SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

X線回折法による半導体パッケージ用熱硬化性封止樹脂/銅リードフレーム界面の残留応力解析および熱時応力変化その場解析3
In Situ Residual Stress Analysis of Semiconductor Packages Comprising Thermosetting Encapsulation Resins and Copper Lead Frame under Thermal Process by X-ray Diffraction. Part 3

DOI:10.18957/rr.6.2.334
2017A1555 / BL19B2

加々良 剛志, 長島 大, 和泉 篤士

Takeshi Kakara, Dai Nagashima, Atsushi Izumi

住友ベークライト(株)

Sumitomo Bakelite Co., Ltd.

Abstract

 X線回折法による半導体パッケージ用封止樹脂/銅リードフレーム界面の残留応力について評価を実施した。これまでの検討より、リードフレームを用いた実パッケージの評価には散乱、受光スリット(SS, RS)を用いるダブルスリット光学系にすることで、誤差の抑制が可能であることを見出した。本検討ではスリットサイズの最適化を行い、SS、RSの縦サイズを 2.0 mm にしたとき、最も誤差を抑制できる結果を得た。しかしながら、この手法による評価可能なパッケージ種が限定されることも判明し、汎用性の高い評価手法の検証が求められる。また熱時のその場観察評価では、加熱による応力変動を捉えることに成功し、残留応力の制御に繋がる有益な情報を得た。


Keywords: 半導体パッケージ、界面残留応力、リードフレーム、ダブルスリット、その場観察


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背景と研究目的:

 近年の半導体高性能化に伴い、封止樹脂にも更なる耐熱性、電気絶縁性、熱伝導性、耐湿性などの特性が求められ、これらは半導体パッケージの長期信頼性にも影響する重要因子である。弊社においても、次世代パワー半導体用の高耐熱性封止樹脂の研究開発を行っており、この研究における最も重要な課題は、半導体パッケージにおける封止樹脂と金属(配線および基板)界面の密着性である。半導体パッケージは主に樹脂と金属の複合材料であり、構成材料間の弾性率や線膨張率(CTE)が異なるため、加熱処理を含む製造工程において材料界面に熱応力が発生する。これら複数の加熱冷却処理による熱履歴により、封止樹脂と金属に熱応力が発生し、その応力が封止樹脂と金属界面に蓄積されたものが残留応力となり、パッケージの歪みや反りの要因となる。これらは、界面のはく離という半導体パッケージにおける致命的な不良につながる。そこで半導体パッケージ製造工程において発生する熱応力のその場観察によって応力発生メカニズムを解明できれば、プロセス改善による残留応力制御および界面密着性向上が期待される。

 これまでに我々は sin2Ψ 法[1–4]による封止樹脂/銅界面の残留応力評価を、銅箔を用いたモデル材料にて実施してきた[5–7]。更にこれらの評価技術を製品化されているリードフレーム(以下LF、チップを保持し内部配線として用いられる銅基板)を有する半導体パッケージ(実パッケージ)にも応用展開すべく、採択ビームタイムにて検討を行ってきた。LFの1種であるPBGAには内部の結晶子の配向と深さ方向への応力勾配が存在することが課題番号2016A1775の検討で明らかとなった[8]。更に課題番号2016B1610の検討からは、受光側にソーラースリットを用いた場合に、銅の回折線の一部がスリット内のブレード(厚み 0.05 mm)によって遮られ、回折ピーク形状が歪むことが明らかとなり、ソーラースリットを用いずに散乱スリット(SS)と受光スリット(RS)を使用したダブルスリット光学系とすることで評価精度を向上させることが可能であることを見出した[9]。このようにSPring-8での評価によって確立した封止樹脂/銅箔界面残留応力評価技術を実パッケージに応用展開することは、高性能材料開発のためには必須である。そして半導体パッケージの残留応力評価をモデル材料系から脱却し、より実製品に近い材料形態での評価を可能とすることで、実パッケージでのはく離発生メカニズムの解明や高信頼性材料開発の加速化が期待できる。今回は課題番号2016B1610の検討結果をもとに、実パッケージの更なる測定精度の改良を目的として最適なスリット条件を検討し、各種材料、パッケージ種による残留応力の違いを評価した。

 

実験:

 実パッケージの評価試料として、PBGAとTO247の2種類のLFを使用した。PBGAは電極に半田ボールを用いるパッケージであり、サイズは 50 mm × 50 mm × 0.5 mm である。TO247は 16 mm × 20 mm × 2.0 mm サイズのトランジスタ向け挿入形のパッケージである。半導体パッケージ用熱硬化性封止樹脂をPBGAには 1.2 mm 厚、TO247には 3.0 mm 厚で成形し、175°C で熱硬化させた。樹脂にはフィラー含有率(FC)が異なる3水準(FC = 89、84、80%)を用いた。また実パッケージとの比較試料として、厚さ 12 μm の銅箔を用いて成形したモデル試料を各樹脂について準備した。モデル試料は、樹脂を両面銅箔で挟み 175°C で圧縮成形した、厚み 1.3 mm、直径 25 mm の円盤型試料である。X線回折測定はBL19B2ビームラインのHUBER社製多軸回折計を用いて行い、入射X線エネルギーは 25 keV、ビームサイズ(スリットサイズ形状)は縦 0.2 mm × 幅 6.0 mm に設定し、検出器にはシンチレーションカウンターを用いた。X線照射は試料の樹脂側から入射させ、Cu(331)面の回折ピーク(2θ = 34.8°)を得ることで、樹脂/銅LF界面の情報を得た。解析は sin2Ψ 法の側傾法により行い、sin2Ψ 法におけるオフセット角( Ψ )は、0.0、13.6、24.1、31.8、38.6、41.8、45.0° の7点とした。残留応力計算に用いる銅LFの弾性率( E )とポアソン比(ν)は E = 130 GPa、ν = 0.343 とした[10]。また加熱時のその場観察温度として、30、75、100、150°C での測定を実施した。

 

結果および考察:

(1) スリット条件検討

 PBGA上にFC = 84%の樹脂を成形した実パッケージ試料を用いて、誤差を抑制するためにスリット条件の最適化を行った。検討条件として、ソーラースリット(長さ 300 mm、ブレード間隔 0.5 mm、発散角 0.13°、ブレード厚み 0.05 mm)使用時はSS、RSの縦サイズを 6.0 mm に設定し、それ以外の条件ではソーラースリットを除外し、SS、RSをそれぞれ 1.0 mm から 3.0 mm まで 0.5 mm ずつ変更した。各条件でのCu(331)面回折ピークを図1に、その際の半価幅(FWHM)を図2に示す。スリット開口に伴いバックグラウンドと共に回折強度は増加する一方で、半価幅の拡大による角度分解能の低下が確認された。また、応力解析計算に必要な 2θ -sin2Ψ 線図の近似直線はソーラースリット使用時の R2 値が 0.03 と極端に低いのに対し、それ以外の条件では 0.6 以上とおおよそ直線性のある結果を得た。特にスリットサイズを 2.0 mm に設定した条件では R2 値が 0.92 と高く、応力値の誤差も最小となった(図3)。そこで実パッケージ試料の残留応力測定の最適条件として、「ソーラースリット除外、SS、RSの縦サイズ 2.0 mm」と設定することとし、以後この条件で評価を実施した。

図1. 各スリット条件でのCu(331)面回折ピーク(ψ = 0°)

図2. 各スリット条件でのCu(331)面回折ピークの半価幅(Ψ = 0°)

図3. PBGA試料における各スリット条件での残留応力解析結果

 

 (2) 実パッケージの残留応力測定

 LFのパッケージ種による応力差検証のため、FC = 89、84% の樹脂を用い、PBGA、TO247の2種類のLFへそれぞれ成形した試料の評価を実施した。PBGA試料については上記の測定条件で行った。測定データより解析した結果、FC = 89% の樹脂を用いたPBGA試料の応力値は -282 ± 42 MPa と算出された。一方でTO247に同じ樹脂を成形した試料を同条件で測定すると、樹脂厚が厚いためか応力解析に必要な十分な回折強度が得られない Ψ が存在した。また、リガク社製X線回折装置(UltimaIV:Cu Kα線使用)により、TO247の銅結晶子の配向状態を評価した結果を図4に示す。検出器をCu(331)面の回折ピークを検出可能な位置に固定し、それぞれのΨにおいて試料面法線を軸とした試料面内回転( Φ )をさせながら、Cu(331)面の回折強度を測定した結果、Φ による強度変化が確認された。この結果よりTO247内部の結晶子が配向していることが示唆され、このことも回折強度が低下する一因と考えた。フィッティング可能な4点の Ψ の回折ピーク(Ψ = 31.8、38.6、41.8、45.0°)で応力解析を行ったところ、-400 ± 23 MPa となり、PBGAとは大きく異なる値を示した。またFC = 84% の樹脂においても同様に評価を行うと、PBGA試料が -254 ± 33 MPa であるのに対し、TO247試料は 521 ± 83 MPa となり、LF種によって応力値も応力方向も異なることを確認した。しかしながらTO247試料は、上記のように回折強度が弱いΨが存在することに加え、89% と 84% の試料間の応力差も非常に大きいことから、本評価手法では十分な解析ができていないと判断した。パッケージ種によらない測定手法について更なる検討を行った後に、再度検証を行いたい。

図4. TO247の各 Ψ におけるX線入射方向 Φ 依存性

 

(3) 実パッケージの加熱時残留応力その場解析

 アントンパール社製加熱ステージ(DHS 1100)を用い、PBGA試料の加熱時その場観察を実施した。樹脂にはFCが異なる3水準(FC = 89、84、80%)を準備した。樹脂それぞれのTMA測定によるCTE結果を図5に示す(Cuデータは文献値)。測定は初期温度を 30°C に設定し 75、100、150°C と昇温させ各温度にて実施した(図6(a))。FC = 89% の樹脂を用いた場合、30°C では -282 ± 42 MPa であったが、75°C では -363 ± 34 MPa と圧縮応力が増加した。これは加熱による樹脂の膨張量よりも銅の膨張量の方が大きいためと考察できる。更に加熱すると 100°C では -347 ± 48 MPa、150°C では -272 ± 60 MPa と圧縮応力が減少した。これは、樹脂のガラス転移温度が 115°C 付近であり、加熱により樹脂CTEが増大して樹脂と銅の熱膨張量の大小関係が逆転したことに起因すると考えられる。このことから、最大圧縮応力は 75°C 付近において生じ、それ以上の温度では圧縮応力は減少することが判明した。更にFCが異なる他2種類の封止樹脂(84、80%)についても加熱測定を実施すると、FC 89% 品と同様の応力変動挙動を示した。FCは樹脂CTEと相関があり、高FC樹脂ほどCTEは小さくなる。よってFCが高いほど、より引張応力が生じやすくなる。これはシミュレーション結果からも支持され、更には図6(b)に示す各樹脂を 12 μm 厚の銅箔で挟んで成形したモデル試料を用いた測定結果からも同様に考えられる。しかしながらPBGA試料では、高FC樹脂(89%)が最も圧縮応力が大きくなる結果となり、加熱による応力挙動は観測できたものの、試験水準間の樹脂CTE差を反映した結果までは得ることができなかった。また、実パッケージ試料ではモデル試料と異なり圧縮応力が生じている。これは銅箔に比べLFの厚みが40倍ほど厚いことによる剛性の違いや、試料サイズの違いにより樹脂と銅の膨張量比が異なっていることが一因ではと考察している。

図5. 各樹脂と銅のCTE温度依存性

図6. FCが異なる樹脂の熱時残留応力評価結果

     (a:PBGA試料、b:モデル材)

 

今後の課題:

 本検討によりPBGA試料の sin2Ψ 法による残留応力評価では、ソーラースリットを外し、SS、RSの縦サイズを 2.0 mm にすることで誤差を抑制できることを確認した。しかしながらTO247試料では十分な回折強度を得ることができず、パッケージ種によらず評価可能な手法の検討が求められる。また熱時のその場観察では、加熱による応力変動を捉えることができ、最大圧縮応力が生じる温度を評価することに成功した。評価法や精度に課題が残るものの、この結果をもとに残留応力を抑制できる製造プロセスの提案に繋げていく。

 

参考文献:

[1] 田中啓介 他, "放射光による応力とひずみの評価", 及川清, 養賢堂, 東京, 56-60 (2009).

[2] 田中啓介 他, "残留応力のX線評価—基礎と応用—", 及川清, 養賢堂, 東京, 121-144 (2006).

[3] K. Nakamae et al., J. Appl. Polym. Sci., 40, 2231 (1990).

[4] T. Nishino et al., J. Appl. Polym. Sci., 45, 1239 (1992).

[5] 若林みどり 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 3(2), 589 (2015).

[6] 若林みどり 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 5(1), 124 (2017).

[7] 若林みどり 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 5(1), 141 (2017).

[8] 加々良剛志 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 5(2), 266 (2017).

[9] 加々良剛志 他, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 5(2), 275 (2017).

[10] 小出昭一郎, "物理学", 真喜屋実孜, 裳華房, 東京, 89 (2003).

 

ⒸJASRI

 

(Received: January 16, 2018; Early edition: May 30, 2018; Accepted July 3, 2018; Published August 16, 2018)