SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

マイクロ波加熱によるバナジウム系ガラスからの高導電率結晶の選択析出メカニズムの解明
Clarification of Mechanism of Selective Precipitation of High Electrical Conductivity Crystals from Vanadate Glasses by Microwave Heating

DOI:10.18957/rr.6.2.178
2012B1758 / BL02B2

藤枝 正a, 青柳 拓也a, 小原 真司b

Tadashi Fujiedaa, Takuya Aoyagia, Shinji Koharab

a(株)日立製作所, b(国研)物質・材料研究機構

aHitachi, Ltd., bNational Institute for Materials Science

Abstract

 マイクロ波加熱によるバナジウム系ガラスからの高導電率結晶の選択結晶析出メカニズムを解明すること目的に、高導電率および低導電率の結晶が析出するバナジウム系ガラスをマイクロ波加熱および急速加熱可能な高温ガス吹付け加熱した後、析出結晶種をXRD測定により同定した。マクロ波加熱の場合、高導電率結晶の結晶化ピーク温度以上では、ほぼ高導電率の CuxV2O5 (x = 0.26-0.55)のみが析出した。一方、高温ガス吹付け加熱の場合、いずれの加熱温度においても、より多くの未知の結晶や低導電率結晶である V2O5 の析出が認められた。


Keywords: バナジウム系ガラス、マイクロ波加熱、結晶化、選択析出


背景と研究目的:

 マイクロ波加熱は物質内部での電磁波吸収エネルギー損失(導電損失、誘電損失、磁気損失)による自己発熱現象を利用したものであり、熱源からの熱伝達による従来からの外部加熱方式とは本質的に異なり、被加熱体のみを加熱できることや、低熱伝導性物質の内部までも速やかに加熱できる等の利点を持つ。このため、特に省エネルギープロセスとして脚光を浴び、欧米では1980年代から様々な材料プロセッシングへの応用が検討されてきた。これまで、無機材料分野では、主に、焼結反応への応用が検討され、自己発熱や内部加熱を利用したエコプロセスとしての特徴のみならず、マイクロ波による拡散促進効果等の非熱的効果の存在が議論されてきた[1]。 また、反応系成分のマイクロ波吸収による自己発熱を利用した無機固相合成や水やアルコール等の極性溶媒の誘電損失による加熱を利用した液相からの無機材料合成等、マイクロ波を利用した材料合成研究が活発化している。しかしながら、ガラスの結晶化にマイクロ波を利用した例はほとんどない。一般に、ガラスの結晶化は電炉等による外部加熱方式で行われる。この場合、熱力学的平衡状態にある結晶が全て析出してしまうため、不要な結晶まで析出してしまう。我々は導電性バナジウム系ガラスをマイクロ波加熱することにより、高導電率結晶のみを選択析出させることが可能であることを実証した[2]。しかしながら、この現象がマイクロ波特有の非熱的効果なのか、あるいは単なる急速加熱効果なのかを検証できていなかった。そこで、マイクロ波加熱によるバナジウム系ガラスからの高導電率結晶の選択結晶析出メカニズムを解明すること目的に、マイクロ波加熱および急速加熱可能な高温ガス吹付け加熱において、析出結晶種がどのように異なるかを調査した。


実験:

 本実験で対象としたガラスは 65V2O5 - 15CuO - 10Fe2O3 - 10P2O5 (モルパーセント比)である。まず、マイクロ波加熱と、マイクロ波加熱によるバナジウム系ガラスからの高導電率結晶の選択析出メカニズムの解明ラインに装備された加熱窒素ガス吹付装置の2種類の方法により、それぞれ各結晶化温度前後の6条件の温度で加熱し、結晶化させた。具体的には、高導電率結晶である CuxV2O5 (x = 0.26-0.55)が析出する第一結晶化開始温度:364℃、第一結晶化ピーク温度:382℃、第一結晶化ピーク温度と低導電率結晶である V2O5 が析出する第二結晶化開始温度の間の温度:455℃、第二結晶化開始温度:471℃、第二結晶化ピーク温度:485℃、第二結晶化終了温度:499℃とした。加熱ガス吹付け方法については、予め所定の温度に加熱した窒素ガスを吹き付けることにより結晶化させた。なお、昇温速度は最大 4℃/sec、所定温度での加熱保持時間は5分間とした。これらの結晶化ガラスを粉砕し、内径 0.3 mm の石英ガラスキャピラリに入れ、室温におけるXRD測定に供した。なお、XRD測定条件として、波長は結晶化によるピーク分離を考慮し 1.0 Å とし、測定時間は5分間とした。


結果および考察:

 図1に所定温度までマイクロ波加熱したガラスのXRDパターンを示す。第一結晶化ピーク温度の 382℃ 以下では、高導電率結晶である CuxV2O5 以外に、未知の結晶ピークが多少認められた。しかし、それ以上の加熱温度では、ほぼ CuxV2O5 のみの析出が認められた。


図1. マイクロ波加熱した 65V2O5 - 15CuO - 10Fe2O3 - 10P2O5 ガラスのXRDパターン


 図2は高温窒素ガス吹付け加熱したガラスのXRDパターンである。マイクロ波加熱の結果に比べ、いずれの加熱温度においても、より多くの未知結晶ピークや低導電率の V2O5 ピークが認められた。


図2. 加熱窒素ガス吹付け加熱した 65V2O5 - 15CuO -10Fe2O3 - 10P2O5 ガラスのXRDパターン(上側)とCuxV2O5 (0 ≦ x ≦ 0.59)結晶のICDD(International Centre for Diffraction Data)標準パターン(下側)


 MxV2O5 におけるMはドナーとなるため、V2O5 より電気抵抗が低いと考えられる。CuxV2O5 の導電率は V2O5 よりも106倍高いという報告もある[3]。我々の実験でも、M = Liの場合、V2O5 が析出した結晶化ガラス(結晶化率:約 80%)の抵抗が 90 Ωm であったのに対し、Li0.33V2O5 が析出した結晶化ガラス(結晶化率:約 40%)の場合は 20 Ωm と約1/5の抵抗であることを確認している。このような半導体レベルの導電率の場合、高導電率物質の方が低導電率物質に比べ、マイクロ波吸収率がより高いと考えられる。このため、昇温中に高導電率の CuxV2O5 の結晶核が選択的に加熱され、結晶化が促進されたために、より低導電率な結晶析出が抑制されたと考えられる。


今後の課題:

 マイクロ波加熱による高導電率結晶の選択析出のより詳細なメカニズム解明のためには、マイクロ波加熱時の結晶化過程のIn-situ XRD測定が必要であると考える。


参考文献:

[1] John H. Booske, Reid F. Cooper, and Ian Dobson, J. Mater. Res., 7, 2, 495-501 (1992).

[2] T. Fujieda, T. Aoyagi, and T. Naito, AIP Advances, 2, 022164 (2012).

[3] T. Toda, K. Kosuge, and Y. Kachi, Nippon Kagakushi, 87, 1311 (1966).



ⒸJASRI


(Received: March 29, 2018; Early edition: May 30, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)