SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

口腔内崩壊錠(OD錠)用賦形剤を用いたOD錠の迅速崩壊における 導水過程および崩壊挙動についての3次元構造解析
3D Structure Analysis of Wicking and Disintegration Process in Rapid Disintegration of Orally Disintegrating Tablet (OD tablet) using Co-processed Excipient for OD Tablet

DOI:10.18957/rr.6.2.215
2014B1808, 2015B1798 / BL20B2

岡林 智仁a, 石川 左枝a, 平邑 隆弘a, 上杉 健太朗b, 星野 真人b

Tomohito Okabayashia, Sae Ishikawaa, Takahiro Hiramuraa, Kentaro Uesugib, Masato Hoshinob

a(株)ダイセル, b(公財)高輝度光科学研究センター

aDaicel Corporation, bJASRI

Abstract

 口腔内崩壊錠は少量の水により錠剤が崩れることを特長とした経口投与薬の剤形の1つである。この迅速な錠剤崩壊メカニズムを、水が錠剤内部に浸透する導水過程と、浸透した水が誘引する崩壊過程に分け、それぞれについて透過型X線やX線CTを用いた観察を行った。これらにより、賦形剤組成そのものが有する優れた導水力が速やかな錠剤崩壊を引き起こす重要な因子であることがわかった。/p>

Keywords:X線CT、透過像、医薬品


pdfDownload PDF (681 KB)

背景と研究目的:

 口腔内崩壊錠(OD錠:Orally Disintegrating Tablets)は水無しで服用でき、唾液の僅かな水分でも30秒以内に口腔内で崩壊することを特長とする剤形である。OD錠は、服薬の安全性(誤嚥を防止する)、利便性(時と場所を選ばない)、確実性(患者様が服薬を拒みにくい)等のメリットから、易服用型剤形の中では最も普及が進んでいる剤形である。OD錠の製剤設計において崩壊性は特に重要な観点であり、これらを評価する装置は多数知られているが、OD錠内部の導水挙動や崩壊挙動の直接的な観察は未開拓の分野だといえる。X線を用いた錠剤のイメージング研究には、錠剤内部の密度分布の観察やコーティング粒子の内部構造解析などの例があるが[1] [2]、その多くは静止状態での観察である。

 今回、我々はOD錠用プレミックス型賦形剤やその他の添加剤を用いた錠剤、製品として流通しているOD錠製剤を評価対象とし、大型放射光施設SPring-8の放射光X線と高速画像取得システムを活用し、錠剤内部への水の浸透(導水挙動)のリアルタイムでの観察、およびOD錠の崩壊初期の挙動のX線CT画像の取得を行ったので報告する。


実験方法:

(1)透過X線法による導水挙動のリアルタイム観察

 直径 6 mm⌀、重量 35 mg、真平錠(厚み:1 mm 未満)の錠剤を作製し、濾紙の上に錠剤を自立させた。濾紙に 10% NaBr 水溶液を注ぎ、錠剤の下部より導水させ、3000枚/1 min の速度で1分間、露光時間 20 ms で 透過画像を連続撮影した(図1)。

(2)X線CTによる崩壊初期の挙動観察

 測定検体は、直径 6 mm⌀、重量 35mg の真平錠を作製したもの、あるいは製品として流通しているOD錠製剤をそのまま用いた。極少量の水を滴下した錠剤を試料台に設置し、180度回転中に990枚の画像を 4.5 µm/pixel でX線CT撮影した。撮影画像から3次元画像を構築し錠剤内部の水との接触面をスライス画像として取り出し、崩壊初期の状態を観察した(図2)。水中崩壊時間は日本薬局方崩壊試験法<6.09>に沿って測定した。

(3)錠剤の導水時間

 直径 6 mm⌀、重量 35 mg の真平錠を作製し測定検体とした。濾紙の上に自立させた錠剤の下部から導水させ、上部まで達する様子を目視で確認しその時間を測定した。


    

図1. 透過X線測定法 概略図        図2-1. X線CT測定方法 概略図


          

図2-2. ImageJを用いて構築した3次元画像     図2-3. X線CT解析方法 概略図

    (水滴下後の錠剤例)


 測定検体作製のための賦形剤は、それぞれ市販品であるD-マンニトールを主成分とし崩壊剤等からなるOD錠用プレミックス型賦形剤XおよびY、日本薬局方D-マンニトール、日本薬局方カルメロース、粉体工学会が推奨する標準処方(乳糖:コーンスターチ=7:3)を用いた。


結果および考察:

1.プラセボ錠剤の導水挙動観察

 OD錠用プレミックス型賦形剤やその他の添加剤を用いて有効成分(API)を含まないプラセボOD錠を作製し、透過X線法による導水挙動のリアルタイム観察を行った。その結果、導水が速やかな錠剤の場合、錠剤内部全体に満遍なく導水が進行する様子が観察された。一方、導水が不十分な錠剤では、錠剤内に生じたクラックを介して部分的な導水が先行したり、錠剤の外周を優先して導水していく様子が観察された(図3)。


■速やかな導水挙動例(a)


■十分な導水を示さない導水挙動例 

図3. 導水挙動の透過X線画像

(a) OD錠用プレミックス型賦形剤Xを用いて作製した錠剤

(b) OD錠用プレミックス型賦形剤Yを用いて作製した錠剤

(c) 混合粉(D-マンニトール: カルメロース=95:5)を用いて作製した錠剤

(d) 標準処方にて作製した錠剤


 通常、錠剤作製時に低い打錠圧縮力で錠剤を固めた場合、錠剤内部の空隙率が高いため導水も速やかに進む。そのため、導水挙動の違いは区別され難い。そこで本実験では、錠剤径 6 mm⌀ の小型錠剤に対して、製造時に汎用されるよりも高い圧力となる打錠圧縮力(8-10 kN)を設定して錠剤を成形した。その導水時間を表1に示す。速やかな導水が観察された錠剤(a)では打錠圧縮力の程度によらず導水時間はほとんど変わらない一方で、導水が不十分な錠剤(b)(c)(d)では、高い打錠圧縮力を用いた場合に導水時間は長く導水力が不十分であることがわかった。このような差が生じた理由として、導水経路の違いが関係していると考えている。すなわち、導水が不十分な錠剤(b)(c)(d)は、構成粒子間の空隙または接触面による導水の寄与が大きい一方で、速やかな導水が観察された錠剤(a)は、前述の空隙に依存よる導水のみならず、構成物質の特性(導水性)が引き起こす導水経路が存在すると考える。これによって、錠剤内部の空隙が少ない高い打錠圧縮力での成形時においても、導水が偏らずに満遍なく導水が進行したと推察する。

 OD錠製剤の崩壊挙動は含有する個々のAPI成分の物性やコーティング加工の有無など様々な要素が関連するが、本実験ではAPIを含まず賦形剤成分のみで錠剤を作製することでOD錠の導水メカニズムの一般化を試みた。その結果、用いた賦形剤成分によって導水過程の挙動が様々であることがわかった。次にこれら導水挙動と崩壊との関連性について実験を行った。


表1. プラセボ錠の導水時間

錠剤例 導水時間
(a) 15 sec (速い)
(b) 36 Sec (中程度)
(c) 50 Sec (遅い)
(d) 120 Sec (遅い)

2.崩壊初期の挙動観察

2-1.プラセボ錠剤の崩壊初期の挙動観察

 導水の挙動が錠剤の崩壊にどのような影響を与えるかを評価するため、速やかな導水を示した錠剤(a)と、十分な導水を示さなかった錠剤(d)について、それぞれの崩壊初期の状態のX線CT撮影を行った(表2)。その結果、(a)では賦形剤成分が一次粒子レベルまで崩壊する様子が観察され、(d) ではより大きなブロック状の崩壊が進行していた。先述の導水挙動観察結果を踏まえると、(a)の錠剤内部では粒子間または粒子そのものに水が通る経路があり、速やかな導水と同時に一次粒子単位までの崩壊が引き起こされていると推測された。一方、(d)の錠剤では、導水経路が少なく毛細管現象により吸い上げられた水が錠剤内部でクラックを作りながら進むことで、導水の時点ではブロック状の崩壊までに留まっているのではないかと考えられた。そこで、これら手法を用いて、製品として流通しているOD錠製剤の導水挙動や崩壊時間の観察とこれらに基づいた考察を行った。


表2. プラセボ錠剤の崩壊初期の様子(X線CTスライス画像)


2-2.OD錠製剤の崩壊挙動観察

 同一のAPIを含有しており製品として流通しているOD錠製剤A~Fについて、崩壊初期の挙動観察を行った(図4)。また、これら製剤について局方崩壊試験法に沿った水中崩壊時間を測定し、崩壊挙動と崩壊時間を整理した(表3)。その結果、一次粒子レベルまでの崩壊が進行している製剤やブロック状に崩壊が進行している製剤、崩壊は進行せずクラックのみ生じている製剤など、異なる挙動が確認された。更に、一次粒子レベルまでの崩壊が観察された製剤は水中崩壊時間が短い傾向にあり、崩壊挙動の違いと崩壊時間との相関が確認された(表3)。

図4. 市販OD錠製剤の崩壊挙動の様子(X線CTスライス画像)


表3. 各製剤の水中崩壊時間

  水中崩壊時間 崩壊初期の様子
OD 錠製剤 A 12 秒 一次粒子レベルで崩壊が進行
OD 錠製剤 B 15 秒
OD 錠製剤 C 17 秒
OD 錠製剤 D 26 秒 ブロックレベルで崩壊が進行
OD 錠製剤 E 28 秒 錠剤内部にクラックが発生
OD 錠製剤 F 30 秒

結論:

 今回、大型放射光施設SPring-8の放射光X線と高速画像取得システムにより、OD錠の非常に迅速な導水挙動をリアルタイムに観察することができた。それにより、外観目視では判別できない錠剤内部に生じるクラックや、導水の局所化を観察することに成功した。

 また、錠剤全体に満遍なく且つ速やかに導水させることが可能な賦形剤組成では、一次粒子レベルまでの細かな崩壊が引き起こされ速やかに崩壊する傾向があることがわかった。これらの結果から、速やかな崩壊を実現するためには、錠剤内部の空隙やクラックを発生させることを意図した崩壊剤の使用だけでなく、賦形剤組成そのものが有する優れた導水力も重要な因子であることが示唆された。


参考文献:

[1] H. Li et al., Int. J. Pharm., 427, (2012), 270-275.

[2] S. Noguchi et al., Int. J. Pharm., 445, (2013), 93-98.



ⒸJASRI


(Received: March 30, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)