SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

カルボン酸の選択的水素化反応におけるPd合金触媒の in situ XAFSによる局所構造解析
In situ XAFS Analysis of Local Structure of Pd Alloy Catalysts for Selective Hydrogenation of Carboxylic Acid

DOI:10.18957/rr.6.2.348
2017A1763 / BL14B2

福住 謙亨a, 平井 雄一郎a, 中谷 哲a, 水垣 共雄b, 本間 徹生c

Noriyuki Fukuzumia, Yuichiro Hiraia, Tetsu Nakatania, Tomoo Mizugakib, Tetsuo Honmac

a株式会社ダイセル, b大阪大学, c(公財)高輝度光科学研究センター

aDaicel Corporation, bOsaka University, cJASRI

Abstract

 酢酸の高選択的水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応を目的として、高活性を示すPdFe合金触媒の開発を実施した。Pd原料とFe原料の蒸発乾固法により調製した Pd-Fe2O3 触媒は、酢酸の水素化によるアセトアルデヒドへの変換反応において高活性、高選択性を示した。Feに対するPd量が異なる各触媒をPd K殻及びFe K殻 in situ XAFS測定することにより、高温、水素雰囲気下においてPdFe合金を形成すること及びPdFe合金生成量と触媒活性に相関があることを確認した。


Keywords: XAFS、合金粒子、水素化反応、還元反応


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背景と研究目的:

 石油枯渇や温暖化への懸念から世界的に天然ガスなどの石油に代わる資源を用いたエチレン合成が進んでいる。国内では海外の天然ガス由来の安価なエチレンから製造される化学品に対抗するため、国内化学品をより無駄の少ないプロセスで製造する技術が求められている。特に精密に反応を制御するには効率的、高選択的に製品が誘導可能な高機能触媒の開発が必要である。複数の金属元素からなる合金触媒は、単一金属触媒にはない様々な反応を可能とする。また安価な金属を組み合わせることで得られる合金触媒が高価な金属触媒と同等以上の活性を発現し高価な金属を代替することが可能であるという元素戦略の観点からも注目されている。

 我々の研究グループでは、これまでに固体触媒を用いた酢酸の高選択的水素化反応によるアセトアルデヒド合成の検討を行ってきた。酢酸からアセトアルデヒドへ変換する固体触媒としてPd-Fe系触媒が高い活性を示すことを見出している[1]。またFeに対するPd量を増やすことによりアルデヒド収率が向上することを確認している[2]。

 近年の構造解析技術の進展により二種類以上の金属種を組み合わせた触媒が一定の温度、還元雰囲気下で合金触媒となることが多数報告されている[3, 4]。本触媒においてもPdFe合金が生成しておりPdとFeの比率や前駆体種によりPdFe合金の生成量が変化し、異なる活性を有する触媒構造を形成することを推測している。

 本研究では実際に反応が進行する高温、水素雰囲気下におけるXAFS測定を行う事により、各金属種の構造変化を追跡し有効な活性点の構造を確認した上で最適かつ有効な触媒設計の知見を得ることを目的とし構造解析を実施した[2]。


実験:

 Pd-Fe2O3 触媒(28 wt%Pd-Fe2O3)は、硝酸パラジウム溶液(Pd濃度4.61 wt%)6.2 g と硝酸鉄 3.7 g、クエン酸 1.6 g を混合し、110°Ϲ で乾燥、400°Ϲ で焼成処理により調製した。2 wt%Pd-Fe2O3 は、硝酸パラジウム溶液(Pd濃度 4.61 wt%)0.4 g と硝酸鉄 5.0 g、クエン酸 0.1 g を混合し、前記条件にて乾燥、要請処理により調製した。XAFS測定は、SPring-8の産業利用ビームラインBL14B2にて実施し、Pd K端には分光結晶にSi(311)面、Fe K端はSi(111)面を使用した。XAFS測定用の検体は、反応前の Pd-Fe2O3 触媒粉を直径 7 mm のディスク状に成型した。昇温条件は室温から 400°Ϲ まで 10°Ϲ /min で昇温し、各測定温度に達したところでPd K 殻、Fe K 殻を波数 k が 16 Å-1 までの範囲を1分間の透過法Quick XAFS測定を実施した。Pd及びFeのリファレンス化合物については、Pd foil(Pd)、酸化パラジウム(PdO)、Fe foil(Fe)、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)を用いた。データ解析はAthena ver. 0.9.25 を使用した。なお、当初は5種類の試料の測定を予定していたが、検体調製ミス等により再測定を実施したため予定していた測定を全て実施することはできなかった。


結果および考察:

 反応条件である水素雰囲気下において温度上昇に伴う Pd-Fe2O3 触媒の各金属の化学状態変化を追跡した。水素雰囲気下での測定はBL14B2のガス供給設備において常圧、99.999%H2 を 100 cc/min で使用し測定を実施した。Fe K殻透過法XANES測定の結果を図1、得られたスペクトルをリファレンスに用いたFe、Fe3O4、γ-Fe2O3 のスペクトルでフィッティングすることにより算出した各化学状態の割合を表1に示す。図1のように Fe2O3 は温度上昇に伴い Fe3O4 を経由しながらFe(metal)まで還元されていることを確認した。28 wt% Pd-Fe2O3 のXANESスペクトル(図1右)は 2 wt%Pd-Fe2O3(図1左)の同一温度のスペクトルと比較して吸収端の立ち上がりが低エネルギー側にシフトしていることから Fe2O3 がFe(metal)まで還元され易い傾向にあると見られる。


図1. Fe K-edge 各雰囲気下、温度におけるXANESスペクトル(左)2wt%Pd-Fe2O3(右)28wt%Pd-Fe2O3


表1. 各温度におけるFeの化学状態

  各化学状態の割合
  2 wt%Pd-Fe2O3 28 wt%Pd-Fe2O3
条件 Fe2O3 Fe3O4 Fe(metal) Fe2O3 Fe3O4 Fe(metal)
H2 室温 71.0% 25.1% 3.8% 75.8% 18.5% 5.7%
H2 100℃ 69.3% 27.3% 3.4% 11.0% 83.5% 5.5%
H2 200℃ 0% 94.9% 5.1% 0% 89.4% 10.6%
H2 300℃ 0% 69.9% 30.1% 0% 55.7% 44.3%
H2 400℃ 0% 3.8% 96.2% 0% 0% 100%

 表1に示すように 28 wt%Pd-Fe2O3 は水素雰囲気下 100°Ϲ の条件で 2 wt%Pd-Fe2O3 よりも Fe3O4 の割合が多く、200°Ϲ~400°Ϲ においてはFe(metal)の割合が多いことがわかった。一般的にPdは水素活性能を有することが知られている。本触媒系ではPdにより活性化された水素がFeを還元していることが考えられ、Pd増量によりFeが活性点として機能する状態までより効率良く還元されていることが示唆される。また例として 2 wt%Pd-Fe2O3 の 200°Ϲ におけるFe種の構造状態についてリファレンス化合物であるFe foil(metl)、酸化鉄(Fe2O3、Fe3O4)を用いてカーブフィッティング法により解析した。解析結果を図2に示しており実験結果とフィッティングデータが一致していることが分かる。


図2. 2wt% Pd-Fe2O3 の 200°Ϲ におけるXANESのカーブフィッティング


 Pd K 殻透過法のEXAFS干渉関数、EXAFSを変換した動径構造関数を図3、4に示す。 BL14B2のPd-foil、PdOの標準試料から得られたデータをPd-Oシェル、Pd-Pdシェルに帰属させるデータとして使用した。Pd-Oシェルに由来するピークは室温でも水素雰囲気下になるとすぐに消失し、代わりにPd-Pdシェルに由来するピークが現れる。このことからPdOは室温で0価まで還元されていることを確認した。

 また温度上昇に伴いPd-Pdシェルに由来するピークに対するPd-Feシェルに由来するピークの割合が増加する傾向が見られる。これは温度上昇に伴い0価まで還元されたFeが順次Pdと合金化していることが考えられる。28 wt%Pd-Fe2O3(図4右)は 2 wt%Pd-Fe2O3(図3右)と比較してPd-Feシェルに由来するピークの割合が高いことからPdFe合金の割合が多い。先に述べたようにPd増量によりFeが還元され易くなり、同様にPdFe合金が形成し易くなっていることが示唆される。


図3. Pd K-edge 各雰囲気下、温度における動径構造関数(左)2 wt%Pd-Fe2O3 EXAFS干渉関数(右)2 wt%Pd-Fe2O3 動径構造関数(k-weights=3、フーリエ変換範囲:k=3~11 Å-1

図4. Pd K-edge 各雰囲気下、温度における動径構造関数(左)28 wt%Pd-Fe2O3 EXAFS干渉関数(右)28 wt%Pd-Fe2O3 動径構造関数(k-weights=3、フーリエ変換範囲:k=3~11 Å-1

今後の課題:

 Pd-Fe2O3 触媒は調製法において原料比率を調整することにより大きく活性が変化することを見出している。今後は調製法毎に測定を実施し、各金属の価数や構造変化と活性との相関を確認するなどして高活性な触媒構造の設計に活用したい。なお、当初は5種類の試料の測定を予定していたが、試料調製の不調により再測定を実施したため予定していた測定を全て実施することはできなかった。


参考文献:

[1]特開2017-047377 (P2017-47377A)

[2] P2017-048530

[3]特開2008-138243(P2008-138243A)

[4]特開2010-189721(P2010-189721A)



ⒸJASRI


(Received: November 29, 2017; Early edition: June 22, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, August)