SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

XAFSによる担持白金触媒上に還元析出した 金属カチオンの局所構造解析
Local Structure of Metal Cations Reductively Deposited over Supported Pt Catalysts

DOI:10.18957/rr.6.2.194
2014A1254 / BL01B1

谷屋 啓太, 松本 佳樹, 桶本 篤史, 市橋 祐一, 西山 覚

Keita Taniya, Yoshiki Matsumoto, Atsushi Okemoto, Yuichi Ichihashi, Satoru Nishiyama

神戸大学

Kobe University

Abstract

 Snを水素雰囲気下の液相中で Pt/SiO2 上に還元析出させた Sn-deposited Pt/SiO2 触媒におけるSn種の局所構造についてX線吸収微細構造(XAFS)測定を行った。これまでに液相中で還元されたSn種が空気雰囲気にさらされると容易に酸化されることが示唆されている。本研究課題では析出Sn種の酸化を抑制するために、調製した触媒が溶媒で湿潤した状態(Sn-deposited Pt/SiO2 (wet))でのXAFS測定を試みた。XANESの結果から、Sn-deposited Pt/SiO2 (wet)においても Pt/SiO2 上に析出したSn種は4価に近い状態で存在していることがわかった。また、EXAFSの結果から、Snの最近接にはO原子が存在することが示唆された。


Keywords: Sn-deposited Pt/SiO2、液相還元析出、選択水素化


pdfDownload PDF (449 KB)

背景と研究目的:

 同一分子内にC=C結合とC=O結合をもつ不飽和カルボニル化合物から不飽和アルコールへの選択水素化は、香料や医農薬中間体などの合成プロセスにおいて重要な反応の1つである。一般的な水素化触媒(例えばPtなど)では、C=C結合が優先的に水素化され飽和化合物が主に生成する。このため、不飽和アルコールの選択率向上を目的とした研究が盛んに行われている[1]。

 反応溶液中に金属カチオンを溶解する方法は、不飽和アルコールの選択率向上の方法の1つである[2, 3]。Yuら[2]は、ポリビニルピロリドン(PVP)で安定化したPtナノ粒子触媒(PVP-Pt)上でのシンナムアルデヒドの選択水素化において、FeやCoといった金属カチオンを反応溶液に添加すると目的生成物であるシンナミルアルコールの選択率が著しく増加すると報告している。また、Richardら[3]は、Pt/C触媒上でのシンナムアルデヒドの選択水素化反応において、反応溶液中に添加されたFeカチオンはPt上に析出すると報告している。当研究室では、シンナムアルデヒドの水素化反応溶液中に添加された SnCl2 や CoCl2 は、反応中に Pt/SiO2 上に還元的に析出されることにより、Pt表面近傍で2元系触媒となり触媒性能が向上すると考えている。しかしながら、SnやCoの価数や配位状態についてXAFS測定を行った(課題番号2013B1709)ところ、これらの金属は酸化状態で存在し、最近接にはO原子が存在することが示唆された[4]。一方で、窒素下で調製した Sn-deposited Pt/SiO2 触媒および Co-deposited Pt/SiO2 触媒の触媒性能は、水素化で調製された触媒よりも低いことから、触媒調製時にin-situで触媒上のSn種やCo種が還元され真の活性サイトを形成している可能性がある。当該測定を行った際は、XAFS測定用サンプルを作成するまでに空気雰囲気下で保存していたため、還元されていたSn種やCo種が酸化された可能性がある。

 本研究課題では、Sn-depoisted Pt/SiO2 触媒中のSn種がサンプル作成時に酸化されるのを抑制するために、調製した触媒が溶媒で湿潤した状態でのXAFS測定を試みた。


実験:

 Pt/SiO2 触媒は H2PtCl6 水溶液を用いてPt担持率が 4 wt% となるように含浸法により調製した。含浸後、623 K で空気焼成および 573 K で水素還元を行った。Sn-depoisted Pt/SiO2 触媒の調製はステンレス製オートクレイブを用いて行った。Snの濃度が 2.0 mM(全量析出すると担持量は 3.8 wt%、Sn/Pt 原子比=1.56となる)となるように SnCl2·2H2O を2-メチル-2-ブタノールに溶解した。この溶液 4 mL に Pt/SiO2 を 25 mg 分散し、オートクレイブ中で水素雰囲気下(2.0 MPa ゲージ圧)、393 K で 4 h 撹拌した後、オートクレイブを氷浴中で降温した。窒素雰囲気下のグローブバッグ内でオートクレイブを開放し、内容物を全てサンプル瓶に移した。これらはXAFS用サンプル作成に必要な十分な量が確保できるまでグローブバッグ内で保管した。XAFS用サンプルを作成する際に Sn-deposited Pt/SiO2 触媒は濾過され、得られた湿潤状態の固体は乾燥工程を経ずにXAFS測定用サンプル作成に用いた。片側をカプトンフィルムで封じたガラス管の中に湿潤状態の固体を充填し、反対側をカプトンフィルムで封じることでXAFS測定用のサンプルを作成した。このサンプルを Sn-deposited Pt/SiO2 (wet)と表記する。

 比較のために降温したオートクレイブを空気雰囲気下で開放し、室温で一昼夜真空乾燥した触媒をガラス管に充填したサンプルのXAFS測定も行った。このサンプルを Sn-deposited Pt/SiO2 (dry)とする。

 XAFS測定はBL01B1ビームラインで行った。Sn-deposited Pt/SiO2 触媒および標準試料であるSnO、SnO2 および SnCl2·2H2O のSn-K端領域について透過法により測定した。Sn foilに関しては、今回測定を行わなかったので、過去に測定した既報のデータを用いた[4]。XAFSの解析には、REX2000を使用した。


結果および考察:

 図1に各試料におけるSn-K端のXANESスペクトルを示す。標準試料である Sn foil、SnO、SnO2 および SnCl2·2H2O の吸収端エネルギーは、それぞれ、29195.5 eV、29197.9 eV、29202.0 eV および 29198.0 eV であった。また、Sn-depoisted Pt/SiO2(dry)および Sn-depoisted Pt/SiO2(wet)触媒に関して、それぞれ吸収端エネルギーは 29200 eV 程度となり、4価の標準試料である SnO2 の吸収端エネルギーと近い値を示した。また、スペクトル形状も2価の SnO や4価の SnO2 の形状に類似したものとなった。これらのことから、今回作成した湿潤状態の Sn-depoisted Pt/SiO2 (wet)触媒でも、Sn種は4価で存在していると示唆される。 図2にSn-K端のEXAFS干渉関数およびフーリエ変換した後に得られる動径構造関数を示す。動径構造関数(図2b)に関して、Sn foilに見られる 2.8 Å のピークは Sn-Sn(3.02 Å)に、SnO における 1.8 Å および 3.3 Å に見られるピークは、それぞれ Sn-O(2.21 Å)および Sn-O-Sn に、SnO2 において 1.7 Å、3.0 Å および 3.5 Å に見られるピークは、それぞれ Sn-O(2.05 Å)、Sn-O-Sn(3.18 Å)および Sn-O-Sn(3.71 Å)に帰属される[4-7]。また、SnCl2·2H2O で 2.1 Å に観測されたピークに関しては、Sn-O および Sn-Cl の距離が非常に近いため1つのピークとして観測されていると考えられる。詳細については既報[4]を参照されたい。


図1. Sn foil、SnO、SnO2、SnCl2・2H2O、Sn-deposited Pt/SiO2 (dry) および Sn-deposited Pt/SiO2 (wet) における Sn-K 吸収端の XANES スペクトル


図2. Sn-K吸収端に関する (a) EXAFS干渉関数および (b)動径構造関数(フーリエ変換範囲:k = 3 – 12 Å-1


 Sn-deposited Pt/SiO2 (dry)および Sn-deposited Pt/SiO2 (wet)触媒のいずれにおいても、1.7 Å 付近にピークが見られた。これらのピークは SnCl2·2H2O で見られたピークとは明らかに異なるものであった。また、それらのピーク位置は4価の酸化物である SnO2 の Sn-O や2価の酸化物である SnO の Sn-O に近い値となった。前述のXANESの結果から、Sn種は4価に近い状態で存在することが示唆されたため、Sn-deposited Pt/SiO2 (dry)および Sn-deposited Pt/SiO2 (wet)触媒で見られた 1.7 Å のピークに関して SnO2 の Sn-O を用いてカーブフィッティングを行った(表1および図3)。いずれの触媒においても実験結果とフィッティングデータはよく一致した(図3)。また、いずれの触媒においても原子間距離は SnO2 の Sn-O と極めて近い値を示したものの、配位数は SnO2 のそれより小さい値を示した。以上のことから、Snの最近接原子はO原子であることが示唆される。しかしながら、Sn-deposited Pt/SiO2 触媒中のSnの化合物種を明らかにするためには更なる検討が必要である。なお、Sn1Pt3 合金が形成した Sn-Pt/SiO2 触媒の動径構造関数では、2.1 Å および 2.6 Å に Sn-Pt に由来するピークが観測されると報告されている[8]。


表1. 各試料の構造パラメーターと Sn-deposited Pt/SiO2 のカーブフィッティング解析値


図3. 各Sn-deposited Pt/SiO2 における Sn K-edge k3-weighted EXAFSのカーブフィッティング(R = 1.7 Å のピークを、SnO2 の Sn-O により解析)


 本研究課題において、Sn-deposited Pt/SiO2 中のSnが酸化されるのを抑制するために、湿潤状態の触媒を用いてサンプル作成を行ったが、Sn-deposited Pt/SiO2 (dry)および Sn-deposited Pt/SiO2 (wet)触媒のいずれにおいてもSnは酸化状態で存在しており、湿潤状態でも容易にSn種が酸化されることが示唆された。また、Sn金属や SnPt 合金に由来するピークが Sn-deposited Pt/SiO2 触媒で全く見られなかった。Sn-deposited Pt/SiO2 触媒は還元析出時の温度が比較的低温であるため、Snが還元され表面Ptとは合金を形成する可能性はあるがバルクPtとは合金を形成できない可能性がある。そのため、Pt表面近傍で還元されたSn種が、Pt表面で活性化された酸素により容易に酸化されてしまい、Sn金属種が全く見られなかったと考えられる。これらのことから、本触媒における真の活性サイトを明らかにするためには、サンプル作成条件やサンプル容器などに更なる改善が必要であることが示唆された。


まとめと今後の課題:

 Sn-depoisted Pt/SiO2 触媒中のSn種がサンプル作成時に酸化されるのを抑制するために、調製した触媒が溶媒で湿潤した状態でのXAFS測定を試みた。溶媒で湿潤した状態のサンプル(Sn-depoisted Pt/SiO2 (wet))においてもXAFS測定は可能であったものの、これまでの測定と同様にSn種は4価で存在していること、また、最近接原子はO原子であることが示唆された。

 本課題では、測定用サンプルをできるだけ空気雰囲気下に晒さないように努めた。しかしながら、XAFS用サンプル作成に十分な触媒量を確保するためには時間がかかること、グローブバッグ内を置換した窒素中に微量酸素が存在する可能性、使用したXAFS用サンプル容器の密閉性が十分でないことなどが影響し、触媒中のSn種が酸化したものと考えられる。

 これらの課題を解決するためには、触媒調製回数を削減するための触媒調製条件の最適化が必要なだけでなく、オートクレイブで保管したまま測定ラインまで輸送し、XAFS用サンプルを現地で作成する必要があると考えられる。これらとともに、測定ラインにおいて触媒調製を行いながらXAFS測定を行う測定用装置などを考案することで、反応中に真に有効なSn種を調べていく予定である。


参考文献:

[1] P. Mäki-Arvela, et al., Appl. Catal. A 292, 1 (2005).

[2] W. Yu et al., J. Mol. Catal. A: Chem. 138, 273 (1999).

[3] D. Richrad et al., Catal. Lett. 3, 53 (1989).

[4] 谷屋啓太ら, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 6, 86 (2018).

[5] A. EI Abed et al., J. Chim. Phys. 94, 54 (1997).

[6] D. A. McKeown et al., J. Non Cryst. Solids 354, 3142 (2008).

[7] F. Montilla et al., J. Phys. Chem. B 108, 5044 (2004).

[8] L. Deng et al., Catal. Today 232, 33 (2014).



ⒸJASRI


(Received: September 24, 2017; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)