され、ソーダ石灰ガラスでは3価のままであった。ガラス溶融時の価数変化を XAFS 測定により評価することが可能となった。


Keywords:XAFS、ガラス、高温測定


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背景と研究目的:

 高性能・高品質なガラスの安定的供給を目的として、ガラス溶融プロセスの設計・最適化が行われている。本プロセスは脱泡や着色などガラス品質に直結する種々の現象に影響を及ぼすことが知られており、ガラス溶融時の含有元素の価数評価がプロセス最適化に有用と考えられる。SPring-8 兵庫県ビームライン BL08B2 に 1100℃ まで加熱可能な装置が導入されたため、本研究ではガラスを高温下で溶融させながら含有元素の価数評価を行う手法の開発を目指した。

 

実験:

 試料には、脱泡剤として 1 wt% 添加した Fe 含有リン酸系ガラス(50BaO-50P2O5)(ガラス1)あるいは Fe 含有ソーダ石灰ガラス(79SiO2-16Na2O-5CaO)(ガラス2)を粉末状にすり潰したものを使用した。ソーダ石灰ガラスは融点が約 1000℃ であるがこれは装置の最高到達温度に近いため溶融しない可能性を考慮し、ソーダ石灰ガラスより融点が低いリン酸系ガラスも測定試料とした。標準試料には Fe2O3 あるいは Fe と窒化ホウ素を混合したものを使用した。これらの試料を粉末のまま適量を測定に供した。Fe と Fe2O3 については板状試料を用いた透過法の測定結果と比較し、標準試料として使用することに問題が無いことを確認した。

 基板として Pt-5%Au 板(10 mm × 10 mm × 2 mm)を用い、この上に粉末試料を載せて測定を行った。Pt-5%Au 板は Pt 板と比較して強度が高く濡れ性が悪いため、溶融したガラス試料を取り外しやすくなると考え Pt-5%Au 板を使用した。

 測定は SPring-8 兵庫県ビームライン BL08B2 にて XAFS 測定を実施した。蛍光法 XAFS を実施し、検出器は 19 素子 SSD を用いた。 Fe K 端を測定するため測定エネルギー範囲は約 6780-7660 eV とした。

 加熱測定セルは米倉製作所製の IR-QP を使用した。IR-QP の概略図を図1に示した。ランプ加熱により、最高昇温速度 50℃/sec で 1100℃ まで加熱が可能である。また、X線入射窓が2か所あり、窓は蛍光検出器用も含めてカプトンフィルムで覆われている。そのためアルゴンや窒素ガスを導入して測定する事も可能である。蛍光 XAFS または蛍光X線分析用の開口部も備わっている。試料台の下に熱電対がある構成のため、測定した温度と試料温度はほぼ同じであると考えられる。加熱測定セルにX線を導入する際ビームを試料に当て、かつ蛍光を検出可能とするため、図中の棒を回転させることで試料台を約 3° 傾けた。

 

           

               図1. 加熱測定セル(IR-QP)の概略図

 

 室温・500℃・800℃・1100℃(最高温度)を測定温度とした。ガラス1の溶融温度は 500-800℃ 程度、ガラス2の溶融温度は約 1000℃ であると想定し、溶融温度の前後であるこれらの温度において測定を行った。測定は全て大気雰囲気下で行った。測定温度に達してから約 5 分後に測定を開始し、積算時間は約 30 分とした。

 

結果および考察:

 本実験ではガラスを溶融させるため試料の流動が予想された。基板に表面処理を施さずに検証測定を行った結果を図2に示した。このように溶融ガラスが流出拡散して点在するとビームが試料に当たらない可能性があるため、広がらないようにする、もしくは均一に広がるようにする処理が不可欠である。

 

         

     図2. 基板の表面処理をしていない場合の測定前後の様子。溶融時にまだらに広がった。

 

 そこで、#480 の紙やすりにて基板表面に一方向に傷をつけることで溶融ガラスの流動が抑えられるか確認した結果を図3に示した。加熱測定後、ガラス1は溶融して広がってはいたものの点在せず一面に薄い膜を形成し留まっていた。またガラス2は広がらずに凝集していた。厚みは最も厚い箇所で約 2 mm であった。

 

         

           図3. ガラス1とガラス2の測定後の様子

 

 図4に各温度におけるガラス1の XAFS スペクトルを示した。800℃ や 1100℃ の吸収端(吸収強度が 0.5 となるエネルギー)は Fe2O3 と同様であることから、これらは3価であると考えられる。室温と 500℃ の吸収端は Fe とも Fe2O3 とも異なるため、本実験だけでは価数を決定できず3価未満であると結論付けられる。また昇温に伴い 7120–7140 eV において吸収端位置が変化したことを確認できた。以上の結果から、試料①中の Fe は3価未満から3価に変化したと考えられる。なお、標準試料として FeO や Fe3O4 等も測定しておくことでより正確な価数を決定できたと考えられる。

 

            

              図4. ガラス1の各温度における XAFS スペクトル

 

 図5に各温度におけるガラス2の XAFS スペクトルを示した。吸収端位置は昇温してもほぼ変化が見られなかった。いずれの吸収端も Fe2O3 と同様であることから、室温から 1100℃ の間ではガラス2中の Fe はおよそ3価のままであると考えられる。

 

            

              図5. ガラス2の各温度における XAFS スペクトル

 

 室温においてガラス1(リン酸系ガラス)中の Fe は3価未満であるのに対し、ガラス2(ソーダ石灰ガラス)中の Fe は3価であった。ガラス作製に用いた Fe は同じ物である。この結果は、ソーダ石灰ガラスにおいて Fe は3価が多くなり、リン酸系ガラスにおいて Fe は2価を保つことができるという報告例と矛盾がない[1–3]。ただしガラスの着色については Fe 添加量やガラス作製条件等により複雑に変化するため、リン酸系ガラス中 Fe の価数は完全に2価ではなく2価と3価の間であり、加熱によって酸化が進行し3価になったと推測される。

 

結論:

 ガラスを高温下で溶融させながら含有 Fe の価数評価を行った。自作したソーダ石灰ガラスとリン酸ガラスでは含有 Fe 元素の価数が異なっており、昇温時の価数変化の挙動も異なった。今回は測定温度を4点のみとしたが、quick 測定で連続的に測定を行うことで変化の過程がより明確になることが期待される。

 

参考文献:

[1] 森谷太郎, 成瀬省, 功刀雅長, 田代仁, ガラス工学ハンドブック, 朝倉書店, 3, (1963)

[2] 作花済夫, 境野照雄, 高橋克明, ガラスハンドブック, 朝倉書店, 1, (1970)

[3] 土橋正二, ガラスの化学, 講談社, 10, (1972)

 

 

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(Received: July 27, 2020; Accepted: October 23, 2020; Published: October 29, 2020)